- 「巻上機の所要出力を求めよ」と出たけど、どの公式を使えばいいか迷う
- ポンプと送風機の公式がそっくりで混同する
- エレベータの「釣合おもり」が出た瞬間に頭が止まる
- 問題文の速度が「分速」で与えられていて単位変換でミスした
- 巻上機・ポンプ・送風機・エレベータの所要出力公式を横並びで比較
- すべての公式を「力×速度÷効率」の基本形から導出
- 単位変換の落とし穴(分速→秒速、mmAq→Pa)を明示
- 余裕係数kの扱い方と、試験での頻出パターン3選
電動機応用の計算は、電験三種・機械科目でほぼ毎年出題される定番テーマです。内容自体は中学物理の「仕事」と「仕事率」の延長なので、パワーエレクトロニクスや変圧器に比べれば難しくありません。
ところが、「公式の暗記を間違えた」「単位変換でミスった」「釣合おもりの処理がわからなかった」で失点する人が非常に多い。合格者と不合格者の差がつきやすい分野です。
この記事では、4つの負荷パターンの公式をすべて「1つの基本形」から導出します。丸暗記ではなく「なぜその形になるのか」がわかれば、試験本番で公式を忘れても自力で再現できるようになります。
電動機の所要出力 P = F × v ÷ η × k
F:負荷にかかる力 [N]、v:速度 [m/s]、η:効率、k:余裕係数
「力×速度=仕事率(パワー)」。これを効率で割り、余裕を掛ける。どの負荷もこの骨格は同じです。違うのは「Fに何を入れるか」だけ。
目次
全体像|4つの負荷タイプを「力×速度」で統一する
中学物理で習った「仕事率 P = F × v」。電動機応用の公式は、すべてこの式を出発点にしています。
負荷のタイプによって「力 F」の中身が変わるだけです。以下の表で全体像を把握しましょう。
| 負荷タイプ | 力 F の正体 | 速度 v の正体 | 所要出力 P [W] |
|---|---|---|---|
| 🏗️ 巻上機 | 重力 mg [N] | 巻上速度 v [m/s] | P = mgv / η × k |
| 💧 ポンプ | 水の重さ ρgH [Pa] | 流量 Q [m³/s] | P = ρgHQ / η × k |
| 🌀 送風機 | 風圧 H [Pa] | 風量 Q [m³/s] | P = HQ / η × k |
| 🛗 エレベータ | (積載荷重 − 釣合おもりの差分) × g | かごの速度 v [m/s] | P = (M−Mc)gv / η × k |
4つの公式の骨格は全部同じ「F × v ÷ η × k」です。巻上機は「物を持ち上げる力 × 速度」、ポンプは「水を押し上げる圧力 × 流量」、送風機は「空気を押す圧力 × 風量」。力の「中身」が変わるだけ。この骨格さえ覚えれば、試験本番で公式を忘れても自分で組み立て直せます。
η(効率)と k(余裕係数)の扱い方
すべての公式に登場する η と k について、先に整理しておきます。
| 記号 | 名前 | 意味 | 式での位置 |
|---|---|---|---|
| η | 効率 | 機械的な損失を考慮(0 < η ≦ 1) | 分母(÷ η)→ 出力が大きくなる |
| k | 余裕係数 | 過負荷や起動時の余裕分(k ≧ 1、通常1.1〜1.3) | 分子(× k)→ 出力が大きくなる |
効率 η は「損失があるから、実際にはもっと大きな出力が必要」→ 割る。余裕係数 k は「余裕を見て大きめにする」→ 掛ける。η と k を逆にすると答えが全然違ってきます。試験の計算ミスの定番なので注意してください。

