回路設計

RCDスナバ回路の設計|放電阻止形で損失を減らす仕組みとC・Rの計算

RCDスナバ回路の設計。エネルギー回生型でロスを減らす

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こんな悩みはありませんか?
  • RCスナバ回路の損失が大きすぎて、抵抗が熱くなって困っている…
  • RCDスナバって聞いたことあるけど、RCスナバと何が違うの?
  • ダイオードを追加するだけで本当に損失が減るの?
○ この記事でわかること
  • RCDスナバ回路で損失が減る本当の仕組み(「回生」ではない)
  • RCスナバとRCDスナバの決定的な違い
  • RCDスナバの設計手順と部品選定のポイント

前回の記事で、RCスナバ回路の設計計算について解説しました。しかし、RCスナバには「毎回のスイッチングでエネルギーを熱として捨てる」という宿命的な欠点があります。

スイッチング周波数が高くなればなるほど、損失は増大します。100kHzで動作させると、小さなスナバ回路でも数ワット〜数十ワットの発熱になることも珍しくありません。

この問題を解決するのが、今回紹介する「RCDスナバ回路」です。ダイオード(D)を足してつなぎ方を工夫すると、毎回捨てていたエネルギーの大部分を、そもそも捨てずにすむようになります。

前提知識
【完全図解】RCスナバ回路の設計計算|抵抗値とコンデンサ容量の決め方 →

RCスナバの基本を理解してから読むと、違いがよくわかります。

RCスナバの「もったいない」問題

まず、RCスナバ回路が抱える根本的な問題を理解しましょう。

RCスナバのエネルギーの流れ

RCスナバ回路では、以下のサイクルが毎回のスイッチングで繰り返されます。

STEP 1
スイッチOFF → サージ発生

寄生インダクタンスに蓄えられたエネルギーがサージ電圧として現れる

STEP 2
コンデンサCが吸収

サージエネルギーがコンデンサに充電される

STEP 3
抵抗Rで放電 → 熱に変換

コンデンサに溜まったエネルギーが抵抗ですべて熱として消費される

STEP 4
スイッチON → STEP 1へ戻る

このサイクルがスイッチング周波数の回数だけ繰り返される

問題点:エネルギーを毎回「捨てている」
RCスナバでは、吸収したサージエネルギーを100%熱に変換しています。これは「せっかく集めたお金を毎回シュレッダーにかけている」ようなものです。スイッチング周波数が高いほど、この「もったいない」が積み重なります。

RCスナバの損失は「2つの部分」の合計

RCスナバでは、ターンオフのたびにコンデンサが電源電圧まで充電され、ターンオンのたびに抵抗を通って空になります。IGBT メーカーの富士電機は、ダイオードを足した「充放電形 RCD スナバ」の抵抗の損失を次の式で示しています。ロームのアプリケーションノートも、充放電形 RCD スナバの抵抗の損失は RC スナバと同じくらいになるとしています。

充放電形RCDスナバ(RCスナバもほぼ同じ)の抵抗の損失
P = ½ × Ls × Io² × f + ½ × Cs × Ed² × f

Ls:配線などの寄生インダクタンス、Io:ターンオフする電流、Cs:スナバのコンデンサ、Ed:直流電源の電圧、f:スイッチング周波数。第1項はサージのエネルギー、第2項はコンデンサを毎回電源電圧まで充電して空にするエネルギーです。

例として、Ls=1μH、Io=10A、Cs=10nF、Ed=300V、f=100kHz で計算します。

第1項:½ × 1×10⁻⁶ × 10² × 100×10³ = 5 W

第2項:½ × 10×10⁻⁹ × 300² × 100×10³ = 45 W

合計:約 50 W

損失の大部分(45W)は、サージそのものではなく、コンデンサを毎回空にしていることから出ています。この部分をなくすのが、次の「放電阻止形」の RCD スナバです。

RCスナバ・充放電形RCDスナバと放電阻止形RCDスナバのエネルギーの行方の比較。前者は毎回コンデンサを0Vから充電して放電し、½CsEd²とサージの½LsIo²を抵抗で熱にする。放電阻止形はコンデンサが電源電圧のままで、サージの分だけを抵抗で熱にする。どちらも電源には戻らない
どちらも抵抗で熱。放電阻止形は量が少ない

