熱設計

Rth(j-a)とは?|なぜ「基板に付けた状態」で規定されるのか

😣 こんな経験はありませんか?
  • データシートに「Rth(j-a) = 62℃/W」と書いてあるが、なぜこんなに大きい値なのか?
  • Rth(j-c)とRth(j-a)、結局どちらを使えばいいのかわからない
  • 「基板に実装した状態で測定した値」と注釈があるが、それってどういう意味?
  • 計算したTjが想定より高くなって、設計レビューで突っ込まれた
✅ この記事でわかること
  • Rth(j-a)の正確な意味と「ヒートシンクなし」の条件
  • なぜ基板に付けた状態で規定されるのか、その物理的な理由
  • Rth(j-a)を使うときの注意点と、計算が外れる典型的なケース

前回の記事で、3つの熱抵抗(Rth(j-c)・Rth(c-s)・Rth(s-a))の違いを学びました。しかしデータシートをよく見ると、もう一つ「Rth(j-a)」という項目があります。これは何者なのか?なぜわざわざ別に書かれているのか?

結論を先に言います。Rth(j-a)は「ヒートシンクを付けないで、基板に実装したときの熱抵抗」です。表面実装パッケージや小信号トランジスタなど、ヒートシンクを使わない部品で重要になります。この記事では、Rth(j-a)の意味と使い方、そして「使ってはいけないケース」まで完全に整理します。

Rth(j-a)とは?|チップから空気までを「ひとまとめ」にした熱抵抗

Rth(j-a)はジャンクション(チップ)から周囲空気までの熱抵抗です。「j-a」のjはjunction、aはambient(周囲)の頭文字。つまり、チップから空気までのすべての経路をまとめた熱抵抗のことです。

📐 Rth(j-a)の関係式
Rth(j-a) = Rth(j-c) + Rth(c-a)

※ ヒートシンクなしの場合、ケースから直接空気へ熱が逃げるため、Rth(c-a)が使われる

Rth(j-c)との決定的な違い

項目 Rth(j-c) Rth(j-a)
区間 チップ→ケースまで チップ→空気まで
前提 ヒートシンク使用 ヒートシンクなし
値の大きさ 小さい(0.5〜2 ℃/W) 大きい(30〜200 ℃/W)
使う場面 大電力・放熱対策あり 小電力・放熱対策なし
💡 ポイント
Rth(j-a)はRth(j-c)よりも圧倒的に大きな値になります。それは、ケースから空気までの熱抵抗(Rth(c-a))が非常に大きいから。何の対策もしなければ、熱は空気中に逃げにくいのです。

なぜ「基板に実装した状態」で測定するのか

データシートのRth(j-a)には、ほぼ必ずこんな注釈が書かれています。

"Mounted on FR-4 PCB, 1oz copper, JEDEC standard"
(FR-4基板、1オンス銅箔、JEDEC規格に準拠して測定)

これは飾りではありません。「Rth(j-a)は基板に実装しないと意味のない数値だから」です。なぜそうなるのか、ヒートシンクを付けない部品の熱の流れを見ればわかります。

ヒートシンクなしの部品の「熱の逃げ道」

ヒートシンクが付いていない部品(例:表面実装パッケージ)の熱は、主に3つの経路で逃げていきます。

経路①

パッケージ表面 → 空気へ放熱
パッケージの表面から空気へ直接熱が逃げる。表面積が小さい部品では、これだけでは熱が捌けきれない。

経路②

リード(端子) → 基板の銅箔 → 空気へ放熱
端子を通じて基板の銅箔(パターン)へ熱が伝わり、銅箔から空気へ逃げる。これが意外と支配的

経路③

パッケージ裏面(サーマルパッド) → 基板 → 空気へ放熱
最近の表面実装パッケージにはサーマルパッドが付いており、ここから基板に熱を逃がす。

🔧 現場の声
「表面実装の小さい部品なのに、意外と熱を捌けている」と感じたことはありませんか?それは基板の銅箔が放熱フィンの役割をしているからです。基板そのものがヒートシンクなのです。

Rth(j-a)は「基板の条件」で大きく変わる

ここがRth(j-a)を扱う上で最も重要なポイントです。Rth(j-a)は「部品単体」では決まりません。基板の銅箔面積、層数、銅箔厚みによって、値が2倍3倍と変わってしまうからです。

基板条件 Rth(j-a)の傾向
最小ランドのみ(銅箔小) 大きい(150〜250 ℃/W)
JEDEC標準基板(1平方インチの銅箔) 中程度(60〜100 ℃/W)
大面積の銅箔ベタ + 多層基板 小さい(30〜50 ℃/W)
サーマルビア + 銅箔ベタ + 多層 さらに小さい(20〜40 ℃/W)