①巻上機(クレーン・ウインチ)
公式の導出|「重力に逆らって持ち上げる」だけ
質量 m [kg] の物体を速度 v [m/s] で垂直に持ち上げるとき、重力に逆らう力は mg [N] です(g = 9.8 m/s²)。
負荷にかかる力:F = mg [N]
仕事率:P₀ = F × v = mgv [W]
効率と余裕を考慮:P = mgv × k / η [W]
P = 9.8mv × k / η [W]
m [kg]:荷物の質量、v [m/s]:巻上速度、η:効率、k:余裕係数
【計算例】巻上機の所要出力を求める
問:質量 500 kg の荷物を、速度 30 m/min で巻き上げる。機械効率 η = 0.8、余裕係数 k = 1.2 のとき、電動機の所要出力 P [kW] を求めよ。
① 速度を [m/s] に変換する(最重要ステップ)
v = 30 m/min = 30 / 60 = 0.5 m/s
② 公式に代入する
P = 9.8 × 500 × 0.5 × 1.2 / 0.8
= 9.8 × 500 × 0.5 × 1.5
= 9.8 × 375
= 3675 W
= 3.675 kW ≒ 3.7 kW
工場のクレーンや製造ラインのホイストの仕様書には「巻上速度 ○ m/min」と書いてあることがほとんどです。試験問題も「分速」で出してくるので、まず最初に秒速に変換するクセをつけてください。これを忘れると答えが60倍ズレます。

②ポンプ(揚水ポンプ)
公式の導出|「水を押し上げる圧力 × 流量」
ポンプは水を高さ H [m] だけ持ち上げます。水にかかる圧力は ρgH [Pa] です(ρ:水の密度 = 1000 kg/m³)。
この圧力で毎秒 Q [m³/s] の水を送るので、仕事率は「圧力 × 体積流量」になります。
P₀ = 圧力 × 流量 = ρgH × Q [W]
P = ρgHQ × k / η [W]
P = 9.8 × 1000 × H × Q × k / η [W]
= 9800HQ × k / η [W]
H [m]:全揚程、Q [m³/s]:流量、η:効率、k:余裕係数
9800 = ρ × g = 1000 × 9.8 です。水のポンプでは常にこの値になるため、試験では「9800HQ/η」の形で公式を覚えておくと計算が速いです。
【計算例】ポンプの所要出力を求める
問:全揚程 H = 20 m、流量 Q = 0.5 m³/min のポンプがある。ポンプ効率 η = 0.75、余裕係数 k = 1.1 のとき、電動機の所要出力 P [kW] を求めよ。
① 流量を [m³/s] に変換
Q = 0.5 m³/min = 0.5 / 60 ≒ 0.00833 m³/s
② 公式に代入
P = 9800 × 20 × 0.00833 × 1.1 / 0.75
= 9800 × 20 × 0.00833 × 1.467
= 9800 × 0.2444
= 2395 W
≒ 2.4 kW
試験では流量が m³/min や L/s で与えられることが多いです。公式は m³/s が前提なので、÷60(分→秒)や ÷1000(L→m³)を忘れずに。巻上機の速度変換と同じ落とし穴です。
電験三種とは?どんな資格か初心者にもわかりやすく徹底解説 →

③送風機(ファン・ブロワ)
公式の導出|ポンプとほぼ同じ構造
送風機の公式は、ポンプの公式で ρgH を「風圧 H [Pa]」に置き換えただけです。
ポンプでは「水を高さHまで持ち上げる圧力(ρgH)」でしたが、送風機では「風を押し出す圧力(風圧H [Pa])」がそのまま使われます。
P = HQ × k / η [W]
H [Pa]:風圧(全圧)、Q [m³/s]:風量、η:効率、k:余裕係数
ポンプと送風機の比較|何が違うの?
| 比較項目 | 💧 ポンプ | 🌀 送風機 |
|---|---|---|
| 送る対象 | 水(液体) | 空気(気体) |
| 圧力の表し方 | ρgH(揚程 H [m] を使う) | H [Pa](風圧をそのまま使う) |
| 公式 | P = 9800HQ / η × k | P = HQ / η × k |
| 9800が付く? | 付く(水の密度×g) | 付かない(Hが既にPa単位) |
ポンプは揚程 H [m] が「高さ」なので、圧力に変換するために ρg = 9800 が必要。送風機は風圧 H [Pa] が最初から「圧力」なので 9800 は不要。試験で最も混同しやすいポイントです。
【計算例】送風機の所要出力を求める
問:風量 Q = 10 m³/min、風圧 H = 500 Pa の送風機がある。送風機効率 η = 0.65、余裕係数 k = 1.15 のとき、電動機の所要出力 P [W] を求めよ。
① 風量を [m³/s] に変換
Q = 10 m³/min = 10 / 60 ≒ 0.167 m³/s
② 公式に代入
P = 500 × 0.167 × 1.15 / 0.65
= 83.5 × 1.769
≒ 148 W
工場の空調設計やクリーンルームのファン選定で、まさにこの公式を使います。風量はカタログに「CMH(m³/h)」や「CMM(m³/min)」で書いてあるので、秒速への変換が必要です。試験の計算ミスも現場の設計ミスも、原因は同じ「単位変換忘れ」です。

