- 先輩から「ハイサイドのMOSFETを駆動して」と言われたが、何が「ハイ」で何が「サイド」なのかピンとこない
- ローサイド駆動は普通にゲート抵抗をつなぐだけで動いたのに、ハイサイドにすると突然動かなくなった
- 「ハイサイドはブートストラップか絶縁型ドライバが必要」と言われたが、なぜそうなるのか理由を説明できない
- 客先レビューで「なぜハイサイドだけ複雑な回路を入れているの?」と聞かれて答えに詰まった
- ハイサイド・ローサイドの「位置関係」が3秒でわかる図解
- なぜハイサイドだけ駆動が難しいのか、本質的な理由
- 解決策3つ(ブートストラップ・絶縁型ドライバ・Pch MOSFET)の使い分け
- ハーフブリッジ・Hブリッジ・3相インバータでの考え方
結論を先に言います。ハイサイドが難しいのは「ソース端子の電位がGNDではなく浮いているから」です。これだけ理解すれば、ブートストラップ回路も絶縁型ドライバも「なるほど、そういうことか」とスッと頭に入ります。
前回の記事で「絶縁型と非絶縁型ゲートドライバの違い」を解説しましたが、そもそも「なぜハイサイドだと特殊な回路が必要なのか」を理解しないと、選定の根っこが理解できません。今回はその大前提を、徹底的に図解します。
目次
ハイサイド・ローサイドとは?位置の話
まずは言葉の意味から。これは難しい話ではありません。負荷(モーターやLEDなど)に対して、MOSFETが「上」にあるか「下」にあるか。それだけです。
ハイサイド
電源(+V)と負荷の間にMOSFETを置く配置。MOSFETが負荷の「上」にいる。駆動が難しい。
ローサイド
負荷とGNDの間にMOSFETを置く配置。MOSFETが負荷の「下」にいる。駆動がカンタン。
💡 覚え方:水道の蛇口の位置で覚える
水道管をイメージしてください。蛇口(=MOSFET)が、水を使う場所(=負荷)の上流にあるか下流にあるかの違いです。
上流(給水タンク側)に蛇口があるのが「ハイサイド」、下流(排水溝側)に蛇口があるのが「ローサイド」。どちらも水を止める機能は同じですが、蛇口を回す人の足場の高さが違うのです。これが後で重要になります。
回路図を見るときは「負荷を真ん中に置いて、MOSFETが上か下か」を確認してください。両方にあるパターン(ハーフブリッジ)もあります。これは後ほど解説します。

ローサイドはなぜ簡単なのか?
NchMOSFETをONするには、ゲート(G)とソース(S)の間に十分な電圧(Vgs = 10V〜15V程度)をかける必要があります。これは絶対のルール。
Vgs(ゲート - ソース間電圧) ≧ 閾値電圧 Vth
ローサイド配置では、ソース(S)がGNDに直接つながっている。つまりソースの電位は常に0V。だからゲートに「12V」を入れれば、それがそのまま「Vgs = 12V」になる。
ソースがGND(0V)に固定されているから、ゲートの電位 = Vgs。マイコンや非絶縁型ドライバから「12V」を出力するだけで簡単にONできる。これがローサイドが簡単な理由です。
ゲートドライバ自体もシンプルで、安価な非絶縁型ICで十分対応できます。これが「ローサイドは初心者向け」と言われる所以です。

ハイサイドが難しい本質|「足が浮いている」
ハイサイド配置では、MOSFETのソース(S)がGNDではなく、負荷の上端につながっています。ここが運命の分かれ目です。
📍 ソースの電位はどうなる?
| MOSFETの状態 | ソースの電位 | ゲートに必要な電圧 |
|---|---|---|
| OFF時 | 約0V(負荷を通じてGNDへ落ちる) | 12V でOK |
| ON時 | 電源電圧(例:48V)まで上がる | 48V + 12V = 60V 必要! |
これが衝撃の事実です。ハイサイドのMOSFETを完全にONさせるには、電源電圧よりも高い電圧をゲートに加えなければならないのです。
電源が12Vなら22V以上、電源が48Vなら58V以上、電源が400Vなら410V以上。「電源より上の電圧」をどこからか作って供給する必要がある。これが、ハイサイド駆動が複雑になる根本原因です。
🪜 たとえ話:はしごの上の作業員
ローサイドは「地面に立っている作業員」。地面(GND)から12cm上のスイッチを押すのは簡単です。
一方ハイサイドは「動くはしごの上の作業員」。はしごの高さが0mのときも10mのときも、常に「足元から12cm上」のスイッチを押し続けなければならない。地面の身長12cmではダメで、はしごが10mに上がったら身長10m12cmないと届かない。
これがハイサイド駆動の難しさです。ソース(=作業員の足元)が動くから、ゲート(=作業員の手)もそれに追従して動かないといけない。

解決策①|ブートストラップ回路(最も一般的)
最も多く使われる解決策がブートストラップ回路です。仕組みは「コンデンサに電気を貯めておいて、必要なときに足元から12V持ち上げる」というもの。
ローサイドがONのとき:ハイサイドのソース電位が0Vに近づく。この瞬間、ブートストラップコンデンサ(Cboot)が充電される。
ハイサイドをONにする瞬間:充電されたCbootが「ソース電位 + 12V」の電圧源として働き、ゲートを駆動する。
ソースが上昇する:MOSFETがONして負荷側電圧が上昇するが、Cbootも一緒に持ち上がるので、Vgsは常に12Vを保てる。
✅ ブートストラップのメリット・デメリット
💡 メリット
- 追加電源が不要(コンデンサ1個+ダイオード1個で済む)
- コストが安い
- 非絶縁型ドライバICに内蔵済みのものも多い
⚠️ デメリット
- 常時ONできない(コンデンサが放電してしまう)
- 定期的にローサイドONで充電する必要がある
- 高デューティ動作(90%以上)は苦手
- 1次側と絶縁できない
ブートストラップ回路の仕組み|ハイサイド駆動の「電源問題」を解決する →