RCDスナバ回路とは?|2つの型と、損失が減る本当の理由

RCDスナバ回路は、RCスナバにダイオード(D)を足した回路です。ダイオードの入れ方で2つの型があり、抵抗の損失の大きさがまったく違います(富士電機・ロームの資料の分け方)。

型つなぎ方と動き抵抗の損失(富士電機の式)
充放電形 RCDターンオフでコンデンサがダイオードを通ってすばやく充電され、ターンオンで抵抗を通って放電する。サージはよく抑えられるが、コンデンサは毎回空になる½·Ls·Io²·f + ½·Cs·Ed²·f(RCスナバとほぼ同じ)
放電阻止形 RCD抵抗の戻り先を直流電源の側にして、コンデンサが電源電圧より下まで放電しないようにした型。電源電圧を超えたサージの分だけをコンデンサが吸収し、抵抗で放電する½·Ls·Io²·f(サージの分だけ)

「回生」ではない|損失が減る本当の理由

放電阻止形で損失が減るのは、ダイオードでエネルギーを電源に戻しているからではありません。コンデンサが電源電圧まで充電されたまま空にならないので、充放電形や RC スナバで毎回捨てていた ½·Cs·Ed² の分が、そもそも発生しないからです。電源電圧を超えたサージのエネルギー(½·Ls·Io²)は、どちらの型でも抵抗で熱になります。

富士電機は、放電阻止形を「スナバの損失が小さく、IGBT に最も適したスナバ」としています。ロームは、損失が周波数でほとんど増えないのでコンデンサを大きくでき、サージをよく抑えられる一方、配線が複雑になる(多層の基板が要ることもある)と説明しています。

つまり
RCDスナバは、エネルギーを電源に回生する回路ではない。放電阻止形は「コンデンサを毎回空にしない」ことで損失を減らす。サージのエネルギーそのものを回収して使うには、アクティブクランプのような能動素子の回路が要る。
コンデンサの電圧の波形で見る充放電形RCDと放電阻止形RCD。充放電形はターンオフで400Vまで上がり300Vに落ち着いたあと、ターンオンで0Vまで放電する。放電阻止形は300Vのままで、ターンオフのサージで400Vまで上がって300Vに戻るだけ
充放電形は毎回0Vまで空になり、放電阻止形は電源電圧のまま

RCスナバ vs RCDスナバ|徹底比較

RCスナバと2つの RCD スナバの違いを、メーカーの資料の内容で整理します。

比較表:RCスナバ・充放電形RCD・放電阻止形RCD

比較項目RCスナバ充放電形RCD放電阻止形RCD
構成部品R+CR+C+DR+C+D(R の戻り先を電源側に)
抵抗の損失½LsIo²f+½CsEd²f 程度½LsIo²f+½CsEd²f½LsIo²f
エネルギーの行方抵抗で熱抵抗で熱抵抗で熱(ただしコンデンサを毎回空にしない)
サージを抑える力抵抗を通るぶん弱めダイオードを通ってコンデンサが吸収するので強い強い。コンデンサを大きくしても損失が増えにくい
ターンオンの電流大電流品では R を小さくする必要があり、ターンオンの電流が増えるR を大きくでき、ターンオンの負担が減る-
配線シンプルダイオードが増える複雑(多層の基板が要ることもある)

RCDスナバのメリット

  • サージをよく抑えられる:ダイオードを通ってコンデンサに電流が流れるので、抵抗を通る RC スナバより吸収が早い
  • 放電阻止形なら損失が小さい:上の例では 50W が 5W になる(次の「損失計算」)
  • 抵抗の発熱が減る:放電阻止形では抵抗の定格を小さくでき、部品も小さくできる

RCDスナバのデメリット

  • 部品点数が増える:ダイオードのぶんコストと実装面積が増える
  • ダイオードの選定が効く:過渡的な順電圧が高い・逆回復が遅い・ハードなダイオードだと、サージや振動がかえって大きくなる
  • 放電阻止形は配線が複雑:スナバの配線のインダクタンスもサージの原因になるので、短く配置する工夫が要る
どれを選ぶ?
RCスナバ:電力が小さく、周波数も低く、シンプルにしたいとき
充放電形RCD:サージの抑えを強めたいが、損失はRCスナバ並みでよいとき
放電阻止形RCD:周波数が高い・電流が大きいなど、スナバの損失を小さくしたいとき
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RCDスナバ回路の設計手順

