回路設計

ダイオードを直列接続して耐圧を上げる方法|電圧バランス抵抗の入れ方を完全図解

回路図を眺めていたら、ダイオードが2個直列に並んでいて、その横に大きな抵抗が並列に1個ずつ付いている。設計の先輩に「これ何ですか?」と聞いたら、「バランス抵抗だよ」と一言。

…いや、それじゃわからない。

「耐圧を上げるために直列にした」のはわかる。でもなぜ抵抗が必要なのか。抵抗値はどうやって決めるのか。山田課長に聞いたら「自分で調べて」と返されるパターンです。

😣 こんな疑問はありませんか?
  • ダイオードを直列にすれば耐圧は単純に2倍になるのでは?
  • なぜバランス抵抗(均圧抵抗)が必要なの?
  • 抵抗値はいくつにすればいい?計算式が知りたい
  • 動的バランス用のコンデンサってなぜ必要?
✅ この記事でわかること
  • ダイオード直列接続で「片方だけ壊れる」本当の理由
  • 静的バランス抵抗の役割と抵抗値の計算式
  • 動的バランス(RCスナバ)が必要なケース
  • 実回路で使える設計手順(数値例つき)

結論:ダイオード直列=「抵抗で電圧を均等に分ける」のが鉄則

先に結論を言います。ダイオードを直列接続して耐圧を上げるときは、必ず各ダイオードに並列で「バランス抵抗」を入れるのがルールです。

📐 設計の鉄則
静的バランス:並列抵抗R(直流の漏れ電流のバラつきを吸収)
動的バランス:並列RCスナバ(高速スイッチング時の電圧バラつきを吸収)

なぜ抵抗が必要なのか?それは「ダイオードは1個ずつ性格が違う」からです。同じ型番でも、漏れ電流(逆方向電流)が微妙に違う。何もしないと、その差がそのまま「電圧の偏り」になって、片方だけ耐圧オーバーで壊れます。

これから図解で詳しく見ていきましょう。

そもそも、なぜダイオードを直列にするのか?

ダイオードには逆耐圧(VRRM)という「これ以上の逆方向電圧をかけたら壊れる」限界値があります。たとえば一般的な整流ダイオードなら600V、1000Vなど。

でも、産業用インバータや高圧の電源装置だと、回路にかかる電圧が1500V、2000V…と平気で出てきます。こうなると1個のダイオードでは耐えられない。

解決策は2つ

💰

案A:高耐圧の高級品を買う

  • 2000V耐圧の特殊ダイオード
  • 1個あたり数千円〜
  • 入手性が悪い
🔗

案B:1000V品を2個直列

  • 標準品で耐圧を稼げる
  • コストが1/5〜1/10
  • バランス抵抗が必要

現場では案B(直列接続)が圧倒的に多いです。安くて、入手しやすくて、設計の自由度が高い。ただし、ちゃんと「バランス抵抗」を入れる必要がある。これを忘れるとどうなるか、次のブロックで見ていきます。

ダイオードをただ直列にしただけだと、なぜ片方が壊れるのか

ここが一番大事な話です。直感的には「1000V品を2個直列にしたら2000V耐えられる」と思いますよね。でも実際は違います。

⚠️ 失敗パターン
バランス抵抗なしで1000V耐圧のダイオードを2個直列にし、1800Vをかけた。
→片方に1400V、もう片方に400Vかかってしまい、1400Vの方が耐圧オーバーで破壊。
→連鎖的にもう片方にも全電圧がかかり、両方破壊。

原因は「漏れ電流(逆方向電流)のバラつき」

ダイオードに逆電圧をかけたとき、本来はゼロのはずの電流が、ごくわずかに流れます。これを漏れ電流(IR)と呼びます。データシートにも「IR = 5μA @ VR = 1000V」のように書かれています。

問題は、この漏れ電流が個体ごとにバラつくこと。同じ型番でも、IR = 3μA のダイオードもあれば、IR = 7μA のダイオードもある。

直列にした2個のダイオードに流れる電流は同じです(直列なので当然)。でも、それぞれが「流したい漏れ電流」は違う。すると、漏れ電流が少ない(=より絶縁的な)方のダイオードに、より大きな電圧がかかってしまうのです。

