- 回路に電源が2つ以上あると、どこからキルヒホッフを立てればいいかわからない
- 連立方程式が3本、4本と増えて計算ミスを連発する
- 「重ね合わせの理」と「テブナンの定理」の使い分けがわからない
- 重ね合わせの理の考え方を「工場の生産ライン」のたとえで直感的に理解
- 複数電源の回路を「1つずつ分解→足す」だけで解く3ステップ
- 具体的な計算例で手を動かして完全マスター
- テブナンの定理との使い分け判断フローチャート
回路に電源が1つだけなら、オームの法則で終わりです。でも電源が2つ、3つと増えた途端、「どこに電流が流れているのか」がわからなくなりますよね。
キルヒホッフの法則で連立方程式を立てるのも正解ですが、式が増えるほど計算ミスのリスクも跳ね上がります。特に電験三種の試験では制限時間との戦い。連立方程式を3本も解いている暇はありません。
そこで登場するのが「重ね合わせの理(重ねの理)」です。この方法を使えば、複数の電源がある複雑な回路を「電源1つだけの簡単な回路」に分解して、最後に足し算するだけで答えが出ます。
この記事では、重ね合わせの理を初心者でも確実に使いこなせるように、ステップごとに丁寧に解説していきます。
目次
重ね合わせの理とは?|「1つずつ調べて、最後に足す」
🏭 工場のたとえで直感的に理解する
いきなり定義を見ても頭に入らないので、まず工場の生産ラインで考えてみましょう。
ある工場に2台のポンプ(ポンプAとポンプB)が設置されていて、同じ配管ネットワークに水を送り込んでいるとします。
ある地点の流量を知りたいとき、こう考えます:
① まずポンプBを止めて、ポンプAだけ動かす → その地点の流量を測る
② 次にポンプAを止めて、ポンプBだけ動かす → その地点の流量を測る
③ ①と②の流量を足し算する → それが2台同時運転のときの流量になる
これが「重ね合わせの理」の考え方です。
電気回路でも全く同じことが言えます。「ポンプ」を「電源」に、「流量」を「電流」に置き換えるだけです。
📖 正式な定義
複数の電源を含む線形回路において、回路の任意の点の電流や電圧は、各電源が単独で存在するときの電流や電圧の代数和(足し算・引き算)に等しい。
ポイントは2つあります。
① 「線形回路」であること。抵抗やコイル、コンデンサで構成された回路は線形回路です。ダイオードのように電流と電圧の関係が直線(比例)にならない素子が入っている回路には使えません。電験三種の直流回路問題はほぼ抵抗だけの回路なので、安心して使えます。
② 「代数和」であること。単純に足すだけではなく、電流の向きが逆なら引き算になります。ここが計算ミスしやすいポイントなので、後ほど詳しく解説します。

最大のポイント|「電源を消す」操作を理解する
重ね合わせの理では、「注目する電源以外を消す」という操作を行います。これが最初につまずくポイントです。「電源を消す」とは、回路から電源を取り除いて、そこを特定の素子に置き換えるという意味です。
⚡ 電圧源を消す → 導線(短絡・ショート)に置き換える
理想的な電圧源の内部抵抗は0Ωです。電圧を0Vにすると、ただの「抵抗0Ωの導線」になります。つまり、電圧源があった場所を導線でつなぐ(短絡する)ということです。
消す前
電圧源 E(電圧を出している)
消した後
ただの導線(短絡)に置き換え
⚡ 電流源を消す → 何もない空間(開放)に置き換える
理想的な電流源の内部抵抗は無限大(∞Ω)です。電流を0Aにすると、「抵抗∞Ωの部品」=電流が全く流れない状態になります。つまり、電流源があった場所を切り離す(開放する)ということです。
消す前
電流源 J(電流を押し出している)
消した後
その部分を切り離す(開放)
電圧源 → 短絡(導線に置き換え)
電流源 → 開放(切り離す)
これを逆にすると答えが全く違ってしまいます。覚え方は「電圧源は内部抵抗0Ω → 0Ωの導線」「電流源は内部抵抗∞Ω → 電流が流れない → 切り離し」です。
| 電源の種類 | 内部抵抗 | 消す操作 | イメージ |
|---|---|---|---|
| 電圧源(E) | 0Ω | 短絡(導線に置き換え) | 電池を抜いて端子同士をつなぐ 〰️ |
| 電流源(J) | ∞Ω | 開放(切り離す) | ポンプを外して管を塞ぐ ✂️ |

