- TVSダイオードのデータシート、数字が多すぎて何を見ればいいかわからない…
- 「クランプ電圧」と「ブレークダウン電圧」の違いって何?
- どの品番を選べばいいのか、選定基準がわからない
- TVSダイオードがサージを吸収する「仕組み」
- 選定に必要な6つのパラメータの意味と見方
- 実務で使える選定手順とチェックリスト
これまでのスナバ回路シリーズでは、RCスナバ、RCDスナバ、アクティブクランプと、「スイッチングサージ」を抑制する方法を解説してきました。
しかし、回路には別の脅威もあります。それが「外来サージ」です。雷サージ、静電気(ESD)、電源ラインからのノイズなど、外部から飛び込んでくる異常電圧は、内部で発生するスイッチングサージとは別の対策が必要です。
この外来サージ対策の「最終防衛ライン」として使われるのが、今回紹介する「TVSダイオード」です。
この記事はスナバ回路シリーズの一部です。基礎から学びたい方は以下もご覧ください。
目次
TVSダイオードとは?
TVSダイオード(Transient Voltage Suppressor)は、過渡的な異常電圧から回路を守る保護素子です。日本語では「サージ保護ダイオード」や「過渡電圧サプレッサ」とも呼ばれます。
TVSダイオードの動作原理
TVSダイオードは、通常時は「何もしない」素子です。回路に影響を与えず、ただ待機しています。しかし、異常電圧が発生すると瞬時に動作して、サージを吸収します。
電圧がブレークダウン電圧以下なら、TVSダイオードはほぼ電流を流さない。回路に影響なし。
異常電圧がTVSダイオードのしきい値を超えると、瞬時に導通開始。
TVSダイオードが大電流を流し、電圧をクランプ電圧に制限。サージエネルギーを吸収。
サージが収まると、再び高インピーダンス状態に戻る。繰り返し使用可能。
TVSダイオードは回路の「避雷針」と考えるとわかりやすいです。普段は何もしませんが、雷(サージ)が来たら自分が受け止めて、建物(回路)を守ります。そして、雷が過ぎ去れば元通りになります。
TVSダイオードの特徴
超高速応答
応答時間は1ns以下
ESDも逃さずキャッチ
大電流吸収
ピーク電流数A〜数百A
雷サージにも対応
繰り返し使用可能
ヒューズと違い交換不要
何度でも動作

スナバ回路とTVSダイオードの違い
「スナバ回路もTVSダイオードもサージ対策でしょ?何が違うの?」と思われるかもしれません。両者は守る対象と脅威の種類が異なります。
比較表:スナバ回路 vs TVSダイオード
| 比較項目 | スナバ回路 | TVSダイオード |
|---|---|---|
| 主な脅威 | スイッチングサージ(内部発生) | 外来サージ(雷・ESD・ノイズ) |
| サージの発生源 | 回路内部(寄生インダクタンス) | 回路外部(電源ライン・I/O端子) |
| サージの頻度 | 毎回のスイッチング(高頻度) | 突発的(低頻度) |
| サージのエネルギー | 比較的小さい | 非常に大きい場合あり |
| 配置場所 | スイッチング素子の近く | 入力端子・I/O端子の近く |
| 目的 | スイッチング素子の保護 | 回路全体・IC の保護 |
スナバ回路:家の中で発生する問題(水漏れ・火の不始末)を防ぐ「内部対策」
TVSダイオード:外から侵入してくる脅威(泥棒・雷)を防ぐ「外部対策」
両方必要ですが、守る対象が異なります。
TVSダイオードが必要な場面
⚡ 電源入力
ACアダプター接続部、バッテリー端子など。電源ラインからのサージ侵入を防ぐ
🔌 通信ポート
USB、HDMI、イーサネット、RS-232など。ケーブル経由のESD・サージ対策
📡 アンテナ端子
RF入力、GPSアンテナなど。雷サージの侵入経路になりやすい
🚗 車載電子機器
ロードダンプ、誘導性負荷サージなど、過酷な電気環境
🏭 産業機器
モーター駆動ノイズ、リレー・ソレノイドのサージ対策
👆 タッチパネル
人体からのESD(静電気)対策。数kV〜数十kVに対応

