- 「この端子、浮いてるよ」と言われたけど、何が問題なのかわからない
- 「ハイインピーダンス」「フローティング」「オープン」…全部同じ意味?
- プルアップ抵抗・プルダウン抵抗が必要な理由がイマイチ腑に落ちない
- 使わないICの入力端子を「そのまま放置」して痛い目にあったことがある
- 「浮いている(フローティング)」とはどこにも電位が確定していない状態であること
- 浮いた端子がアンテナとなってノイズを拾うメカニズム
- デジタルICの入力が不定電圧になると貫通電流で発熱・破壊する危険性
- プルアップ/プルダウン抵抗で「浮き」を解消する仕組みと抵抗値の考え方
「端子が浮いている」とは、その端子の電圧がどこにも決められていない状態のことです。VCCにもGNDにも繋がっていないため、電圧は不定(HIGHでもLOWでもない曖昧な値)になります。浮いた端子は空間のノイズを拾う「アンテナ」と化し、デジタルICでは誤動作や素子破壊を招きます。これを防ぐために、抵抗でVCCかGNDに繋いで電位を確定させる──それがプルアップ/プルダウンです。
回路設計の世界では「浮いている」という言葉がよく飛び交います。「その端子、浮かせちゃダメだよ」「プルアップ入れた?」──こう言われても、初心者のうちは「なぜ浮いていると問題なのか」がピンときませんよね。
この記事では、「浮いている」という状態の正体を、水道管のたとえを使いながら丁寧に解説します。読み終える頃には、プルアップ/プルダウンが必要な理由が「なるほど、そういうことか!」と腑に落ちるはずです。
目次
「端子が浮いている」の正体
「繋がっている」と「浮いている」を水道管で理解する
まず、「浮いている」とは何かを直感的に理解しましょう。水道管で考えます。
繋がっている状態
蛇口(電源)に水道管がしっかり接続されている。蛇口を開ければ水位(電圧)は「満タン」、閉じれば「空っぽ」。水位が常にはっきり決まっている。
浮いている状態
水道管がどこにも繋がっておらず、先端が空中に開放されている。雨が入ったり蒸発したりして、水位(電圧)がそのときどきでバラバラ。誰にも予測できない。
電気回路に置き換えると、「浮いている」とはICの端子がVCC(電源)にもGNDにもどこにも接続されていない状態のことです。端子の電圧を決める「拠り所」がないので、電圧はフラフラと不安定になります。
電気的に言うと「ハイインピーダンス」
この「浮いている」状態を、電気の用語ではハイインピーダンス(Hi-Z)と呼びます。
インピーダンスとは「電流の流れにくさ」のこと。ハイインピーダンスとは「電流がほとんど流れない=どこにも繋がっていないのと同じ」という意味です。
| 用語 | 意味 | イメージ |
|---|---|---|
| フローティング | 端子がどこにも接続されず「浮いている」 | 水道管の先が空中で開放 |
| ハイインピーダンス(Hi-Z) | 電流がほとんど流れない状態 | 水道管のバルブが完全に閉じている |
| オープン | 回路が切れている(導通なし) | 水道管が途中で切断されている |
これら3つの用語は厳密には少しずつ意味が異なりますが、実務では「端子の電圧が定まっていない危険な状態」としてほぼ同じ文脈で使われます。
トライステートバッファなどのデジタルICでは、出力が「Hi-Z状態」になることがあります。これは出力側が意図的に「どこにも駆動しない」モードに入ることです。入力側の「浮き(フローティング)」とは原因が異なりますが、「電位が定まらない」という点では同じ現象が起きます。

浮いた端子は「アンテナ」になる
空間にはノイズが漂っている
ここで少し視野を広げましょう。私たちの身の回りの空間は、目に見えない電磁波で満ちています。
スマートフォンの電波、Wi-Fiの信号、蛍光灯のちらつき、モーターの回転、スイッチング電源の高周波…これらすべてが空間に電磁波(ノイズ)を放出しています。普段は気にならないレベルですが、電子回路の世界では無視できません。
なぜ浮いた端子がノイズを拾うのか?
