熱設計

熱抵抗とは?|「熱のオームの法則」で完全理解する熱設計の核心

熱抵抗とは何かを表すアイキャッチ。パワー半導体からヒートシンクへ熱が流れる絵と、熱のオームの法則 ΔT=P×Rth

※本記事にはプロモーション(広告)が含まれています。

こんな経験はありませんか?
  • データシートの「Rth(j-c)」「Rth(j-a)」の意味がよくわからない
  • 「ジャンクション温度を計算しろ」と言われたが、どこから手をつければいいか不明
  • 熱抵抗の単位「℃/W」を見るたびに頭が固まる
  • 熱の計算式が複雑そうで、毎回上司に聞いてしまう
○ この記事でわかること
  • 熱抵抗が「電気のオームの法則とまったく同じ」だと腹落ちする
  • ジャンクション温度を5秒で計算できるようになる
  • 熱抵抗の直列・並列の考え方が、電気抵抗と同じだとわかる

熱設計の本を開くと、必ず最初に出てくるのが「熱抵抗」という言葉。式や記号が並んでいて、いきなり挫折する方も多いのではないでしょうか。

でも、安心してください。熱抵抗は、電気のオームの法則とまったく同じです。中学校で習った「V = I × R」を覚えていれば、熱抵抗の世界は一瞬で理解できます。

この記事を読み終える頃には、データシートの「Rth(j-c)」を見ても焦らず、ジャンクション温度を電卓で計算できるようになります。

熱抵抗とは?|「熱の流れにくさ」を数値化したもの

熱抵抗を一言で説明すると、「熱がどれだけ流れにくいか」を数値化したものです。

電気抵抗が大きいと電流が流れにくいですよね。それと同じで、熱抵抗が大きいと熱が流れにくくなり、結果として温度が上がります。

熱抵抗の定義
Rth = ΔT / P
・Rth:熱抵抗 [℃/W]
・ΔT:温度差 [℃]
・P:流れる熱量 [W]

単位「℃/W」の意味を読み解く

熱抵抗の単位「℃/W」を見て「なんだこれ?」と感じる方は多いはず。でも実はとてもシンプルな意味です。

「℃/W」とは?

「1Wの熱を流したとき、何℃の温度差が生まれるか」を表す単位です。

  • Rth = 5 ℃/W → 1W流すと5℃温度差ができる
  • Rth = 1 ℃/W → 1W流しても1℃しか上がらない(熱が流れやすい)
  • Rth = 50 ℃/W → 1W流すと50℃も上がる(熱が流れにくい)
ポイント
熱抵抗は小さいほど良いのです。同じ発熱量でも、熱抵抗が小さければ温度上昇が抑えられます。「いかに熱抵抗を下げるか」が熱設計の腕の見せどころです。
おすすめの本

熱設計を、基礎から体系立てて学びたいときに向いています。電子機器の熱設計を、基礎から学べる入門書です(日刊工業新聞社、国峯尚樹 著)。

電気のオームの法則と完全に同じ|熱の世界の住人になる

ここからが本記事の核心です。熱の世界は、電気の世界と完全にパラレル(並行)しています。電気の用語を「熱の用語」に置き換えるだけで、すべてが理解できます。

対応関係の早見表

電気の世界 熱の世界 意味
電圧 V [V] 温度差 ΔT [℃] 流れを押し出す力
電流 I [A] 熱流 P [W] 流れる量
電気抵抗 R [Ω] 熱抵抗 Rth [℃/W] 流れにくさ
V = I × R ΔT = P × Rth 基本式(オームの法則)

「水道管」でイメージしてみる

電気のオームの法則を水道管でイメージするとわかりやすいですよね。熱も同じです。

水道管のたとえ 電気 熱
水圧の差 電圧 V 温度差 ΔT
流れる水の量 電流 I 熱流 P
パイプの細さ 電気抵抗 R 熱抵抗 Rth
現場の声
熱抵抗は「オームの法則の熱バージョン」と考えるとわかりやすくなります。式を覚えるのではなく、「電気で考えるクセを熱でも使うだけ」と気づくと、熱設計の難しさがぐっと下がります。

ジャンクション温度を計算してみる|実例で理解

パワー半導体の熱設計で最も大事な計算は、「ジャンクション温度Tj」を求めることです。これが許容温度(通常125〜175℃)を超えないかチェックするのが熱設計のゴールです。

熱の流れる経路(直列回路)

パワー半導体から外気までの熱の経路は、こうなっています。

Tj
ジャンクション
→
Tc
ケース表面
→
→
Ta
外気

それぞれの間に「熱抵抗」が存在します。これは電気抵抗の直列回路とまったく同じです。

直列の合計熱抵抗
Rth(j-a) = Rth(j-c) + Rth(c-s) + Rth(s-a)
・Rth(j-c):ジャンクション〜ケース間の熱抵抗(データシート記載)
・Rth(c-s):ケース〜ヒートシンク間の熱抵抗(TIM・絶縁シート)
・Rth(s-a):ヒートシンク〜外気間の熱抵抗(ヒートシンク仕様)

