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【完全図解】IGBT vs MOSFETの使い分け|損失計算と選定フローチャートで「どっちを使うか」を即決する

😣 こんな経験はありませんか?
  • インバータの設計でスイッチング素子を選ぶ段階になったが、IGBTとMOSFETのどちらを使うべきか判断基準がわからない
  • 「高電圧ならIGBT、低電圧ならMOSFET」とざっくり聞いたことはあるが、境界線が何Vで何kHzなのか具体的な数値が知りたい
  • データシートの「Vce(sat)」「Rds(on)」「Eon/Eoff」をどう使って損失を比較すればいいのかわからない
  • 最近「SiC MOSFET」が話題だが、IGBTとの棲み分けがどう変わるのか整理したい
✅ この記事でわかること
  • IGBTとMOSFETの構造上の違い(バイポーラ vs ユニポーラ)が損失特性にどう影響するか
  • 導通損失とスイッチング損失の計算式と、具体的な数値例での比較
  • 「電圧・周波数・電流」の3軸で即決できる選定フローチャート
  • SiC MOSFETの登場でIGBTとの境界線がどう変わっているか
  • 東芝の公式データに基づくアプリケーション別の使い分け表

パワーエレクトロニクスの設計で避けて通れないのが「IGBTとMOSFET、どっちを使うか」という選定判断です。教科書的には「高電圧・大電流ならIGBT、高周波・低電圧ならMOSFET」と書かれていますが、実際の設計では「うちの回路は600V/20A/15kHzだけど、どっちが有利なの?」という具体的な判断が求められます。

この記事では、その判断を「損失計算」という定量的な根拠に基づいて下す方法を解説します。導通損失とスイッチング損失の計算式を使って、「この条件ならIGBTのほうが〇〇W損失が小さい」と数字で判断できるようになることをゴールにしています。

📘 前提知識(先に読むとスムーズ)
【図解でスッキリ】IGBTとは?BJTとMOSFETの「いいとこ取り」で大電力を制御! →

IGBTの基本構造と動作原理を先に押さえたい方はこちら

IGBTとMOSFETの本質的な違い|「電流の流し方」がすべてを決める

IGBTとMOSFETはどちらもゲート電圧でON/OFFを制御するスイッチング素子ですが、内部で電流を流す仕組みが根本的に異なります。この違いが「導通損失」と「スイッチング損失」の特性差に直結しています。

MOSFET(ユニポーラ型)

  • キャリア:電子のみ(1種類)で電流を流す
  • ON抵抗:Rds(on)が電圧に比例して増大 → 高耐圧になるほど損失が増える
  • スイッチング:テール電流なし → 高速ON/OFFが可能
  • 導通損失:P = I² × Rds(on) → 電流が増えると急激に損失増大
  • たとえ:「細いホースで水を流す」→ 流量が増えると抵抗が大きくなる
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IGBT(バイポーラ型)

  • キャリア:電子+正孔(2種類)で電流を流す(伝導度変調)
  • ON電圧:Vce(sat)がほぼ一定(1.5〜3V程度)→ 高耐圧でも損失が増えにくい
  • スイッチング:テール電流あり → OFF時に「電流の残り湯」が流れ、損失が大きい
  • 導通損失:P = Vce(sat) × I → 電流に比例するが、急激には増えない
  • たとえ:「太いホースで水を流す」→ 流量が増えても抵抗が小さい。ただし蛇口を閉めるのが遅い

なぜIGBTは高耐圧に強いのか?|伝導度変調の威力

MOSFETのON抵抗Rds(on)は耐圧の約2.5乗に比例して増大します(Super Junction構造でも限界あり)。たとえば、200V耐圧で30mΩだったMOSFETが、600V耐圧になると200〜300mΩ以上に跳ね上がることがあります。大電流を流すと I²×Rds(on) の損失が膨大になります。

一方、IGBTは内部でバイポーラトランジスタの「伝導度変調」を利用するため、高耐圧化してもON電圧Vce(sat)は1.5〜3V程度に抑えられます。これが「600V以上の高耐圧領域ではIGBTが有利」と言われる理由です。

💡 ポイント
「高電圧ならIGBT」と言われる理由は、単純に耐圧が高いからではありません。高耐圧領域ではMOSFETのON抵抗が爆発的に増大する一方、IGBTのON電圧はほぼ一定に保たれるため、導通損失の観点でIGBTが有利になるのです。

「導通損失」と「スイッチング損失」|2つの損失の綱引き

スイッチング素子の損失は、大きく分けて導通損失(ONの間にじわじわ発生する損失)とスイッチング損失(ON/OFFの切り替え瞬間に発生する損失)の2種類です。IGBTとMOSFETの使い分けは、この2つの損失の合計(= 総損失)がどちらの素子で小さくなるかで決まります。

