- 「磁界中で電子が円運動する」と言われても、なぜ「円」になるのかイメージできない
- r = mv/(eB) の公式を丸暗記しているけど、どう導出したのかわからない
- 電界中の電子の運動(eV = ½mv²)との違いがごちゃごちゃになる
- 過去問で「円運動の半径を求めよ」が出たとき、どの公式から攻めればいいか迷う
- 磁界中で荷電粒子が「なぜ円を描くのか」を直感的に理解
- r = mv/(eB) の公式を「向心力 = ローレンツ力」から自力で導出
- 電界中と磁界中の違いを比較表で整理
- 試験に出る3つの計算パターンを例題つきで完全マスター
前回の記事では、電界中の電子の運動(eV = ½mv²)を学びました。電圧という「坂」を転がり落ちて加速される——直線運動の話でした。
今回は、その電子が磁界の中に飛び込んだときの話です。驚くことに、磁界中では電子は直線ではなく「円」を描いて運動します。なぜ円になるのか?半径はどう求めるのか?この記事ではその仕組みを、中学理科の「向心力」から丁寧に解説します。
使う公式は今回もシンプル。「ローレンツ力 = 向心力」の1本の式から、すべての計算パターンが解けます。
目次
前提知識の確認|ローレンツ力とは何か
磁界中の円運動を理解するには、まず「ローレンツ力」を知っておく必要があります。すでに学んだ「電磁力 F = BIL」を、電流ではなく1個の荷電粒子の視点で書き直したものがローレンツ力です。
📐 ローレンツ力の公式
| f | 荷電粒子に働く力 [N] |
| e | 電荷の大きさ [C](電子なら 1.6×10⁻¹⁹ C) |
| v | 荷電粒子の速度 [m/s] |
| B | 磁束密度 [T] |
※ 速度vと磁界Bが垂直な場合の式です(電験三種ではほぼこの条件で出題されます)
🎯 ローレンツ力の3つの重要な性質
ローレンツ力には、円運動を理解するうえで決定的に重要な3つの性質があります。
力の向きは、速度と磁界の両方に垂直
フレミング左手の法則で決まります。力は常に速度の「横方向」に働きます。
速度の向きは変えるが、速さ(大きさ)は変えない
力が常に速度に垂直なので、加速も減速もしません。進行方向を「曲げる」だけです。
仕事をしない(エネルギーを与えない)
力と移動方向が常に垂直なので、W = F×d×cosθ のθが90°になり、仕事はゼロです。
性質①②がカギです。力が常に速度に対して垂直で、しかも速さが一定。これは中学理科で学んだ「等速円運動の条件そのもの」です。糸をつけたボールをぐるぐる回すとき、糸の張力(向心力)は常に速度と垂直ですよね。磁界中のローレンツ力は、まさにこの「見えない糸」の役割を果たしているのです。

円運動の半径を導出する|「ローレンツ力 = 向心力」の1本で全部解ける
ここがこの記事の核心です。磁界中の荷電粒子は円運動をする——その半径rはどうやって求めるのか?答えは「ローレンツ力と向心力を等しいとおく」だけです。
📐 導出の全手順(3ステップ)
STEP 1:ローレンツ力を書く
f = evB
STEP 2:向心力を書く
f = mv²/r
(質量mの物体が半径rで速度vの円運動をするときに必要な力)
STEP 3:両者を等しいとおいて、rについて解く
evB = mv²/r
r = mv²/(evB)
r = mv/(eB)
m:質量 [kg] v:速度 [m/s] e:電荷 [C] B:磁束密度 [T]
💡 公式の「意味」を読む
r = mv/(eB) の分子と分母を見れば、半径が何で決まるかが直感的にわかります。
| 要素 | 分子 or 分母 | 半径への影響 | 直感的な理由 |
|---|---|---|---|
| 質量 m ↑ | 分子 | r が大きくなる | 重い粒子ほど曲がりにくい |
| 速度 v ↑ | 分子 | r が大きくなる | 速い粒子ほど曲がりにくい |
| 電荷 e ↑ | 分母 | r が小さくなる | 大きな電荷ほどローレンツ力が強く、強く曲がる |
| 磁束密度 B ↑ | 分母 | r が小さくなる | 強い磁界ほど強く曲げる |
この原理は製造業の身近な場面でも使われています。たとえば質量分析装置(マススペクトロメーター)は、磁界中で荷電粒子の円運動半径が質量mに比例することを利用して、物質の質量(=成分)を特定します。「重い粒子ほど大きな円を描く」という r = mv/(eB) そのものです。

