- 「T形等価回路とπ形等価回路って何が違うの?」と聞かれて答えられなかった
- 「短距離・中距離・長距離で回路モデルが変わる」と参考書にあるけど、なぜ変わるのかわからない
- 四端子定数A・B・C・Dの式を丸暗記しているが、どの回路がどの式だったか毎回混乱する
- 正誤問題で「中距離送電線路は分布定数回路として扱う」が○か×かで迷った
- 短距離・中距離・長距離の分類基準(km)と、それぞれで使う等価回路
- T形等価回路とπ形等価回路の構造の違いを「水道管のたとえ」で理解
- 四端子定数A・B・C・Dの導出手順(π形を例に途中式あり)
- 長距離送電線で使う分布定数回路の四端子定数(cosh・sinh)
- 正誤問題で狙われる頻出ひっかけパターン5選
送電線路の等価回路は、電力科目で毎年のように出題される「定番テーマ」です。正誤問題で1問、計算問題で1問という形で出てくることが多く、ここを落とすと合格ラインから遠ざかります。
しかし安心してください。覚えるべき回路はたった3パターン。そしてT形とπ形の四端子定数は、片方を覚えれば「ZとYが入れ替わるだけ」で導けます。この記事を読めば、試験本番で「あれ、どっちだっけ?」と迷うことはなくなります。
目次
送電線路は「距離」で等価回路が変わる
そもそもなぜ、距離によって等価回路を変える必要があるのでしょうか。答えは「静電容量(C)の影響が無視できなくなるから」です。
送電線路には、抵抗(R)、インダクタンス(L)、静電容量(C)、漏れコンダクタンス(G)の4つの線路定数が存在します。これらは送電線の全長にわたって一様に分布しています(分布定数)。
しかし、距離が短い送電線では、静電容量の影響がごくわずかなので、RとLだけの「単純な直列回路」で十分近似できます。工場の製造ラインにたとえると、短い配管ならパイプの太さ(R)と曲がり角の抵抗(L)だけ考えればいいのと同じです。
ところが距離が長くなると、電線と大地の間に生じる静電容量が無視できなくなり、「充電電流」という余計な電流が流れ始めます。この影響を正しくモデル化するために、等価回路を使い分けるのです。
📏 距離区分の一覧表
| 区分 | こう長の目安 | 等価回路 | 定数の扱い | 静電容量C |
|---|---|---|---|---|
| 短距離 | 50 km 以下 | 直列インピーダンスのみ (R + jX) |
集中定数 | 無視 |
| 中距離 | 50〜100 km | T形等価回路 または π形等価回路 |
集中定数 | 考慮する |
| 長距離 | 100 km 超 | 分布定数回路 (双曲線関数) |
分布定数 | 考慮する |
「50 km / 100 km」が境界線です。「50 km 以下は短距離」「50〜100 km は中距離」「100 km 超は長距離」。日本の送電線は諸外国に比べてこう長が短いため、実際には中距離以下の送電線がほとんどです。しかし試験では長距離(分布定数回路)も頻出なので、3パターンすべて覚えてください。

短距離送電線路(50 km 以下)の等価回路
短距離送電線路は、最もシンプルなモデルです。距離が短いため、電線と大地の間の静電容量Cは無視できます。漏れコンダクタンスGも無視します。
したがって、回路に残るのは「抵抗R」と「誘導性リアクタンスjX」の直列接続だけです。これは、普段の送電計算(電圧降下・電力損失)でおなじみの回路そのものです。
🔌 短距離送電線の等価回路(HTML図解)
※ 静電容量C・漏れコンダクタンスGは無視(図に登場しない)
四端子定数で表すと、次のようになります。これは「インピーダンスのみの回路」であり、四端子定数の中で最もシンプルな形です。
Ȧ = Ḋ = 1 , Ḃ = Ż(= R + jX) , Ċ = 0
※ Y(アドミタンス)= 0 のため、Cは0になる
「短距離送電線路は、線路定数を分布定数として取り扱う」→ ×(正しくは「集中定数」)。短距離では集中定数として扱い、静電容量は無視します。分布定数として扱うのは長距離送電線路です。