解決策②|絶縁型ゲートドライバ(高電圧・高信頼用)
ブートストラップでは対応できない場面、つまり「常時ONが必要」「電圧が高すぎる(200V〜800V)」「安全規格対応が必須」の場合に登場するのが絶縁型ゲートドライバです。
発想の転換がポイント。ブートストラップは「足元から電圧を持ち上げる」発想ですが、絶縁型は「ハイサイドのソースを基準にした、独立した電源を最初から用意する」という発想です。
2次側(MOSFET側)に独立した絶縁電源(例:12V)を用意し、その電源の「マイナス側」をハイサイドMOSFETのソースに接続します。すると、ソース電位がいくら動いても、その上に常に12Vが乗っかっている状態が作れます。
🔁 絶縁型がブートストラップに勝るケース
| 用途 | ブートストラップ | 絶縁型ドライバ |
|---|---|---|
| 12V〜48V系のDC-DC | ◎ 第一選択 | △ オーバースペック |
| 100%デューティが必要 | ✕ 不可 | ◎ 余裕 |
| 産業用400Vインバータ | △ 信頼性に課題 | ◎ 標準 |
| CE/PSE認証取得 | ✕ 絶縁不可 | ◎ 必須 |

解決策③|Pch MOSFETを使う(小電力向け)
3つ目の解決策は、そもそもPch(PチャネルMOSFET)を使ってしまうこと。Pchはソースを電源側、ドレインを負荷側に置くため、Nchとは逆に「ソースが電源電圧に固定」されます。
ソースが電源電圧に固定されているので、ゲートを「電源 - 12V」まで下げればONできる。マイコン側からみても扱いやすく、ブートストラップも絶縁電源も不要。
⚠️ Pchの弱点
- オン抵抗が高い:同じサイズのNchの2〜3倍。発熱が大きい
- 大電流に向かない:50A以上ではNch+ハイサイドドライバが圧倒的に有利
- 高耐圧品の選択肢が少ない:100V超の製品は限定的
- 価格が高い:同じ性能のNchより割高
そのためPchは「電源スイッチ」「負荷スイッチ」「数A以下のシンプルなON/OFF」といった、低電力・低周波の用途に限定されます。インバータやモーター駆動で使われることはほぼありません。
| 解決策 | 適した電力 | 電圧 | 代表用途 |
|---|---|---|---|
| Pch MOSFET | 小(〜数A) | 〜30V | 電源スイッチ・負荷制御 |
| ブートストラップ | 中〜大 | 12V〜100V | DC-DC・小型モータ |
| 絶縁型ドライバ | 大 | 100V〜800V | 産業インバータ・EV |

ハーフブリッジ・Hブリッジ・3相インバータでの考え方
実際のパワエレ回路では、ハイサイドとローサイドが組み合わさった「ブリッジ構成」が頻出します。一気に整理しましょう。
🔵 ハーフブリッジ(MOSFET 2個)
ハイサイド1個+ローサイド1個。DC-DCコンバータの基本構成です。出力点(=2つのMOSFETの中点)から負荷に電流を流したり止めたりします。
ハーフブリッジ専用のゲートドライバIC(例:IR2104、UCC27200)が世の中にたくさんあるのは、この構成があまりに頻出するからです。1つのICで両方のドライブを賄えるので、必ず候補に入れてください。
🟢 Hブリッジ(MOSFET 4個)
ハーフブリッジを2つ並べた構成。DCモータの正転・逆転制御に使われます。ハイサイドが2個、ローサイドが2個。
ハイサイドが2個もあるので、ブートストラップの設計や絶縁電源の数も増えます。「ハイサイドの数 = 用意する独立電源の数」と覚えてください(同じソース電位を共有する場合は除く)。
🔴 3相インバータ(MOSFET 6個)
ハーフブリッジを3つ並べた構成。3相モータ駆動の標準。EVや産業ロボット、エアコンのコンプレッサなど、ありとあらゆる場所に使われています。
ハイサイドが3個あり、それぞれソース電位が独立して動くため、絶縁型ドライバ+3つの絶縁電源が定石です。ブートストラップも使えますが、高デューティ・高信頼用途では絶縁型一択になります。
ハイサイドとローサイドが同時にONすると「貫通電流(短絡電流)」が流れて、MOSFETが瞬時に破損します。これを防ぐため、必ず両者の間に「デッドタイム(数百ns〜数μs)」を入れる設計が必要です。

まとめ|「ソースが浮いている」が全ての元凶
- ローサイドが簡単なのは、ソースがGND固定だから
- ハイサイドが難しいのは、ソース電位が動く(浮いている)から
- 解決策は3つ:ブートストラップ・絶縁型ドライバ・Pch MOSFET
- 低電圧・小電力ならブートストラップ。高電圧・高信頼なら絶縁型
- ハーフブリッジ以上の構成では「ハイサイドの数 = 独立電源の数」
「ハイサイド駆動が難しい」という言葉の裏側には、「ソースの電位がGNDに固定されない」という、たった1つのシンプルな事実がありました。これを理解しただけで、ブートストラップ回路も絶縁型ゲートドライバも「だから必要なんだ」と腑に落ちるはずです。
次に客先や上司から「なぜここはブートストラップ?」「なぜここは絶縁型?」と聞かれたら、「ハイサイドのソースが浮いているからです」と答え、用途・電圧・信頼性の3軸で論理的に説明できます。これが「自信を持って設計できる」という状態です。
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