回路設計

【完全図解】TVSダイオードの選び方|クランプ電圧・ピーク電流の設計指針

😣 こんな悩みはありませんか?
  • TVSダイオードのデータシート、数字が多すぎて何を見ればいいかわからない…
  • 「クランプ電圧」と「ブレークダウン電圧」の違いって何?
  • どの品番を選べばいいのか、選定基準がわからない
✅ この記事でわかること
  • TVSダイオードがサージを吸収する「仕組み」
  • 選定に必要な6つのパラメータの意味と見方
  • 実務で使える選定手順とチェックリスト

これまでのスナバ回路シリーズでは、RCスナバ、RCDスナバ、アクティブクランプと、「スイッチングサージ」を抑制する方法を解説してきました。

しかし、回路には別の脅威もあります。それが「外来サージ」です。雷サージ、静電気(ESD)、電源ラインからのノイズなど、外部から飛び込んでくる異常電圧は、内部で発生するスイッチングサージとは別の対策が必要です。

この外来サージ対策の「最終防衛ライン」として使われるのが、今回紹介する「TVSダイオード」です。

📘 スナバ回路シリーズ

この記事はスナバ回路シリーズの一部です。基礎から学びたい方は以下もご覧ください。

TVSダイオードとは?

TVSダイオード(Transient Voltage Suppressor)は、過渡的な異常電圧から回路を守る保護素子です。日本語では「サージ保護ダイオード」や「過渡電圧サプレッサ」とも呼ばれます。

TVSダイオードの動作原理

TVSダイオードは、通常時は「何もしない」素子です。回路に影響を与えず、ただ待機しています。しかし、異常電圧が発生すると瞬時に動作して、サージを吸収します。

通常時
高インピーダンス状態(OFF)

電圧がブレークダウン電圧以下なら、TVSダイオードはほぼ電流を流さない。回路に影響なし。

サージ発生
電圧がブレークダウン電圧を超える

異常電圧がTVSダイオードのしきい値を超えると、瞬時に導通開始。

クランプ動作
低インピーダンス状態(ON)

TVSダイオードが大電流を流し、電圧をクランプ電圧に制限。サージエネルギーを吸収。

サージ終了
自動的に通常状態に復帰

サージが収まると、再び高インピーダンス状態に戻る。繰り返し使用可能。

💡 「避雷針」のイメージ
TVSダイオードは回路の「避雷針」と考えるとわかりやすいです。普段は何もしませんが、雷(サージ)が来たら自分が受け止めて、建物(回路)を守ります。そして、雷が過ぎ去れば元通りになります。

TVSダイオードの特徴

超高速応答

応答時間は1ns以下
ESDも逃さずキャッチ

🔋

大電流吸収

ピーク電流数A〜数百A
雷サージにも対応

🔄

繰り返し使用可能

ヒューズと違い交換不要
何度でも動作

スナバ回路とTVSダイオードの違い

「スナバ回路もTVSダイオードもサージ対策でしょ?何が違うの?」と思われるかもしれません。両者は守る対象と脅威の種類が異なります。

比較表:スナバ回路 vs TVSダイオード

比較項目 スナバ回路 TVSダイオード
主な脅威 スイッチングサージ(内部発生) 外来サージ(雷・ESD・ノイズ)
サージの発生源 回路内部(寄生インダクタンス) 回路外部(電源ライン・I/O端子)
サージの頻度 毎回のスイッチング(高頻度) 突発的(低頻度)
サージのエネルギー 比較的小さい 非常に大きい場合あり
配置場所 スイッチング素子の近く 入力端子・I/O端子の近く
目的 スイッチング素子の保護 回路全体・IC の保護
💡 家の防犯で例えると
スナバ回路:家の中で発生する問題(水漏れ・火の不始末)を防ぐ「内部対策」

TVSダイオード:外から侵入してくる脅威(泥棒・雷)を防ぐ「外部対策」

両方必要ですが、守る対象が異なります。

TVSダイオードが必要な場面

⚡ 電源入力

ACアダプター接続部、バッテリー端子など。電源ラインからのサージ侵入を防ぐ

🔌 通信ポート

USB、HDMI、イーサネット、RS-232など。ケーブル経由のESD・サージ対策

📡 アンテナ端子

RF入力、GPSアンテナなど。雷サージの侵入経路になりやすい

🚗 車載電子機器

ロードダンプ、誘導性負荷サージなど、過酷な電気環境

🏭 産業機器

モーター駆動ノイズ、リレー・ソレノイドのサージ対策

👆 タッチパネル

人体からのESD(静電気)対策。数kV〜数十kVに対応

TVSダイオード選定の6つのパラメータ

TVSダイオードを選ぶとき、データシートで確認すべき6つの重要パラメータを解説します。

パラメータ①:スタンドオフ電圧(VRWM

📐 スタンドオフ電圧とは?

