- RCスナバ回路の損失が大きすぎて、抵抗が熱くなって困っている…
- RCDスナバって聞いたことあるけど、RCスナバと何が違うの?
- ダイオードを追加するだけで本当に損失が減るの?
- RCDスナバ回路が「エネルギーを捨てずに回生する」仕組み
- RCスナバとRCDスナバの決定的な違い
- RCDスナバの設計手順と部品選定のポイント
前回の記事で、RCスナバ回路の設計計算について解説しました。しかし、RCスナバには「毎回のスイッチングでエネルギーを熱として捨てる」という宿命的な欠点があります。
スイッチング周波数が高くなればなるほど、損失は増大します。100kHzで動作させると、小さなスナバ回路でも数ワット〜数十ワットの発熱になることも珍しくありません。
この問題を解決するのが、今回紹介する「RCDスナバ回路」です。ダイオード(D)を1つ追加するだけで、捨てていたエネルギーを電源に返すことができます。
目次
RCスナバの「もったいない」問題
まず、RCスナバ回路が抱える根本的な問題を理解しましょう。
RCスナバのエネルギーの流れ
RCスナバ回路では、以下のサイクルが毎回のスイッチングで繰り返されます。
寄生インダクタンスに蓄えられたエネルギーがサージ電圧として現れる
サージエネルギーがコンデンサに充電される
コンデンサに溜まったエネルギーが抵抗ですべて熱として消費される
このサイクルがスイッチング周波数の回数だけ繰り返される
RCスナバでは、吸収したサージエネルギーを100%熱に変換しています。これは「せっかく集めたお金を毎回シュレッダーにかけている」ようなものです。スイッチング周波数が高いほど、この「もったいない」が積み重なります。
損失の計算式をおさらい
RCスナバの損失は、以下の式で計算できました。
例えば、C = 10nF、V = 400V、fsw = 100kHz の場合、
PRC = 0.5 × 10 × 10⁻⁹ × 400² × 100 × 10³
PRC = 0.5 × 10 × 10⁻⁹ × 160000 × 100000
PRC = 80 W !
80Wもの損失が、たった1つのスナバ回路から発生します。これを熱として捨て続けるのは、あまりにも非効率です。

RCDスナバ回路とは?|ダイオードで「回生」する
RCDスナバ回路は、RCスナバにダイオード(D)を1つ追加した回路です。このダイオードが「エネルギーの一方通行」を作り出し、捨てていたエネルギーを電源に戻します。
RCDスナバの動作原理
RCDスナバには主に2つの構成がありますが、ここでは最も一般的な「放電クランプ型」を解説します。
ここまではRCスナバと同じ。サージエネルギーがコンデンサCに充電される
コンデンサ電圧が電源電圧を超えると、ダイオードが導通
コンデンサに溜まったエネルギーが電源側に戻る(熱にならない!)
エネルギーを回生しながらサイクルが繰り返される
電車のブレーキを想像してください。普通のブレーキは運動エネルギーを熱として捨てます(RCスナバ)。一方、電車の「回生ブレーキ」はブレーキ時のエネルギーを電気に変換して架線に戻します(RCDスナバ)。捨てるのではなく、再利用するのです。
なぜダイオード1つで回生できるのか?
ダイオードの役割は「電流の一方通行」を作ることです。
RCスナバ(ダイオードなし)
コンデンサに溜まったエネルギーは抵抗を通って放電するしかない。
→ 結果:すべて熱に変換
RCDスナバ(ダイオードあり)
ダイオードが電源への「帰り道」を作る。コンデンサ電圧が電源電圧を超えたら、ダイオード経由で電源に戻る。
→ 結果:エネルギー回生
水道で例えると、RCスナバは「排水溝に流すしかない」状態。RCDスナバは「逆流防止弁を使って、余った水をタンクに戻せる」状態です。

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RCスナバ vs RCDスナバ|徹底比較
ここで、RCスナバとRCDスナバの違いを整理しましょう。
比較表:RCスナバ vs RCDスナバ
| 比較項目 | RCスナバ | RCDスナバ |
|---|---|---|
| 構成部品 | R + C(2点) | R + C + D(3点) |
| エネルギーの行方 | 100% 熱に変換 | 大部分を電源に回生 |
| 損失 | 大きい | 小さい |
| 発熱 | 大きい(抵抗が熱くなる) | 小さい |
| コスト | 安い | やや高い(ダイオード追加) |
| 設計の複雑さ | シンプル | やや複雑 |
| 高周波動作 | 損失増大で不利 | 有利 |
| 主な用途 | 低周波・小電力 | 高周波・大電力 |
RCDスナバのメリット
✅ 損失が大幅に減る
エネルギーを熱に変換せず電源に戻すため、損失を50〜80%削減できることも
✅ 抵抗の発熱が減る
抵抗の定格を下げられるため、部品の小型化が可能
✅ 効率が向上する
回生したエネルギーは再利用されるため、システム全体の効率UP
RCDスナバのデメリット
❌ 部品点数が増える
ダイオードが追加されるため、コストと実装面積が増加
❌ ダイオードの選定が必要
高速・高耐圧のダイオードが必要で、選定を間違えると効果が出ない
❌ 設計がやや複雑
ダイオードの順方向電圧降下やリカバリ特性を考慮する必要あり
RCスナバが向いているケース:低周波(〜数十kHz)、小電力、コスト重視、設計をシンプルにしたい
RCDスナバが向いているケース:高周波(100kHz〜)、大電力、効率重視、発熱を抑えたい

