熱設計

熱設計の全体像|「発熱→伝熱→放熱」の3ステップで考える完全マップ

熱設計の全体像。「発熱→伝熱→放熱」の3ステップで考えるマップ

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こんな経験はありませんか?
  • 設計レビューで「この基板、熱大丈夫?」と聞かれて固まった
  • ヒートシンクの選定を任されたが、何から手をつければいいかわからない
  • 「熱抵抗」「熱伝導率」「自然対流」…用語がバラバラで頭に入ってこない
  • 先輩に「熱設計の基本くらい知っておいて」と言われたが、教科書は分厚すぎて挫折した
○ この記事でわかること
  • 熱設計の全体像が「発熱→伝熱→放熱」の3ステップで一目でわかる
  • 各ステップで「何を決めるか」「何を計算するか」が明確になる
  • 次に何を勉強すればいいか、学習ロードマップが手に入る

「熱設計」と聞くと、複雑な数式と専門用語の山に思えて、最初の一歩が踏み出せない方は多いのではないでしょうか。

でも、実は熱設計の本質はとてもシンプルです。「熱がどこで生まれて、どう伝わって、どこへ逃げるか」──この3ステップを順番に追いかけるだけ。

この記事では、熱設計の全体マップを「発熱→伝熱→放熱」という3ステップで整理し、それぞれのステップで「何を決めるか」を初心者向けに図解します。読み終わる頃には、設計レビューで「熱大丈夫?」と聞かれても、慌てずに答えられる土台が手に入ります。

そもそも、なぜ熱設計が必要なのか?

結論から言います。電子部品は「熱」で壊れるからです。

パワーMOSFETもIGBTも電解コンデンサも、すべての電子部品には「使える温度の上限」があります。これを超えた瞬間、部品は壊れるか、寿命が一気に縮まります。

10℃2倍則
電解コンデンサの寿命は、使用温度が10℃上がるごとに約半分になります。つまり「ちょっと熱いだけ」が、製品寿命を10分の1にすることもあるのです。
置き場所が熱いほど、余裕は小さくなる
熱が原因の故障がどれくらいの割合かは、製品や使われ方で大きく変わり、決まった数字はありません。ただ、エンジンルームや屋外の制御盤のように周囲温度が高い場所に置く機器ほど、部品の温度の上限までの余裕が小さくなり、熱設計の精度が製品の信頼性を直接左右します。

熱設計の目的はただ一つ。「すべての部品を、許容温度以下に保つこと」です。そのために、熱の流れを設計段階でコントロールする必要があります。

温度が上がると半導体に何が起きるか|壊れる3段階

パワー半導体の温度でいちばん大事なのは、チップの接合部の温度ジャンクション温度Tjです。ケースやヒートシンクよりも必ず高く、データシートには上限Tj(max)が書かれています(Si(シリコン)の素子では150℃〜175℃の品が多く見られます)。Tjが上がると、ダメージは次の3段階で進みます。温度の区切りは、Siの素子を例にした目安です。

段階1(目安〜100℃)

特性の変化(温度が下がれば戻る)
温度で電気的な特性が変わります。たとえばMOSFETのオン抵抗RDS(on)は温度が高いほど大きくなり、しきい値電圧Vthは下がります。どれだけ変わるかは、データシートの「温度とオン抵抗」のグラフで確かめます。

段階2(目安100〜150℃)

経時劣化(温度を下げても戻らない)
高い温度が続くと、はんだ接合の疲労、配線の金属原子が電子の流れに押されて動くエレクトロマイグレーション、ゲート酸化膜の劣化などが少しずつ進みます。化学反応の速さは温度で大きく変わり、目安として温度が10℃上がると寿命がおよそ半分になります(10℃2倍則)。

段階3(Tj(max)を超える)