④エレベータ(ロープ式)
なぜエレベータだけ難しいのか?|「釣合おもり」の存在
巻上機・ポンプ・送風機は「荷物(流体)を一方向に送る」だけでしたが、エレベータには「釣合おもり(カウンターウェイト)」がついています。
釣合おもりとは、ロープの反対側に吊り下げた重りのことです。かごが上がるとき、おもりが下がって重力の力を借りることで、電動機の負担を軽くしています。
かご側の重量:W₁ = (かごの質量 + 積載荷重) × g [N]
おもり側の重量:W₂ = 釣合おもりの質量 × g [N]
電動機が負担するのは差分の力だけ:
F = |W₁ − W₂| [N]
所要出力:P = |W₁ − W₂| × v × k / η [W]
釣合おもりの質量の決め方|試験での典型パターン
試験では、釣合おもりの質量が以下のように指定されます。
釣合おもりの質量 = かごの質量 + 定格積載質量 × α
(α は 0.4〜0.5 が一般的。問題文で指定される)
たとえば「定格積載質量の40%を加えた値」と書いてあったら α = 0.4 です。
【計算例】エレベータの所要出力を求める(頻出パターン)
問:かごの質量 250 kg、定格積載質量 1500 kg のロープ式エレベータがある。釣合おもりの質量は、かごの質量に定格積載質量の 40% を加えた値とした。定格積載で速度 60 m/min で上昇するときの電動機の所要出力 P [kW] を求めよ。機械効率 η = 0.75、余裕係数は考慮しない(k = 1)とする。
① 釣合おもりの質量を求める
Mc = 250 + 1500 × 0.4 = 250 + 600 = 850 kg
② かご側の総質量(満載時)
M = 250 + 1500 = 1750 kg
③ 差分の力を求める
F = (M − Mc) × g = (1750 − 850) × 9.8 = 900 × 9.8 = 8820 N
④ 速度を [m/s] に変換
v = 60 m/min = 60 / 60 = 1.0 m/s
⑤ 所要出力を求める
P = 8820 × 1.0 / 0.75 = 11760 W ≒ 11.8 kW
①「定格積載」か「空荷」か確認する:空荷のとき釣合おもりの方が重くなるケースがあります。その場合は W₂ − W₁ で計算します。
②「上昇」か「下降」か確認する:上昇時と下降時で、電動機が力を出す方向が変わります。
③ 速度の単位を確認する:エレベータの速度も [m/min] で与えられることが多いです。

単位変換の落とし穴|これで失点する人が本当に多い
電動機応用の問題で最も多い失点原因は「単位変換ミス」です。公式は正しいのに、代入する数値の単位が違っていて不正解になる。
以下の変換表を頭に入れておいてください。
| 問題文の表記 | 公式で使う単位 | 変換方法 |
|---|---|---|
| 速度 ○ m/min | v [m/s] | ÷ 60 |
| 流量 ○ m³/min | Q [m³/s] | ÷ 60 |
| 流量 ○ L/s | Q [m³/s] | ÷ 1000 |
| 風圧 ○ mmAq | H [Pa] | × 9.8(≒ そのまま) |
| 出力 ○ W | P [kW] | ÷ 1000 |
| 重力加速度 | g = 9.8 m/s² | 問題文で指定なければ 9.8 を使用 |
速度 30 m/min をそのまま v = 30 と代入すると、正しい答えの60倍の値が出ます。選択肢の中に「60倍の値」が紛れ込んでいることもあるので、引っかからないように。問題を読んだ瞬間に「min → s 変換が必要か?」を確認する習慣をつけてください。