RCDスナバ回路の設計は、基本的にはRCスナバと同じ考え方です。ただし、ダイオードの選定が追加されます。

設計フロー

STEP 1
パラメータ把握
→
STEP 2
C の決定
→
STEP 3
R の決定
→
STEP 4
D の選定

STEP 1〜3:C と R の設計

コンデンサ容量 C は、サージを何Vに抑えたいか(ΔV=ピーク電圧−電源電圧)から決めます。富士電機の式 Cs=Ls·Io²/(VCEP−Ed)² と同じ形です。抵抗 R は、RC スナバと放電阻止形で考え方が違います(下の囲み)。

コンデンサ容量 C

C = L × I² / ΔV²

抵抗値 R(臨界減衰)

R = 2 × √(L / C)
RCDスナバでの R の役割
放電阻止形では、R の役目は「次のターンオフまでにコンデンサの電圧を電源電圧の近くまで戻すこと」です。富士電機のマニュアルは、次のターンオフまでに蓄えた電荷の90%を放電する条件として R ≦ 1/(2.3 × Cs × f) を示し、R が小さすぎると電流が振動するので、この範囲でなるべく大きくするとしています(上の臨界減衰の式は RC スナバ用)。

STEP 4:ダイオード D の選定

RCDスナバで最も重要なのがダイオードの選定です。以下のポイントを確認しましょう。

チェック項目 確認内容 推奨
逆耐圧 VR Vmax 以上か Vmax × 1.5倍以上
順方向電流 IF ピーク電流に耐えられるか I × 2倍以上
逆回復時間 trr スイッチング速度に追従できるか 高速リカバリ品(trr < 100ns)
順方向電圧 VF 損失に影響 低いほど良い(過渡的な順電圧が低く、逆回復が短くソフトなもの)
ダイオード選定の鍵は「速さ」
RCDスナバでは、スイッチング速度に追従できる「高速ダイオード」が必須です。汎用ダイオード(1N400xシリーズなど)は遅すぎて使えません。ファストリカバリダイオードかショットキーバリアダイオードを選びましょう。

推奨ダイオードの種類

ファストリカバリダイオード

  • trr : 20〜100ns
  • 耐圧:〜600V程度まで対応
  • コスト:比較的安価
  • 用途:汎用的に使える

ショットキーバリアダイオード

  • trr : ほぼゼロ(超高速)
  • 耐圧:シリコン品は低め。数百V以上の回路では SiC のショットキーを使う
  • VF : 低い(0.3〜0.5V)
  • 用途:低電圧・高効率向け
スナバの損失の計算例(Ls=1μH、Io=10A、Cs=10nF、Ed=300V、f=100kHz)。RCスナバ・充放電形RCDはサージの分5Wとコンデンサを空にする分45Wで計50W、放電阻止形RCDはサージの分5Wだけ
損失は50W→5W。減ったのはコンデンサを空にする分

RCDスナバの損失計算

放電阻止形 RCD スナバでは、どれくらい損失が減るのでしょうか。富士電機のマニュアルの式で計算します。

放電阻止形RCDスナバの抵抗の損失
P = ½ × Ls × Io² × f

この式には、抵抗の値もコンデンサの容量も出てきません。抵抗の値に関係なく、サージで入ってきたエネルギー(½·Ls·Io²)が、1回のスイッチングごとに抵抗で熱になるという意味です。

計算例:RCスナバ(充放電形)と比べる

前の節と同じ条件(Ls=1μH、Io=10A、Cs=10nF、Ed=300V、f=100kHz)で比べます。

RCスナバ・充放電形RCD:½ × 1×10⁻⁶ × 10² × 100×10³ + ½ × 10×10⁻⁹ × 300² × 100×10³ = 5 + 45 = 50 W

放電阻止形RCD:½ × 1×10⁻⁶ × 10² × 100×10³ = 5 W

損失は 50W → 5W(約90%減)
減ったのは、コンデンサを毎回空にしていた 45W の分

このときのピーク電圧

富士電機はコンデンサの容量を Cs=Ls·Io²/(VCEP−Ed)² で決めるとしています(VCEP:コンデンサのピーク電圧)。この例では (VCEP−300)²=1×10⁻⁶×10²÷(10×10⁻⁹)=10,000 なので、VCEP=400V。サージを電源電圧より100V高いところで抑えられます。

