回路設計

ハイサイドとローサイドの違い|ハイサイドのゲート駆動が難しい理由と3つの解決策

ハイサイドとローサイドのゲート駆動の違い。なぜハイサイドは難しいのか

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こんな経験はありませんか?
  • 先輩から「ハイサイドのMOSFETを駆動して」と言われたが、何が「ハイ」で何が「サイド」なのかピンとこない
  • ローサイド駆動は普通にゲート抵抗をつなぐだけで動いたのに、ハイサイドにすると突然動かなくなった
  • 「ハイサイドはブートストラップか絶縁型ドライバが必要」と言われたが、なぜそうなるのか理由を説明できない
  • 客先レビューで「なぜハイサイドだけ複雑な回路を入れているの?」と聞かれて答えに詰まった
○ この記事でわかること
  • ハイサイド・ローサイドの「位置関係」が3秒でわかる図解
  • なぜハイサイドだけ駆動が難しいのか、本質的な理由
  • 解決策3つ(ブートストラップ・絶縁型ドライバ・Pch MOSFET)の使い分け
  • ハーフブリッジ・Hブリッジ・3相インバータでの考え方

結論を先に言います。ハイサイドが難しいのは「ソース端子の電位がGNDではなく浮いているから」です。これだけ理解すれば、ブートストラップ回路も絶縁型ドライバも「なるほど、そういうことか」とスッと頭に入ります。

前回の記事で「絶縁型と非絶縁型ゲートドライバの違い」を解説しましたが、そもそも「なぜハイサイドだと特殊な回路が必要なのか」を理解しないと、選定の根っこが理解できません。今回はその大前提を、徹底的に図解します。

ハイサイドスイッチとローサイドスイッチ(ひとことで)
比べる点ハイサイドスイッチローサイドスイッチ
置き場所電源(+V)と負荷の間負荷とGNDの間
OFFのときの負荷負荷がGNDの電位になる(電圧がかからない)負荷に電源の電圧が残る
駆動ソースが浮くので工夫が要る(ブートストラップ・絶縁電源・Pch)ソースがGNDなので簡単
よく使われる所車の負荷(ボディがGND)、電源の入り切りLED・リレー・ソレノイドの簡単な駆動
ドライバの呼び名ハイサイドドライバローサイドドライバ

ハーフブリッジでは、上の素子がハイサイド、下の素子がローサイドです。NchとPchの使い分けは、下の「解決策③」で比べています。

ゲート駆動の記事(全4本)
  1. ゲートドライバIC
  2. スイッチング波形の読み方
  3. ハイサイドとローサイド(この記事)
  4. ハーフブリッジ・フルブリッジ

ハイサイド・ローサイドとは?位置の話

まずは言葉の意味から。これは難しい話ではありません。負荷(モーターやLEDなど)に対して、MOSFETが「上」にあるか「下」にあるか。それだけです。

ハイサイド

電源(+V)と負荷の間にMOSFETを置く配置。MOSFETが負荷の「上」にいる。駆動が難しい。

ローサイド

負荷とGNDの間にMOSFETを置く配置。MOSFETが負荷の「下」にいる。駆動がカンタン。

覚え方:水道の蛇口の位置で覚える

水道管をイメージしてください。蛇口(=MOSFET)が、水を使う場所(=負荷)の上流にあるか下流にあるかの違いです。

上流(給水タンク側)に蛇口があるのが「ハイサイド」、下流(排水溝側)に蛇口があるのが「ローサイド」。どちらも水を止める機能は同じですが、蛇口を回す人の足場の高さが違うのです。これが後で重要になります。

現場の声
回路図を見るときは「負荷を真ん中に置いて、MOSFETが上か下か」を確認してください。両方にあるパターン(ハーフブリッジ)もあります。これは後ほど解説します。
ハイサイドとローサイドのスイッチの違いの図。MOSFETが負荷の上(電源側)にあるのがハイサイド、下(GND側)にあるのがローサイド
MOSFETが負荷の上ならハイサイド、下ならローサイド

ローサイドはなぜ簡単なのか?