TVSダイオード選定の6つのパラメータ
TVSダイオードを選ぶとき、データシートで確認すべき6つの重要パラメータを解説します。
パラメータ①:スタンドオフ電圧(VRWM)
TVSダイオードが動作しない最大電圧。この電圧以下なら、TVSダイオードは高インピーダンス状態を維持し、回路に影響を与えません。
選定基準:VRWM ≧ 回路の最大動作電圧
5V回路にはVRWM = 5V以上のTVSダイオードを選びます。電源の変動を考慮して、5.5V〜6V程度のマージンを持たせるのが一般的です。
パラメータ②:ブレークダウン電圧(VBR)
TVSダイオードが導通を開始する電圧。規定の微小電流(通常1mA)が流れ始める電圧で定義されます。
VBR > VRWM の関係があり、通常VBRはVRWMの1.1〜1.2倍程度です。
パラメータ③:クランプ電圧(VC)⭐最重要
規定のピーク電流(IPP)が流れたときのTVSダイオード両端の電圧。これが回路にかかる最大電圧になります。
選定基準:VC < 保護対象ICの絶対最大定格
クランプ電圧は「サージ発生時に回路にかかる電圧」そのものです。この値が保護対象ICの耐圧を超えると、TVSダイオードが動作してもICは壊れます。必ずICの絶対最大定格より低いVCのTVSを選んでください。
パラメータ④:ピークパルス電流(IPP)
TVSダイオードが1回のサージで流せる最大電流。規定のパルス波形(通常8/20μsや10/1000μs)で定義されます。
選定基準:IPP ≧ 想定されるサージ電流
ESD対策なら数A程度、雷サージ対策なら数十〜数百Aが必要になることもあります。
パラメータ⑤:ピークパルス電力(PPP)
TVSダイオードが1回のサージで吸収できる最大エネルギー。VC × IPPで計算されます。
一般的なTVSダイオードは400W〜3000W程度。パッケージサイズが大きいほど高耐量です。
パラメータ⑥:静電容量(CJ)
TVSダイオードの接合容量。高速信号ラインでは、この容量が信号品質に影響します。
高速信号ライン(USB、HDMI等):低容量品(1pF以下)を選択
電源ライン:容量はあまり気にしなくてOK
一般的に、低容量のTVSは耐量(PPP)が小さい傾向があります。高速信号ラインでは、低容量と高耐量のバランスを考慮して選定してください。

6つのパラメータの関係を図解
6つのパラメータの関係を、電圧-電流特性で整理しましょう。
TVSダイオードの電圧-電流特性
📊 電圧の大小関係
📋 各電圧の意味
| VOP(動作電圧) | 回路の通常動作電圧 |
| VRWM(スタンドオフ) | TVSが動作しない最大電圧 |
| VBR(ブレークダウン) | TVSが導通を開始する電圧 |
| VC(クランプ) | サージ時に回路にかかる最大電圧 |
| VMAX(IC絶対最大定格) | ICが壊れる電圧(超えてはダメ) |
TVSダイオード選定の本質は、「VRWMとVCの間に適切な"窓"を設ける」ことです。
- VRWMが低すぎる → 通常動作でTVSが誤動作
- VCが高すぎる → サージ時にICが壊れる
この「窓」が狭い回路(例:3.3V系)ほど、選定が難しくなります。
ダイオードの特性|整流作用と順方向電圧降下 →

