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DC-DCコンバータの周辺部品――特にインダクタと出力コンデンサ――の値をどう決めればいいのか。電源設計の初心者がまずぶつかる壁がここです。
メーカーのアプリケーションノートを読むと、いきなり数式の嵐。EDN Japanの有名な連載「たった2つの式で始めるDC/DCコンバーターの設計」は良い教材ですが、微分方程式の導出過程が入るため「超初心者」には少しハードルが高い。
この記事では、数式の「なぜそうなるのか」を、工場の生産ラインや水道の蛇口に例えて徹底的に噛み砕きます。最終的に手を動かす計算は「たった2つの式」だけ。12V→3.3V、2Aという実務でよくある条件で、途中式をすべて書きながら一緒に計算していきましょう。
まず全体像を掴もう|DC-DCコンバータで決めるべき「3つの部品」
降圧DC-DCコンバータの回路は、大きく分けると以下の5つの要素で構成されています。
| 要素 | 役割(ひと言で) | 自分で決める? |
|---|---|---|
| スイッチ(MOSFET) | 電源を高速でON/OFFする | IC内蔵が多い |
| ダイオード(or 同期FET) | スイッチOFF時に電流を流す | IC内蔵が多い |
| インダクタ(L) | エネルギーを貯めて、出力に渡す | 自分で決める |
| 出力コンデンサ(COUT) | 電圧の「波打ち」を平滑にする | 自分で決める |
| 入力コンデンサ(CIN) | 入力電圧の急変動を吸収 | データシート推奨値でOK |
現在主流の「スイッチ内蔵型IC」を使う場合、設計者が自分で計算して決めるべき部品は、実質的にインダクタ L と 出力コンデンサ COUT の2つです。そしてこの2つを決めるために使う式も、それぞれ1つずつ。つまり「たった2つの式」で設計の核心部分が決まります。

動作原理を「蛇口と浴槽」で理解する
計算式の意味を理解するためには、まず降圧DC-DCコンバータが「何をやっているか」をイメージできる必要があります。ここでは「蛇口と浴槽」の比喩で説明します。
蛇口モデル:スイッチ=蛇口、インダクタ=ホース、コンデンサ=浴槽
降圧DC-DCコンバータの動作を、この蛇口モデルで説明すると次のようになります。

「リップル電流 ΔIL」を理解する ── すべての計算の出発点
2つの式を使うためには、まず「リップル電流 ΔIL(デルタ・アイ・エル)」の概念を理解する必要があります。これが電源設計の最重要キーワードです。
リップル電流とは?── インダクタ電流の「揺れ幅」
スイッチがON/OFFを繰り返すたびに、インダクタに流れる電流は三角波状に増減します。この増減の幅(ピークtoピーク)がリップル電流 ΔIL です。
重要なのは、インダクタ電流の平均値 = 出力電流 IOUT だということです。三角波の「中心線」が出力電流になります。リップル電流 ΔIL は、その中心線の上下にどれだけ揺れるかを表しています。
「リップル電流30%ルール」── 設計の出発点
では ΔIL はいくつに設定すればいいのでしょうか? ICメーカー各社(Texas Instruments、ROHM、Analog Devices)のアプリケーションノートでは、共通して次の目安を推奨しています。
なぜ20%〜40%なのでしょうか? これはトレードオフのバランスです。
| ΔIL を小さくする(例:10%) | ΔIL を大きくする(例:50%) | |
|---|---|---|
| インダクタンス L | 大きくなる → 部品が大型化する | 小さくなる → 部品は小型になる |
| 出力リップル電圧 | 小さい → 出力が安定する | 大きい → 出力が波打つ |
| インダクタのピーク電流 | 低い → 飽和しにくい | 高い → 飽和電流に余裕が必要 |
| 負荷応答性 | 悪い → 急な負荷変動に弱い | 良い → 変動に追従しやすい |
つまり、リップル電流を小さくすると出力は安定しますがインダクタが大きくなり、大きくすると部品は小型化しますが出力が波打ちます。20%〜40%はその「ちょうどいいところ」なのです。

