ESD試験で、基板上のマイコンが一発で壊れた。試験エンジニアから渡された報告書には「TVSダイオードによる保護が不十分」と書かれていた。
……TVSダイオード?ツェナーと何が違うの?データシートを見ても「クランプ電圧」「ピーク電流」「PPP」と専門用語ばかり。そもそも、回路のどこに、どの向きで入れればいいのかわからない。
- ESD試験で基板が壊れて、原因が「保護回路不足」と言われた
- TVSダイオードを使えと言われたが、ツェナーとの違いが説明できない
- 「クランプ電圧」が何を意味するのか、ピンとこない
- 回路図でTVSをどこに、どの向きで入れればいいかわからない
- TVSダイオードの正体を「傘」のイメージで完全理解
- ツェナーダイオード・バリスタとの違いを一覧表で整理
- データシートの「クランプ電圧」「VRWM」「VBR」の読み方
- 回路への正しい入れ方(単方向 / 双方向の使い分け)
目次
結論:TVSダイオードは「電圧の防波堤」です
先に結論を言います。
Transient Voltage Suppressor(過渡電圧抑制素子)の略。
ESD(静電気)や雷サージなど「一瞬だけドカン!と来る高電圧」を素早く吸収し、後段の回路を守るための専用ダイオードです。
普段は何もしていません。電圧が異常に上がった瞬間だけ、超高速でONになって、過電圧を吸収します。回路にとっては「電圧の防波堤」のような存在です。
TVS = 過電圧から回路を守る「電気のエアバッグ」

そもそも「ESD」「サージ」って何が怖いの?
TVSを学ぶ前に、「何から守るのか」を理解しておきましょう。
⚡ ESD(静電気放電)はバチッとくるアレ
冬にドアノブを触ったとき、「バチッ!」と痛い思いをしたことありますよね。あれがESD(Electro-Static Discharge)です。
人体が帯電する電圧は、なんと2,000V〜15,000V。
3.3Vで動いているマイコンに、いきなり1万ボルトが突っ込んでくる。ICが一瞬で焦げて壊れるのは当然です。
🌩 サージは「電気の津波」
雷が近くに落ちたとき、電源ラインや通信ラインに瞬間的な高電圧が侵入します。これがサージ。マイクロ秒〜ミリ秒の短時間ですが、エネルギーが大きいので機器が壊れます。
ESD(静電気)
電圧:数千〜数万V
時間:ナノ秒〜数十ns
発生源:人体・衣服
雷サージ
電圧:数百〜数千V
時間:マイクロ秒〜ms
発生源:落雷・誘導

TVSダイオードの動作を「傘」でイメージしよう
TVSの動きを「突然の豪雨に対する傘」でたとえてみます。
☂ 普段は閉じている、いざという時にバッと開く
通常時(電圧が低い)
傘は閉じたまま=TVSはOFF。電気は通常通り回路に流れる。TVSは「いないも同然」。
異常時(高電圧が来た)
傘がバッと開く=TVSが瞬間ON。過電圧を地面(GND)に逃がす。後段の回路は守られる。
ポイントは「普段は何もしない」こと。常時ONになっていたら、通常動作も妨げてしまいますよね。
TVSはある電圧(しきい値)を超えた瞬間だけ、超高速(ナノ秒オーダー)でONになって、高電圧をGNDに逃がします。
TVSは「過電圧をGNDに捨てる」素子。回路を守るために自分が犠牲になる、健気なやつです。

TVSがある場合 vs ない場合の電圧波形
ESDが入ってきた瞬間、TVSがあるかないかでどう違うのか、波形で比較してみます。
電圧
↑
10kV │ ╱╲ ← マイコンが死ぬ電圧
│ ╱ ╲
│ ╱ ╲
│ ╱ ╲___________
3V │_╱ ← 通常動作電圧
└──────────────────→ 時間
電圧
↑
10kV │
│
6V │ ┌───┐ ← クランプ電圧(VC)でカット!
│ ╱ ╲ ← TVSが過電圧を吸収
3V │_╱ ╲____________ ← 通常動作電圧
└──────────────────→ 時間
TVSがあると、いくら高い電圧が来ても「クランプ電圧(VC)」で頭打ちになります。ICの定格電圧以下に抑えられるので、マイコンは無事です。