周期Tと周波数f|驚きの「速度に依存しない」性質
円運動の半径rがわかれば、周期T(1周にかかる時間)も求められます。ここには試験でよく問われる、意外な性質が隠れています。
📐 周期Tの導出
円周の長さ = 2πr、速さ = v なので、1周にかかる時間Tは
T = 2πr / v
ここで r = mv/(eB) を代入すると
T = 2π × mv/(eB) / v = 2πm/(eB)
T = 2πm/(eB) をよく見てください。速度vがどこにもありません。これは「速い粒子も遅い粒子も、1周にかかる時間は同じ」ということを意味します。速い粒子は大きな円を描くけれど、その分速く走るので、結果的に周期は同じになるのです。この性質がサイクロトロン(粒子加速器)の動作原理になっています。
「荷電粒子の速度を2倍にしたとき、円運動の半径と周期はどうなるか?」
→ 半径:r = mv/(eB) → 2倍になる(vが分子にあるから)
→ 周期:T = 2πm/(eB) → 変わらない(vが含まれないから)
この「半径は変わるが周期は変わらない」が正誤問題で頻出です。

電界中と磁界中の電子の運動を比較する
電験三種では「電界中」と「磁界中」の電子の運動が両方とも出題されるため、ここで2つの違いを明確にしておきましょう。混同すると致命的なミスにつながります。
| ⚡ 電界中 | 🧲 磁界中 | |
|---|---|---|
| 力の方向 | 電界の方向(速度と同じ向き) | 速度に垂直 |
| 運動の種類 | 直線加速(放物運動) | 等速円運動 |
| 速さの変化 | 加速する(速くなる) | 一定(変わらない) |
| エネルギー | 運動エネルギーが増加 | 運動エネルギーは一定 (仕事をしないため) |
| 核心の公式 | eV = ½mv² | evB = mv²/r |
| イメージ | 坂道を転がるボール | 糸でつないだボールの回転 |
電界は粒子を「加速」する(エネルギーを与える)。
磁界は粒子を「曲げる」だけ(エネルギーは与えない)。
だから、粒子を「加速してから曲げる」場合、電界で加速 → 磁界で円運動、という組み合わせ問題が出ることがあります。

計算例①|磁界中の電子の円運動半径を求める(基本パターン)
速度 v = 4.0×10⁶ m/s の電子が、磁束密度 B = 0.2 T の一様な磁界中に、磁界と垂直に入射した。
電子の円運動の半径 r [m] を求めよ。
ただし、e = 1.6×10⁻¹⁹ C、m = 9.1×10⁻³¹ kg とする。
🧮 解答:ステップバイステップ
STEP 1:公式を書く
r = mv/(eB)
STEP 2:分子(mv)を計算
mv = 9.1×10⁻³¹ × 4.0×10⁶
= 36.4 × 10⁻²⁵
= 3.64 × 10⁻²⁴ [kg·m/s]
STEP 3:分母(eB)を計算
eB = 1.6×10⁻¹⁹ × 0.2
= 3.2 × 10⁻²⁰ [C·T]
STEP 4:割り算
r = 3.64×10⁻²⁴ / 3.2×10⁻²⁰
= (3.64/3.2) × 10⁻²⁴⁺²⁰
= 1.14 × 10⁻⁴
r ≈ 1.14 × 10⁻⁴ m ≈ 0.114 mm
円運動の半径はわずか約0.1mm。電子は極めて軽い(10⁻³¹ kg)ので、磁界による力で簡単に曲がり、非常に小さな円を描きます。これがブラウン管テレビで電子ビームを偏向する原理です。

