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熱設計の本を開くと、必ず最初に出てくるのが「熱抵抗」という言葉。式や記号が並んでいて、いきなり挫折する方も多いのではないでしょうか。
でも、安心してください。熱抵抗は、電気のオームの法則とまったく同じです。中学校で習った「V = I × R」を覚えていれば、熱抵抗の世界は一瞬で理解できます。
この記事を読み終える頃には、データシートの「Rth(j-c)」を見ても焦らず、ジャンクション温度を電卓で計算できるようになります。
熱抵抗とは?|「熱の流れにくさ」を数値化したもの
熱抵抗を一言で説明すると、「熱がどれだけ流れにくいか」を数値化したものです。
電気抵抗が大きいと電流が流れにくいですよね。それと同じで、熱抵抗が大きいと熱が流れにくくなり、結果として温度が上がります。
単位「℃/W」の意味を読み解く
熱抵抗の単位「℃/W」を見て「なんだこれ?」と感じる方は多いはず。でも実はとてもシンプルな意味です。

電気のオームの法則と完全に同じ|熱の世界の住人になる
ここからが本記事の核心です。熱の世界は、電気の世界と完全にパラレル(並行)しています。電気の用語を「熱の用語」に置き換えるだけで、すべてが理解できます。
対応関係の早見表
| 電気の世界 | 熱の世界 | 意味 |
|---|---|---|
| 電圧 V [V] | 温度差 ΔT [℃] | 流れを押し出す力 |
| 電流 I [A] | 熱流 P [W] | 流れる量 |
| 電気抵抗 R [Ω] | 熱抵抗 Rth [℃/W] | 流れにくさ |
| V = I × R | ΔT = P × Rth | 基本式(オームの法則) |
「水道管」でイメージしてみる
電気のオームの法則を水道管でイメージするとわかりやすいですよね。熱も同じです。
| 水道管のたとえ | 電気 | 熱 |
|---|---|---|
| 水圧の差 | 電圧 V | 温度差 ΔT |
| 流れる水の量 | 電流 I | 熱流 P |
| パイプの細さ | 電気抵抗 R | 熱抵抗 Rth |

ジャンクション温度を計算してみる|実例で理解
パワー半導体の熱設計で最も大事な計算は、「ジャンクション温度Tj」を求めることです。これが許容温度(通常125〜175℃)を超えないかチェックするのが熱設計のゴールです。
熱の流れる経路(直列回路)
パワー半導体から外気までの熱の経路は、こうなっています。
それぞれの間に「熱抵抗」が存在します。これは電気抵抗の直列回路とまったく同じです。
ジャンクション温度の計算式

実際に計算してみる|MOSFETのジャンクション温度
具体的な数値を入れて計算してみましょう。前回の記事で計算した発熱量「6W」のMOSFETを例にします。
条件を整理
| 発熱量 P | 6 W |
| 外気温 Ta | 40 ℃(夏場の機器内温度) |
| Rth(j-c) | 1.0 ℃/W(データシート) |
| Rth(c-s) | 0.5 ℃/W(TIM経由) |
| Rth(s-a) | 8.0 ℃/W(小型ヒートシンク) |
計算してみる
ジャンクション温度は97℃。許容温度125℃に対して28℃の余裕があるので、この設計はOKです。
もし発熱が10Wだったら?

熱抵抗の直列・並列|電気と完全に同じ
熱抵抗も電気抵抗と同じく、「直列なら足し算」「並列なら逆数の和」のルールが完全に当てはまります。
直列接続|熱が一本道で流れる場合
先ほどの「ジャンクション → ケース → ヒートシンク → 外気」のように、熱が一本道で流れる場合は足し算です。
並列接続|熱が複数経路で流れる場合
たとえば「ヒートシンクへも基板へも熱が逃げる」ような場合、複数の経路が並列になっています。並列の場合は逆数の和の逆数になります。
並列の威力|放熱経路を増やすと熱抵抗が下がる
たとえばヒートシンクの熱抵抗が10℃/W、基板への熱抵抗が15℃/Wだとすると、両方使えば合計は…
1経路だけのときの10℃/Wが、2経路使うことで6℃/Wまで下がりました。これが並列の威力です。

