「ここのダイオード、ショットキーに変えたら効率上がるよ」と先輩から言われた。
……ショットキー?普通の整流ダイオードとは違うの?確かに「Vfが小さい」と聞いた気がするけど、どこで使うべきで、どこで使っちゃダメなのか、判断基準がわからない。
カタログを開いても「SS14」「1N5817」「SBD」と型番が並ぶばかり。結局、いつ普通のダイオードを使って、いつショットキーを選べばいいんだろう?
- ショットキーと普通のダイオード、どっちが「上位互換」かわからない
- 「Vfが小さい」しかメリットを言えない
- ショットキーのデメリット(弱点)が説明できない
- 選定の判断基準が体系的に頭に入っていない
- ショットキーと整流ダイオードの違いを「軽い扉 vs 重い扉」で完全理解
- 3つの差(Vf・耐圧・逆漏れ電流)を一覧表で整理
- 用途別の使い分け(電源整流・スイッチング・低電圧回路)
- 選定で迷わない判定フローチャート
目次
結論:「低Vf・高速」がほしいならショットキー一択
先に結論を言います。
ショットキー=Vfが小さく超高速。ただし耐圧低めで逆漏れ多め。
整流ダイオード=Vf大きく遅い。でも高耐圧・低漏れで頑丈。
両者は「上位互換・下位互換」の関係ではありません。お互いに得意・不得意があり、使う場面で選び分けるのが正解です。
| こういう場面 | 選ぶべきダイオード |
|---|---|
| DC-DCコンバータの整流(低電圧・高効率) | ショットキー |
| AC100V/200Vの電源整流 | 整流ダイオード |
| 高周波スイッチング電源の二次側 | ショットキー |
| 高温環境(80℃以上)での動作 | 整流ダイオード |
| フリーホイールダイオード(モーター用) | ショットキー |
低電圧・高周波・効率重視ならショットキー。高耐圧・高温・頑丈さ重視なら整流ダイオード。

覚え方:軽い扉 vs 重い扉
2つのダイオードの違いを「扉」で考えるとスッキリします。
🚪 ダイオード = 電気の一方通行ドア
ショットキー =「軽い扉」
- 押すと軽く開く(Vfが小さい)
- 開け閉めが超高速(trr極小)
- でも、頑丈ではない(耐圧低い)
- 少しすきま風あり(逆漏れあり)
軽くて速いが、繊細
整流ダイオード =「重い扉」
- 押すと少し重い(Vfが大きい)
- 開け閉めが遅い(trrあり)
- でも、とにかく頑丈(高耐圧)
- すきま風もほとんどない(逆漏れ少)
重いが、丈夫で安心
高速で軽く開閉したい場面(スイッチング電源)には軽い扉=ショットキー。
強風(高電圧)に耐えてしっかり閉まる玄関扉には重い扉=整流ダイオード。
用途で使い分ければOKです。

3つの差を一覧表で比較
ショットキーと整流ダイオードの違いは、本質的に3つの数字に集約されます。
| 項目 | ショットキー(SBD) | 整流ダイオード |
|---|---|---|
| Vf (順方向電圧降下) |
0.2〜0.4V (小さい) |
0.6〜1.0V (普通〜大きい) |
| 耐圧(VRRM) | 最大200V程度 (高耐圧は少ない) |
1000V以上 (高耐圧多数) |
| trr (逆回復時間) |
ほぼゼロ(ns級) | 数μs(遅い) |
| 逆漏れ電流(IR) | 大きい (μA〜mA) |
非常に小さい (nA〜μA) |
| 高温特性 | 弱い (漏れが増える) |
強い |
| 価格 | やや高い | 安い |
| 代表型番 | SS14、1N5817、SBR40U | 1N4007、S1M、UF4007 |
覚えるべきは「Vf低い・高速・低耐圧・漏れ多い」=ショットキー、「Vf高い・遅い・高耐圧・漏れ少ない」=整流ダイオード。
この4ペアだけ覚えておけば、データシートを見たときの判断軸ができます。