TVSダイオードの選定手順
実際の選定手順を、5つのステップで解説します。
5ステップ選定フロー
保護したいラインの通常動作電圧(VOP)を確認。電源変動やリップルも考慮。
VRWM ≧ VOP(max) となるTVSを選択。10〜20%のマージンを推奨。
VC < 保護対象ICの絶対最大定格 であることを確認。これが最重要。
想定されるサージ電流・エネルギーに耐えられるか確認。規格要求(IEC 61000-4-5等)も考慮。
高速信号ラインなら低容量品を選択。電源ラインなら通常気にしなくてOK。
選定例:5V電源ラインの保護
5V電源ラインを保護するTVSダイオードを選定してみましょう。
| 回路の動作電圧 VOP | 5V(最大5.5V) |
| 保護対象ICの絶対最大定格 | 7V |
| 想定サージ | IEC 61000-4-5 Level 2 |
【選定プロセス】
STEP 1:VOP(max) = 5.5V
STEP 2:VRWM ≧ 5.5V → VRWM = 5.5V〜6Vの品番を探す
STEP 3:VC < 7V → VC = 9.2V…これでは7Vを超えてしまう!
⚠️ 問題発生:VRWM = 5.5Vの一般的なTVSは、VCが9V前後になることが多い
5V系のように「動作電圧」と「ICの絶対最大定格」の差が小さい回路では、VCがICの耐圧を超えてしまうことがあります。この場合は、低クランプ電圧品(Low Clamp TVS)や複合型保護素子を検討してください。
選定例:12V電源ラインの保護
12V電源ラインは「窓」が広いため、選定が比較的容易です。
| 回路の動作電圧 VOP | 12V(最大14V) |
| 保護対象ICの絶対最大定格 | 25V |
【選定プロセス】
STEP 2:VRWM ≧ 14V → VRWM = 15V を選択
STEP 3:VC = 24.4V(SMBJ15Aの場合)< 25V → OK!
✅ SMBJ15A などが候補

TVSダイオードの種類と使い分け
単方向 vs 双方向
単方向(Unidirectional)
- 正方向のみ保護
- DC電源ラインに最適
- 型番末尾が「A」(例:SMBJ5.0A)
- クランプ電圧が低い
双方向(Bidirectional)
- 正負両方向を保護
- AC・信号ラインに最適
- 型番末尾が「CA」(例:SMBJ5.0CA)
- 対称的な特性
パッケージと耐量の関係
| パッケージ | PPP目安 | 用途 |
|---|---|---|
| SOD-323 / 0402 | 200〜400W | ESD保護、省スペース |
| SMA / DO-214AC | 400W | 一般的なサージ保護 |
| SMB / DO-214AA | 600W | 中耐量 |
| SMC / DO-214AB | 1500W | 高耐量、電源ライン |
| 5KP / P600 | 5000W | 雷サージ、産業用 |
主要メーカーと代表品番
| メーカー | シリーズ例 | 特徴 |
|---|---|---|
| Littelfuse | SMBJ, SMAJ, 5KP | 業界標準、豊富なラインナップ |
| Vishay | SMAJ, P6KE | 高信頼性、車載グレードあり |
| STMicroelectronics | SM6T, ESDA | 車載・ESD保護に強い |
| Nexperia | PESD, PTVS | 低容量ESD保護に強い |
| ON Semiconductor | ESD9, SZNUP | USB/HDMI向けアレイ品 |
SMBJ5.0A
・SMB:パッケージ(SMB = 600W)
・J:シリーズ記号
・5.0:VRWM = 5.0V
・A:単方向(CAなら双方向)

選定チェックリストとまとめ
✅ TVSダイオード選定チェックリスト
- □ VRWM ≧ 回路の最大動作電圧(マージン10〜20%)
- □ VC < 保護対象ICの絶対最大定格(最重要!)
- □ IPP・PPP ≧ 想定サージ電流・エネルギー
- □ 高速信号ラインなら低容量品(CJ < 数pF)
- □ DCラインなら単方向、AC/信号ラインなら双方向
- □ パッケージサイズは実装面積と耐量のバランスで選択
まとめ
TVSダイオードの選び方について、6つのパラメータと選定手順を解説しました。
📌 この記事のポイント
- TVSダイオード:外来サージから回路を守る「最終防衛ライン」
- 最重要パラメータ:VC(クランプ電圧)< ICの絶対最大定格
- VRWM:通常動作で誤動作しないよう、動作電圧より高く設定
- IPP・PPP:想定サージに耐えられる耐量を選定
- CJ:高速信号ラインでは低容量品を選択
VOP < VRWM < VBR < VC < VMAX(IC)
この順序を守れば、TVSダイオードは正しく機能します。
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- RCスナバ回路の設計計算
- RCDスナバ回路の設計
- アクティブクランプ回路
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