ラジオのアンテナを思い浮かべてください。アンテナは「金属の棒」が空間に突き出た構造ですよね。空間を飛び交う電磁波がアンテナに当たると、金属の中に微小な電流が誘導され、それが電気信号に変換されます。
浮いたICの端子は、まさにこの「意図しないアンテナ」として働きます。
ここが大事なポイントです。端子がVCCやGNDに「低インピーダンスで」繋がっていれば、ノイズが入ってきても電源やGNDに吸収されて消えます。しかし、ハイインピーダンスだとノイズの逃げ場がないので、拾ったノイズがそのまま端子電圧として現れてしまうのです。
水道管のたとえに戻ると、蛇口にしっかり繋がった水道管に雨粒が入っても、蛇口からの水圧で押し流されます。しかし、どこにも繋がっていない開放された水道管に雨粒が入ると、そのまま中に溜まって水位が不安定に変動します。
浮いた端子にテスターを当てると、0.5Vだったり2.3Vだったり、測るたびに違う値が出ます。これは端子がアンテナとして拾ったノイズ+テスターのプローブ自体がアンテナとして拾ったノイズが重なった結果です。「何Vか測定できないこと自体」が、端子が浮いている証拠です。

デジタルICで「浮き」が致命的な理由
デジタルICは「HIGH か LOW」しか理解できない
デジタルIC(マイコン、ロジックIC、FPGAなど)の入力端子は、電圧をHIGH(1)とLOW(0)の2つにしか分類できません。その判定基準が「しきい値電圧」です。
VIH(HIGHと認識する最低電圧)≒ 2.0V 以上 → HIGH
VIL(LOWと認識する最高電圧)≒ 0.8V 以下 → LOW
0.8V 〜 2.0V の間 → 不定(禁止領域)
浮いた端子の電圧は、ノイズに翻弄されて0V〜3.3Vの間をフラフラ漂います。ある瞬間はHIGH寄りの2.5V、次の瞬間にはLOW寄りの0.3V、さらにその次には禁止領域の1.2V…。ICの入力から見ると、「HIGH? LOW? どっち?」と混乱し続ける状態です。
🔥 最悪のシナリオ:貫通電流による発熱・破壊
「誤動作するだけでしょ?」と思うかもしれませんが、実はもっと深刻な問題があります。CMOS回路の貫通電流です。
CMOS回路の内部は、VCC側のPチャネルMOSFETとGND側のNチャネルMOSFETのペアで構成されています。通常の動作では、入力がHIGHならNチャネルだけがON、LOWならPチャネルだけがONになり、VCCからGNDへ直通する電流は流れません。
しかし、入力電圧が禁止領域(VIL 〜 VIH の間)に入ると、PチャネルとNチャネルの両方が「中途半端にON」になります。すると、VCCからGNDへ一直線に電流が流れてしまいます。これが貫通電流(シュートスルー電流)です。
① 異常な発熱:VCCからGNDへの短絡に近い状態なので、ICが異常に熱くなります。
② 消費電力の激増:本来ほとんど電力を消費しないCMOS回路が、浮きのせいで大きな電流を消費し続けます。
③ 素子の劣化・破壊:長時間続くとIC内部のMOSFETが劣化し、最悪の場合、壊れます。
「使わない入力端子だから放置しても問題ないだろう」──この判断が、静かにICの寿命を縮めているかもしれません。使わない端子こそ、プルアップかプルダウンで電位を確定させることが鉄則です。


「浮き」を防ぐ2つの方法:プルアップとプルダウン
ここまでで「浮いた端子がどれほど危険か」がわかりました。では、どうやって防げばいいのか?答えはシンプルです。抵抗1本で端子の電位を確定させるだけです。
プルアップ抵抗:VCCに「引き上げる」
プルアップ抵抗は、ICの入力端子とVCC(電源)の間に入れる抵抗です。
何も信号が入っていないとき、端子は抵抗を通じてVCCに繋がっているので、電位はHIGH付近に安定します。「ふわふわ浮いている風船を、天井にロープで結びつけた」イメージです。
外部のスイッチやオープンドレイン出力がLOWに引き下げると、端子はLOWになります。スイッチを離すと、プルアップ抵抗がまたHIGHに引き戻してくれます。
プルアップ回路
プルダウン抵抗:GNDに「引き下げる」
プルダウン抵抗は、プルアップの逆です。ICの入力端子とGNDの間に抵抗を入れます。
何も信号が入っていないとき、端子はGNDに引き下げられてLOWに安定します。「風船を地面にロープで結びつけた」イメージです。
外部からHIGHの信号が入ると端子はHIGHになり、信号がなくなるとプルダウン抵抗がLOWに戻してくれます。
│
SW
│
┣━━━━ IC入力端子
│
┣━ R (10kΩ)
│
GND
プルダウン回路
プルアップとプルダウン、どちらを選ぶ?