重ね合わせの理の解法|たった3ステップ
重ね合わせの理の手順は、どんな問題でも同じ3ステップです。この流れを体に染み込ませましょう。
他の電源を消す
オームの法則で求める
逆向き→引き算
STEP 1:電源を1つだけ残し、他を消す
回路にn個の電源があれば、n通りの「サブ回路」を作ります。例えば電圧源E₁とE₂がある回路なら、以下の2つのサブ回路を作ります。
サブ回路①:E₁だけ残し、E₂を短絡(導線に置き換え)
サブ回路②:E₂だけ残し、E₁を短絡(導線に置き換え)
STEP 2:各サブ回路でオームの法則を使って解く
電源が1つだけになった回路は、合成抵抗を求めてオームの法則を使うだけのシンプルな問題です。連立方程式は不要になります。各サブ回路で求めたい箇所の電流(または電圧)を求めます。
STEP 3:各サブ回路の結果を代数和する
最後に、各サブ回路で求めた電流(電圧)を向きを考慮して足し算します。
同じ向きの場合
足し算
I = I₁ + I₂
逆向きの場合
引き算
I = I₁ − I₂
STEP 1の段階で、求めたい電流の「正の向き」を矢印で決めておきましょう。各サブ回路の電流がその矢印と同じ方向なら+、逆方向なら−です。最初に基準の矢印を決めることが計算ミスを防ぐ最大のコツです。

【計算例①】電圧源が2つある回路
📝 問題
回路構成:
・電圧源 E₁ = 12V に R₁ = 4Ω が直列に接続
・電圧源 E₂ = 6V に R₃ = 6Ω が直列に接続
・上記2つの枝が並列につながり、その間に R₂ = 12Ω が接続されている(ブリッジ状の回路)
✏️ STEP 1:サブ回路を2つ作る
まず、R₂を流れる電流の正の向きを「上から下」と決めておきます。
📘 サブ回路①(E₁だけ残す)
E₂を短絡(導線に置き換え)
すると、R₂とR₃が並列になります。
R₂‖R₃ = (12×6)/(12+6) = 72/18 = 4Ω
回路全体の合成抵抗:
R₁ + R₂‖R₃ = 4 + 4 = 8Ω
全体の電流:
I = E₁ / 8 = 12/8 = 1.5A
分流の法則でR₂の電流(上から下向き):
I₂' = 1.5 × R₃/(R₂+R₃) = 1.5 × 6/18 = 0.5A ↓
📙 サブ回路②(E₂だけ残す)
E₁を短絡(導線に置き換え)
すると、R₂とR₁が並列になります。
R₂‖R₁ = (12×4)/(12+4) = 48/16 = 3Ω
回路全体の合成抵抗:
R₃ + R₂‖R₁ = 6 + 3 = 9Ω
全体の電流:
I = E₂ / 9 = 6/9 = 2/3 A
分流の法則でR₂の電流(下から上向き):
I₂'' = (2/3) × R₁/(R₂+R₁) = (2/3) × 4/16 = 1/6 A ↑
✏️ STEP 3:代数和で最終回答
正の向き「上から下(↓)」を基準にします。
I₂ = I₂'(↓) − I₂''(↑)
I₂ = 0.5 − 1/6 = 3/6 − 1/6 = 2/6 = 1/3 A(≒ 0.33A)↓
サブ回路①のI₂'は正の向き(↓)なので+、サブ回路②のI₂''は逆向き(↑)なので−として計算しました。結果が正なので、電流は「上から下」の方向に1/3 A流れています。
「え、結果が負になったらどうするの?」と思う方がいるかもしれません。負になったら単純に電流の向きが最初に仮定した方向と逆だということです。絶対値が電流の大きさ、符号が方向を表しています。

【計算例②】電圧源と電流源が混在する回路
電験三種では、電圧源と電流源が同時に存在する回路も出題されます。「電源を消す」操作が電圧源と電流源で異なるので、ここでしっかり練習しておきましょう。
📝 問題
回路構成:
・電圧源 E = 10V に R₁ = 5Ω が直列に接続
・電流源 J = 2A が R₂ = 10Ω に並列に接続
・R₁ と(R₂‖J)が直列に接続されている
✏️ サブ回路①:電圧源 E だけ残す(電流源 J を開放)
電流源Jを開放(切り離し)すると、Jがあった場所は回路が途切れます。すると R₁ と R₂ が直列でつながった単純な回路になります。
R₂ の両端電圧:V₂' = I × R₂ = (2/3) × 10 = 20/3 V ≒ 6.67V
✏️ サブ回路②:電流源 J だけ残す(電圧源 E を短絡)
電圧源Eを短絡(導線に置き換え)すると、R₁の一端が直接つながります。すると R₁ と R₂ が並列になり、電流源Jがその並列回路に電流を押し込む構造です。
R₂ の両端電圧:V₂'' = J × (R₁‖R₂) = 2 × (10/3) = 20/3 V ≒ 6.67V
✏️ STEP 3:代数和
この例では、両方のサブ回路でV₂の極性が同じ向きになるため、単純に足し算です。
この問題のように、電圧源と電流源が混在する回路こそ重ね合わせの理の真価が発揮されます。キルヒホッフで解くと式が複雑になりますが、重ね合わせなら「電源1つ + オームの法則」の繰り返しで済みます。