計算例②|電界で加速 → 磁界で円運動(組み合わせ問題)
電験三種では、「電界で加速した電子が磁界に入って円運動する」という2段構成の問題が出題されることがあります。これは「電界中の公式」と「磁界中の公式」を組み合わせるだけです。
静止していた電子を V = 200V の電位差で加速した後、磁束密度 B = 0.1T の一様な磁界中に垂直に入射させた。電子が描く円運動の半径 r を求めよ。
ただし、e = 1.6×10⁻¹⁹ C、m = 9.1×10⁻³¹ kg とする。
🧮 解答:2段階で攻略する
→ vを求める
→ rを求める
前半:電界での加速 → 速度vを求める
eV = ½mv²
v = √(2eV/m)
= √(2 × 1.6×10⁻¹⁹ × 200 / 9.1×10⁻³¹)
= √(6.4×10⁻¹⁷ / 9.1×10⁻³¹)
= √(7.03×10¹³)
≈ 8.39 × 10⁶ m/s
後半:磁界での円運動 → 半径rを求める
r = mv/(eB)
= 9.1×10⁻³¹ × 8.39×10⁶ / (1.6×10⁻¹⁹ × 0.1)
= 7.63×10⁻²⁴ / 1.6×10⁻²⁰
= 4.77 × 10⁻⁴
r ≈ 4.8 × 10⁻⁴ m ≈ 0.48 mm
前半と後半を1つにまとめることもできます。v = √(2eV/m) を r = mv/(eB) に代入すると、
r = (1/B) × √(2mV/e)
この形を覚えておくと、V と B から直接 r を求められるので、試験時間を節約できます。

公式チートシート|磁界中の荷電粒子
| 名称 | 公式 |
|---|---|
| ローレンツ力 | f = evB |
| 円運動の半径(最重要) | r = mv/(eB) |
| 周期 | T = 2πm/(eB) ※vを含まない |
| 周波数(サイクロトロン周波数) | f = eB/(2πm) |
| 電圧加速後の半径 | r = (1/B)√(2mV/e) |
| 導出の出発点 | evB = mv²/r(ローレンツ力 = 向心力) |
🔑 絶対に覚える3つのルール:
① 導出は「ローレンツ力 = 向心力」の1本の等式から出発する
② 半径rは速度vに比例(v↑ → r↑)、磁束密度Bに反比例(B↑ → r↓)
③ 周期Tは速度vに依存しない(速くても遅くても1周の時間は同じ)

まとめ
- 磁界中の荷電粒子にはローレンツ力 f = evB が働き、これが向心力となって円運動を引き起こす
- ローレンツ力は速度に常に垂直 → 速さは変えず、向きだけ変える → 等速円運動
- 円運動の半径は r = mv/(eB)。重い・速い粒子は大きな円、強い磁界は小さな円
- 周期は T = 2πm/(eB) で速度に依存しない(サイクロトロンの原理)
- 電界は粒子を「加速」し、磁界は粒子を「曲げる」。役割が違う
- 「電界で加速 → 磁界で円運動」の組み合わせ問題は、eV = ½mv² で v を求めてから r = mv/(eB) に代入
電界中の電子の運動が「坂道を転がるボール」なら、磁界中の電子の運動は「糸でつないだボールの回転」です。どちらも中学理科の力学をベースにした考え方であり、使う公式も1つずつ。電子理論は「難しそうに見えるけど公式は少ない」分野なので、パターンを押さえてしまえば確実に得点できます。
📚 次に読むべき記事
電界中の電子の加速を「坂道を転がるボール」のイメージで解説。本記事の前提知識として最適です。
ローレンツ力の基礎とフレミング左手の法則。本記事のf=evBの前提となる知識です。
合格者が「もっと早く買えばよかった」と後悔したアイテムをランキングで紹介。