設計レビューで、こんな会話が飛び交っていませんか?
「いや、ターンオフでサージが暴れるからダメでしょ」
「じゃあ別々にすれば?」
周りは当たり前のように「ターンオン」「ターンオフ」と話している。あなたも雰囲気で頷いているけど、正直なところ「ON/OFFする瞬間に、MOSFETの中で何が起きているのか」を、絵として説明できますか?
- 「ターンオン」「ターンオフ」が単なる「ON/OFF」と何が違うのか説明できない
- 波形の動きは見たけど、MOSFETの中で何が起きているかイメージできない
- 「電子がチャネルを通る」と言われてもピンとこない
- 後輩から「なんで一瞬で切り替わらないんですか?」と聞かれて答えに詰まる
- 「ターンオン」「ターンオフ」の本当の意味(単なるON/OFFとの違い)
- MOSFETの中で起きている物理現象を、ダムの水門でイメージできる
- なぜ「一瞬で」切り替わらないのか、その理由が直感的にわかる
- ターンオン/オフが速い・遅いで何が変わるのかが見える
結論を先に言います。ターンオン・ターンオフとは、MOSFETの中の「電子の通り道(チャネル)」が開いたり閉じたりする過程のことです。スイッチを押したら一瞬で切り替わる照明とは違って、「物理的な準備時間」が必要です。この記事では、その準備時間に何が起きているかを完全図解します。
MOSFETスイッチング波形の読み方|Vgs・Vds・Idの3つの波形で動作を理解する →
目次
そもそも「ターンオン/ターンオフ」って何?
まず混乱しやすいのが、「ON/OFF」と「ターンオン/ターンオフ」の違いです。これ、似ているようで全然違います。
ON / OFF
「状態」を表す言葉。
例:「今、MOSFETはONです」「今、OFFです」
→ スナップショット(瞬間の写真)
ターンオン / ターンオフ
「切り替わる過程」を表す言葉。
例:「ターンオン中はサージが出る」
→ ビデオ映像(時間のある現象)
わかりやすくたとえると、こんな感じです。
| 用語 | 日常のたとえ | 時間の長さ |
|---|---|---|
| ON状態 | 電車が走り続けている状態 | 継続的 |
| ターンオン | 駅から発車して、最高速度に達するまで | 数十〜数百ナノ秒 |
| OFF状態 | 電車が駅に停まっている状態 | 継続的 |
| ターンオフ | 最高速度から、ブレーキで停まるまで | 数十〜数百ナノ秒 |
ON/OFFは「状態」、ターンオン/ターンオフは「過程」。データシートやレビューで「ターンオン時間が長い」と言われたら、それは「OFFからONになるまでに時間がかかる」という意味です。

MOSFETの中身を、まずは超シンプルに理解する
ターンオン/オフの中身を理解するには、MOSFETの内部構造をざっくりイメージできる必要があります。難しい半導体物理の話は一切しません。「3つの端子と、その間にある通り道」だけ覚えてください。
MOSFETの3つの端子
| 端子 | 役割 | ダムでたとえると |
|---|---|---|
| ゲート(G) | 操作する入口(信号を入れる) | ダムの管理人室(水門の操作レバー) |
| ドレイン(D) | 電流が入ってくる側(高電位) | ダムの上流(水が溜まっている側) |
| ソース(S) | 電流が出ていく側(低電位) | ダムの下流(水が流れていく側) |
そして、ドレインとソースの間には「チャネル」と呼ばれる電子の通り道があります。このチャネルが「開いたり」「閉じたり」することで、電流が流れたり止まったりします。
ダムの水門に置き換えると、こうなる
🏔️ ダムの上流に水が溜まっている(=ドレインに電源電圧)
🚪 真ん中に水門がある(=チャネル)
👨💼 管理人室で水門を開閉する(=ゲート信号)
🌊 水門が開けば、水が下流に流れる(=電流がソースへ流れる)
🔒 水門が閉じれば、水は止まる(=電流ゼロ)
ここで重要なのは、水門は瞬時には開かないということです。管理人がレバーを引いても、水門のゲートが物理的に動くまで時間がかかる。これがまさに「ターンオン時間」の正体です。

