部品選定

【完全図解】TVSダイオードでESD保護|回路への入れ方

ESD試験で、基板上のマイコンが一発で壊れた。試験エンジニアから渡された報告書には「TVSダイオードによる保護が不十分」と書かれていた。

……TVSダイオード?ツェナーと何が違うの?データシートを見ても「クランプ電圧」「ピーク電流」「PPP」と専門用語ばかり。そもそも、回路のどこに、どの向きで入れればいいのかわからない。

😣 こんな経験はありませんか?
  • ESD試験で基板が壊れて、原因が「保護回路不足」と言われた
  • TVSダイオードを使えと言われたが、ツェナーとの違いが説明できない
  • 「クランプ電圧」が何を意味するのか、ピンとこない
  • 回路図でTVSをどこに、どの向きで入れればいいかわからない
✅ この記事でわかること
  • TVSダイオードの正体を「傘」のイメージで完全理解
  • ツェナーダイオード・バリスタとの違いを一覧表で整理
  • データシートの「クランプ電圧」「VRWM」「VBR」の読み方
  • 回路への正しい入れ方(単方向 / 双方向の使い分け)

結論:TVSダイオードは「電圧の防波堤」です

先に結論を言います。

📌 TVSダイオードとは
Transient Voltage Suppressor(過渡電圧抑制素子)の略。
ESD(静電気)や雷サージなど「一瞬だけドカン!と来る高電圧」を素早く吸収し、後段の回路を守るための専用ダイオードです。

普段は何もしていません。電圧が異常に上がった瞬間だけ、超高速でONになって、過電圧を吸収します。回路にとっては「電圧の防波堤」のような存在です。

💡 ひとことで言うと
TVS = 過電圧から回路を守る「電気のエアバッグ」

そもそも「ESD」「サージ」って何が怖いの?

TVSを学ぶ前に、「何から守るのか」を理解しておきましょう。

⚡ ESD(静電気放電)はバチッとくるアレ

冬にドアノブを触ったとき、「バチッ!」と痛い思いをしたことありますよね。あれがESD(Electro-Static Discharge)です。

🔧 信じられない数値
人体が帯電する電圧は、なんと2,000V〜15,000V
3.3Vで動いているマイコンに、いきなり1万ボルトが突っ込んでくる。ICが一瞬で焦げて壊れるのは当然です。

🌩 サージは「電気の津波」

雷が近くに落ちたとき、電源ラインや通信ラインに瞬間的な高電圧が侵入します。これがサージ。マイクロ秒〜ミリ秒の短時間ですが、エネルギーが大きいので機器が壊れます。

ESD(静電気)

電圧:数千〜数万V
時間:ナノ秒〜数十ns
発生源:人体・衣服

🌩

雷サージ

電圧:数百〜数千V
時間:マイクロ秒〜ms
発生源:落雷・誘導

TVSダイオードの動作を「傘」でイメージしよう

TVSの動きを「突然の豪雨に対する傘」でたとえてみます。

☂ 普段は閉じている、いざという時にバッと開く

☀️

通常時(電圧が低い)

傘は閉じたまま=TVSはOFF。電気は通常通り回路に流れる。TVSは「いないも同然」。

異常時(高電圧が来た)

傘がバッと開く=TVSが瞬間ON。過電圧を地面(GND)に逃がす。後段の回路は守られる。

ポイントは「普段は何もしない」こと。常時ONになっていたら、通常動作も妨げてしまいますよね。

TVSはある電圧(しきい値)を超えた瞬間だけ、超高速(ナノ秒オーダー)でONになって、高電圧をGNDに逃がします。

💡 ポイント
TVSは「過電圧をGNDに捨てる」素子。回路を守るために自分が犠牲になる、健気なやつです。

TVSがある場合 vs ない場合の電圧波形

ESDが入ってきた瞬間、TVSがあるかないかでどう違うのか、波形で比較してみます。

❌ TVSなし:1万Vが直撃
電圧
 ↑
10kV │     ╱╲                ← マイコンが死ぬ電圧
     │    ╱  ╲
     │   ╱    ╲
     │  ╱      ╲___________ 
 3V  │_╱                     ← 通常動作電圧
     └──────────────────→ 時間
  
✅ TVSあり:クランプ電圧で頭打ち
電圧
 ↑
10kV │
     │
 6V  │   ┌───┐               ← クランプ電圧(VC)でカット!
     │  ╱     ╲              ← TVSが過電圧を吸収
 3V  │_╱       ╲____________ ← 通常動作電圧
     └──────────────────→ 時間
  

TVSがあると、いくら高い電圧が来ても「クランプ電圧(VC)」で頭打ちになります。ICの定格電圧以下に抑えられるので、マイコンは無事です。

【最重要】クランプ電圧(VC)とは?