「どちらを使うべきか」は、回路の論理設計で「信号がないときにHIGHであるべきか、LOWであるべきか」で決まります。
| プルアップ | プルダウン | |
|---|---|---|
| デフォルト(信号なし時) | HIGH | LOW |
| よく使われる場面 | I²Cバス、リセット端子、チップセレクト(負論理) | イネーブル端子(正論理)、モード設定端子 |
| 接続先 | VCCと端子の間に抵抗 | GNDと端子の間に抵抗 |
抵抗値の選び方の基本
プルアップ/プルダウン抵抗の値は、一般的に1kΩ 〜 100kΩの範囲から選びます。よく使われるのは4.7kΩ 〜 10kΩです。
なぜこの範囲なのか?抵抗値の選択は「2つの要求のバランス」で決まります。
抵抗値を小さくしたい理由
ノイズ耐性が上がる。低インピーダンスでVCCまたはGNDに引っ張るので、ノイズに対して強い。信号の立ち上がり/立ち下がりも速くなる。
抵抗値を大きくしたい理由
消費電流が減る。プルアップ抵抗にはスイッチON時にVCC/Rの電流が常時流れるため、抵抗が小さすぎると電力を無駄に消費する。バッテリー駆動では致命的。
初心者のうちは「とりあえず10kΩ」で大抵のケースに対応できます。速度が求められる信号線(I²Cなど)では4.7kΩ、超低消費電力が求められる場面では100kΩ、といった使い分けは経験とともに身につきます。

【応用】オープンドレイン出力にプルアップが必須な理由
プルアップ抵抗が「必須」となる代表的な場面が、オープンドレイン(オープンコレクタ)出力です。
通常のデジタルIC出力(プッシュプル出力)は、IC内部にVCC側とGND側の両方のスイッチがあり、HIGHもLOWも自力で駆動できます。しかしオープンドレイン出力は、GND側のスイッチしか持っていません。LOWにすることはできますが、HIGHにする力が内部にないのです。
水道管のたとえで言うと、排水バルブ(GND側)は持っているけど、給水ポンプ(VCC側)を持っていない状態です。バルブを閉じたとき、水道管の中の水位(電圧)は「何も決まっていない」=フローティングになります。
そこでプルアップ抵抗を外付けして、LOWにしないときはVCCに引き上げておくわけです。I²C通信やワイヤードOR接続など、オープンドレイン出力が活躍する場面では、プルアップ抵抗は「あった方がいい」ではなく「なければ動かない」レベルの必須部品です。
最近のマイコンには、内部にプルアップ/プルダウン抵抗が内蔵されていて、レジスタ設定で有効化できるものもあります。ただし、内蔵抵抗は値が大きく(20kΩ〜50kΩ程度)ノイズ環境によっては不十分な場合があります。ノイズの多いパワエレ環境では、外付けのプルアップ/プルダウンを使う方が安全です。
まとめ:「浮いている」を許さない設計を
「浮いている」=端子の電圧がどこにも確定されていない状態。VCCにもGNDにも繋がっていないハイインピーダンス。
浮いた端子は空間のノイズを拾う「アンテナ」になる。ノイズの逃げ場がないため、拾ったノイズがそのまま端子電圧に化ける。
不定電圧はCMOS回路で貫通電流を引き起こす。誤動作だけでなく、発熱・素子劣化・破壊の原因になる。
プルアップまたはプルダウン抵抗で電位を確定させる。使わないICの入力端子も必ず処理する。迷ったら10kΩ。
回路設計では「すべての端子の電位が確定しているか?」を常に確認する習慣が大切です。特にパワエレ回路のようにノイズが大きい環境では、たった1本の浮いた端子が回路全体の誤動作につながります。「浮きを許さない」──これを設計の鉄則として心に刻んでおきましょう。