なぜ「一瞬で」切り替わらないのか?|ゲートに隠れた「コンデンサ」の正体
家のスイッチを押せば、照明はパッと点きます。でもMOSFETは、ゲートに電圧をかけてもすぐにはONになりません。なぜでしょうか?
答えは、「ゲートに見えない『コンデンサ』が隠れているから」です。
ゲートは「コンデンサ」だった
MOSFETのゲート端子は、内部構造的には非常に薄い絶縁膜(酸化膜)で覆われています。ゲートの金属と、その下の半導体の間に絶縁膜があるので、これは電気的には「平行平板コンデンサ」そのものなんです。
ゲートの内部構造
- 上:金属(ゲート端子)
- 真ん中:絶縁膜(薄い酸化膜)
- 下:半導体
→ 構造的に「コンデンサ」と同じ
何が起きるか
- 電圧をかけると充電が必要
- 充電には電荷の移動時間が必要
- 満タンになるまで時間がかかる
→ これが「ターンオン時間」
MOSFETを「ONにする」とは、つまり「ゲートのコンデンサを充電する」ことです。「OFFにする」とは「ゲートのコンデンサを放電する」ことです。これさえ覚えれば、ゲート抵抗の役割もスイッチング時間の理由も全部つながります。
水道のたとえで言えば、ハンドルがついている軸がとても重いイメージ。レバーを引いても、軸が回転しきるまで時間がかかる。重い水門を動かすのに時間が必要なのと同じです。

ターンオンの瞬間|MOSFETの中で何が起きているか
ここからが本題です。ターンオン中、MOSFETの中で起きている物理現象を、ダムの水門でストーリーとして追っていきます。
MOSFET内部で起きていること:
ゲートに電圧をかけ始めるが、まだコンデンサ(ゲート容量)が充電中。チャネルはまだ閉じている。
💧 ダムでたとえると:管理人がレバーに手をかけたばかり。水門はまだピクリとも動かない。
MOSFET内部で起きていること:
ゲート電圧が「しきい値電圧(Vth)」を超えると、半導体の中に電子が集まり始め、チャネル(電子の通り道)ができ始める。電流がジワジワ流れ始める。
💧 ダムでたとえると:水門の隙間から水が漏れ始める。まだチョロチョロだけど、確実に流れている。
MOSFET内部で起きていること:
チャネルが急に広がり、ドレイン-ソース間の電圧(Vds)が急降下する。この間ゲート電圧は不思議と平らなまま(ミラープラトー現象)。
💧 ダムでたとえると:水門が一気に開いて、上流の水位(水圧)が急に下がる。レバーは一旦止まったように見える。
MOSFET内部で起きていること:
ゲートのコンデンサが完全に充電され、チャネルが最大限に広がる。MOSFETは「完全ON」状態。電流が安定して流れ続ける。
💧 ダムでたとえると:水門が全開になり、安定して大量の水が流れている状態。
ターンオンとは、つまり「ゲートのコンデンサを充電して、チャネルを少しずつ広げていく過程」です。スイッチを押した瞬間に「パッ」と切り替わるのではなく、物理現象として段階を踏んで進むのです。

ターンオフの瞬間|逆再生で見るとわかりやすい
ターンオフは、ターンオンを逆再生した動きになります。ただし1つ、重大な違いがあります。それは「サージ電圧」です。
MOSFET内部:ゲートのコンデンサが放電を始めるが、まだ電圧は高い。チャネルは広がったまま。
💧 ダム:管理人がレバーを逆方向に動かし始める。水門はまだ全開のまま。
MOSFET内部:チャネルが急に狭くなり、ドレイン電圧(Vds)が一気に上昇する。
💧 ダム:水門が閉じ始め、上流の水位(水圧)が急に上がる。
MOSFET内部:チャネルがほぼ閉じ、電流が急減。配線のインダクタンスが「電流を流し続けたい!」と暴れて、逆起電力(サージ電圧)が発生する。
💧 ダム:水門が急に閉じて、流れていた水の慣性で「ガコン!」と配管が鳴る(ウォーターハンマー現象)。
MOSFET内部:ゲートのコンデンサが完全に放電し、チャネルが消滅。電流ゼロ。
💧 ダム:水門が完全に閉じ、水は止まった状態。
電流を急に止めると、配線のインダクタンスが「流し続けたい!」と逆起電力を発生させます。これがMOSFETの定格電圧を超えると、素子が一発で壊れます。サージ対策(スナバ回路など)が必要な理由はここにあります。

