「帯域500MHz・サンプルレート2GSa/s・メモリ長10Mpts・分解能8bit・入力1MΩ」
オシロスコープのカタログを開くと、必ずこの5つの数字が並んでいます。
でも、こんな疑問はありませんか?
- 「帯域」と「サンプルレート」って何が違うの?
- メモリ長が長いと何が嬉しいの?
- 「8bit分解能」って実用上どれくらい影響あるの?
- 1MΩと50Ω、どっちを使えばいいの?
この記事を読み終える頃には、カタログの数字を見て
「この測定にはこのスペックが足りる/足りない」が判断できるようになります。
目次
結論:5つのスペックは「役割」で覚える
細かい話の前に、5つのスペックの役割を一枚に整理します。
| スペック | 単位 | 何を決めるか | 軸 |
|---|---|---|---|
| ① 帯域 | Hz | 「どの周波数まで正しく見えるか」 | 縦軸(振幅) |
| ② サンプルレート | Sa/s | 「1秒間に何点で波形をデジタル化するか」 | 横軸(時間) |
| ③ メモリ長 | pts | 「どれくらい長い時間を高分解能で記録できるか」 | 記録長 |
| ④ 分解能 | bit | 「電圧をどれくらい細かく刻めるか」 | 縦軸(電圧) |
| ⑤ 入力インピーダンス | Ω | 「どんなプローブが使えるか/回路への負荷」 | 接続条件 |
💡 覚え方
①②④は 「波形をどれだけ正確に再現できるか」 を決める3軸。
③は 「どれだけ長く記録できるか」。
⑤は 「外の世界とどう接続するか」。

① 帯域(Bandwidth)|信号の「鮮明さ」を決める
帯域とは「振幅が3dB落ちる周波数」
帯域とは、「入力した正弦波の振幅が、本来の70.7%(-3dB)まで減衰する周波数」のことです。
たとえば「帯域100MHz」のオシロに100MHzの正弦波を入れると、画面に映る振幅は本来の約7割しかありません。3割は失われています。
⚠️ 重要
「帯域=測れる上限」ではなく、「正しく測れるのはここまで」の目安。
実用上は 信号周波数の5倍以上 の帯域が必要とされます(5倍ルール)。
立ち上がり時間との関係
帯域と立ち上がり時間(Rise Time)には、次の関係式があります。
(Tr:立ち上がり時間、BW:帯域)
例:帯域100MHzのオシロ → 自身の立ち上がり時間は約3.5ns。
これより速いエッジを持つ信号は、オシロ自身が鈍らせてしまいます。

② サンプルレート|信号を「コマ撮り」する速度
サンプルレートは 「1秒間に何回、電圧値を取り込むか」 を表します。単位はSa/s(Sample per second)。
映画のフレームレートと同じイメージです。コマ数が少ないとカクついた動画になり、本来の動きが分かりません。
サンプリング定理と「最低5倍」の現実
理論上(ナイキストの定理)は、信号周波数の2倍以上のサンプルレートがあれば波形は復元できます。しかし、これは「正弦波が連続している前提」の話。
実務では、波形のピークや立ち上がりを見落とさないために、帯域の最低5倍、できれば10倍のサンプルレートが推奨されます。
| オシロの帯域 | 必要なサンプルレート目安 |
|---|---|
| 100 MHz | 1 GSa/s 以上 |
| 500 MHz | 5 GSa/s 以上 |
| 1 GHz | 10 GSa/s 以上 |
💡 ここが落とし穴
カタログの「最大サンプルレート」は1chだけ使った場合の値のことが多い。
2ch・4ch同時使用で半分・1/4に下がる機種があるので、必ず実使用条件で確認しましょう。

サンプリング定理とエイリアシングの詳細は、こちらの記事で図解しています: サンプリング定理とエイリアシング|なぜ偽の波形が見えるのか →
③ メモリ長|「時間×精度」のトレードオフを決める
メモリ長(レコード長)は、「1回のトリガで何点のデータを記録できるか」です。単位はpts(points)。
なぜメモリ長が重要なのか
オシロには次の関係式があります:
たとえば1GSa/sで1Mpts(100万点)なら、記録できるのは1ms分だけ。
ここで「10ms分の波形を1GSa/sで撮りたい」と思った場合、メモリ長が足りないので、オシロは自動的にサンプルレートを下げます(=波形が荒くなる)。
✅ こんな測定でメモリ長が効く
- 低周波の中の高速エッジを同時に観測したい(例:商用電源中のスイッチングノイズ)
- 長時間の通信パケットを1発で取り込みたい
- 過渡応答全体を細かく記録したい