【式①】インダクタンス L の計算 ── 「ホースの太さ」を決める
いよいよ1つ目の式です。降圧DC-DCコンバータのインダクタンスは、以下の式で計算します。
この式の「意味」を日本語で読む
この式が言っていることを日本語に翻訳すると、こうです。
蛇口モデルで言えば、こういうことです。
| パラメータ | 蛇口モデルでの意味 | L への影響 |
|---|---|---|
| VIN − VOUT が大きい | 水道の水圧が高い → ホースが一気に膨らむ | L を大きくして抑える |
| fSW が高い | 蛇口の開閉が速い → 1回あたりの膨らみが少ない | L は小さくて済む |
| ΔIL が大きい(許容する) | 多少の揺れはOKとする | L は小さくて済む |
この式はどこから来たのか?(知りたい人向け)
インダクタの基本式は V = L × dI/dt です。「インダクタにかかる電圧 V は、電流の変化速度 dI/dt にインダクタンス L をかけたもの」。これを降圧コンバータのスイッチON期間に当てはめると、次のようになります。
スイッチON期間にインダクタにかかる電圧は(VIN − VOUT)、ON時間は D/fSW(= VOUT/(VIN × fSW))、その間に電流が ΔIL だけ増えるので、
途中の D = VOUT/VIN を代入しただけで、微分方程式を解く必要はありません。V = L × dI/dt を知っていれば導出できる式です。

【式②】出力コンデンサ COUT の計算 ── 「浴槽の大きさ」を決める
インダクタンスが決まれば、リップル電流 ΔIL が確定します。次はこのリップル電流を受け止めて、出力電圧の「波打ち(リップル電圧 ΔVOUT)」を許容範囲内に収めるための出力コンデンサ COUT を決めます。
この式の「意味」を日本語で読む
浴槽モデルで言えば、「ホースから入ってくる水の脈動(ΔIL)が大きいほど水面が揺れる。浴槽(COUT)を大きくすれば揺れは収まる。蛇口の開閉が速ければ(fSW が高い)、1回あたりの揺れは小さくなる」ということです。
極性を反転させない昇降圧、SEPIC

実践!VIN=12V → VOUT=3.3V、2A で計算してみよう
ここからは、実務でよくある条件を使って、2つの式に実際に数値を代入していきます。途中式はすべて書きますので、電卓を片手に一緒に計算してみてください。
設計条件の確認
| パラメータ | 値 | 備考 |
|---|---|---|
| VIN | 12V | 入力電圧 |
| VOUT | 3.3V | 出力電圧 |
| IOUT | 2A | 最大出力電流 |
| fSW | 500kHz | スイッチング周波数(ICのデータシートで確認) |
| ΔVOUT | 30mV(0.03V) | 許容リップル電圧(出力電圧の約1%) |
| リップル率 r | 0.3(30%) | ΔIL / IOUT |
STEP 0:リップル電流 ΔIL を決める
STEP 1:式① でインダクタンス L を計算する
STEP 2:インダクタのピーク電流を確認する
選定するインダクタの飽和電流(Isat)は、このピーク電流 2.3A 以上でなければなりません。データシートで「飽和電流」または「直流重畳電流」の欄を確認してください。安全マージンとして、ピーク電流の1.2〜1.5倍程度を目安にすると安心です。
STEP 3:式② で出力コンデンサ COUT を計算する

計算結果まとめ ── これが「たった2つの式」で導かれた答え
以上が「たった2つの式」による降圧DC-DCコンバータの設計の核心です。計算自体は中学生の四則演算で済みます。重要なのは「なぜこの式なのか」「パラメータを変えると何が変わるのか」を理解しておくことです。