TVS選定でいちばん大事なパラメータが「クランプ電圧(VC)」です。

📌 クランプ電圧(VC)の定義
TVSが過電圧を吸収しているとき、TVSの両端に発生する電圧の最大値
この電圧が、後段の回路(IC)にそのまま印加されます。

🌊 イメージ:防波堤の「越えてくる波の高さ」

TVSを防波堤だとイメージしてください。防波堤があっても、津波が来れば少しは波が乗り越えてきます。その「乗り越えてくる波の高さ」がクランプ電圧です。

🌊

低いクランプ電圧

防波堤が高い=ほとんど波が来ない=ICを強く守れる
でも素子サイズが大きく高価。

🌊🌊

高いクランプ電圧

防波堤が低い=波が乗り越えてくる=ICが壊れるリスク
でも安価で小型。

⚠️ 鉄則
クランプ電圧 < ICの絶対最大定格電圧
これが守られていないと、TVSを入れていてもICが壊れます。データシートで必ず両者を比較しましょう。
📘 関連記事
【完全図解】TVSダイオードの選び方|クランプ電圧・ピーク電流の設計指針 →

TVS選定の詳しい計算手順を知りたい人向け。クランプ電圧の許容範囲やピーク電流の決め方を解説。

データシートに出てくる3つの「電圧」を整理

TVSのデータシートには、紛らわしい電圧パラメータが3つ出てきます。これを理解できれば、選定で迷うことはありません。

略号 名称 意味
VRWM 逆スタンドオフ電圧 通常動作時の最大電圧。これ以下ならTVSはOFF
回路の動作電圧より少し高めを選ぶ。
VBR ブレークダウン電圧 TVSがONになり始める電圧。
VRWMの1.1〜1.3倍くらい。
VC クランプ電圧 フルパワーで吸収中の最大電圧
これが後段のICに印加される。

📊 3つの電圧の関係(覚え方)

電圧の大きさ:

     VRWM  <  VBR  <  VC
      ↓        ↓        ↓
   ぜんぜん    ONし    フルで
   余裕     はじめる   吸収中
   (OFF)              (最大電圧)
  
💡 選定の手順
VRWM ≥ 回路の動作電圧(普段OFFでいてほしい)
VC ≤ ICの絶対最大定格(吸収しきれてほしい)
この2つを同時に満たす型番を選ぶだけ。

単方向TVS vs 双方向TVS

TVSダイオードには2タイプあります。回路によって使い分けが必要です。

➡️

単方向TVS(Uni-directional)

  • +側のサージだけを吸収
  • −側はダイオードとして動作
  • 記号:通常のダイオード+ツェナー
  • 用途:DC電源ライン

例:5V電源、3.3V電源

⬅️➡️

双方向TVS(Bi-directional)

  • +側も−側も吸収
  • 正負どちらにも対応
  • 記号:ツェナー2個を背中合わせ
  • 用途:AC・通信信号線

例:CAN、RS-485、USB差動信号

🚦 どっちを選ぶ?簡単な判断ルール

💡 ルール
信号が「常にプラスのみ」なら → 単方向TVS
信号が「プラスもマイナスもある」なら → 双方向TVS

例:5V電源ラインは常に+5Vだから単方向。差動通信のCAN-Hは±15Vの範囲で揺れるから双方向。

回路への正しい入れ方

TVSは「守りたいラインとGNDの間」に入れます。基本パターンを覚えてください。

① DC電源ラインの保護(単方向TVS)

コネクタ入力             →→→         IC(マイコン)
    │                                      ▲
    │                                      │
    │           [単方向TVS]                │
    ├──────────▷|──────────┐              │
    │           (カソードが上)│              │
    │                       │              │
    └───────────────────────┴──────────────┘
                          GND
  

★ カソード(線がある側)を電源ライン側、アノードをGND側に接続。
普段は逆バイアスなのでOFF。サージが来たらブレークダウンしてGNDに流す。

② 通信ラインの保護(双方向TVS)

コネクタ(CAN-H)         →→→        トランシーバーIC
    │                                       ▲
    │                                       │
    │         [双方向TVS]                   │
    ├──────────|◇|──────────┐              │
    │       (極性なし)       │              │
    │                       │              │
    └───────────────────────┴──────────────┘
                          GND