ジャンクション温度の計算式

最重要公式

Tj = Ta + P × Rth(j-a)

つまり、外気温 + 発熱量 × トータル熱抵抗 = ジャンクション温度

ポイント
この式は「電圧降下の式」と完全に同じ形です。電気回路で「電源電圧 + 抵抗の電圧降下」で出力電圧を計算するのと、まったく同じ感覚で熱を計算できます。

実際に計算してみる|MOSFETのジャンクション温度

具体的な数値を入れて計算してみましょう。前回の記事で計算した発熱量「6W」のMOSFETを例にします。

条件を整理

発熱量 P 6 W
外気温 Ta 40 ℃(夏場の機器内温度)
Rth(j-c) 1.0 ℃/W(データシート)
Rth(c-s) 0.5 ℃/W(TIM経由)
Rth(s-a) 8.0 ℃/W(小型ヒートシンク)

計算してみる

計算過程

STEP1:合計熱抵抗を求める
Rth(j-a) = 1.0 + 0.5 + 8.0 = 9.5 ℃/W

STEP2:ジャンクション温度を求める
Tj = 40 + 6 × 9.5
  = 40 + 57
  = 97 ℃

ジャンクション温度は97℃。許容温度125℃に対して28℃の余裕があるので、この設計はOKです。

もし発熱が10Wだったら?

Tj = 40 + 10 × 9.5
  = 40 + 95
  = 135 ℃

許容温度オーバー!
Tj=135℃は許容125℃を超えています。対策は3つ:
① 発熱を減らす(素子変更)
② 熱抵抗を下げる(大型ヒートシンクへ変更、強制空冷化)
③ 外気温を下げる(冷却機構の見直し)
現場の声
この計算ができれば、設計レビューで「ジャンクション温度は何度になる?」と聞かれて即答できます。電卓1つで5秒。これが熱設計のゴールデン公式です。

熱抵抗の直列・並列|電気と完全に同じ

熱抵抗も電気抵抗と同じく、「直列なら足し算」「並列なら逆数の和」のルールが完全に当てはまります。

直列接続|熱が一本道で流れる場合

先ほどの「ジャンクション → ケース → ヒートシンク → 外気」のように、熱が一本道で流れる場合は足し算です。

直列の合計熱抵抗
Rth(total) = Rth1 + Rth2 + Rth3 + ...

並列接続|熱が複数経路で流れる場合

たとえば「ヒートシンクへも基板へも熱が逃げる」ような場合、複数の経路が並列になっています。並列の場合は逆数の和の逆数になります。

並列の合計熱抵抗
1 / Rth(total) = 1/Rth1 + 1/Rth2
電気抵抗の並列回路の式と完全に同じ形です。

並列の威力|放熱経路を増やすと熱抵抗が下がる

たとえばヒートシンクの熱抵抗が10℃/W、基板への熱抵抗が15℃/Wだとすると、両方使えば合計は…

1/Rth = 1/10 + 1/15
   = 0.1 + 0.0667
   = 0.1667
Rth = 1/0.1667 = 約6.0 ℃/W

1経路だけのときの10℃/Wが、2経路使うことで6℃/Wまで下がりました。これが並列の威力です。

ポイント
熱を逃がす経路は多ければ多いほど良いです。基板の銅箔パターンを広く取る、サーマルビアを増やす、ヒートシンクと放熱パッドを併用する──すべて「並列で熱抵抗を下げる」テクニックです。

データシートの熱抵抗を読み解く

パワー半導体のデータシートには、必ず熱抵抗が記載されています。よく出てくる3つの記号を覚えておきましょう。

記号 読み方 意味
Rth(j-c) ジャンクション〜ケース 素子内部の熱抵抗(部品固有値)
Rth(j-a) ジャンクション〜周囲 ヒートシンクなしの場合の合計熱抵抗
Rth(c-s) ケース〜ヒートシンク 取付面の熱抵抗(TIM・絶縁材)
Rth(j-a)はヒートシンクなしの値
データシートの「Rth(j-a)」はヒートシンクをつけない場合の値です。多くの場合60〜80℃/Wと非常に大きく、これだけで設計するとほぼ確実に温度オーバーします。
実務では「Rth(j-c)」を起点に、ケース以降の熱抵抗を別途設計するのが基本です。

TIM(サーマルインターフェイスマテリアル)の重要性

ケースとヒートシンクの間には、必ずTIM(熱伝導グリス・放熱シートなど)を入れます。何も入れないと、表面の微小な凹凸で空気層ができて熱抵抗が跳ね上がるからです。

材料 熱伝導率の目安 特徴
空気 0.025 W/m·K 論外(断熱材レベル)
熱伝導グリス 1〜10 W/m·K 薄く塗れる、低コスト
放熱シート 1〜5 W/m·K 絶縁性あり、組立容易
液体金属 50〜80 W/m·K 最高性能、扱いに注意
おすすめの本