【最重要】クランプ電圧(VC)とは?
TVS選定でいちばん大事なパラメータが「クランプ電圧(VC)」です。
TVSが過電圧を吸収しているとき、TVSの両端に発生する電圧の最大値。
この電圧が、後段の回路(IC)にそのまま印加されます。
🌊 イメージ:防波堤の「越えてくる波の高さ」
TVSを防波堤だとイメージしてください。防波堤があっても、津波が来れば少しは波が乗り越えてきます。その「乗り越えてくる波の高さ」がクランプ電圧です。
低いクランプ電圧
防波堤が高い=ほとんど波が来ない=ICを強く守れる。
でも素子サイズが大きく高価。
高いクランプ電圧
防波堤が低い=波が乗り越えてくる=ICが壊れるリスク。
でも安価で小型。
クランプ電圧 < ICの絶対最大定格電圧
これが守られていないと、TVSを入れていてもICが壊れます。データシートで必ず両者を比較しましょう。

データシートに出てくる3つの「電圧」を整理
TVSのデータシートには、紛らわしい電圧パラメータが3つ出てきます。これを理解できれば、選定で迷うことはありません。
| 略号 | 名称 | 意味 |
|---|---|---|
| VRWM | 逆スタンドオフ電圧 | 通常動作時の最大電圧。これ以下ならTVSはOFF。 回路の動作電圧より少し高めを選ぶ。 |
| VBR | ブレークダウン電圧 | TVSがONになり始める電圧。 VRWMの1.1〜1.3倍くらい。 |
| VC | クランプ電圧 | フルパワーで吸収中の最大電圧。 これが後段のICに印加される。 |
📊 3つの電圧の関係(覚え方)
電圧の大きさ:
VRWM < VBR < VC
↓ ↓ ↓
ぜんぜん ONし フルで
余裕 はじめる 吸収中
(OFF) (最大電圧)
① VRWM ≥ 回路の動作電圧(普段OFFでいてほしい)
② VC ≤ ICの絶対最大定格(吸収しきれてほしい)
この2つを同時に満たす型番を選ぶだけ。

単方向TVS vs 双方向TVS
TVSダイオードには2タイプあります。回路によって使い分けが必要です。
単方向TVS(Uni-directional)
- +側のサージだけを吸収
- −側はダイオードとして動作
- 記号:通常のダイオード+ツェナー
- 用途:DC電源ライン
例:5V電源、3.3V電源
双方向TVS(Bi-directional)
- +側も−側も吸収
- 正負どちらにも対応
- 記号:ツェナー2個を背中合わせ
- 用途:AC・通信信号線
例:CAN、RS-485、USB差動信号
🚦 どっちを選ぶ?簡単な判断ルール
信号が「常にプラスのみ」なら → 単方向TVS
信号が「プラスもマイナスもある」なら → 双方向TVS
例:5V電源ラインは常に+5Vだから単方向。差動通信のCAN-Hは±15Vの範囲で揺れるから双方向。

回路への正しい入れ方
TVSは「守りたいラインとGNDの間」に入れます。基本パターンを覚えてください。
① DC電源ラインの保護(単方向TVS)
コネクタ入力 →→→ IC(マイコン)
│ ▲
│ │
│ [単方向TVS] │
├──────────▷|──────────┐ │
│ (カソードが上)│ │
│ │ │
└───────────────────────┴──────────────┘
GND
★ カソード(線がある側)を電源ライン側、アノードをGND側に接続。
普段は逆バイアスなのでOFF。サージが来たらブレークダウンしてGNDに流す。
② 通信ラインの保護(双方向TVS)
コネクタ(CAN-H) →→→ トランシーバーIC
│ ▲
│ │
│ [双方向TVS] │
├──────────|◇|──────────┐ │
│ (極性なし) │ │
│ │ │
└───────────────────────┴──────────────┘
GND
CAN-Lも同様に双方向TVSをGNDとの間に入れる
★ 双方向は極性なしでOK。どちら向きにサージが来ても吸収できる。