データシートの熱抵抗を読み解く
パワー半導体のデータシートには、必ず熱抵抗が記載されています。よく出てくる3つの記号を覚えておきましょう。
| 記号 | 読み方 | 意味 |
|---|---|---|
| Rth(j-c) | ジャンクション〜ケース | 素子内部の熱抵抗(部品固有値) |
| Rth(j-a) | ジャンクション〜周囲 | ヒートシンクなしの場合の合計熱抵抗 |
| Rth(c-s) | ケース〜ヒートシンク | 取付面の熱抵抗(TIM・絶縁材) |
TIM(サーマルインターフェイスマテリアル)の重要性
ケースとヒートシンクの間には、必ずTIM(熱伝導グリス・放熱シートなど)を入れます。何も入れないと、表面の微小な凹凸で空気層ができて熱抵抗が跳ね上がるからです。
| 材料 | 熱伝導率の目安 | 特徴 |
|---|---|---|
| 空気 | 0.025 W/m·K | 論外(断熱材レベル) |
| 熱伝導グリス | 1〜10 W/m·K | 薄く塗れる、低コスト |
| 放熱シート | 1〜5 W/m·K | 絶縁性あり、組立容易 |
| 液体金属 | 50〜80 W/m·K | 最高性能、扱いに注意 |

熱抵抗の単位「℃/W」の読み方と、数字の感覚
「℃/W」は、1Wの熱を流すと、何℃の温度差ができるかを表す単位です。「km/h」が1時間あたりの距離を表すのと同じ「〜あたり」の単位で、数字が小さいほど熱がよく流れる(冷えやすい)ことを表します。
| 熱抵抗 | 1Wで上がる温度 | 10Wで上がる温度 | 感覚 |
|---|---|---|---|
| 1 ℃/W | 1℃ | 10℃ | よく冷える(大きなヒートシンク+風など) |
| 5 ℃/W | 5℃ | 50℃ | ふつう。発熱が増えると苦しい |
| 20 ℃/W | 20℃ | 200℃ | 数Wでも厳しい |
| 60 ℃/W 前後 | 60℃前後 | (成り立たない) | ヒートシンクなしの小さなパッケージのRth(j-a)はこの桁 |
同じヒートシンクでも、発熱が2倍になれば温度上昇も2倍です。逆に、必要な熱抵抗は Rth(必要) = 許してよい温度上昇 ÷ 発熱 で出せます。たとえば周囲40℃でTjを100℃以下にしたく、発熱が10Wなら、(100−40)÷10 = 6 ℃/W以下が必要です(実際は、Rth(j-c)・Rth(c-s)の分を差し引いた残りが、ヒートシンクに許される熱抵抗になります)。
途中の温度(Ts・Tc)も同じ式で出せる
直列の熱回路では、電気の回路で途中の点の電位を求めるのと同じように、周囲の温度Taから順に足していくと途中の温度がわかります。
熱抵抗でやりがちな3つの誤解
誤解①:データシートの値をそのまま使う
データシートのRth(j-c)は「理想的な実装条件」での値です。実装方法・基板設計・温度条件によって、実際の値は1.2〜2倍に増えることがあります。マージンを20〜30%取るのが鉄則です。
誤解②:TIMは厚く塗ったほうが良い
逆です。TIMは薄ければ薄いほど良い。グリスの熱伝導率は金属の100分の1以下なので、厚く塗ると逆に熱抵抗が増えます。「凹凸を埋める最小限の量」が正解です。
誤解③:周囲温度は試験室の25℃で考える
熱抵抗の計算における「外気温Ta」は、機器筐体内の最悪温度です。試験室は25℃でも、夏場のエンジンルームや密閉筐体内では60〜85℃にもなります。「製品が使われる環境の最悪温度」で計算してください。

まとめ|熱抵抗をマスターすれば熱設計は8割終わる
熱抵抗の概念を掴めば、データシートを読むのが怖くなくなります。「ΔT = P × Rth」──このたった1つの式で、ジャンクション温度から放熱設計の評価まで、すべてが計算できます。
電気のオームの法則がそのまま使える、というのは設計者にとって最大のラッキーです。新しい数式を覚える必要はなく、頭の中の電気回路の知識をそのまま熱の世界に持ち込むだけ。次の設計レビューで「ジャンクション温度は?」と聞かれたら、自信を持って即答してください。