水道管のたとえで完全理解:なぜ電圧が偏るのか

「漏れ電流のバラつき」と言われてもピンと来ないと思います。水道管に置き換えてみましょう。

🚰 たとえ話
逆電圧をかけたダイオードは、「ほぼ閉じているけど、ちょっとだけ水が漏れているバルブ」です。

完璧に閉じているバルブは「無限大の抵抗」。でも実際は微妙に漏れているので、すごく大きな抵抗(数MΩ〜数十MΩ)を持った抵抗器のように振る舞います。

バルブAとバルブBが直列なら…

たとえばダイオードAの等価抵抗が 100MΩ、ダイオードBの等価抵抗が 50MΩ だったとします(同じ型番でも、これくらいの差は普通にあります)。

この2つを直列にして1800Vをかけると、電圧は抵抗の比で分配されます。

📐 計算してみる
全体の抵抗:100M + 50M = 150MΩ
流れる漏れ電流:1800V ÷ 150MΩ = 12μA

ダイオードA(100MΩ)にかかる電圧:12μA × 100MΩ = 1200V
ダイオードB(50MΩ)にかかる電圧:12μA × 50MΩ = 600V

…はい、Aに1200Vもかかってしまいました。1000V耐圧品なら、即破壊です。「2個直列だから単純に半分ずつかかる」というのは大きな勘違いなのです。

バランス抵抗の役割:「天秤の重り」で電圧を均等化する

ここで登場するのがバランス抵抗(均圧抵抗)です。各ダイオードに並列で、同じ値の抵抗を1個ずつ入れます。

天秤のたとえで理解する

⚖️ たとえ話
2人の子どもをシーソーに乗せると、体重差があれば必ず傾きます。でも、両側に同じ重さの大人をペアで乗せたらどうでしょう?

子どもの体重差は大人の体重に比べて誤差みたいなものなので、シーソーはほぼ水平になりますよね。これがバランス抵抗の役割です。

ダイオードの等価抵抗は個体差が大きい(50MΩ vs 100MΩなど)。でも、その横にもっと小さくて精度の高い抵抗(たとえば1MΩ ±5%)を並列で付けると、合成抵抗はほぼその抵抗値(1MΩ)で決まります。

つまり、ダイオードの「気まぐれな漏れ電流」を、精度の高い抵抗の電流が押し流して、電圧を均等にしてくれるのです。

💡 ポイント
バランス抵抗の電流が、ダイオードの漏れ電流より十分大きいことが設計の鍵。
一般的には「漏れ電流の3〜10倍」を目安に抵抗値を決めます。

バランス抵抗値の決め方|計算式と数値例

実際の設計でよく使われる計算式を紹介します。これさえ覚えれば、現場で使えます。

📐 静的バランス抵抗の公式
R ≤
n × VRRM − Vtotal
(n − 1) × ΔIR
n:直列接続するダイオードの個数
VRRM:1個あたりの逆耐圧
Vtotal:回路にかかる総逆電圧
ΔIR:漏れ電流のバラつき(最大値 − 最小値)

数値例:1800V回路に1000V品を2個直列

実際に手を動かしてみましょう。以下の条件で計算します。

項目
直列個数 n 2 個
1個あたり逆耐圧 VRRM 1000 V
総逆電圧 Vtotal 1800 V
漏れ電流バラつき ΔIR 10 μA
🧮 計算
分子:n × VRRM − Vtotal = 2 × 1000 − 1800 = 200 V
分母:(n − 1) × ΔIR = 1 × 10μA = 10 μA

R ≤ 200V ÷ 10μA = 20 MΩ

ただし、計算上の最大値ギリギリで設計するのは危険です。実務では余裕を見て、計算値の1/10〜1/20を選ぶのが一般的。この場合なら、1MΩ〜2MΩあたりを選びます。

忘れがちな落とし穴:抵抗の消費電力を計算しないと焼ける

抵抗値が決まったら、もう1つ確認すべきことがあります。それは抵抗の定格電力です。

バランス抵抗は常に高電圧がかかり続ける場所に入ります。1個あたり900V(1800Vを2個で分けるので)がかかると考えると、流れる電流と発熱量がどれくらいか、計算しないと焼損します。

⚠️ 計算例(R = 1MΩ の場合)
流れる電流 I = V / R = 900V ÷ 1MΩ = 0.9 mA
消費電力 P = V × I = 900V × 0.9mA = 0.81 W

→1W定格の抵抗だとギリギリ。2W定格を選んで余裕を持たせるのが安全。

耐電圧にも要注意

抵抗には「最大動作電圧」というスペックがあります。一般的なチップ抵抗(1206サイズ)だと200V程度。900Vもかかるとアーク放電で破壊されます。

高電圧対応の高耐圧抵抗(パワー抵抗、メタルクラッド抵抗など)を選ぶか、抵抗自体を直列にして電圧を分散させる工夫が必要です。

高速スイッチング時はもう1つ必要:動的バランス用のコンデンサ

ここまでで「静的バランス(直流の電圧バラつき)」は解決しました。でも、もう1つ問題があります。それはスイッチング時の電圧バラつきです。

⚠️ 問題の正体
ダイオードがONからOFFに切り替わる瞬間(逆回復時)、各ダイオードの蓄積電荷(Qrr)や逆回復時間(trr)にバラつきがあると、回復が遅い方に電圧が集中します。