導通損失の計算式

MOSFETの導通損失
Pcond = I² × Rds(on)
電流の2乗に比例 → 大電流になるほど急激に増大
IGBTの導通損失
Pcond = Vce(sat) × I
電流に比例(1次関数)→ 大電流でも増加が緩やか

スイッチング損失の計算式

MOSFETのスイッチング損失
Psw = (Eon + Eoff) × fsw
テール電流なし → Eon + Eoff が小さい → 高周波でも損失が小さい
IGBTのスイッチング損失
Psw = (Eon + Eoff) × fsw
テール電流あり → Eoff が大きい → 周波数が上がると損失が急増
📐 総損失
Ptotal = Pcond(導通損失)+ Psw(スイッチング損失)
この合計値がIGBTとMOSFETのどちらで小さいかが、選定の決め手
⚠️ 損失の「綱引き」を理解する
IGBTは導通損失が小さい(低Vce(sat))反面、スイッチング損失が大きい(テール電流)。MOSFETはスイッチング損失が小さい(テール電流なし)反面、導通損失が大きくなりやすい(高Rds(on))。つまり、周波数が低い場面では導通損失が支配的になりIGBTが有利、周波数が高い場面ではスイッチング損失が支配的になりMOSFETが有利──これが「綱引き」の構造です。

損失計算の具体例|600V / 20A の条件でIGBTとMOSFETを比較する

実際にデータシートの値を使って、同一条件でIGBTとMOSFETの総損失を比較してみましょう。以下は架空のデバイスですが、典型的なスペックに基づく計算例です。

計算条件

パラメータ IGBT (600V/30A) Si MOSFET (600V/30A)
導通パラメータ Vce(sat) = 1.8V (@20A) Rds(on) = 190mΩ (@25℃)
スイッチング損失エネルギー Eon = 0.8mJ, Eoff = 0.5mJ Eon = 0.15mJ, Eoff = 0.10mJ
動作条件 バス電圧 400V、電流 20A、デューティ比 50%

計算結果:スイッチング周波数を変えたときの総損失比較

周波数
(fsw)
IGBT Si MOSFET 有利な
素子
導通損失 SW損失 合計 導通損失 SW損失 合計
5 kHz 18.0W 6.5W 24.5W 38.0W 1.3W 39.3W IGBT ✓
15 kHz 18.0W 19.5W 37.5W 38.0W 3.8W 41.8W ≒ 同等
50 kHz 18.0W 65.0W 83.0W 38.0W 12.5W 50.5W MOSFET ✓
100 kHz 18.0W 130.0W 148.0W 38.0W 25.0W 63.0W MOSFET ✓

※導通損失:IGBT = 1.8V × 20A × 0.5 = 18.0W、MOSFET = 20²A × 0.190Ω × 0.5 = 38.0W(デューティ50%)
※スイッチング損失:IGBT = (0.8+0.5)mJ × fsw、MOSFET = (0.15+0.10)mJ × fsw

💡 この計算からわかること
600V/20Aの条件では、約15〜20kHzが「クロスオーバーポイント」(IGBTとMOSFETの総損失が逆転する境界)になりました。これより低い周波数ではIGBTが有利、これより高い周波数ではMOSFETが有利です。ただし、この境界はデバイスのスペックや電流条件で変わるため、必ず実際のデータシート値で計算してください。

選定フローチャート|3つの質問で「どっちを使うか」を即決する

損失計算を毎回やるのは大変です。まずは以下のフローチャートで「ざっくりとした方向性」を決め、その後に候補デバイスのデータシートで損失を比較する、という2段階の進め方がおすすめです。

🔀 IGBT vs MOSFET 選定フローチャート

Q1:バス電圧は何V?
≤ 200V
→ MOSFET 一択
200V〜600V
→ Q2へ
≥ 600V
→ IGBT 有力
(SiC MOSFETも候補)
Q2:スイッチング周波数は?
≤ 20kHz
→ IGBT 有利
20〜80kHz
→ Q3へ(損失計算で比較)
≥ 80kHz
→ MOSFET 一択
Q3:電流は?(導通損失の大小を確認)
大電流(> 15〜20A)
→ IGBT 有利
(Rds(on)損失が大きくなる)
小電流(≤ 10A程度)
→ MOSFET 有利
(I²Rds(on)が小さく済む)
🔧 現場の声
このフローチャートは「最初の方向づけ」です。グレーゾーン(200〜600V、20〜80kHz)に該当する場合は、必ず候補デバイスのデータシート値を使って前述の損失計算を行い、定量的に比較してください。温度依存性(IGBTのVce(sat)は温度が上がると増大、MOSFETのRds(on)は温度が上がると1.5〜2倍に増大)も考慮が必要です。