なぜこんなに違う?内部構造の違い
2つの違いを生んでいるのは「ダイオードの中身」です。物理を細かく覚える必要はありませんが、構造の違いだけ知っておくと選定で迷わなくなります。
🔬 内部構造の比較
ショットキー:金属+半導体
┌──────────┐
│ 金属 │ ← 金属電極
├──────────┤
│ N型半導体 │
└──────────┘
│
接合面はあるが
キャリア蓄積なし
→ 超高速ON/OFF
整流ダイオード:PN接合
┌──────────┐
│ P型半導体 │
├──────────┤
│ N型半導体 │
└──────────┘
│
キャリアが蓄積
→ 抜くのに時間
→ trrが長い
ショットキーは金属とN型半導体の接合。普通のダイオード(PN接合)と違ってキャリアの蓄積がないので、ONからOFFへの切り替えが瞬間的です。
ただし、金属-半導体接合は耐圧を上げにくいという弱点があります。高電圧で使うとブレークダウンしやすい。これがショットキーが「最大200V程度」までしかラインナップがない理由です。
最近はSiCショットキーという新世代品が登場し、1200V耐圧のものまで出ています。シリコンの限界を炭化ケイ素(SiC)で突破した形ですが、価格はまだ高め。これは別記事で詳しく扱います。

用途別の使い分け①:低電圧DC-DC回路
ショットキーが圧倒的に有利な場面の第1位がこれです。
⚡ DC-DCコンバータの二次側整流
スマホの充電器、PC電源、車載DC-DCなどの二次側整流ダイオードには、ほぼ100%ショットキーが使われています。理由は「Vfの差が効率に直結するから」です。
【整流ダイオード(Vf=1.0V)の場合】 損失 = Vf × I = 1.0V × 10A = 10W 効率 = 5V/(5V+1V) = 83% 【ショットキー(Vf=0.3V)の場合】 損失 = Vf × I = 0.3V × 10A = 3W 効率 = 5V/(5V+0.3V) = 94% → 損失を 70% 削減!
出力電圧が5Vのとき、Vf 1Vは「出力の20%が損失」。これは深刻。
でも出力電圧が100Vのとき、Vf 1Vは「出力の1%が損失」。誤差レベル。
つまり、低電圧ほどショットキーの恩恵が大きいのです。

用途別の使い分け②:高周波スイッチング
ショットキーの「ほぼゼロのtrr」が真価を発揮するのが、高周波スイッチング回路です。
目安として100kHz以上。最近のDC-DCは500kHz〜数MHzで動くものも多く、ここではtrrの差がそのまま効率の差になります。
📊 スイッチング損失の比較
【整流ダイオード(trr=2μs)@ 500kHz】 1周期 = 2μs ← 周期そのものがtrrと同じ! → 常時導通損失が発生 → ほぼ動かない 【ショットキー(trr≈0)@ 500kHz】 切替損失 ≈ 0 → 効率94〜97%の高効率動作OK
「DC-DCの効率が異常に悪い」という相談、原因の半分は「整流ダイオードをショットキーに変更し忘れ」です。高周波回路では迷わずショットキーを選びましょう。

用途別の使い分け③:高耐圧・AC電源整流
逆に、整流ダイオードが圧勝する場面はここです。
🔌 AC100V/200Vの整流回路
AC電源を直接整流する場面では、ピーク電圧が高くなります(AC100Vでもピーク141V、サージ込みで300V級)。ショットキーは耐圧不足でそもそも使えません。
| 用途 | 必要耐圧 | 適したダイオード |
|---|---|---|
| AC100V整流 | 400V以上 | 整流ダイオード |
| AC200V整流 | 600V以上 | 整流ダイオード |
| 三相AC400V整流 | 1200V以上 | 整流ダイオード / SiC-SBD |
| DC5V〜12V整流 | 40V程度 | ショットキー |
「Vfが小さくて良さそうだから」という理由でショットキーをAC整流に使うと、初通電でブレークダウンして即破壊。耐圧条件を満たさない部品は絶対に選んではいけません。