NchMOSFETをONするには、ゲート(G)とソース(S)の間に十分な電圧(Vgs = 10V〜15V程度)をかける必要があります。これは絶対のルール。

MOSFETがONする条件
Vgs(ゲート - ソース間電圧) ≧ 閾値電圧 Vth

ローサイド配置では、ソース(S)がGNDに直接つながっている。つまりソースの電位は常に0V。だからゲートに「12V」を入れれば、それがそのまま「Vgs = 12V」になる。

ポイント
ソースがGND(0V)に固定されているから、ゲートの電位 = Vgs。マイコンや非絶縁型ドライバから「12V」を出力するだけで簡単にONできる。これがローサイドが簡単な理由です。

ゲートドライバ自体もシンプルで、安価な非絶縁型ICで十分対応できます。これが「ローサイドは初心者向け」と言われる所以です。

ローサイドスイッチが簡単な理由の図。NchMOSFETのソースがGND(0V)に固定されているので、ゲートに12Vを入れるだけでVgs=12VでONする
ローサイドはソースがGNDなので駆動が簡単
おすすめの本

「ハイサイドとローサイドのゲート駆動」は、回路シミュレータで電圧や電流の波形を見ながら確かめると理解が深まります。無料の回路シミュレータLTspiceを使って、電子回路を学べる本です(オーム社、渋谷道雄 著)。

ハイサイドが難しい本質|「足が浮いている」

ハイサイド配置では、MOSFETのソース(S)がGNDではなく、負荷の上端につながっています。ここが運命の分かれ目です。

ソースの電位はどうなる?

MOSFETの状態 ソースの電位 ゲートに必要な電圧
OFF時 約0V(負荷を通じてGNDへ落ちる) 12V でOK
ON時 電源電圧(例:48V)まで上がる 48V + 12V = 60V 必要!

これが衝撃の事実です。ハイサイドのMOSFETを完全にONさせるには、電源電圧よりも高い電圧をゲートに加えなければならないのです。

ここが本質
ゲートを12Vで駆動するなら、電源が12Vのとき24V、48Vのとき60V(上の表と同じ)、400Vのとき412Vが必要です。「電源より上の電圧」をどこからか作って供給する必要がある。これが、ハイサイド駆動が複雑になる根本原因です。

たとえ話:はしごの上の作業員

ローサイドは「地面に立っている作業員」。地面(GND)から12cm上のスイッチを押すのは簡単です。

一方ハイサイドは「動くはしごの上の作業員」。はしごの高さが0mのときも10mのときも、常に「足元から12cm上」のスイッチを押し続けなければならない。地面の身長12cmではダメで、はしごが10mに上がったら身長10m12cmないと届かない。

これがハイサイド駆動の難しさです。ソース(=作業員の足元)が動くから、ゲート(=作業員の手)もそれに追従して動かないといけない。

ハイサイドスイッチが難しい理由の図。NチャネルMOSFETのドレインを+48Vに、ソースを負荷につなぐ。OFFのときソースは約0Vでゲートに12VならONできるが、ONするとソースが48Vまで浮き上がり、Vgs=12V−48V=−36VでONを保てない。ゲートには48V+12V=60Vが必要
ハイサイドはONするとソースが浮き上がりVgsを保てない

解決策①|ブートストラップ回路(最も一般的)

