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EMC(電磁環境適合性)の世界では、ノイズを大きく2種類に分けて考えます。それが「伝導ノイズ」と「放射ノイズ」です。
これはEMC対策の最も基本的な分類であり、この2つの違いがわかっていないと、永遠に「フェライトを貼ってみたけどダメだった」「シールドを付けたけどなぜか効かない」という迷路をさまよい続けることになります。
この記事では、パワエレ基板設計の現場で日々ノイズと格闘してきた筆者が、この2つの違いと対策法の使い分けを「郵便と拡声器」のたとえで徹底的にわかりやすく解説します。

伝導ノイズと放射ノイズの全体像|「郵便」と「拡声器」で理解する
まずはたとえ話で掴む
ノイズの伝わり方は、「迷惑な情報がどうやって隣の家に届くか」にたとえるとわかりやすくなります。
この2つでは、ノイズが伝わる「経路」がまったく異なります。だから対策方法もまったく異なるのです。ポストに鍵をかけても拡声器の音は止まりませんし、防音壁を作っても手紙は届き続けます。
これがEMC対策で「フィルタを入れたのにダメだった」「シールドしたのに効果がない」が起こる根本原因です。ノイズの伝わり方を間違えると、対策が的外れになるのです。
伝導ノイズ vs 放射ノイズ ひと目でわかる完全比較表
| 比較項目 | 伝導ノイズ(Conducted Emission) | 放射ノイズ(Radiated Emission) |
|---|---|---|
| 伝わる経路 | 線(導体)を通る | 空間(電磁波)を飛ぶ |
| たとえ | 怪文書の郵便 | 拡声器の騒音 |
| 主な周波数帯 | 150 kHz 〜 30 MHz | 30 MHz 〜 1 GHz(6 GHz) |
| 測定方法 | LISN+EMIレシーバ | 電波暗室+アンテナ |
| 主な対策手法 | フィルタ(コンデンサ、チョーク、EMIフィルタ) | シールド+レイアウト(筐体、GNDプレーン、ループ面積最小化) |
| 主な発生源 | スイッチング電源のリプル、高調波 | 高速デジタル信号、ケーブルからの放射 |
| 規格例 | CISPR 32, CISPR 11, FCC Part 15 | CISPR 32, CISPR 11, FCC Part 15 |

伝導ノイズ対策の具体|入力フィルタの決め方
電源の入口に入れるLCフィルタ(コイルとコンデンサ)は、遮断周波数 fc = 1 ÷ (2π√(LC)) より上の周波数を減らします。理想的には、fc の10倍の周波数で約1/100(−40dB)まで下がります。
計算例:L=10µH、C=10µF なら、√(LC)=√(1×10⁻¹⁰)=1×10⁻⁵。fc=1÷(2π×10⁻⁵)≒15.9kHz。測定の下限150kHzは fc の約9.4倍なので、理想的には (9.4)²≒89倍、約39dB下がる計算です。実際は部品の寄生成分(コイルの巻線間の容量、コンデンサのESL)で、高い周波数ほど効きが落ちます。
伝導ノイズを深掘り|「線を伝わるノイズ」のメカニズムと対策
伝導ノイズとは何か
伝導ノイズとは、電源ケーブルや信号ケーブル、基板の配線パターンなどの「導体」を通じて伝わるノイズのことです。英語では Conducted Emission(CE)と呼ばれます。
たとえば、あなたが設計したDC-DCコンバータのスイッチングノイズが、電源ケーブルを通じて外部に流れ出し、同じコンセントにつながっている他の機器に悪影響を与える。これが伝導ノイズの典型的なシナリオです。
伝導ノイズはさらに、電流の流れ方によって「ノーマルモード(差動モード)」と「コモンモード(同相モード)」に分類されます。この2つのモードの違いは、対策部品の選択に直結する非常に重要な概念です。
伝導ノイズの測定方法|LISNとは何か
伝導ノイズを測定するときに使われるのがLISN(Line Impedance Stabilization Network:擬似電源回路網)という装置です。「りずん」と読みます。
LISNの役割はシンプルで、以下の2つです。
被試験機器(EUT)と商用電源の間にLISNを挿入し、電源ラインに乗ったノイズ電圧をEMIレシーバ(スペクトラムアナライザ)で測定します。測定周波数帯は150 kHz 〜 30 MHzがCISPR規格の標準です。
伝導ノイズの主な対策手法
伝導ノイズは「線を伝わる」ので、線の途中で止めるのが基本戦略です。「ポストに鍵をかける」と同じ発想ですね。
| 対策手法 | 内容 | 効くモード |
|---|---|---|
| Xコンデンサ | ライン間(L-N)に接続し、ノーマルモードノイズをバイパスする | ノーマル |
| Yコンデンサ | ライン-GND間に接続し、コモンモードノイズを大地に逃がす | コモン |
| コモンモードチョーク | 1つのコアに2本の線を巻き、コモンモード電流に高インピーダンスを示す | コモン |
| ノーマルモードチョーク | ラインに直列にインダクタを挿入し、ノーマルモードの高周波を減衰させる | ノーマル |
| EMCフィルタモジュール | 上記を組み合わせたオールインワンフィルタ。電源入力部に配置 | 両方 |