なお、½·Ls·Io² は ½·Cs·(VCEP−Ed)² と同じ値になるので、損失を ½·C·(ピーク電圧−電源電圧)²·f と書いても答えは同じ 5W です。実際の回路では、これにダイオードの損失が加わります。

なぜこんなに差が出る?
RCスナバでは、コンデンサを毎回 0V から 300V まで充電して空にする分(45W)と、サージの分(5W)を両方とも熱にしていました。放電阻止形では、コンデンサは 300V のまま空にならないので、熱になるのはサージの分(5W)だけです。300V 分のエネルギーを「電源に戻している」のではなく、「毎回捨てる必要がなくなった」のです。
参考にした資料

資料は改訂されることがあります。設計に使うときは、発行元の最新版で確かめてください。

スナバ用ダイオードの選び方の図。高速リカバリダイオード(FRD)とショットキーダイオードは適し、一般整流用ダイオードは遅くて不向き
スナバ用ダイオードの選び方:FRDかショットキー

設計時の注意点とトラブルシューティング

よくある失敗パターンと対策

失敗①:遅いダイオードを使った

症状:ダイオードの損失が増え、逆回復でスイッチの電圧が大きく振動する

対策:trr < 100ns のファストリカバリ品に変更

失敗②:ダイオードの向きが逆

症状:サージを吸収できない、最悪の場合素子破壊

対策:回路図と実装を再確認

失敗③:ダイオードの耐圧不足

症状:ダイオードがブレークダウン、発熱・破壊

対策:Vmax × 1.5倍以上の耐圧品を選定

失敗④:配線が長すぎる

症状:スナバの配線のインダクタンスでサージが残る

対策:スナバ部品はスイッチ素子の近くに配置

設計チェックリスト

○ RCDスナバ設計の確認項目

  • □ コンデンサ C:サージエネルギーを吸収できる容量か
  • □ コンデンサ C:定格電圧は Vmax × 1.5倍以上か
  • □ コンデンサ C:セラミック or フィルムコンデンサか(電解×)
  • □ 抵抗 R:リンギングを抑制できる値か
  • □ 抵抗 R:無誘導タイプか(巻線×)
  • □ ダイオード D:逆耐圧は Vmax × 1.5倍以上か
  • □ ダイオード D:trr < 100ns の高速品か
  • □ ダイオード D:向きは正しいか
  • □ 配線:スイッチ素子の近くに配置しているか
ターンオフのスイッチの電圧波形。電源電圧300Vを超えて400Vまで上がるサージの部分のエネルギー½LsIo²を、放電阻止形RCDスナバが吸収して抵抗で熱にする。容量はCs=LsIo²/(VCEP−Ed)²で決める
電源電圧を超えたサージの分だけを吸収して熱にする
この記事の理解を深める本と道具
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まとめ

RCDスナバ回路について、RCスナバとの違いから設計のポイントまで解説しました。

この記事のポイント

  • RCスナバ:エネルギーを100%熱に変換(損失大)
  • RCDスナバ:ダイオードを足した回路。エネルギーは回生せず抵抗で熱になる。放電阻止形はコンデンサを毎回空にしないので損失が小さい
  • 放電阻止形の損失は ½·Ls·Io²·f(例:50W → 5W)
  • ダイオードは高速リカバリ品(trr < 100ns)を選ぶ
  • 高周波・大電力の用途ではRCDスナバが有利

RCスナバ

シンプル・低コスト
低周波・小電力向け

RCDスナバ

高効率・低発熱
高周波・大電力向け

どちらのスナバを選ぶかは、スイッチング周波数・電力・コスト・熱設計のバランスで決まります。用途に合わせて最適なスナバ方式を選択してください。

次に読むべき記事

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シラス
電験三種・QC検定1級 / メーカーで回路設計・生産技術(品質改善)の実務

メーカーで回路設計と生産技術(品質改善)に携わってきた経験をもとに執筆しています。むずかしい専門用語をできるだけ使わず、はじめて学ぶ人がつまずかないように、図とたとえで説明することを大切にしています。

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