最も多く使われる解決策がブートストラップ回路です。仕組みは「コンデンサに電気を貯めておいて、必要なときに足元から12V持ち上げる」というもの。

STEP 1

ローサイドがONのとき:ハイサイドのソース電位が0Vに近づく。この瞬間、ブートストラップコンデンサ(Cboot)が充電される。

STEP 2

ハイサイドをONにする瞬間:充電されたCbootが「ソース電位 + 12V」の電圧源として働き、ゲートを駆動する。

STEP 3

ソースが上昇する:MOSFETがONして負荷側電圧が上昇するが、Cbootも一緒に持ち上がるので、Vgsは常に12Vを保てる。

ブートストラップのメリット・デメリット

メリット

  • 追加電源が不要(コンデンサ1個+ダイオード1個で済む)
  • コストが安い
  • 非絶縁型ドライバICに内蔵済みのものも多い

デメリット

  • 常時ONできない(コンデンサが放電してしまう)
  • 定期的にローサイドONで充電する必要がある
  • 高デューティ動作(90%以上)は苦手
  • 1次側と絶縁できない
ブートストラップ回路の動作3ステップの図。ローサイドONでCbootを12Vに充電、ハイサイドONでソースとともに48Vへ持ち上げ、上側60VでVgs=12Vを維持
ブートストラップ回路でVgs=12Vを維持する3ステップ
おすすめの本

パワーエレクトロニクスの基本から順に学び直したいときに向いています。パワーエレクトロニクスの基本を、つまずいている人向けにやさしく解説した入門書です(オーム社)。

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解決策②|絶縁型ゲートドライバ(高電圧・高信頼用)

ブートストラップでは対応できない場面、つまり「常時ONが必要」「電圧が高すぎる(200V〜800V)」「安全規格対応が必須」の場合に登場するのが絶縁型ゲートドライバです。

発想の転換がポイント。ブートストラップは「足元から電圧を持ち上げる」発想ですが、絶縁型は「ハイサイドのソースを基準にした、独立した電源を最初から用意する」という発想です。

仕組み
2次側(MOSFET側)に独立した絶縁電源(例:12V)を用意し、その電源の「マイナス側」をハイサイドMOSFETのソースに接続します。すると、ソース電位がいくら動いても、その上に常に12Vが乗っかっている状態が作れます。

絶縁型がブートストラップに勝るケース

用途 ブートストラップ 絶縁型ドライバ
12V〜48V系のDC-DC ◎ 第一選択 △ オーバースペック
100%デューティが必要 不可 ◎ 余裕
産業用400Vインバータ △ 信頼性に課題 ◎ 標準
安全規格で1次側との絶縁が求められる 絶縁不可 ◎ 必須
絶縁型ゲートドライバの回路図。ハイサイドのNch MOSFETはドレインが+V側、ソースがSW。ドライバの出力側GND2をSWにつなぎ、絶縁DC-DCの12VをVCC2とGND2の間に入れるので、SWが動いてもゲートには常にSW+12Vがかかる
絶縁型ゲートドライバでハイサイドを駆動する

解決策③|Pch MOSFETを使う(小電力向け)

3つ目の解決策は、そもそもPch(PチャネルMOSFET)を使ってしまうこと。Pchはソースを電源側、ドレインを負荷側に置くため、Nchとは逆に「ソースが電源電圧に固定」されます。

Pchの強み
ソースが電源電圧に固定されているので、ゲートを「電源 - 12V」まで下げればONできる。マイコン側からみても扱いやすく、ブートストラップも絶縁電源も不要。

Pchの弱点

  • オン抵抗が高い:同じサイズのNchの2〜3倍。発熱が大きい
  • 大電流に向かない:電流が大きくなるほど、オン抵抗の小さいNch+ハイサイドドライバが有利
  • 高耐圧品の選択肢が少ない:100V超の製品は限定的
  • 価格が高い:同じ性能のNchより割高

そのためPchは「電源スイッチ」「負荷スイッチ」「数A以下のシンプルなON/OFF」といった、低電力・低周波の用途に限定されます。インバータやモーター駆動で使われることはほぼありません。

解決策 適した電力 電圧 代表用途
Pch MOSFET 小(〜数A) 〜30V 電源スイッチ・負荷制御
ブートストラップ 中〜大 12V〜100V DC-DC・小型モータ
絶縁型ドライバ 大 100V〜800V 産業インバータ・EV
ハイサイドにNchとPchを使う回路の比較。Nchはドライバの VB・VS の間のブートストラップコンデンサCbootをDbootで12Vに充電してゲートを駆動する。Pchはソースを+Vにつなぎ、R1でゲートを+Vに戻し、小信号Nchでゲートを下げるとONする
ハイサイドにNchとPchを使う場合の比較
おすすめの本