インダクタ選定の実務チェックリスト ── L値だけでは不十分
式①でインダクタンスの「値」は決まりましたが、実際の部品選定ではそれ以外にも確認すべき項目があります。以下のチェックリストを使ってください。
インダクタ選定 5つのチェック項目
| # | チェック項目 | どこを見る? | 今回の例での判定基準 |
|---|---|---|---|
| 1 | インダクタンス値 | 式①の計算結果 | ≧ 8.0μH → 10μHを選定 |
| 2 | 飽和電流(Isat) | インダクタのデータシート | ≧ ILPEAK(2.3A)× 1.2 ≈ 2.8A |
| 3 | 定格電流(Irms) | インダクタのデータシート | ≧ IOUT(2A)… 発熱による温度上昇が許容範囲内か |
| 4 | DCR(直流抵抗) | インダクタのデータシート | 小さいほど効率が良い。銅損 = IOUT² × DCR |
| 5 | 外形サイズ | 基板のスペースとの兼ね合い | 大きい部品ほど飽和電流に余裕あり。スペースとのトレードオフ |

よくある疑問 Q&A ── 初心者がつまずくポイント
Q1. データシートに「推奨インダクタ 2.2μH」と書いてあるのに、自分で計算すると8μHになる。どっちが正しい?
どちらも「間違い」ではありません。ICのデータシートに記載された推奨値は、特定の条件(入力電圧、出力電流、スイッチング周波数)でのリップル率を考慮した値です。あなたの設計条件(VIN, VOUT, IOUT, fSW)が異なれば、計算結果も変わります。
初心者はまずデータシートの推奨値を使うのが安全です。自分で計算するのは、推奨範囲が広く書かれている場合や、推奨値がない場合、あるいは推奨値の「なぜ」を理解したい場合です。
Q2. スイッチング周波数 fSW はどこで確認する?自分で決められる?
fSW はICのデータシートで確認します。固定周波数のICもあれば、外付け抵抗で設定できるICもあります。一般的な範囲は 100kHz〜3MHz です。周波数が高いほど L と COUT は小さくできますが、スイッチング損失が増えて効率が下がります。
Q3. 式②の「8」はどこから来た数字?
三角波のリップル電流がコンデンサに充放電される際、1スイッチングサイクルの中で「充電される区間」は半サイクル(1/2)で、その三角波の平均電流は最大値の半分(1/2)です。つまり充放電される電荷量 Q = ΔIL × (1/2) × (1/2) × (1/fSW) = ΔIL / (8 × fSW)。 ΔVOUT = Q / COUT から COUT を求めると、式②になります。
Q4. 入力コンデンサ CIN は計算しなくていいの?
入力コンデンサは出力コンデンサとは異なり、瞬間的な大電流(パルス状電流)を供給する役割があります。ICのデータシートにほぼ必ず推奨値が書かれているので、それに従ってください。一般的にはセラミックコンデンサ 4.7μF〜10μF(X5R/X7R)をVINピンの直近に配置します。

まとめ ── 降圧DC-DCコンバータ設計のフローチャート
この記事で学んだ内容を、1枚のフローチャートにまとめます。次に電源回路を設計するときは、このチャートに沿って進めてください。

さらに深く学びたい方へ ── 参考リンクと次に読むべき記事
この記事の参考にしたリソース(外部リンク)
より詳しく学びたい方は、以下のメーカー公式リソースを参照してください。本記事の計算式は、これらのアプリケーションノートに基づいています。
- Texas Instruments「Basic Calculation of a Buck Converter's Power Stage」(SLVA477B) ── 本記事の式①②の原典。英語ですが数式中心なので読みやすいです
- ROHM TechWeb「降圧型DC-DCコンバータの基本回路・動作原理・周辺部品の選定方法」 ── 日本語で読める丁寧な解説。波形図が豊富
- マクニカ「降圧型DC/DCコンバーターの定数計算と注意事項」 ── LT8640を例にした実践的な設計手順
- EDN Japan「たった2つの式で始めるDC/DCコンバーターの設計」(連載) ── 式の導出過程を深く理解したい方向け