実装で必ず守るべき3つのコツ
TVSは「入れればOK」ではありません。「どこに、どう配線するか」で効果が全然変わります。
サージは外部コネクタから入ってくるので、入り口で叩くのが鉄則。基板の奥に置くと、その間の配線にサージが回り込んで他の回路に悪影響を与える。
TVSはサージをGNDに逃がす素子。GNDまでの配線が長いとインダクタンスでサージ電圧が乗ってしまい、効果が激減する。理想はベタGNDに直接ビアで落とす。
信号の流れで「コネクタ→TVS→IC」の順番。逆だとIC側にサージが先に届いてしまう。
「TVS入れてるのにESD試験で壊れる」と相談される基板の99%は、GND配線が悪いかコネクタから遠いのどちらかです。素子選定より実装の方が重要なケースが多いです。

ツェナー・バリスタとの違いを整理
「サージ保護といえばツェナーじゃダメなの?」「バリスタとの違いは?」とよく聞かれます。一覧表で整理しましょう。
| 項目 | TVSダイオード | ツェナー | バリスタ |
|---|---|---|---|
| 応答速度 | 超高速(ps〜ns) | 速い(ns) | 遅い(数十ns) |
| 許容エネルギー | 中程度 | 小さい | 非常に大きい |
| 寿命・劣化 | 劣化しにくい | 劣化しにくい | 使うほど劣化 |
| 主な用途 | ESD・小サージ保護 | 定電圧用 | 大電力サージ |
| サイズ | 小(SMD) | 小 | 中〜大 |
ESD・通信ライン保護 → TVSダイオード一択
AC電源・大サージ保護 → バリスタ(または併用)
定電圧(基準電圧) → ツェナー
ツェナーは「サージ保護も一応できるけど、本職じゃない」というイメージです。

選定の実例:5V電源ラインを守る場合
具体例で選び方を見てみましょう。「マイコン(最大定格6.5V)の5V電源を保護したい」とします。
回路の動作電圧は5V。マージンを取ってVRWM = 5V以上のTVSを選ぶ。これでTVSは普段OFF。
マイコンの絶対最大定格は6.5V。だからVC ≤ 6.5VのTVSを選ぶ必要がある。
でも実際は安全マージンを取ってVC ≤ 6V程度を狙う。
5V電源は常にプラス側だけなので単方向TVSを選択。
選ぶべき型番の例:SMAJ5.0A(VRWM = 5V、VC = 9.2V)……でもVCが高すぎてNG。
→ 代わりにPESD5V0S1UB(VRWM = 5V、VC ≈ 9V @ ESD試験)など、ESD特化型の小型TVSを選ぶ。
実務では「マイコン保護用TVS」と検索すると、メーカーが選定済みの推奨品が見つかります(NXP、Nexperia、Bourns、Littelfuseなど)。

まとめ:TVSは回路の「エアバッグ」
今回の内容を整理します。
- TVS = ESD・サージから回路を守る「電圧の防波堤」
- 普段はOFF、過電圧が来た瞬間だけ超高速でONになる
- クランプ電圧(VC) ≤ ICの絶対最大定格、これが鉄則
- VRWM < VBR < VC の関係を覚える
- 単方向(DC電源用)と双方向(通信用)を使い分ける
- 実装は「コネクタの近く・GND最短」が命
これでESD試験で「保護回路が不十分」と言われても、どこを直せばいいのかが判断できるようになりました。
次は、TVSの設計をさらに深掘りした「クランプ電圧の許容範囲とピーク電流の決め方」を学ぶと、客先監査でも自信を持って答えられるようになります。

📚 次に読むべき記事
TVS設計の本丸記事。本記事で学んだ基礎をベースに、定量的な選定計算ができるようになります。
TVSの兄弟分「ツェナー」の使い方。両者の違いをより深く理解できます。
ESD・サージを含む「ノイズ全般」の正体を理解すると、保護回路の設計思想がクリアになります。