マイクロ秒オーダーの一瞬の出来事ですが、その瞬間に耐圧を超えると一発で壊れます。

対策:RCスナバを並列に追加

動的バランスを取るには、各ダイオードに「コンデンサと抵抗を直列にしたもの」を並列で追加します。これをRCスナバと呼びます。

⚖️

静的バランス(R)

  • 直流の漏れ電流対応
  • 常時動作
  • 抵抗1本だけ

動的バランス(RC)

  • スイッチング瞬間対応
  • 立ち上がり/立ち下がりだけ
  • 抵抗とコンデンサの直列

コンデンサ容量の目安は、各ダイオードの蓄積電荷Qrrの最大値 × 数倍。一般的には数nF〜数十nF程度。抵抗は数Ω〜数十Ωで、過渡電流を制限する役割です。

💡 使い分けの目安
商用周波数(50/60Hz)の整流:静的バランス(R)だけでOK
高周波スイッチング(数kHz以上):静的バランス(R)+ 動的バランス(RC)の両方が必須

完成形:直列ダイオードの正しい回路構成

ここまでの内容をまとめると、直列ダイオードの完成形は以下のようになります。

📋 ダイオード1個あたりに付ける部品

① 静的バランス抵抗 R 数百kΩ〜数MΩ、定格2W以上、高耐圧品
② 動的バランス コンデンサ C 数nF〜数十nF、フィルムコンデンサ推奨
③ 動的バランス 抵抗 Rs 数Ω〜数十Ω、過渡電流に耐えるもの

※ ①はダイオードに直接並列、②③はCとRsを直列にしてダイオードに並列接続

実務での設計手順(5ステップ)

STEP 1

総逆電圧と必要な余裕を決める
回路にかかる最大電圧の1.5〜2倍を目安に。サージも考慮。

STEP 2

ダイオードの個数と型番を選定
n × VRRM ≥ 1.5〜2 × Vtotal となる組み合わせを選ぶ。

STEP 3

静的バランス抵抗Rを計算
公式で求めた最大値の1/10〜1/20を選ぶ。消費電力も確認。

STEP 4

動的バランス(RC)の要否を判断
スイッチング周波数が高ければ追加。商用周波数なら不要。

STEP 5

実機で電圧波形を確認
オシロで各ダイオードの両端電圧を測定。バランスしているかチェック。

現場でよくある失敗パターン3選

❌ 失敗①:バランス抵抗の値が大きすぎる
「抵抗を大きくすれば損失が減る」と考えて100MΩなどを選ぶと、ダイオードの漏れ電流バラつきを吸収しきれず、電圧が偏ります。
→漏れ電流の3〜10倍の電流を流せる値にすること。
❌ 失敗②:抵抗の定格電圧不足
1MΩの標準チップ抵抗(最大動作電圧200V程度)を900Vの場所に置いて、アーク放電で破壊。
→高耐圧抵抗を使うか、抵抗を直列にして1個あたりの電圧を下げる。
❌ 失敗③:スイッチング回路で動的バランスを省略
インバータの整流部に普通の整流ダイオードを直列で使い、逆回復時のサージで破壊。
→高速スイッチング用途では必ずRCスナバを追加。または、ファストリカバリダイオード(FRD)を使う。

まとめ:ダイオード直列接続の3つの鉄則

✅ この記事の要点
  1. 「2個直列=2倍の耐圧」は嘘。漏れ電流のバラつきで電圧が偏り、片方が壊れる
  2. 静的バランス抵抗を入れて、直流の電圧バラつきを吸収する(公式:R ≤ (nVRRM−Vtotal) ÷ (n−1)ΔIR
  3. 高速スイッチング回路ではRCスナバも追加して、動的バランスも確保する

ダイオードの直列接続は、見た目はシンプルですが「個体差を抵抗で吸収する」という思想が根っこにあります。これはダイオードに限らず、IGBTやMOSFETの直列接続でも同じ考え方が使われます。

次に客先や上司から「これ、なんで抵抗が並列に付いてるの?」と聞かれたら、自信を持って「漏れ電流のバラつきを吸収するための静的バランス抵抗です」と答えられますね。

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バランス抵抗の計算には漏れ電流IRの値が必須。データシートのどこを見ればいいかわかります。

📘 RCスナバ回路の設計計算|抵抗値とコンデンサ容量の決め方 →

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📘 ファストリカバリダイオード(FRD)とは?一般整流との違い →

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