熱破壊(一度で壊れる)
接合部の破壊や配線の溶断などで、その場で壊れます。煙が出ることもあります。

注意

量産で問題になりやすいのは段階2です。試作では段階1の範囲で動いて合格しても、数年使ううちに段階2の劣化がたまり、ある日壊れます。「試作でOKだったから量産もOK」とは言えないのが、熱設計の難しいところです。

MOSFETの故障の進み方の図。100℃くらいまでは特性が変わるだけで戻る、100〜150℃では経時劣化が進んで戻らない、Tj(max)を超えると熱破壊で一度に壊れる

熱でパワー半導体が壊れる代表的な故障モード

量産後の不具合を調べるときに、熱が原因かどうかを見分ける手がかりになります。

故障モード起きる仕組みおもな対策
はんだクラック温度が上がり下がりするたびに、材料の熱膨張のちがいで接合部に力がかかり、疲労で割れる温度の振れ幅を小さくする。接合部の材料や形を見直す
ボンディングワイヤのはがれ・断線通電のON・OFFでチップの温度が上下し(パワーサイクル)、ワイヤの接合部に疲労がたまるTjの振れ幅を小さくする。放熱を強くする
エレクトロマイグレーション大きな電流密度と高い温度で、配線の金属原子が電子の流れに押されて動き、細って切れる電流密度と温度を下げる
ゲート酸化膜の劣化高い温度と電圧がかかり続け、薄い絶縁膜が時間とともに劣化して壊れるTjとゲート電圧を定格の内側で使う
熱暴走温度が上がる→損失が増える→さらに温度が上がる、のくり返しで一気に壊れる温度に余裕をもたせる。過電流・過熱の保護を入れる
POINT

量産品の不良解析で、はんだクラックやワイヤの断線が見つかったら、まず熱設計を疑います。試作は台数も動かす時間も少ないので、熱が原因の故障は見逃されやすいからです。

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熱設計の全体像|「発熱→伝熱→放熱」の3ステップ

熱設計は、次の3つのステップに分解できます。この順番でしか考えられません。逆順では成立しないのです。

STEP 1
発熱
どこで何W熱が出るか
→
STEP 2
伝熱
熱がどう伝わるか
→
STEP 3
放熱
外気へどう逃がすか

たとえるなら、家のお風呂です。

熱設計 お風呂のたとえ 考えること
① 発熱 蛇口からお湯が出る どれだけお湯(熱)が出るか
② 伝熱 お湯が浴槽に流れていく 途中の配管はどれくらい太いか
③ 放熱 浴槽から排水される 排水口の大きさは十分か
ポイント
蛇口を全開にしても、排水口が詰まっていれば浴槽はあふれます。熱設計も同じで、「どこか1箇所がボトルネックになると、全体が破綻する」のです。

STEP1:発熱|「どこで何W熱が出るか」を把握する

熱設計の最初のステップは、「どの部品が、何W発熱するか」を見積もることです。これが間違っていると、その先の計算がすべて崩れます。

発熱量はどう計算する?

電子回路の発熱は、ほぼすべて「損失(ロス)」から生まれます。電気エネルギーが熱エネルギーに変わるのです。

主な損失の種類
・導通損失:部品がONのときに流れる電流による発熱(P = I²R)
・スイッチング損失:MOSFETやIGBTがON/OFFする瞬間の発熱
・鉄損・銅損:トランス・インダクタの磁気的な損失
・誘電損失:コンデンサ内部の損失
手順1

発熱する部品をリストアップする(MOSFET・ダイオード・抵抗・トランス・電解コンなど)

手順2

各部品ごとに損失を計算する(データシートの式に従う)

手順3

合計発熱量を出す(基板全体で何W熱が出るか)

現場の声
「発熱量を見積もる」と言うと難しく聞こえますが、要はP = I²RとP = V × Iの組み合わせです。電験三種で習うオームの法則がそのまま使えます。

STEP2:伝熱|熱が伝わる「3つの方法」を理解する

発熱量がわかったら、次は「その熱がどう伝わるか」を考えます。熱の伝わり方は、世界に3種類しかありません。

① 伝導

固体の中を伝わる熱

  • 例:フライパンの取っ手が熱くなる
  • 基板→ヒートシンクへの熱移動

② 対流

空気・液体の流れで運ばれる熱

③ 放射

電磁波(赤外線)として飛ぶ熱

  • 例:太陽の光で温まる
  • 高温部品から周囲への熱移動

電子機器の熱はどう動く?

