測定技術

オシロのトリガ完全攻略|エッジ・パルス幅・ラント・シリアルの使い分け

📚 測定・計測の技術第2章 オシロスコープの基礎
第2章 - 第5回 / 全8回 シリーズ全体: 12 / 69記事
進捗 17%

「オシロをつないだら、波形がチカチカ流れて止まらない…」

オシロを使い始めた人が最初にぶつかる壁です。
画面の波形が落ち着かなければ、何も読み取れません。

この「波形を止めて見えるようにする」のが トリガ(Trigger) の役割です。
そして、見たい現象に応じて 「どのトリガを使うか」 が、現場の腕の見せどころになります。

この記事では、基本のエッジトリガから、現場で本当に使う
パルス幅・ラント・シリアルトリガまでを徹底的に解説します。

結論:トリガは「見たい瞬間の合図」を決めること

細かい話の前に、4つのトリガの役割を一枚で整理します。

トリガの種類 合図にするもの こんな時に使う
① エッジ 電圧が立ち上がる/立ち下がる瞬間 普通の波形観測(8割はこれ)
② パルス幅 パルスの幅(時間)が異常な瞬間 通信エラー、異常パルスの検出
③ ラント 高さが足りない「不完全なパルス」 回路の動作不良、グリッチ捕獲
④ シリアル 通信データの特定パターン I²C、SPI、CAN通信のデバッグ

💡 ざっくり覚え方
通常作業はエッジ。「いつも起きないこと」を捕まえたいときに、パルス幅・ラント・シリアルを使い分ける。

そもそも「トリガ」って何をしている?

オシロは、信号を絶え間なく取り込み続けています。そのまま画面に表示すると、波形が右から左へ流れて何も読めません。

そこでオシロは、ある「決まった合図」がきた瞬間を起点にして、波形を画面に固定します。この「合図」がトリガです。

💡 たとえるなら…
陸上競技の「位置について、ヨーイ、ドン!」のピストル音と同じです。
ピストルが鳴った瞬間を基準に、ストップウォッチが動き出す。
オシロも同じで、「合図がきた瞬間を中心に波形を切り取って表示する」のです。

トリガが効くと、画面で起きること

同じ合図が来るたびに、毎回同じ位置に波形が描かれます。すると、毎回ピタッと重なって、止まって見えるのです。

トリガがうまくいかないと、波形は毎回違う位置に描かれ、画面でチカチカ流れてしまいます。

① エッジトリガ|「電圧が変わる瞬間」を合図にする

最も基本的で、最も使われるトリガです。オシロを買って最初に触るのもこれ。使用頻度は全体の8割と言っても過言ではありません。

仕組み:電圧が「決められた線」をまたいだ瞬間

画面上に 水平の点線(トリガレベル)を引きます。波形がこの線を 下から上に超えた瞬間(または上から下に切った瞬間)、トリガがかかります。

2つの設定
🔼 立ち上がりエッジ:低い電圧 → 高い電圧 に変わる瞬間で合図
🔽 立ち下がりエッジ:高い電圧 → 低い電圧 に変わる瞬間で合図

エッジトリガで失敗しないコツ

エッジトリガで波形が止まらない原因は、ほぼ 「トリガレベルの位置が悪い」 です。

  • 波形の中央付近にトリガレベルを置く → ◎ 安定する
  • 波形の頂上付近に置く → △ ノイズで誤動作しやすい
  • 波形の振幅から外れた位置に置く → ❌ トリガがかからず流れ続ける

✅ 実務テクニック
波形が止まらないときは、まず トリガレベルを波形の真ん中 あたりに動かしてみる。これだけで9割解決します。

② パルス幅トリガ|「異常に長い/短いパルス」を捕まえる

エッジトリガでは捕まえられない「異常」を見つけるためのトリガです。

こんな現象を捕まえたい

通信信号やデジタル信号は、本来「決まった時間幅のパルス」で動いています。でも稀に:

  • 普段100nsのパルスなのに、ある瞬間だけ 300nsに伸びる
  • 普段1μsのパルスなのに、ある瞬間だけ 10nsしかない短いノイズ が乗る

こうした 「異常な時間幅のパルス」 は、エッジトリガでは普通のパルスに紛れて見えません。

設定方法と使い分け

オシロに「幅が ●● ns より広いとき」「●● ns より狭いとき」とトリガ条件を指定します。

設定 捕まえられる現象
幅が「より広い」 通信のタイミングずれ、信号が貼り付く異常
幅が「より狭い」 高速ノイズ(グリッチ)、誤動作の原因パルス

💡 現場の使いどころ
「数時間に1回しか起きない異常」を捕まえたいときの定番。
エッジトリガで張り込んでもなかなか起きないが、パルス幅で条件を絞れば 異常パルスだけが画面に止まる ようになります。

📘 関連記事
オシロのスペック(帯域・サンプル速度)が足りないと、そもそも細かいパルスが正しく見えません。先に基礎を押さえたい方は: オシロの主要スペック5つを総まとめ →