ターンオン/オフが「速い・遅い」で何が変わるか
設計レビューで「ターンオンが遅い」「ターンオフを速くしたい」と話題になるのは、これによって3つの大事な要素が変わるからです。
| 項目 | 速くした場合 | 遅くした場合 |
|---|---|---|
| スイッチング損失 | ⭕ 小さい(高効率) | ❌ 大きい(発熱増) |
| サージ電圧 | ❌ 大きい(壊れやすい) | ⭕ 小さい(安全) |
| ノイズ(EMI) | ❌ 多い(規格通らない) | ⭕ 少ない(規格通る) |
パワエレ設計の世界では「速いほど良い」とは言えません。速いと損失は減るけど、サージとノイズで地獄を見ます。逆に遅いと発熱で素子が燃える。だから「ちょうどいい速度」を見つけるのが設計者の腕の見せどころなんです。
この「ちょうどいい速度」を調整するのが、ゲート抵抗です。ゲート抵抗を変えると、ゲートのコンデンサを充電する電流が変わり、結果としてターンオン/オフ時間が変わります。
ゲート抵抗の決め方|Qgから抵抗値を計算する設計手順 →

データシートのどこを見れば「ターンオン時間」がわかるか
MOSFETのデータシートを開くと、必ず「Switching Characteristics(スイッチング特性)」という表があります。ここに4つの時間が並んでいます。
データシートの4つの時間
| 記号 | 英語 | 意味 | ダムでたとえると |
|---|---|---|---|
| td(on) | Turn-on Delay Time | ON指令〜流れ始めるまで | レバーを握ってから水が漏れ始めるまで |
| tr | Rise Time | 電流が0→負荷値になる時間 | 水門が一気に開く時間 |
| td(off) | Turn-off Delay Time | OFF指令〜止まり始めるまで | 逆レバーを引いて水門が動き始めるまで |
| tf | Fall Time | 電流が負荷値→0になる時間 | 水門が閉じきるまでの時間 |
ターンオン時間 = td(on) + tr
ターンオフ時間 = td(off) + tf
ON指令を出してから完全にONになるまで、OFF指令を出してから完全にOFFになるまでが、それぞれの「ターンオン/オフ時間」です。
たとえば、データシートに「td(on) = 15ns、tr = 30ns」と書いてあれば、ターンオン時間は45ナノ秒(=0.000000045秒)。それくらいの短時間で起きている現象なんです。

まとめ|MOSFETの中で起きている現象が、もう怖くない
ターンオン・ターンオフは、最初は専門用語の響きで難しく感じますが、本質はシンプルです。「ゲートのコンデンサを充電/放電して、チャネル(電子の通り道)を開閉する過程」これだけです。
この記事のポイント
- ON/OFFは「状態」、ターンオン/オフは「切り替わる過程」
- MOSFETは「ダムの水門」と同じ仕組み(ゲートが管理人室、ドレインが上流、ソースが下流)
- ゲートには見えないコンデンサがある。だから一瞬では切り替わらない
- ターンオン = ゲート容量を充電してチャネルを開く過程(4ステージ)
- ターンオフ = ゲート容量を放電してチャネルを閉じる過程(サージ電圧に注意)
- 速い/遅いで「損失・サージ・ノイズ」のバランスが変わる
明日、設計レビューで「ターンオンが遅いね」と言われたら、もう黙って頷く必要はありません。「ゲートのコンデンサを充電するのに時間がかかっているんですよね。ゲート抵抗を見直しますか?」と返せれば、立派な一人前です。
次のステップは、この「ゲート容量」をもう少し深掘りすることです。「Qg(ゲートチャージ)」「Ciss(入力容量)」といった用語を理解すると、なぜターンオン時間が部品ごとに違うのかが完全にわかるようになります。

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動作イメージが掴めたら、次は実際の波形を見て確認。本記事の内容が波形上のどこに対応するかが見えてきます。
ターンオン/オフの本質は「ゲート容量の充放電」。それを実現する駆動回路の基礎を学べる、学習ロードマップの起点記事です。
ターンオン/オフ時間を「設計者がコントロールする」具体的な手段。本記事の続編として実践的に使えます。
スイッチング動作を理解したら、実際のMOSFET選定へ。データシートの読み方が一気にラクになります。