放射ノイズを深掘り|「空を飛ぶノイズ」のメカニズムと対策
放射ノイズとは何か
放射ノイズとは、電磁波として空間に放射される不要なノイズのことです。英語では Radiated Emission(RE)と呼ばれます。
電流が流れるところには磁界が生まれ、電圧が変化するところには電界が生まれます。これが空間に伝搬すると「電磁波」になるわけですが、意図せず放射されてしまう電磁波がまさに「放射ノイズ」です。
放射ノイズの発生源は大きく2種類に分けられます。
放射ノイズの測定方法|電波暗室とアンテナ
放射ノイズは「空を飛ぶ」ので、測定には電波暗室(Anechoic Chamber)とアンテナを使います。
電波暗室は壁面が電波吸収体で覆われた特殊な部屋で、外部からの電波を遮断しつつ、壁の反射もなくすことで正確な測定を可能にします。被試験機器から3 mまたは10 m離れた位置にアンテナを設置し、放射される電磁波の電界強度を測定します。
測定周波数帯は30 MHz 〜 1 GHzが基本です(最近の規格では6 GHzまで要求される場合もあります)。アンテナは周波数帯によって使い分け、30〜200 MHzはバイコニカルアンテナ、200 MHz〜1 GHzはログペリオディックアンテナなどが一般的です。
放射ノイズの主な対策手法
放射ノイズは「空を飛ぶ」ので、飛ばさない+閉じ込めるの2段構えが基本です。
| 対策手法 | 内容 |
|---|---|
| 電流ループ面積の最小化 | スイッチング電流のループを小さくすることで、放射そのものを減らす。最も根本的な対策 |
| GNDプレーンの確保 | ベタGNDプレーンを設けることで、高周波電流の帰路をすぐ近くに用意し、ループ面積を自動的に最小化 |
| シールド(筐体の金属化) | 金属筐体で電磁波を閉じ込める。開口部を減らし、隙間のないシールド構造にすることが重要 |
| ケーブルのコモンモード対策 | ケーブル出入口にコモンモードチョークやフェライトコアを配置し、ケーブルからの放射を抑制 |
| スイッチング速度の最適化 | ゲート抵抗を調整してdV/dt・dI/dtを遅くする。効率とのトレードオフがあるが、放射を根本から減らせる |

ラインフィルタを電源の入口に入れる理由
なぜ「30 MHz」が境界線なのか?|物理的な理由を理解する
30 MHzの波長は「10メートル」
EMC規格で伝導エミッションを150 kHz〜30 MHz、放射エミッションを30 MHz〜1 GHzと区切っているのは、単なる慣例ではありません。物理的な理由があります。
電磁波の波長は「光速÷周波数」で計算できます。30 MHzの波長を計算すると、
30 MHzの電磁波の波長は10メートル。つまり、一般的な電源ケーブルの長さ(1〜3 m)は、30 MHz以下ではアンテナとして効率的に動作するには短すぎるのです。
アンテナが効率よく電磁波を放射するには、おおむねλ/4以上の長さが必要です。30 MHzでのλ/4は約2.5 m。1 m程度のケーブルでは放射効率が低く、ノイズは「線の中を伝わる」形態のままです。
しかし30 MHzを超えると波長が急速に短くなり、数十cmの配線やケーブルでも効率的なアンテナとして動作し始めます。こうなるとノイズは「空を飛ぶ」形態にシフトするのです。
| 周波数 | 波長 λ | λ/4 | 主な伝搬形態 |
|---|---|---|---|
| 1 MHz | 300 m | 75 m | 伝導 |
| 10 MHz | 30 m | 7.5 m | 伝導 |
| 30 MHz | 10 m | 2.5 m | ⬅ 境界線 |
| 100 MHz | 3 m | 75 cm | 放射 |
| 1 GHz | 30 cm | 7.5 cm | 放射 |
伝導ノイズと放射ノイズは「別物」ではなく「つながっている」
伝導ノイズが放射ノイズに「変身」する
ここで実務的に非常に重要なポイントがあります。伝導ノイズと放射ノイズは完全に独立した現象ではなく、互いに変換されるのです。
一般に、ノイズはノーマルモードで発生し、回路のアンバランスや浮遊容量でコモンモードに変わり、ケーブルや筐体をアンテナとして放射される、という流れで説明されます。
つまり、「放射ノイズが出ている」と思っても、真の原因は伝導ノイズ(コモンモード電流)だったというケースが非常に多いのです。放射エミッション試験で不合格になったら、まず「ケーブルにコモンモード電流が流れていないか?」を疑うのが鉄則です。