JEDEC規格とは

JEDEC(ジェデック)は半導体業界の業界団体で、Rth(j-a)を測定する際の「標準的な基板の条件」を規格化しています。代表的な規格は以下の2つ。

📋

JEDEC 1S(1層)

片面のみに銅箔がある基板。低コスト基板を想定した条件。Rth(j-a)は大きめに出る。

📋

JEDEC 2S2P(4層)

表裏に銅箔 + 内層に銅箔ベタ。多層基板を想定した条件。Rth(j-a)は小さめに出る。

⚠️ 注意
同じ部品でも、データシートに「JEDEC 1S:100℃/W、JEDEC 2S2P:50℃/W」のように2つの値が併記されていることがあります。あなたの基板に近い条件の値を使いましょう。安易に小さい方を選ぶと、設計が破綻します。

Rth(j-a)を使うのはどんなとき?

Rth(j-a)を使うのは、ヒートシンクを取り付けない部品のジャンクション温度を計算するときです。具体的には次の3つのケースが代表的です。

ケース①

表面実装パッケージ(SMD)
DPAK・SOIC・SOT-23など、ヒートシンクを取り付けるのが構造的に困難なパッケージ。基板の銅箔のみで放熱する設計が前提。

ケース②

小信号トランジスタ・小電力IC
発熱量が0.1W以下で、ヒートシンクが不要なレベルの部品。Rth(j-a)単体でTjが計算できる。

ケース③

初期検討・概算見積もり
詳細なヒートシンク設計をする前の、ざっくりした熱検討。「ヒートシンクなしでもいけるか?」を判定するために使う。

Rth(j-a)を使ったTj計算の例

📋 設計条件
  • 使用部品:表面実装MOSFET(DPAKパッケージ)
  • 発熱量 P = 1 W
  • 周囲温度 Ta = 60℃(盤内温度)
  • Rth(j-a) = 50 ℃/W(JEDEC 2S2P基板での値)
📐 計算
Tj = Ta + P × Rth(j-a)
  = 60 + 1 × 50
  = 110℃

最大定格Tj = 150℃ なので、110℃ならOKという判定になります。ヒートシンクなしで設計できることが、Rth(j-a)で確認できました。

Rth(j-a)を使ってはいけないケース

Rth(j-a)は便利な指標ですが、「使ってはいけない場面」があります。ここを間違えると、設計が一発で破綻します。

❌ ヒートシンクを付けるとき

ヒートシンクを取り付ける場合は、絶対にRth(j-a)を使ってはいけません。Rth(j-a)はヒートシンクなしを前提とした値だからです。ヒートシンクを使うときは必ず以下の式で計算します。

📐 ヒートシンク使用時の計算
Tj = Ta + P × [Rth(j-c) + Rth(c-s) + Rth(s-a)]

❌ 基板条件が大きく違うとき

データシートのRth(j-a)はJEDEC標準基板での値です。あなたの実機の基板条件が大きく違う場合(例:銅箔面積が極端に小さい、1層基板を使う)、データシート値はあてになりません。過信は禁物です。

❌ 周囲に他の発熱部品があるとき

Rth(j-a)は「単体で発熱している」前提の値です。基板上に複数の発熱部品が密集していると、互いの熱で空気が温められ、見かけの周囲温度が上がります。Taを正しく見積もらないと計算が崩れます。

❌ 大きな発熱量のとき

Rth(j-a)が60℃/W程度の部品で5W発熱したら、ΔT = 300℃になります。これは現実的ではありません。発熱量が1Wを超える場合は、ヒートシンクを使う設計に切り替えるべきサインです。

🔧 現場の声
設計レビューで「Rth(j-a)で計算したからOKです」と説明したら、「その基板条件はJEDEC標準と違うよね?」と突っ込まれて答えに詰まった——これは典型的な失敗パターンです。データシート値の前提条件を必ず確認しましょう。