中距離送電線路(50〜100 km)の等価回路
こう長が50〜100 kmになると、電線と大地の間の静電容量Cが無視できなくなります。ただし、まだ線路全体にわたって定数が一様に分布していると考える必要はなく、RやLと同様に「1か所〜数か所に集めて」扱えます。これが集中定数としての扱いです。
中距離送電線を集中定数で表現する方法は2つあります。T形等価回路とπ形等価回路です。どちらも線路全体のインピーダンスŻとアドミタンスẎを使いますが、「ZとYをどこに配置するか」が異なります。
🔧 T形等価回路の構造
T形等価回路は、インピーダンスŻを左右に半分ずつ(Ż/2)分けて配置し、その間にアドミタンスẎを接続する構造です。形がアルファベットの「T」に見えることからこの名前がついています。
T形等価回路
Ȧ = Ḋ = 1 + ŻẎ/2
Ḃ = Ż(1 + ŻẎ/4)
Ċ = Ẏ
T形では、アドミタンスẎが中央に1個だけ配置されます。つまりCの定数は「Ċ = Ẏ」とシンプルです。代わりに、Bの定数に「ŻẎ/4」という補正項がつきます。「Zが分割されるからBが複雑になる」と覚えてください。

🔧 π形等価回路の構造
π形等価回路は、T形とは逆の発想です。インピーダンスŻは中央に1個だけ配置し、アドミタンスẎを左右に半分ずつ(Ẏ/2)分けて配置します。ギリシャ文字の「π(パイ)」の形に見えることからこの名前です。
電験三種では、π形等価回路の方が圧倒的に出題頻度が高いです。令和元年・令和7年の計算問題もπ形で出題されています。まずはπ形を完璧にしましょう。
π形等価回路
Ȧ = Ḋ = 1 + ŻẎ/2
Ḃ = Ż
Ċ = Ẏ(1 + ŻẎ/4)
π形では、インピーダンスŻが中央に1個だけなので「Ḃ = Ż」とシンプルです。代わりに、Cの定数に「ŻẎ/4」という補正項がつきます。「Yが分割されるからCが複雑になる」と覚えてください。

T形とπ形の四端子定数を並べて比較する
T形とπ形の四端子定数を並べてみると、A(= D)の式はまったく同じであることがわかります。違うのはBとCです。
ここに美しい対称性があります。T形では「Żが2分割されるからBに補正項がつく」。π形では「Ẏが2分割されるからCに補正項がつく」。分割される方が複雑になるというルールを覚えれば、もう混同しません。
📊 四端子定数の比較表
| 定数 | T形等価回路 | π形等価回路 |
|---|---|---|
| Ȧ = Ḋ | 1 + ŻẎ/2 | 1 + ŻẎ/2 |
| Ḃ | Ż(1 + ŻẎ/4)←複雑 | Ż ←シンプル |
| Ċ | Ẏ ←シンプル | Ẏ(1 + ŻẎ/4)←複雑 |
| 何が分割? | Zが左右に分割 | Yが左右に分割 |
実務では、架空送電線の計算にπ形が多く使われます。理由は「送電端と受電端のそれぞれに静電容量を割り当てる」というモデルが物理的に直感的だからです。電験三種の出題もπ形がメインです。ただし、正誤問題で「T形の四端子定数」を問われることもあるので、BとCの入れ替え関係は必ず押さえてください。