全公式まとめ|1枚の表で完全整理
| 負荷 | 所要出力 P [W] | 各変数の意味 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 🏗️ 巻上機 | 9.8mv k/η | m: 質量[kg] v: 速度[m/s] |
速度を秒速に変換 |
| 💧 ポンプ | 9800HQ k/η | H: 揚程[m] Q: 流量[m³/s] |
9800が付く(ρg) |
| 🌀 送風機 | HQ k/η | H: 風圧[Pa] Q: 風量[m³/s] |
9800は付かない |
| 🛗 エレベータ | |W₁−W₂|v k/η | W₁: かご側重量[N] W₂: おもり重量[N] v: 速度[m/s] |
釣合おもりの質量を 正確に計算する |
✅ すべて「F × v ÷ η × k」の形
✅ ポンプだけ 9800 が付く(送風機は付かない)
✅ エレベータは「かご − おもり」の差分で計算
✅ η は分母(割る)、k は分子(掛ける)
✅ 速度・流量は必ず [m/s] or [m³/s] に変換してから代入
回転速度と所要出力の関係(送風機・ポンプの応用)
送風機とポンプには「回転速度が変わると出力がどう変わるか」の比例則があります。試験では計算問題より「正誤問題」で出ることが多いです。
| 物理量 | 回転速度 N との関係 |
|---|---|
| 流量(風量)Q | Q ∝ N(1乗に比例) |
| 揚程(風圧)H | H ∝ N²(2乗に比例) |
| 所要出力 P | P ∝ N³(3乗に比例) |
流量は1乗、圧力は2乗、出力は3乗。回転速度を2倍にすると、出力は 2³ = 8倍になります。インバータで回転速度を下げると劇的に省エネになる理由がこれです。

試験対策|頻出パターンとFAQ
頻出の出題パターン3選
| パターン | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| ① ポンプ(揚水) | 「毎分○m³を揚程○mで揚水するポンプの所要出力」 | 9800HQ/η。流量の単位変換 |
| ② エレベータ | 「釣合おもりの質量を求め、所要出力を計算」 | おもり=かご+積載の○% |
| ③ 台数計算 | 「○kWのポンプを何台使えばよいか」 | 総出力÷1台の出力→切り上げ |
Q1:g = 9.8 と g = 9.81 のどちらを使うべき?
問題文に指定がなければ g = 9.8 m/s² を使ってください。選択肢が微妙に違う場合は g = 9.8 で計算した値に最も近いものを選びます。
Q2:余裕係数 k が問題文にないときは?
問題文に k の記載がなければ k = 1(余裕なし)として計算します。「余裕係数を考慮しない」と明記されている場合も同様です。
Q3:「ポンプ○台で排水する」問題の解き方は?
まず全体の所要出力を求め、それを1台あたりの出力で割ります。端数は切り上げです(3.2台→4台必要)。実際の過去問(H30機械問10)でも出題されています。

まとめ
- すべての公式は「F × v ÷ η × k」の骨格で統一できる
- 巻上機:P = 9.8mv k/η
- ポンプ:P = 9800HQ k/η(9800が付く)
- 送風機:P = HQ k/η(9800は付かない)
- エレベータ:P = |W₁−W₂|v k/η(釣合おもりとの差分)
- η は分母(割る)、k は分子(掛ける)を間違えない
- 速度・流量は必ず[m/s]・[m³/s] に変換してから代入
- 送風機・ポンプの比例則:流量 ∝ N、圧力 ∝ N²、出力 ∝ N³
電動機応用は、公式自体はシンプルですが「単位変換」と「η / k の位置」で差がつく分野です。この記事の計算例を2〜3回手で解いて、「問題を読む → 単位変換 → 代入 → 答え」の流れを体に染み込ませてください。
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