TVSダイオードが動作しない最大電圧。この電圧以下なら、TVSダイオードは高インピーダンス状態を維持し、回路に影響を与えません。

選定基準:VRWM ≧ 回路の最大動作電圧

💡 例:5V回路の場合
5V回路にはVRWM = 5V以上のTVSダイオードを選びます。電源の変動を考慮して、5.5V〜6V程度のマージンを持たせるのが一般的です。

パラメータ②:ブレークダウン電圧(VBR

📐 ブレークダウン電圧とは?

TVSダイオードが導通を開始する電圧。規定の微小電流(通常1mA)が流れ始める電圧で定義されます。

VBR > VRWM の関係があり、通常VBRはVRWM1.1〜1.2倍程度です。

パラメータ③:クランプ電圧(VC)⭐最重要

🔑 クランプ電圧とは?

規定のピーク電流(IPP)が流れたときのTVSダイオード両端の電圧。これが回路にかかる最大電圧になります。

選定基準:VC < 保護対象ICの絶対最大定格

🚨 最も重要なパラメータ
クランプ電圧は「サージ発生時に回路にかかる電圧」そのものです。この値が保護対象ICの耐圧を超えると、TVSダイオードが動作してもICは壊れます。必ずICの絶対最大定格より低いVCのTVSを選んでください。

パラメータ④:ピークパルス電流(IPP

📐 ピークパルス電流とは?

TVSダイオードが1回のサージで流せる最大電流。規定のパルス波形(通常8/20μsや10/1000μs)で定義されます。

選定基準:IPP ≧ 想定されるサージ電流

ESD対策なら数A程度、雷サージ対策なら数十〜数百Aが必要になることもあります。

パラメータ⑤:ピークパルス電力(PPP

📐 ピークパルス電力とは?

TVSダイオードが1回のサージで吸収できる最大エネルギー。VC × IPPで計算されます。

一般的なTVSダイオードは400W〜3000W程度。パッケージサイズが大きいほど高耐量です。

パラメータ⑥:静電容量(CJ

📐 静電容量とは?

TVSダイオードの接合容量。高速信号ラインでは、この容量が信号品質に影響します。

高速信号ライン(USB、HDMI等):低容量品(1pF以下)を選択
電源ライン:容量はあまり気にしなくてOK

⚠️ トレードオフに注意
一般的に、低容量のTVSは耐量(PPP)が小さい傾向があります。高速信号ラインでは、低容量と高耐量のバランスを考慮して選定してください。

6つのパラメータの関係を図解

6つのパラメータの関係を、電圧-電流特性で整理しましょう。

TVSダイオードの電圧-電流特性

📊 電圧の大小関係

動作電圧
VOP
スタンドオフ
VRWM
ブレークダウン
VBR
クランプ
VC
IC絶対最大定格
VMAX

📋 各電圧の意味

VOP(動作電圧) 回路の通常動作電圧
VRWM(スタンドオフ) TVSが動作しない最大電圧
VBR(ブレークダウン) TVSが導通を開始する電圧
VC(クランプ) サージ時に回路にかかる最大電圧
VMAX(IC絶対最大定格) ICが壊れる電圧(超えてはダメ)
🔑 選定の核心

TVSダイオード選定の本質は、「VRWMとVCの間に適切な"窓"を設ける」ことです。

  • VRWMが低すぎる → 通常動作でTVSが誤動作
  • VCが高すぎる → サージ時にICが壊れる

この「窓」が狭い回路(例:3.3V系)ほど、選定が難しくなります。

TVSダイオードの選定手順

実際の選定手順を、5つのステップで解説します。

5ステップ選定フロー

STEP 1
回路の動作電圧を確認

保護したいラインの通常動作電圧(VOP)を確認。電源変動やリップルも考慮。

STEP 2
VRWMを決定

VRWM ≧ VOP(max) となるTVSを選択。10〜20%のマージンを推奨。

STEP 3
VCを確認

VC < 保護対象ICの絶対最大定格 であることを確認。これが最重要。

STEP 4
IPP・PPPを確認

想定されるサージ電流・エネルギーに耐えられるか確認。規格要求(IEC 61000-4-5等)も考慮。

STEP 5
静電容量CJを確認

高速信号ラインなら低容量品を選択。電源ラインなら通常気にしなくてOK。

選定例:5V電源ラインの保護

5V電源ラインを保護するTVSダイオードを選定してみましょう。

回路の動作電圧 VOP 5V(最大5.5V)
保護対象ICの絶対最大定格 7V
想定サージ IEC 61000-4-5 Level 2

【選定プロセス】

STEP 1:VOP(max) = 5.5V

STEP 2:VRWM ≧ 5.5V → VRWM = 5.5V〜6Vの品番を探す

STEP 3:VC < 7V → VC = 9.2V…これでは7Vを超えてしまう!