重ね合わせの理が使えないケース・注意点
❌ 電力(P = I²R)は重ね合わせできない
これは非常に重要な注意点です。重ね合わせの理は電流と電圧には使えますが、電力には使えません。
なぜか。電力の公式 P = I²R を見てください。Iが二乗されています。二乗があるということは、(I₁ + I₂)² = I₁² + 2I₁I₂ + I₂² となり、「交差項」2I₁I₂ が生まれます。つまり P₁ + P₂ ≠ P全体 です。
電験三種で「各電源による電力を求めて合計せよ」と言われたら、まず重ね合わせで電流を求めてから、最後にP = I²Rで電力を計算してください。電力同士を足すのはNGです。
| 物理量 | 重ね合わせ | 理由 |
|---|---|---|
| 電流 I | ⭕ 使える | 1次式(比例)だから |
| 電圧 V | ⭕ 使える | 1次式(比例)だから |
| 電力 P = I²R | ❌ 使えない | 2次式(二乗)だから |
❌ 非線形素子がある回路には使えない
ダイオードやトランジスタなど、電流と電圧が比例関係にない素子(非線形素子)を含む回路では、重ね合わせの理は成り立ちません。電験三種の直流回路問題では、これらが登場することはまれですが、知識として押さえておいてください。

テブナンの定理との使い分け|どっちを使えばいい?
複数電源の回路を解く手法として、重ね合わせの理のほかにテブナンの定理があります。どちらを使っても正解にたどり着けますが、問題のタイプによって「ラクに解ける方」が変わります。
🔀 判断フローチャート
求めたいのは特定の1ヶ所の電流 or 電圧?
→ YES なら テブナンの定理が速い
→ NO(複数箇所の電流が必要)なら次へ
「ある1つの抵抗の値を変えたとき」の影響を見たい?
→ YES なら テブナンの定理一択(等価回路を作ればRを変えるだけ)
| 比較項目 | 重ね合わせの理 | テブナンの定理 |
|---|---|---|
| 得意な場面 | 回路全体の電流分布を求めたい | 特定の1箇所だけ求めたい |
| 計算量 | 電源の数だけサブ回路を解く | 1回の等価回路変換で済む |
| 連立方程式 | 不要(オームの法則の繰り返し) | 不要(等価回路→オームの法則) |
| 注意点 | 電力の重ね合わせはNG | 等価回路の作り方を間違えやすい |
| 電験三種の出題 | 2年に1回程度 | ほぼ毎年 |
迷ったらテブナンの定理を先に試すのが電験三種のセオリーです。なぜなら、電験の問題は「特定の1ヶ所の電流 or 電圧を求めよ」という形式がほとんどだからです。ただし、電流源と電圧源が混在している問題や、各電源の寄与を個別に知りたい問題では、重ね合わせの理が圧倒的に速いです。両方使えるようにしておくのが理想です。

【保存版】重ね合わせの理 手順チートシート
最後に、試験直前に見返せるよう、手順を1枚にまとめました。
⓪ 準備:求めたい電流の「正の向き」を矢印で定める
① 電源を1つだけ残し、残りを消す
・電圧源 → 短絡(導線に置き換え)
・電流源 → 開放(切り離す)
② 各サブ回路で合成抵抗+オームの法則で解く
・分流の法則を使うと計算がラク
③ 各サブ回路の結果を代数和する
・正の向きと同じ方向 → +
・正の向きと逆方向 → −
電力(P = I²R)の重ね合わせは絶対NG!先に電流を求めてからP = I²Rを計算すること。

まとめ
重ね合わせの理は、複数の電源がある回路を「電源1つだけの簡単な回路」に分解して、最後に足し算するだけの非常にシンプルなテクニックです。
- 複数電源の回路を「1つずつ分解→足す」だけで解ける
- 電圧源を消す → 短絡、電流源を消す → 開放
- 代数和では電流の向きに注意(同方向は+、逆方向は−)
- 電力(P = I²R)の重ね合わせはNG
- テブナンの定理と両方使えるようにしておくのが理想
直流回路の問題は、「オームの法則」「キルヒホッフ」「重ね合わせの理」「テブナンの定理」の4つの武器を状況に応じて使い分けるのが合格のカギです。まずは計算例を何度も手を動かして解き直し、どの場面でどの武器を抜くか、体に染み込ませてください。
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