パワーエレクトロニクスの全体を、図でつかみたいときに向いています。パワーエレクトロニクスを、カラーの図解で解説した本です。

熱抵抗の単位「℃/W」の読み方と、数字の感覚

「℃/W」は、1Wの熱を流すと、何℃の温度差ができるかを表す単位です。「km/h」が1時間あたりの距離を表すのと同じ「〜あたり」の単位で、数字が小さいほど熱がよく流れる(冷えやすい)ことを表します。

熱抵抗 1Wで上がる温度 10Wで上がる温度 感覚
1 ℃/W1℃10℃よく冷える(大きなヒートシンク+風など)
5 ℃/W5℃50℃ふつう。発熱が増えると苦しい
20 ℃/W20℃200℃数Wでも厳しい
60 ℃/W 前後60℃前後(成り立たない)ヒートシンクなしの小さなパッケージのRth(j-a)はこの桁

同じヒートシンクでも、発熱が2倍になれば温度上昇も2倍です。逆に、必要な熱抵抗は Rth(必要) = 許してよい温度上昇 ÷ 発熱 で出せます。たとえば周囲40℃でTjを100℃以下にしたく、発熱が10Wなら、(100−40)÷10 = 6 ℃/W以下が必要です(実際は、Rth(j-c)・Rth(c-s)の分を差し引いた残りが、ヒートシンクに許される熱抵抗になります)。

単位の落とし穴

・K/W は ℃/W と同じ値です。熱抵抗は「温度差」を扱うので、目盛りの間隔が同じ℃とKは区別しなくてよいのです。
・放熱シートなどのTIMは ℃·cm²/W(面積1cm²あたり)で書かれていることがあります。実際の熱抵抗は接触面積で割ります。1 ℃·cm²/W のシートを5cm²で使えば 0.2 ℃/W です。
・W/m·K は材料の熱伝導率で、熱抵抗とは別のものです(大きいほど熱を通しやすい)。

途中の温度(Ts・Tc)も同じ式で出せる

直列の熱回路では、電気の回路で途中の点の電位を求めるのと同じように、周囲の温度Taから順に足していくと途中の温度がわかります。

例:P = 20W、Ta = 40℃、Rth(s-a) = 1.5 ℃/W、Rth(c-s) = 0.2 ℃/W、Rth(j-c) = 0.5 ℃/W

ヒートシンク:Ts = 40 + 20 × 1.5 = 70℃

ケース:Tc = 70 + 20 × 0.2 = 74℃

ジャンクション:Tj = 74 + 20 × 0.5 = 84℃

→ 実機でケース温度Tcを測れば、この関係を逆にたどってTjを見積もれます。測ったTcが計算より高ければ、Rth(c-s)(グリスの量・締め付け)か、Ta(筐体の中の温度)の見込みが甘い可能性があります。

熱抵抗でやりがちな3つの誤解

誤解①:データシートの値をそのまま使う

データシートのRth(j-c)は「理想的な実装条件」での値です。実装方法・基板設計・温度条件によって、実際の値は1.2〜2倍に増えることがあります。マージンを20〜30%取るのが鉄則です。

誤解②:TIMは厚く塗ったほうが良い

逆です。TIMは薄ければ薄いほど良い。グリスの熱伝導率は金属の100分の1以下なので、厚く塗ると逆に熱抵抗が増えます。「凹凸を埋める最小限の量」が正解です。

誤解③:周囲温度は試験室の25℃で考える

熱抵抗の計算における「外気温Ta」は、機器筐体内の最悪温度です。試験室は25℃でも、夏場のエンジンルームや密閉筐体内では60〜85℃にもなります。「製品が使われる環境の最悪温度」で計算してください。

現場の声
「計算では95℃なのに実機が130℃になる」というのは、ほぼ100%この3つのどれか。特に③の「周囲温度の楽観視」は新人がやりがちな致命傷です。

まとめ|熱抵抗をマスターすれば熱設計は8割終わる

この記事の要点
  • 熱抵抗は「熱の流れにくさ」 単位は℃/W
  • 熱の世界 = 電気の世界 ΔT = P × Rth は V = I × R と同じ
  • ジャンクション温度の式 Tj = Ta + P × Rth(j-a)
  • 直列は足し算、並列は逆数の和 電気抵抗と完全に同じ
  • 放熱経路を増やせば熱抵抗が下がる 並列接続の威力
  • マージンは20〜30%取る データシート値を過信しない

熱抵抗の概念を掴めば、データシートを読むのが怖くなくなります。「ΔT = P × Rth」──このたった1つの式で、ジャンクション温度から放熱設計の評価まで、すべてが計算できます。

電気のオームの法則がそのまま使える、というのは設計者にとって最大のラッキーです。新しい数式を覚える必要はなく、頭の中の電気回路の知識をそのまま熱の世界に持ち込むだけ。次の設計レビューで「ジャンクション温度は?」と聞かれたら、自信を持って即答してください。

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シラス
電験三種・QC検定1級 / メーカーでパワエレ設計・品質保証 実務10年

メーカーで電気設計と品質保証に携わってきた経験をもとに執筆しています。むずかしい専門用語をできるだけ使わず、はじめて学ぶ人がつまずかないように、図とたとえで説明することを大切にしています。

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