⚠️ 問題発生:VRWM = 5.5Vの一般的なTVSは、VCが9V前後になることが多い

🚨 5V系は選定が難しい!
5V系のように「動作電圧」と「ICの絶対最大定格」の差が小さい回路では、VCがICの耐圧を超えてしまうことがあります。この場合は、低クランプ電圧品(Low Clamp TVS)複合型保護素子を検討してください。

選定例:12V電源ラインの保護

12V電源ラインは「窓」が広いため、選定が比較的容易です。

回路の動作電圧 VOP 12V(最大14V)
保護対象ICの絶対最大定格 25V

【選定プロセス】

STEP 2:VRWM ≧ 14V → VRWM = 15V を選択

STEP 3:VC = 24.4V(SMBJ15Aの場合)< 25V → OK!

✅ SMBJ15A などが候補

TVSダイオードの種類と使い分け

単方向 vs 双方向

➡️

単方向(Unidirectional)

  • 正方向のみ保護
  • DC電源ラインに最適
  • 型番末尾が「A」(例:SMBJ5.0A)
  • クランプ電圧が低い
↔️

双方向(Bidirectional)

  • 正負両方向を保護
  • AC・信号ラインに最適
  • 型番末尾が「CA」(例:SMBJ5.0CA)
  • 対称的な特性

パッケージと耐量の関係

パッケージ PPP目安 用途
SOD-323 / 0402 200〜400W ESD保護、省スペース
SMA / DO-214AC 400W 一般的なサージ保護
SMB / DO-214AA 600W 中耐量
SMC / DO-214AB 1500W 高耐量、電源ライン
5KP / P600 5000W 雷サージ、産業用

主要メーカーと代表品番

メーカー シリーズ例 特徴
Littelfuse SMBJ, SMAJ, 5KP 業界標準、豊富なラインナップ
Vishay SMAJ, P6KE 高信頼性、車載グレードあり
STMicroelectronics SM6T, ESDA 車載・ESD保護に強い
Nexperia PESD, PTVS 低容量ESD保護に強い
ON Semiconductor ESD9, SZNUP USB/HDMI向けアレイ品
💡 型番の読み方(SMBJシリーズの例)
SMBJ5.0A
・SMB:パッケージ(SMB = 600W)
・J:シリーズ記号
・5.0:VRWM = 5.0V
・A:単方向(CAなら双方向)

選定チェックリストとまとめ

✅ TVSダイオード選定チェックリスト

  • □ VRWM ≧ 回路の最大動作電圧(マージン10〜20%)
  • VC < 保護対象ICの絶対最大定格(最重要!)
  • □ IPP・PPP ≧ 想定サージ電流・エネルギー
  • □ 高速信号ラインなら低容量品(CJ < 数pF)
  • □ DCラインなら単方向、AC/信号ラインなら双方向
  • □ パッケージサイズは実装面積と耐量のバランスで選択

まとめ

TVSダイオードの選び方について、6つのパラメータと選定手順を解説しました。

📌 この記事のポイント

  • TVSダイオード:外来サージから回路を守る「最終防衛ライン」
  • 最重要パラメータ:VC(クランプ電圧)< ICの絶対最大定格
  • VRWM:通常動作で誤動作しないよう、動作電圧より高く設定
  • IPP・PPP:想定サージに耐えられる耐量を選定
  • CJ:高速信号ラインでは低容量品を選択
🔑 選定の核心(再掲)

VOP < VRWM < VBR < VC < VMAX(IC)

この順序を守れば、TVSダイオードは正しく機能します。

🔧 スナバ・サージ保護シリーズ

サージ対策を体系的に学びたい方は、以下の順番で読むのがおすすめです:

  1. スナバ回路とは?(基礎)
  2. RCスナバ回路の設計計算
  3. RCDスナバ回路の設計
  4. アクティブクランプ回路
  5. TVSダイオードの選び方(この記事)

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