CAN-Lも同様に双方向TVSをGNDとの間に入れる
  

★ 双方向は極性なしでOK。どちら向きにサージが来ても吸収できる。

実装で必ず守るべき3つのコツ

TVSは「入れればOK」ではありません。「どこに、どう配線するか」で効果が全然変わります。

① コネクタの近くに置く

サージは外部コネクタから入ってくるので、入り口で叩くのが鉄則。基板の奥に置くと、その間の配線にサージが回り込んで他の回路に悪影響を与える。

② GNDまでの配線を最短に

TVSはサージをGNDに逃がす素子。GNDまでの配線が長いとインダクタンスでサージ電圧が乗ってしまい、効果が激減する。理想はベタGNDに直接ビアで落とす

③ 守りたいICよりも手前に配置

信号の流れで「コネクタ→TVS→IC」の順番。逆だとIC側にサージが先に届いてしまう。

🔧 現場の声
「TVS入れてるのにESD試験で壊れる」と相談される基板の99%は、GND配線が悪いコネクタから遠いのどちらかです。素子選定より実装の方が重要なケースが多いです。

ツェナー・バリスタとの違いを整理

「サージ保護といえばツェナーじゃダメなの?」「バリスタとの違いは?」とよく聞かれます。一覧表で整理しましょう。

項目 TVSダイオード ツェナー バリスタ
応答速度 超高速(ps〜ns) 速い(ns) 遅い(数十ns)
許容エネルギー 中程度 小さい 非常に大きい
寿命・劣化 劣化しにくい 劣化しにくい 使うほど劣化
主な用途 ESD・小サージ保護 定電圧用 大電力サージ
サイズ 小(SMD) 中〜大
💡 使い分けの目安
ESD・通信ライン保護 → TVSダイオード一択
AC電源・大サージ保護 → バリスタ(または併用)
定電圧(基準電圧) → ツェナー

ツェナーは「サージ保護も一応できるけど、本職じゃない」というイメージです。

選定の実例:5V電源ラインを守る場合

具体例で選び方を見てみましょう。「マイコン(最大定格6.5V)の5V電源を保護したい」とします。

STEP 1:VRWMを決める

回路の動作電圧は5V。マージンを取ってVRWM = 5V以上のTVSを選ぶ。これでTVSは普段OFF。

STEP 2:VCを確認する

マイコンの絶対最大定格は6.5V。だからVC ≤ 6.5VのTVSを選ぶ必要がある。
でも実際は安全マージンを取ってVC ≤ 6V程度を狙う。

STEP 3:単方向 / 双方向を選ぶ

5V電源は常にプラス側だけなので単方向TVSを選択。

📐 結論
選ぶべき型番の例:SMAJ5.0A(VRWM = 5V、VC = 9.2V)……でもVCが高すぎてNG。
→ 代わりにPESD5V0S1UB(VRWM = 5V、VC ≈ 9V @ ESD試験)など、ESD特化型の小型TVSを選ぶ。

実務では「マイコン保護用TVS」と検索すると、メーカーが選定済みの推奨品が見つかります(NXP、Nexperia、Bourns、Littelfuseなど)。

まとめ:TVSは回路の「エアバッグ」

今回の内容を整理します。

📌 この記事の要点
  • TVS = ESD・サージから回路を守る「電圧の防波堤」
  • 普段はOFF、過電圧が来た瞬間だけ超高速でONになる
  • クランプ電圧(VC) ≤ ICの絶対最大定格、これが鉄則
  • VRWM < VBR < VC の関係を覚える
  • 単方向(DC電源用)と双方向(通信用)を使い分ける
  • 実装は「コネクタの近く・GND最短」が命

これでESD試験で「保護回路が不十分」と言われても、どこを直せばいいのかが判断できるようになりました。

次は、TVSの設計をさらに深掘りした「クランプ電圧の許容範囲とピーク電流の決め方」を学ぶと、客先監査でも自信を持って答えられるようになります。

📚 次に読むべき記事

📘 【完全図解】TVSダイオードの選び方|クランプ電圧・ピーク電流の設計指針 →

TVS設計の本丸記事。本記事で学んだ基礎をベースに、定量的な選定計算ができるようになります。

📘 【完全図解】ツェナーダイオードの使い方|定電圧・サージ吸収の全て →

TVSの兄弟分「ツェナー」の使い方。両者の違いをより深く理解できます。

📘 【完全図解】そもそもノイズとは何か?|EMI/EMSの加害者・被害者の関係 →

ESD・サージを含む「ノイズ全般」の正体を理解すると、保護回路の設計思想がクリアになります。

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