④ 分解能|縦軸を何段階で刻めるか
分解能(垂直分解能)は、ADコンバータが電圧を何段階で量子化できるかを表します。単位はbit。
| 分解能 | 分割数 | 1V/divでの1段階 |
|---|---|---|
| 8 bit(標準) | 256段階 | 約31 mV |
| 10 bit | 1024段階 | 約8 mV |
| 12 bit(高分解能) | 4096段階 | 約2 mV |
「12bit ≠ 4倍細かい」現実:ENOB
カタログ上は12bit=4096段階でも、実際にはオシロ内部のノイズに埋もれて、実用分解能はもっと少なくなります。これを表すのがENOB(有効ビット数)です。
- 8bit ADC搭載機 → ENOB 約 4〜6 bit
- 12bit ADC搭載機 → ENOB 約 7〜9 bit
⚠️ カタログ詐欺に注意
「12bit分解能」とだけ書かれていても、ENOBが7bit台ならノイズに弱い回路では8bit機と差が出ないことも。
高分解能機を選ぶときは ENOBの実測値 を必ず確認しましょう。

⑤ 入力インピーダンス|1MΩ と 50Ω の使い分け
オシロの入力端子には、1MΩと50Ωの2種類のモードがあります(中〜高級機)。汎用オシロは1MΩのみ、高速オシロは両方搭載が多いです。
| 入力 | 主な用途 | 対応プローブ |
|---|---|---|
| 1MΩ | 汎用測定。回路への負荷を最小化したい場合 | 受動プローブ(10:1、100:1)、高電圧差動プローブ |
| 50Ω | 高速信号の伝送路終端。GHz帯の信号観測 | アクティブプローブ、電流プローブアンプ、同軸直結 |
なぜ50Ωが必要なのか
高速信号(数百MHz以上)は、同軸ケーブルの中で「波」として伝わります。受信側のインピーダンスが伝送路(50Ω)と一致していないと、反射が起きて波形が歪みます。
そのため、GHz帯の信号を見るときはオシロ側を50Ωにして、伝送路を終端する必要があります。
🚨 絶対NG
50Ω入力に 高電圧をかけないこと。
50Ω入力の最大入力電圧は通常 ±5V程度。商用100Vや電源回路を直接入力すると終端抵抗が焼損し、修理に数十万円かかります。

実機を選ぶときの判断フロー
5つのスペックを理解したら、実際にオシロを選ぶ手順は以下の通りです。
STEP 1. 観測したい信号の 最高周波数 を決める
STEP 2. その 5倍以上の帯域 を持つ機種を選ぶ
STEP 3. サンプルレートが 帯域の5〜10倍 あるか確認(多chモード時の実効値も)
STEP 4. 「観測時間 × サンプルレート」が メモリ長 以内に収まるか確認
STEP 5. mVオーダーの微小信号なら 12bit機、汎用なら8bit機
STEP 6. 使うプローブに合わせて 1MΩ/50Ω 入力を確認
💡 現場でよくある選定例
パワエレのスイッチング波形(数十kHz〜数MHz)を見るなら:
帯域200〜500MHz / サンプル2.5GSa/s / メモリ1〜10Mpts / 12bit / 1MΩ + 高電圧差動プローブ がスイートスポットです。
オシロのスペックを揃えても、プローブの選び方を間違えると正しい波形は撮れません: 【完全マップ】プローブの種類|受動・差動・アクティブ・電流の使い分け →
電験三種の「電気計測」と実務オシロのつながりは: 電験三種・オシロスコープの基礎 →

よくある質問
Q1. 帯域とサンプルレートはどちらを優先すべき?
A. 帯域が先です。帯域はアナログ段で決まる「物理的な上限」で、後から増やせません。サンプルレートは帯域に応じて自動的に必要量が決まります。
Q2. メモリ長は多ければ多いほど良い?
A. 多いに越したことはありませんが、長すぎると波形描画が遅くなる・トリガ後の更新レートが落ちるデメリットもあります。「観測時間 ÷ サンプルレート」で計算した必要量+余裕分が現実的です。
Q3. 8bit機でも「ハイレゾモード」で12bit相当になると聞きました
A. 平均化(オーバーサンプリング)で実効分解能を上げる機能です。ただし高速な単発現象では使えません(複数点を平均する時間が必要)。連続的な定常波形なら有効です。
Q4. 50Ω入力に1MΩ用プローブを繋ぐとどうなりますか?
A. プローブ補償の整合が崩れ、波形がひどく歪みます。受動プローブを繋いだ瞬間に自動で1MΩに切り替わる機種もありますが、過信せず手動で確認しましょう。
まとめ
✅ オシロの主要スペックは 帯域・サンプルレート・メモリ長・分解能・入力インピーダンス の5つ
✅ 帯域 は「正しく見える周波数の上限」。信号周波数の5倍が目安
✅ サンプルレート は「コマ撮りの速度」。帯域の5〜10倍を確保
✅ メモリ長 は「観測時間 × サンプルレート」で必要量が決まる
✅ 分解能 はカタログのbitだけでなく ENOB を確認
✅ 入力インピーダンス はプローブと信号速度で1MΩ/50Ωを選ぶ
カタログの数字を「役割」で読み解けば、過剰スペックを買わずに済み、過少スペックで失敗もしません。次の記事では「帯域は信号周波数の何倍必要か」の5倍ルールを、なぜそうなるのか数式で深掘りしていきます。