伝導

MOSFETのジャンクション(中身) → パッケージ表面 → 基板 → ヒートシンク

対流

ヒートシンクの表面 → 周囲の空気(自然対流 or ファンによる強制対流)

放射

高温の部品 → 赤外線として周囲へ放出(黒く塗装すると効率UP)

ポイント
電子機器の熱は、まず伝導で部品から外へ出て、最後に対流で空気に逃げます。放射は補助的な役割です。
つまり「伝導でいかに熱を引き出し、対流でいかに捨てるか」が熱設計の本質です。

熱抵抗|熱の世界の「オームの法則」

伝熱の計算で必ず出てくるのが「熱抵抗」という概念です。これがわかれば、熱設計の8割は終わったようなものです。

熱抵抗は、電気のオームの法則とまったく同じ形をしています。

電気の世界 熱の世界
電圧 V [V] 温度差 ΔT [℃]
電流 I [A] 熱流 P [W]
電気抵抗 R [Ω] 熱抵抗 Rth [℃/W]
V = I × R ΔT = P × Rth
熱抵抗の基本式
ΔT = P × Rth
温度差[℃] = 発熱量[W] × 熱抵抗[℃/W]

たとえば、発熱10Wの部品が熱抵抗5℃/Wの経路でつながっていれば、温度差は10W × 5℃/W = 50℃になります。周囲温度が25℃なら、部品の温度は75℃です。

熱抵抗は「直列」「並列」もある
電気抵抗と同じく、熱抵抗も直列なら足し算、並列なら逆数の和になります。MOSFET → 基板 → ヒートシンク → 空気、と熱が伝わる経路は「熱抵抗の直列回路」です。
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STEP3:放熱|熱を「外気へ捨てる」最終工程

最後のステップは「熱を外気へ逃がす」こと。ここで詰まれば、いくら発熱を減らしても部品は熱くなります。

放熱の主役は「ヒートシンク」と「空気の流れ」

自然対流

  • ファンなし。空気の温度差で勝手に流れる
  • 静音・故障少ない
  • 放熱能力は弱い
  • ヒートシンクは「縦置き」が基本

強制対流

  • ファン・ブロワで風を当てる
  • 放熱能力が一気に上がる
  • ファン故障 = 放熱破綻のリスク
  • 騒音・寿命の問題あり

放熱性能を決める3つの要素

① 表面積

大きいほど熱が逃げやすい。だからヒートシンクは「フィン(ひれ)」だらけの形をしている。

② 風量

風が速いほど、熱を奪う力が強い。強制対流は自然対流の3〜10倍の放熱能力がある。

③ 温度差

部品温度と外気温の差が大きいほど熱は逃げる。逆に言えば、外気温が高い環境(車載・産業機器)では放熱が難しい。

現場の声
エンジンルーム内の機器は周囲温度が85℃〜105℃にもなります。家庭用エアコンの室外機(25℃環境)と比べて、放熱条件は段違いに厳しい。だから車載用パワエレは、放熱設計が製品の命運を分けます。
おすすめの本