π形等価回路の四端子定数を導出する(途中式あり)
「公式を覚える」だけでなく「なぜこの式になるのか」を理解していると、試験で忘れても自力で導けます。ここではπ形の四端子定数を、キルヒホッフの法則だけで導出します。難しい数学は使いません。
📝 STEP1:受電端側のẎ/2を流れる電流を求める
π形等価回路の受電端側にあるẎ/2には、受電端電圧V̇rがかかります。そこを流れる電流İ₂は次のようになります。
📝 STEP2:送電端電圧V̇sを求める(→ A と B が出る)
直列インピーダンスŻを流れる電流は、受電端に流れ込む電流İrと、Ẏ/2を流れるİ₂の合計です。したがって、送電端電圧V̇sは次のように書けます。
= V̇r + Ż × ( İr + (Ẏ/2) × V̇r )
= V̇r + ŻẎ/2 × V̇r + Ż × İr
= ( 1 + ŻẎ/2 ) × V̇r + Ż × İr
四端子定数の式 V̇s = Ȧ × V̇r + Ḃ × İr と見比べると、
📝 STEP3:送電端電流İsを求める(→ C と D が出る)
送電端側のẎ/2を流れる電流İ₁は、送電端電圧V̇sに比例します。
= (Ẏ/2) × { (1 + ŻẎ/2) × V̇r + Ż × İr }
İs = İ₁ + İ₂ + İr
= (Ẏ/2)(1 + ŻẎ/2) × V̇r + (ŻẎ/2) × İr + (Ẏ/2) × V̇r + İr
= (Ẏ/2)(1 + ŻẎ/2 + 1) × V̇r + (1 + ŻẎ/2) × İr
= (Ẏ/2)(2 + ŻẎ/2) × V̇r + (1 + ŻẎ/2) × İr
= Ẏ(1 + ŻẎ/4) × V̇r + (1 + ŻẎ/2) × İr
四端子定数の式 İs = Ċ × V̇r + Ḋ × İr と見比べると、
使ったのは「キルヒホッフの電圧則」と「キルヒホッフの電流則」だけです。特別な数学は不要です。まず受電端側から電圧を追いかけてA・Bを出し、次に電流を追いかけてC・Dを出すという手順を覚えておけば、試験中でも自力で導出できます。

長距離送電線路(100 km 超)の等価回路
こう長が100 kmを超えると、線路定数を「1か所にまとめる」集中定数の近似ではもはや誤差が大きくなります。線路全体にわたってR・L・C・Gが連続的に分布していると考え、「分布定数回路」として扱います。
分布定数回路の四端子定数には双曲線関数(cosh・sinh)が登場します。電験三種では数値計算まで求められることは稀ですが、正誤問題で「長距離送電線の四端子定数にcosh・sinhが使われる」ことを問う出題が頻出です。
📐 分布定数回路の四端子定数
Ȧ = Ḋ = cosh γ̇l
Ḃ = Żw × sinh γ̇l
Ċ = (1/Żw) × sinh γ̇l
γ̇(ガンマ):伝搬定数 = √(ż × ẏ)
Żw:特性インピーダンス = √(ż / ẏ)
l:線路の亘長 [m]
ż, ẏ:単位長あたりの直列インピーダンスと並列アドミタンス
🔍 cosh と sinh の覚え方
cosh(ハイパボリックコサイン)とsinh(ハイパボリックサイン)は、指数関数を使って定義されます。
sinh γ̇l = (eγ̇l - e-γ̇l) / 2
ここで重要なのが、R(抵抗)とG(漏れコンダクタンス)を無視した無損失線路の場合です。このとき γ̇ = jβ となり、双曲線関数は通常の三角関数に変わります。
sinh jβl = j sin βl
※ β = ω√(LC) …位相定数
電験三種では「cosh → cos」「sinh → j sin」への変換を使った出題が増えています。「無損失のとき、A = cos βl となる」ことを覚えておくと、正誤問題が一瞬で解けます。

3パターンの等価回路を一覧で総整理
ここまでの内容を1つの表にまとめます。試験直前の確認に使ってください。
| 項目 | 短距離 (〜50 km) |
中距離 T形 (50〜100 km) |
中距離 π形 (50〜100 km) |
長距離 (100 km〜) |
|---|---|---|---|---|
| 定数の扱い | 集中定数 | 集中定数 | 集中定数 | 分布定数 |
| 静電容量C | 無視 | 考慮 | 考慮 | 考慮 |
| Ȧ = Ḋ | 1 | 1 + ŻẎ/2 | 1 + ŻẎ/2 | cosh γ̇l |
| Ḃ | Ż | Ż(1+ŻẎ/4) | Ż | Żw sinh γ̇l |
| Ċ | 0 | Ẏ | Ẏ(1+ŻẎ/4) | (1/Żw) sinh γ̇l |
| 回路の形 | 直列のみ | Z分割+Y中央 | Z中央+Y分割 | 連続分布 |
短距離 → 中距離 → 長距離の順に、四端子定数が段階的に複雑になっていきます。短距離の「A=1, B=Z, C=0」が基本形であり、ここにŻẎの補正項が加わると中距離、cosh・sinhになると長距離です。「短距離がベース。距離が伸びるほど補正が増える」という感覚で覚えましょう。