Rth(j-a)を下げる4つの設計テクニック

ヒートシンクを使えない場合でも、基板の設計を工夫することでRth(j-a)を下げることができます。実務でよく使われる4つのテクニックを紹介します。

📐

① 銅箔ベタを大きく

部品周辺の銅箔面積を広げる。ベタGNDや電源ベタを近接させると効果大。最も低コストな対策。

🕳️

② サーマルビア追加

表面の銅箔から内層・裏面の銅箔へ熱を導くビアを多数配置。多層基板で特に効果的。

📑

③ 銅箔厚を増やす

35μm(1oz)から70μm(2oz)へ変更。熱の伝搬性が向上し、Rth(j-a)が10〜20%程度下がる。

🏗️

④ 多層化

2層→4層→6層と層数を増やす。内層に銅箔ベタを配置することで、基板全体が放熱体になる。

💡 ポイント
これらの対策を組み合わせると、Rth(j-a)を半分以下にできることもあります。「ヒートシンクを付けるスペースがない」「コストを抑えたい」という制約があるとき、基板設計の工夫で解決できる場合が多いのです。

Rth(j-c)とRth(j-a)、どちらを使う?判断フロー

データシートを開いたとき、Rth(j-c)とRth(j-a)のどちらを使うべきか迷ったら、次のフローで判断しましょう。

STEP 1

ヒートシンクを使うか?

YES

→ Rth(j-c)を使う
Rth(j-c) + Rth(c-s) + Rth(s-a) を直列に足してTjを計算する。

NO

→ Rth(j-a)を使う
ただし、データシートの基板条件と実機の基板条件が近いことを確認すること。

⚠️ 重要な確認事項
Rth(j-a)を使う場合は、必ずデータシートの「測定条件」を確認してください。「JEDEC 1S」と「JEDEC 2S2P」では2倍以上違うこともあります。注釈を読み飛ばすと、計算結果が現実とズレます。

Rth(j-a)でよくある3つの誤解

誤解① 「Rth(j-a) = Rth(j-c) + 何か」で計算できる

Rth(j-a)とRth(j-c)を足し算で関連付けることはできません。Rth(j-a)はヒートシンクなしの「ケース→空気」の経路を含み、Rth(j-c)はヒートシンクを使う前提です。両者は独立した別の指標として扱う必要があります。

誤解② Rth(j-a)は部品固有の値である

Rth(j-a)は「部品 + 基板 + 周囲条件」のセットで決まる値です。同じ部品でも、基板を変えればRth(j-a)は変わります。データシートの値は「ある特定の条件での参考値」と理解しましょう。

誤解③ Rth(j-a)が小さい部品ほど優秀

Rth(j-a)の絶対値だけを見て部品を選んではいけません。あるメーカーは「JEDEC 2S2P:50℃/W」と記載し、別メーカーは「JEDEC 1S:100℃/W」と記載していたら、後者の方が実は優秀かもしれません。必ず同じ測定条件で比較してください。

⚠️ 注意
データシートの数値を比較するときは、「測定条件」のページを必ず照合すること。これを怠ると、見かけ上は良さそうな部品が、実機では性能を発揮しないという事態に陥ります。

まとめ|Rth(j-a)は「条件付き」で使う

📌 この記事のポイント
  • Rth(j-a)は「ヒートシンクなし・基板実装状態」での熱抵抗
  • 表面実装パッケージや小信号部品で主に使う
  • 基板条件(銅箔面積・層数・厚み)で値が大きく変わる
  • JEDEC規格などの測定条件を必ず確認すること
  • ヒートシンクを使う場合は絶対にRth(j-a)を使わない
  • 銅箔ベタ・サーマルビア・銅箔厚UP・多層化でRth(j-a)を下げられる

Rth(j-a)は便利な指標ですが、「条件付きの値」であることを忘れてはいけません。データシートの数値を鵜呑みにせず、自分の基板条件と照らし合わせて使うことが、熱設計の精度を上げるコツです。

📚 次に読むべき記事

📘 Rth(j-c)・Rth(c-s)・Rth(s-a)の違い|どこからどこまでの熱抵抗か →

3つの熱抵抗の違いを完全整理。本記事と合わせて読むと、データシートの熱抵抗の見方が完全にわかります。

📘 熱回路モデルの作り方|Tj→Tc→Ts→Taを直列回路で考える →

熱抵抗を使ってジャンクション温度Tjを計算する全体像を解説。基礎を固めたい方へ。

📘 【完全図解】基板の層構成の決め方|2層・4層・6層をどう使い分けるか →

Rth(j-a)を下げる「多層化」の具体策。2層・4層・6層の使い分けと選定基準を解説。

📘 【完全図解】銅箔厚の選び方|35μm・70μm・105μmの使い分け →

銅箔厚を厚くすることでRth(j-a)を下げる方法。コストと性能のバランスを解説。

📘 熱抵抗とは?|「熱のオームの法則」で完全理解する熱設計の核心 →

熱抵抗の基礎概念を「電気のオームの法則」のアナロジーで完全理解。

タグ

-熱設計