③ ラントトリガ|「高さが足りない不完全パルス」を捕まえる

「ラント(Runt)」とは英語で 「発育不良の小動物」 という意味。オシロの世界では、「本来の高さまで届かない、中途半端なパルス」 のことを指します。

ラントが起きる典型シーン

本来0V→3.3Vまで上がるはずのデジタル信号が、ある瞬間だけ 2V付近で止まって、すぐ0Vに戻ってしまう ような波形。これがラントです。

⚠️ なぜラントが怖いか
受け取る側のICが「これはHighか?Lowか?」と判断できず、誤動作の原因になります。
しかも稀にしか起きないので、エッジトリガでは絶対に捕まえられません

仕組み:2本の線を引いて挟み撃ち

ラントトリガは、画面に 2本のトリガレベル(上の線と下の線)を引きます。

  • 波形が「下の線」は越えた
  • でも「上の線」を越えずに戻ってしまった

この条件を満たした瞬間にトリガがかかります。つまり 「中途半端な高さで終わったパルスだけ」 を狙い撃ちできるのです。

✅ ラントトリガが活きる場面
・電源電圧の瞬間ドロップで信号レベルが落ちる
・グランドのバウンスで信号が中途半端に揺れる
・ICの出力ドライブ能力不足

④ シリアルトリガ|「通信データの中身」で止める

最近のオシロには、I²C・SPI・UART・CAN・LINといった 通信プロトコル専用のトリガ が搭載されています。これがシリアルトリガです。

何ができるのか

電圧の波形だけでなく、通信データの中身(アドレス、データ値、エラーフラグ) を条件にしてトリガをかけられます。

例:I²C通信のとき
🎯 「アドレス 0x50 のデバイスへの書き込み」だけで止める
🎯 「ACKエラーが返ってきた瞬間」だけで止める
🎯 「データ値 0xFF が出た瞬間」だけで止める

通信デバッグで「特定の状況だけ波形を見たい」というニーズに完璧に応えてくれます。

対応プロトコル一覧

プロトコル 主な用途
I²C / SPI マイコン⇔センサ間の通信
UART / RS-232 基板間のシリアル通信
CAN / LIN 自動車の車内通信
USB / Ethernet 高速デジタル通信のデバッグ

💡 注意点
シリアルトリガはオプション機能のことが多く、機種やライセンスによっては別売りです。導入前に対応プロトコルとライセンス費用を確認しましょう。

どのトリガを使う?判断フロー

現場で「どのトリガを選べばいいか」迷ったときの判断フローです。

Q1. 何か特別な異常を捕まえたい?
 └ いいえ(普通に波形を見たい)→ エッジトリガ でOK
 └ はい → Q2へ

Q2. 異常の特徴は?
 └ パルスの幅(時間)がおかしい → パルス幅トリガ
 └ パルスの高さ(電圧)がおかしい → ラントトリガ
 └ 通信データの中身がおかしい → シリアルトリガ

✅ 現場の鉄則
まずエッジトリガで普通の波形を観察。「普段と違う何か」が起きていそうなら、症状に応じて他のトリガに切り替える。これが基本の流れです。

📘 合わせて読みたい
トリガを適切に設定したあとは、入力結合(AC/DC/GND)の使い分けも重要になります: 入力結合(AC/DC/GND)の使い分け →

ノイズによるトリガの誤動作を減らしたいときは: コモンモードノイズが波形に乗る原因と対策 →

よくある質問

Q1. トリガを設定しても波形が止まりません

まず確認するのは①トリガレベルが波形の振幅範囲内にあるか、②トリガモードが「ノーマル」ではなく「オート」になっていないか、③立ち上がり/立ち下がりの方向が信号と合っているか。この3点でほぼ解決します。

Q2. 「オート」と「ノーマル」の違いは?

オートはトリガが来なくても一定時間後に強制的に波形を表示します(とりあえず何か見たいとき向け)。ノーマルはトリガが来るまで絶対に表示しません(稀な異常を確実に捕まえたいとき向け)。

Q3. グリッチ(一瞬の高速ノイズ)を捕まえたい

パルス幅トリガで「幅がより狭い」条件を設定するのが王道です。例えば「20ns以下のパルスのみ」と指定すれば、通常の信号は除外され、高速ノイズだけが画面に止まります。

Q4. ホールドオフって何ですか?

トリガがかかった後、一定時間は次のトリガを無視する機能です。複雑な繰り返し波形で「同じ位置でトリガをかけたい」ときに使います。バーストパケット信号の頭出しなどで活躍します。

まとめ

✅ トリガとは「波形を画面に止めるための合図」
エッジ:電圧の変化点を合図にする基本トリガ(8割はこれで足りる)
パルス幅:時間幅が異常なパルスを狙い撃ち
ラント:高さが足りない不完全なパルスを捕獲
シリアル:通信データの中身を条件にトリガ
✅ まずエッジで観察 → 異常があれば症状に応じて切り替える

トリガを使いこなせるかどうかで、見つけられる現象が変わります。「異常はあるはずなのに見えない」とき、それはトリガが合っていないだけかもしれません。次の記事では、信号を正しく読み取るための「入力結合(AC/DC/GND)」の使い分けを解説します。

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