RCDスナバ回路の設計手順
RCDスナバ回路の設計は、基本的にはRCスナバと同じ考え方です。ただし、ダイオードの選定が追加されます。
設計フロー
STEP 1〜3:C と R の設計(RCスナバと同じ)
コンデンサ容量Cと抵抗値Rの計算は、RCスナバと基本的に同じです。
コンデンサ容量 C
C = L × I² / ΔV²抵抗値 R(臨界減衰)
R = 2 × √(L / C)RCDスナバでは、Rの役割が少し変わります。エネルギーはダイオード経由で回生されるため、Rは主に「リンギングの減衰」と「コンデンサ電圧のリセット」のために使われます。そのため、RCスナバより小さめの抵抗値でも動作することが多いです。
STEP 4:ダイオード D の選定
RCDスナバで最も重要なのがダイオードの選定です。以下のポイントを確認しましょう。
| チェック項目 | 確認内容 | 推奨 |
|---|---|---|
| 逆耐圧 VR | Vmax 以上か | Vmax × 1.5倍以上 |
| 順方向電流 IF | ピーク電流に耐えられるか | I × 2倍以上 |
| 逆回復時間 trr | スイッチング速度に追従できるか | 高速リカバリ品(trr < 100ns) |
| 順方向電圧 VF | 損失に影響 | 低いほど良い(ショットキー推奨) |
RCDスナバでは、スイッチング速度に追従できる「高速ダイオード」が必須です。汎用ダイオード(1N400xシリーズなど)は遅すぎて使えません。ファストリカバリダイオードかショットキーバリアダイオードを選びましょう。
推奨ダイオードの種類
🔹 ファストリカバリダイオード
- trr : 20〜100ns
- 耐圧:〜600V程度まで対応
- コスト:比較的安価
- 用途:汎用的に使える
🔸 ショットキーバリアダイオード
- trr : ほぼゼロ(超高速)
- 耐圧:〜100V程度が限界
- VF : 低い(0.3〜0.5V)
- 用途:低電圧・高効率向け
ダイオードの特性|整流作用と順方向電圧降下 →

RCDスナバの損失計算
RCDスナバでは、どれくらい損失を削減できるのでしょうか?計算式を見てみましょう。
RCDスナバの損失内訳
RCDスナバの損失は、主に以下の3つから構成されます。
① 抵抗での損失(大幅に減少)
クランプ電圧と電源電圧の差分のエネルギーのみ熱に変換② ダイオードの順方向損失
VF × 回生電流による損失(小さい)③ ダイオードのスイッチング損失
逆回復時の損失(高速品なら小さい)損失の比較計算
理想的なRCDスナバでは、コンデンサに充電されたエネルギーのうち「電源電圧を超えた分」だけが熱になります。
Vclamp:クランプ電圧(サージのピーク電圧)
計算例:損失の比較
以下の条件で、RCスナバとRCDスナバの損失を比較してみましょう。
| コンデンサ容量 C | 10 nF |
| 電源電圧 VDC | 300 V |
| クランプ電圧 Vclamp | 400 V |
| スイッチング周波数 fsw | 100 kHz |
🔥 RCスナバの損失
P = ½ × C × V² × f
P = 0.5 × 10×10⁻⁹ × 400² × 100×10³
PRC = 80 W
♻️ RCDスナバの損失
P = ½ × C × ΔV² × f
P = 0.5 × 10×10⁻⁹ × 100² × 100×10³
PRCD = 5 W
約 94% の損失削減を実現
実際にはダイオードの損失なども加わりますが、それでもRCスナバに比べて大幅な損失削減が可能です。
RCスナバでは「400V分のエネルギー」を毎回捨てていました。RCDスナバでは「400V − 300V = 100V分のエネルギー」だけを捨て、残りの300V分は電源に戻しています。つまり、電源電圧を超えた「オーバーシュート分」だけが損失になるのです。

設計時の注意点とトラブルシューティング
よくある失敗パターンと対策
❌ 失敗①:遅いダイオードを使った
症状:回生が間に合わず、RCスナバと同等の損失
対策:trr < 100ns のファストリカバリ品に変更
❌ 失敗②:ダイオードの向きが逆
症状:まったく回生されない、最悪の場合素子破壊
対策:回路図と実装を再確認
❌ 失敗③:ダイオードの耐圧不足
症状:ダイオードがブレークダウン、発熱・破壊
対策:Vmax × 1.5倍以上の耐圧品を選定
❌ 失敗④:配線が長すぎる
症状:配線のインダクタンスで回生効率が低下
対策:スナバ部品はスイッチ素子の近くに配置
設計チェックリスト
✅ RCDスナバ設計の確認項目

まとめ
RCDスナバ回路について、RCスナバとの違いから設計のポイントまで解説しました。
📌 この記事のポイント
- RCスナバ:エネルギーを100%熱に変換(損失大)
- RCDスナバ:ダイオードでエネルギーを電源に回生(損失小)
- RCDスナバでは損失を50〜90%削減できることも
- ダイオードは高速リカバリ品(trr < 100ns)を選ぶ
- 高周波・大電力の用途ではRCDスナバが有利
RCスナバ
シンプル・低コスト
低周波・小電力向け
RCDスナバ
高効率・低発熱
高周波・大電力向け
どちらのスナバを選ぶかは、スイッチング周波数・電力・コスト・熱設計のバランスで決まります。用途に合わせて最適なスナバ方式を選択してください。
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