実務でのEMC対策フローチャート|何から手をつけるべきか
EMC試験でNGが出たときの対策フロー
ここまでの知識を踏まえて、EMC試験で不合格になったときに「何から手をつけるべきか」を整理しましょう。
設計段階で押さえるべき「先手の対策」
もちろん、EMC試験でNGが出てから対策するのは最終手段です。設計段階で以下のポイントを押さえておくことで、「一発合格」の確率を大幅に高められます。
| 段階 | 対策(伝導対策) | 対策(放射対策) |
|---|---|---|
| 回路設計 | EMCフィルタ(X, Y, CMC)を電源入力部に確保 | スナバ回路で急峻な電圧変化を緩和 |
| 基板設計 | フィルタ部品をコネクタ近くに配置 | ループ面積最小化、GNDプレーン確保、スリット禁止 |
| 筐体設計 | ケーブル出入口にフィルタ or フェライトの設置スペースを確保 | 金属筐体で遮蔽、開口部を最小化、GND接続を確実に |

よくある質問(FAQ)
Q1:伝導ノイズ対策だけやっていれば、放射ノイズも減りますか?
部分的にはYesです。伝導ノイズ(特にコモンモード電流)がケーブルを通じて放射ノイズに変換されるケースが多いので、電源ラインのフィルタを強化するとケーブルからの放射も減ることがあります。しかし、基板上のループ面積に起因する直接放射には効果がありません。「伝導を止めたのに放射が残る」場合は、レイアウトの見直しが必要です。
Q2:「伝導エミッション」と「伝導イミュニティ」は同じ意味ですか?
いいえ、まったく逆の概念です。伝導エミッションは「自分のノイズが外に出ないようにする(加害者対策)」であり、伝導イミュニティは「外から来るノイズに耐える(被害者対策)」です。EMC対策では、エミッション(出さない)とイミュニティ(耐える)の両方を設計する必要があります。
Q3:放射ノイズの規格が「Class A」と「Class B」に分かれるのはなぜですか?
Class Aは主に工業・商業環境(工場・オフィスなど)で使用される機器に適用される基準で、限度値が比較的緩いです。Class Bは家庭用機器に適用される基準で、限度値が厳しいです。家庭では近くにテレビやラジオなど影響を受けやすい機器が多いため、より厳しい基準が設けられています。一般的にClass Bの方が約10 dB(電界強度で約3倍)厳しくなっています。
Q4:30 MHz付近で伝導も放射もオーバーしている場合は?
30 MHz付近は伝導と放射の「重なり」がある周波数帯です。ケーブルの長さがアンテナとしてちょうど効き始める周波数帯でもあるため、ケーブルに乗った伝導ノイズ(コモンモード電流)が放射に変換されているケースが多いです。この場合はコモンモード対策(コモンモードチョーク、Yコンデンサ)に集中することで、伝導と放射の両方を同時に改善できることがあります。

まとめ|ノイズの「伝わり方」がわかれば、対策の方向性が見える
EMC対策は「やみくもに部品を追加する」のではなく、ノイズの伝わり方を理解した上で、正しい対策を正しい場所に適用することが大切です。この記事で伝導ノイズと放射ノイズの違いが理解できたなら、もう対策の方向性を間違えることはないでしょう。
この記事が、あなたのEMC設計の一助となれば幸いです。