パワーエレクトロニクスの全体を、図でつかみたいときに向いています。パワーエレクトロニクスを、カラーの図解で解説した本です。

解決策①のブートストラップ回路の仕組みは、次の記事でくわしく図解しています。

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ハーフブリッジ・Hブリッジ・3相インバータでの考え方

実際のパワエレ回路では、ハイサイドとローサイドが組み合わさった「ブリッジ構成」が頻出します。一気に整理しましょう。

ハーフブリッジ(MOSFET 2個)

ハイサイド1個+ローサイド1個。DC-DCコンバータの基本構成です。出力点(=2つのMOSFETの中点)から負荷に電流を流したり止めたりします。

現場の声
ハーフブリッジ専用のゲートドライバIC(例:IR2104、UCC27200)が世の中にたくさんあるのは、この構成があまりに頻出するからです。1つのICで両方のドライブを賄えるので、必ず候補に入れてください。

Hブリッジ(MOSFET 4個)

ハーフブリッジを2つ並べた構成。DCモータの正転・逆転制御に使われます。ハイサイドが2個、ローサイドが2個。

ハイサイドが2個もあるので、ブートストラップの設計や絶縁電源の数も増えます。「ハイサイドの数 = 用意する独立電源の数」と覚えてください(同じソース電位を共有する場合は除く)。

3相インバータ(MOSFET 6個)

ハーフブリッジを3つ並べた構成。3相モータ駆動の標準。EVや産業ロボット、エアコンのコンプレッサなど、ありとあらゆる場所に使われています。

ハイサイドが3個あり、それぞれソース電位が独立して動くため、絶縁型ドライバ+3つの絶縁電源が定石です。ブートストラップも使えますが、高デューティ・高信頼用途では絶縁型一択になります。

重要
ハイサイドとローサイドが同時にONすると「貫通電流(短絡電流)」が流れて、MOSFETが瞬時に破損します。これを防ぐため、必ず両者の間に「デッドタイム(数百ns〜数μs)」を入れる設計が必要です。
ハーフブリッジ・Hブリッジ・3相インバータの回路図。+VDCとGNDは共通で、ハイサイドのMOSFETが1個・2個・3個あり、出力点が相ごとに動くので浮いた電源も1つ・2つ・3つ要る
ハイサイドの数と、浮いた電源の数

まとめ|「ソースが浮いている」が全ての元凶

この記事の結論
  • ローサイドが簡単なのは、ソースがGND固定だから
  • ハイサイドが難しいのは、ソース電位が動く(浮いている)から
  • 解決策は3つ:ブートストラップ・絶縁型ドライバ・Pch MOSFET
  • 低電圧・小電力ならブートストラップ。高電圧・高信頼なら絶縁型
  • ハーフブリッジ以上の構成では「ハイサイドの数 = 独立電源の数」

「ハイサイド駆動が難しい」という言葉の裏側には、「ソースの電位がGNDに固定されない」という、たった1つのシンプルな事実がありました。これを理解しただけで、ブートストラップ回路も絶縁型ゲートドライバも「だから必要なんだ」と腑に落ちるはずです。

次に客先や上司から「なぜここはブートストラップ?」「なぜここは絶縁型?」と聞かれたら、「ハイサイドのソースが浮いているからです」と答え、用途・電圧・信頼性の3軸で論理的に説明できます。これが「自信を持って設計できる」という状態です。

テーマ別に、もっと深く学ぶ

気になるところから読んでも大丈夫です。どの記事も、はじめて学ぶ人向けにやさしく書いています。

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メーカーで電気設計と品質保証に携わってきた経験をもとに執筆しています。むずかしい専門用語をできるだけ使わず、はじめて学ぶ人がつまずかないように、図とたとえで説明することを大切にしています。

ハーフブリッジのハイサイドのソースは浮いているので特殊な駆動回路がいると考える技術者のイラスト
ハイサイドのソースは浮いているので専用の駆動回路がいる

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