パワーエレクトロニクスの全体を、図でつかみたいときに向いています。パワーエレクトロニクスを、カラーの図解で解説した本です。

熱設計の実務フロー|実際にどう進めるか

ここまでの3ステップを、実務の流れに落とし込むとこうなります。

手順1

仕様の確認:周囲温度(最大何℃の環境で使うか)、許容温度(部品が壊れない上限)を決める

手順2

発熱量の算出:各部品の損失を計算し、合計発熱量を出す

手順3

許容熱抵抗の計算:「どれだけ熱抵抗を下げれば許容温度に収まるか」の目標値を決める

手順4

放熱手段の選定:ヒートシンク・ファン・銅箔パターン・サーマルビアなどを組み合わせる

手順5

熱シミュレーション:CADソフト(ANSYS Icepak、Flotherm等)で温度分布を確認

手順6

実機検証:熱電対やサーモグラフィで実測し、計算値とのズレを確認

設計の鉄則:マージンを取る
許容温度ギリギリの設計は禁物です。部品ばらつき・経年劣化・環境変動を考慮し、許容温度の70〜80%を目標値にするのが実務の常識(ディレーティング)です。

熱設計でやりがちな失敗パターン3選

失敗①:周囲温度を「室温25℃」で計算してしまう

試験室は25℃でも、製品が使われる現場は違います。エンジンルームは85℃以上、屋外設置の制御盤は60℃を超えることもザラ。「最悪条件」で計算しないと、夏場に大量クレームになります。

失敗②:基板の放熱を過大評価する

「FR-4基板でも銅箔があれば放熱できる」と思いがちですが、FR-4の熱伝導率は約0.3 W/m·K。アルミ(約230 W/m·K)の1000分の1以下です。基板だけで放熱しようとすると、ほぼ確実に温度が上がりすぎます。

失敗③:シミュレーションだけを信じる

熱シミュレーションは強力ですが、入力する材料物性値や境界条件で結果が大きく変わります。必ず実機で熱電対やサーモグラフィで実測し、シミュレーションとの差を検証するのが鉄則です。

現場の声
「設計時は問題なかったのに、量産後に市場クレームが…」というとき、原因がこの3つのどれかであることはよくあります。特に①は新人がやりがちな致命傷です。

熱設計を学ぶための学習ロードマップ

熱設計を体系的に学びたい方は、次の順番で進めるのがおすすめです。

STEP A

電気の基礎を固める:オームの法則・電力・損失計算ができるようになる

STEP B

損失の種類を理解する:導通損失・スイッチング損失・鉄損・銅損の違いを把握する

STEP C

熱抵抗の計算に慣れる:ジャンクション温度を逆算できるようにする

STEP D

放熱手段を学ぶ:ヒートシンク・サーマルビア・TIM(熱伝導グリス)の使い方

STEP E

シミュレーションと実測:CAEツール・サーモグラフィでの検証スキルを習得する

ポイント
熱設計は「電気」と「物理(熱力学)」の両方を使います。電験三種で電気の基礎を固めれば、熱設計の理解スピードが一気に上がります。

まとめ|熱設計は「3ステップ」で考える

この記事の要点
  • STEP1:発熱 どこで何W熱が出るか、損失計算で見積もる
  • STEP2:伝熱 熱は「伝導・対流・放射」の3形態で伝わる。熱抵抗で計算する
  • STEP3:放熱 最終的にヒートシンクと空気で外気へ捨てる
  • 熱抵抗は電気のオームの法則と同じ形:ΔT = P × Rth
  • 許容温度の70〜80%を目標にしてマージンを取るのが実務の鉄則

熱設計は一見難しそうに見えますが、「発熱→伝熱→放熱」の3ステップで整理すれば、誰でも全体像をつかめます。あとは各ステップを掘り下げていくだけ。次回の設計レビューで「熱大丈夫?」と聞かれたら、自信を持って答えられるはずです。

この記事の理解を深める本と道具
おすすめの本

熱設計を、基礎から体系立てて学びたいときに向いています。電子機器の熱設計を、基礎から学べる入門書です(日刊工業新聞社、国峯尚樹 著)。

S
シラス
電験三種・QC検定1級 / メーカーでパワエレ設計・品質保証 実務10年

メーカーで電気設計と品質保証に携わってきた経験をもとに執筆しています。むずかしい専門用語をできるだけ使わず、はじめて学ぶ人がつまずかないように、図とたとえで説明することを大切にしています。

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