【計算例】π形等価回路で受電端電圧を求める
令和7年度の電験三種「電力」問2で出題された形式に近い計算例を紹介します。π形等価回路を使って、受電端を無負荷にしたときの受電端電圧(フェランチ効果)を求めます。
📝 問題設定
・直列インピーダンス:Ż = j20 Ω
・並列アドミタンス:Ẏ = j0.001 S
・送電端の相電圧:V̇s = 275/√3 kV
受電端を無負荷(İr = 0)としたとき、受電端の相電圧 V̇r を求めよ。
📝 解法(途中式あり)
Ȧ = 1 + ŻẎ/2
= 1 + (j20 × j0.001) / 2
= 1 + (j² × 0.02) / 2
= 1 + (-0.02) / 2
= 1 - 0.01
= 0.99
STEP2:無負荷条件(İr = 0)を代入する
V̇s = Ȧ × V̇r + Ḃ × İr
= 0.99 × V̇r + Ż × 0
= 0.99 × V̇r
STEP3:V̇rを求める
V̇r = V̇s / 0.99
= (275/√3) / 0.99
= 158.77… / 0.99
≒ 160 kV
送電端の相電圧は 275/√3 ≒ 158.8 kV なので、受電端の方が送電端より高い(160 > 158.8)。これがフェランチ効果です。
j × j = j² = -1 です。ŻẎを掛けると、j20 × j0.001 = j² × 0.02 = -0.02 と実数のマイナスになります。だからAの値が「1より小さい(0.99)」となり、無負荷時にV̇r = V̇s/0.99 > V̇s、すなわち受電端電圧が上昇するのです。

正誤問題で狙われる頻出パターン5選
送電線路の等価回路は、正誤問題(穴埋め含む)で頻繁に出題されます。以下の5パターンは、過去問で繰り返し問われている内容です。
❌ パターン1:集中定数 vs 分布定数の入れ替え
正解:中距離は集中定数。分布定数は長距離のみ。
❌ パターン2:T形とπ形の四端子定数を入れ替える
正解:π形の B = Ż(シンプル)。Ż(1 + ŻẎ/4) はT形の B。
❌ パターン3:短距離の静電容量
正解:短距離(50 km以下)では静電容量は無視する。
❌ パターン4:双曲線関数と三角関数の混同
正解:A = cosh γl。sinh は B と C に登場する。
❌ パターン5:特性インピーダンスと伝搬定数の名前入れ替え
正解:Żw = √(ż/ẏ) は特性インピーダンス。伝搬定数は γ̇ = √(ż × ẏ)。
「割り算 = インピーダンス(Z)、掛け算 = 伝搬(γ)」と覚える。

まとめ
- 短距離(50 km以下):静電容量は無視。直列インピーダンス(R + jX)のみ。A=1, B=Z, C=0
- 中距離(50〜100 km):集中定数として扱い、T形またはπ形等価回路を使う。A = D = 1 + ZY/2
- 長距離(100 km超):分布定数回路。四端子定数にcosh・sinhが登場
- T形とπ形の違い:分割される方(T形はZ、π形はY)が複雑になる。A・Dは同じ
- 電験三種ではπ形が最頻出。正誤問題では「集中 vs 分布」「T形 vs π形の式入れ替え」に注意
送電線路の等価回路は、一見すると覚えることが多く感じますが、本質は「距離が長くなるほど、静電容量の影響が大きくなり、回路モデルが複雑になる」というシンプルな原理です。短距離がベースで、そこに補正が加わっていくだけ。この感覚を掴んでおけば、試験中に公式を忘れても自力で思い出せます。
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