アプリケーション別の使い分け表|東芝の公式データに基づく整理

東芝セミコンダクターが公開しているFAQのデータを基に、スイッチング周波数帯ごとのアプリケーションと推奨素子を整理しました。

周波数帯 〜20kHz 20〜80kHz 80kHz〜
IGBT領域 電車、HEV/EV
大容量モーター制御
産業用インバータ
産業用ロボット
大型UPS
グレーゾーン
(IGBT or MOSFET)
エアコン・冷蔵庫用インバータ
中小容量モーター制御
家電(扇風機、掃除機)
ファンモーター
IH調理器(電磁調理器)
MOSFET領域 小型UPS
電動工具
PFC回路
スイッチング電源全般
DC-DCコンバータ
充電器
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SiC MOSFETの登場で「IGBTの領域」が侵食されている

ここまでの話は「Si(シリコン)MOSFET vs Si IGBT」の比較でしたが、近年登場したSiC(炭化ケイ素)MOSFETがこの構図を大きく変えつつあります。

SiC MOSFETが「ゲームチェンジャー」である理由

特性 Si MOSFET Si IGBT SiC MOSFET
耐圧 〜600V が実用的 600V〜6500V 650V〜1700Vが主流。高耐圧でもRds(on)が低い
導通損失 高耐圧で大きい 低い(Vce(sat)一定) 高耐圧でも低い(SiCのバンドギャップが大きい)
スイッチング損失 小さい 大きい(テール電流) 非常に小さい(テール電流なし+高速スイッチング)
コスト 安い 中程度 高い(Si比で2〜5倍)
適用例 低圧スイッチング電源 モーター駆動、インバータ EV用OBC・インバータ、太陽光PCS、サーバー電源

SiC MOSFETは「MOSFETの高速スイッチング」と「IGBTの高耐圧」を両立する素子です。特に600V〜1200V帯で20kHz以上のスイッチングが求められるアプリケーション(EV車載充電器、太陽光パワーコンディショナなど)では、IGBTからSiC MOSFETへの置き換えが急速に進んでいます。

💡 2026年時点での棲み分け
SiC MOSFETの登場により、先ほどのフローチャートの「グレーゾーン(200〜600V、20〜80kHz)」はSiC MOSFETが最適解になるケースが増えています。ただし、SiC MOSFETはSi IGBTの2〜5倍のコストがかかるため、「コスト制約が厳しい民生品ではSi IGBT、効率最優先のEV・産業機器ではSiC MOSFET」という棲み分けが当面続くと見られています。
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IGBTの「テール電流」とVce(sat) vs Eoffのトレードオフ

IGBTを選定する上で避けて通れないのが「テール電流」の問題です。これがIGBTのスイッチング損失を大きくしている根本原因であり、同時にIGBT世代間の進化を理解するカギでもあります。

テール電流とは?|「蛇口を閉めても水が止まらない」現象

MOSFETはゲートをOFFにすると、電子が即座にチャネルから排出されて電流がゼロになります。しかしIGBTは内部にバイポーラトランジスタ構造(PNP)を持っているため、ゲートをOFFにしても、ドリフト層に蓄積された少数キャリア(正孔)が再結合するまでの間、「余韻」のように電流が流れ続けます。これがテール電流です。

⚠️ Vce(sat) vs Eoff のトレードオフ
IGBTの世代を比較する際に重要なのが「Vce(sat)(導通損失)とEoff(ターンオフ損失)のトレードオフ」です。ドリフト層のキャリア濃度を上げるとVce(sat)は下がりますが、ターンオフ時に排出すべきキャリアが増えるためEoffが増大します。逆にキャリア濃度を下げるとEoffは改善しますが、Vce(sat)が上がります。IGBTメーカーは世代ごとにこのトレードオフ曲線を改善し続けています(第7世代IGBTなど)。

まとめ|「損失の綱引き」を理解すれば選定で迷わない

📝 この記事の要点
  • IGBTは導通損失が小さく、MOSFETはスイッチング損失が小さい。この2つの「綱引き」で総損失が決まる
  • IGBTの導通損失 = Vce(sat) × I(電流に比例)、MOSFETの導通損失 = I² × Rds(on)(電流の2乗に比例)
  • 低周波(〜20kHz)・高電圧(600V〜)・大電流ではIGBTが有利、高周波(80kHz〜)・低電圧(〜200V)ではMOSFETが有利
  • グレーゾーン(200〜600V、20〜80kHz)はデータシート値で損失計算して比較する
  • SiC MOSFETの登場により、600V〜1200V帯でIGBTの領域がMOSFET側に侵食されつつある
  • ただしSiCはコストが2〜5倍のため、コスト制約が厳しい場面ではSi IGBTが依然として主力

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