用途別の使い分け④:高温環境
意外と見落とされがちなのが「温度特性」です。
🌡 ショットキーの弱点:温度上昇で逆漏れ増加
ショットキーは常温で逆漏れ電流(IR)が大きいですが、温度が上がるとさらに指数的に増加します。データシートの100℃時のIRは、25℃の数十倍になることもザラ。
逆漏れ電流 IR ↑ 1mA│ ╱ ← 100℃でmAレベル! │ ╱ (熱暴走リスク) 100μA│ ╱ │ ╱ 10μA│ ╱ │ ╱ ← 25℃で μA レベル 1μA│╱ └─────────────→ ジャンクション温度 25℃ 50℃ 100℃
漏れ電流が増える
→ 漏れ電流による発熱(IR × V)が増える
→ 温度がさらに上がる
→ 漏れ電流がもっと増える……
→ 熱暴走して死ぬ
特に車載や産業機器の高温環境(80℃以上)では、ショットキーの選定は要注意です。
高温(80℃以上)では整流ダイオードやSiCショットキーを選ぶのが安全。
通常のシリコンショットキーは、ジャンクション温度を100℃以下に抑える設計が原則です。

これで迷わない!判定フローチャート
ここまでの内容を、選定フローチャートにまとめました。このフローに沿って判断するだけで、ほぼ正しい選定ができます。
START:ダイオードを選びたい
│
▼
┌───────────────────────┐
│ 必要耐圧は200V以上? │
└───────────────────────┘
│YES │NO
▼ │
┌─────────┐ │
│整流D / FRD│ │
│ or SiC-SBD│ │
└─────────┘ │
▼
┌──────────────────────┐
│ 使用温度は80℃以上? │
└──────────────────────┘
│YES │NO
▼ │
┌──────────┐ │
│整流D │ │
│ または │ │
│SiC-SBD │ │
└──────────┘ │
▼
┌──────────────────────┐
│ スイッチング周波数は? │
└──────────────────────┘
│100kHz以上│未満
▼ │
┌──────────┐ │
│ショットキー│ │
└──────────┘ ▼
┌──────────────────┐
│ Vfで効率改善する?│
└──────────────────┘
│YES │NO
▼ ▼
┌──────────┐ ┌──────┐
│ショットキー│ │整流D │
└──────────┘ └──────┘
① 耐圧条件を満たさないなら、他がどんなに良くてもNG
② 温度条件を満たさないなら、熱暴走で死ぬ
③ それ以外なら、Vfが小さく高速なショットキーを優先
この3ステップだけ守れば、選定で大ハズシすることはありません。

よくある質問
FRDは「逆回復時間(trr)を短くした整流ダイオード」です。trrは数十ns程度で、ショットキーには敵いません。ただし高耐圧(600V以上)が可能なので、AC高電圧の高周波スイッチング電源ではFRD一択になります。
ざっくり言うと、低耐圧高速=ショットキー、高耐圧高速=FRDです。
材料がシリコン(Si)→ 炭化ケイ素(SiC)に変わったもの。SiCは熱に強く、耐圧も上げやすい。だから1200V耐圧のショットキーも実現可能。ただし価格は通常品の5〜10倍するので、必要な場面でしか使われません。
電流が小さければVfによる損失は無視できます。この場合は耐圧と価格で決めるのが普通。マイコンの保護用なら1N4148(高速スイッチング)、より低Vfが必要ならショットキー、と使い分けます。
① 耐圧マージンを多めに取る(ショットキーは温度で耐圧が下がる)
② 放熱を計算する(Vfは低くても電流大なら発熱は無視できない)
③ 逆漏れの温度依存を見る(高温で熱暴走しないか確認)
この3つを確認すれば、ショットキーで失敗することは少ないです。

まとめ:「軽い扉」と「重い扉」を使い分ける
今回の内容を整理します。
- ショットキー=軽い扉。Vf低・高速・低耐圧・漏れ多
- 整流ダイオード=重い扉。Vf高・遅い・高耐圧・漏れ少
- 内部構造が違う:ショットキー=金属-半導体、整流D=PN接合
- 低電圧DC-DC・高周波スイッチングならショットキー
- AC100V/200V整流・高温環境なら整流ダイオード
- 判定フロー:①耐圧 → ②温度 → ③周波数 → の順で確認
これで「ショットキーに変えたら効率上がるよ」と先輩に言われても、「なぜ効率が上がるのか」「どこに使えばいいか」を理屈で説明できるようになりました。
次は、ダイオードの逆回復時間(trr)を深掘りすると、なぜショットキーが「ほぼゼロのtrr」を実現できるのか、物理的な理由まで理解できるようになります。

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