回路図を眺めていたら、ダイオードが2個直列に並んでいて、その横に大きな抵抗が並列に1個ずつ付いている。設計の先輩に「これ何ですか?」と聞いたら、「バランス抵抗だよ」と一言。
…いや、それじゃわからない。
「耐圧を上げるために直列にした」のはわかる。でもなぜ抵抗が必要なのか。抵抗値はどうやって決めるのか。山田課長に聞いたら「自分で調べて」と返されるパターンです。
- ダイオードを直列にすれば耐圧は単純に2倍になるのでは?
- なぜバランス抵抗(均圧抵抗)が必要なの?
- 抵抗値はいくつにすればいい?計算式が知りたい
- 動的バランス用のコンデンサってなぜ必要?
- ダイオード直列接続で「片方だけ壊れる」本当の理由
- 静的バランス抵抗の役割と抵抗値の計算式
- 動的バランス(RCスナバ)が必要なケース
- 実回路で使える設計手順(数値例つき)
目次
結論:ダイオード直列=「抵抗で電圧を均等に分ける」のが鉄則
先に結論を言います。ダイオードを直列接続して耐圧を上げるときは、必ず各ダイオードに並列で「バランス抵抗」を入れるのがルールです。
・静的バランス:並列抵抗R(直流の漏れ電流のバラつきを吸収)
・動的バランス:並列RCスナバ(高速スイッチング時の電圧バラつきを吸収)
なぜ抵抗が必要なのか?それは「ダイオードは1個ずつ性格が違う」からです。同じ型番でも、漏れ電流(逆方向電流)が微妙に違う。何もしないと、その差がそのまま「電圧の偏り」になって、片方だけ耐圧オーバーで壊れます。
これから図解で詳しく見ていきましょう。
そもそも、なぜダイオードを直列にするのか?
ダイオードには逆耐圧(VRRM)という「これ以上の逆方向電圧をかけたら壊れる」限界値があります。たとえば一般的な整流ダイオードなら600V、1000Vなど。
でも、産業用インバータや高圧の電源装置だと、回路にかかる電圧が1500V、2000V…と平気で出てきます。こうなると1個のダイオードでは耐えられない。
解決策は2つ
案A:高耐圧の高級品を買う
- 2000V耐圧の特殊ダイオード
- 1個あたり数千円〜
- 入手性が悪い
案B:1000V品を2個直列
- 標準品で耐圧を稼げる
- コストが1/5〜1/10
- バランス抵抗が必要
現場では案B(直列接続)が圧倒的に多いです。安くて、入手しやすくて、設計の自由度が高い。ただし、ちゃんと「バランス抵抗」を入れる必要がある。これを忘れるとどうなるか、次のブロックで見ていきます。

ダイオードをただ直列にしただけだと、なぜ片方が壊れるのか
ここが一番大事な話です。直感的には「1000V品を2個直列にしたら2000V耐えられる」と思いますよね。でも実際は違います。
バランス抵抗なしで1000V耐圧のダイオードを2個直列にし、1800Vをかけた。
→片方に1400V、もう片方に400Vかかってしまい、1400Vの方が耐圧オーバーで破壊。
→連鎖的にもう片方にも全電圧がかかり、両方破壊。
原因は「漏れ電流(逆方向電流)のバラつき」
ダイオードに逆電圧をかけたとき、本来はゼロのはずの電流が、ごくわずかに流れます。これを漏れ電流(IR)と呼びます。データシートにも「IR = 5μA @ VR = 1000V」のように書かれています。
問題は、この漏れ電流が個体ごとにバラつくこと。同じ型番でも、IR = 3μA のダイオードもあれば、IR = 7μA のダイオードもある。
直列にした2個のダイオードに流れる電流は同じです(直列なので当然)。でも、それぞれが「流したい漏れ電流」は違う。すると、漏れ電流が少ない(=より絶縁的な)方のダイオードに、より大きな電圧がかかってしまうのです。

水道管のたとえで完全理解:なぜ電圧が偏るのか
「漏れ電流のバラつき」と言われてもピンと来ないと思います。水道管に置き換えてみましょう。
逆電圧をかけたダイオードは、「ほぼ閉じているけど、ちょっとだけ水が漏れているバルブ」です。
完璧に閉じているバルブは「無限大の抵抗」。でも実際は微妙に漏れているので、すごく大きな抵抗(数MΩ〜数十MΩ)を持った抵抗器のように振る舞います。
バルブAとバルブBが直列なら…
たとえばダイオードAの等価抵抗が 100MΩ、ダイオードBの等価抵抗が 50MΩ だったとします(同じ型番でも、これくらいの差は普通にあります)。
この2つを直列にして1800Vをかけると、電圧は抵抗の比で分配されます。
全体の抵抗:100M + 50M = 150MΩ
流れる漏れ電流:1800V ÷ 150MΩ = 12μA
ダイオードA(100MΩ)にかかる電圧:12μA × 100MΩ = 1200V
ダイオードB(50MΩ)にかかる電圧:12μA × 50MΩ = 600V
…はい、Aに1200Vもかかってしまいました。1000V耐圧品なら、即破壊です。「2個直列だから単純に半分ずつかかる」というのは大きな勘違いなのです。

バランス抵抗の役割:「天秤の重り」で電圧を均等化する
ここで登場するのがバランス抵抗(均圧抵抗)です。各ダイオードに並列で、同じ値の抵抗を1個ずつ入れます。
天秤のたとえで理解する
2人の子どもをシーソーに乗せると、体重差があれば必ず傾きます。でも、両側に同じ重さの大人をペアで乗せたらどうでしょう?
子どもの体重差は大人の体重に比べて誤差みたいなものなので、シーソーはほぼ水平になりますよね。これがバランス抵抗の役割です。
ダイオードの等価抵抗は個体差が大きい(50MΩ vs 100MΩなど)。でも、その横にもっと小さくて精度の高い抵抗(たとえば1MΩ ±5%)を並列で付けると、合成抵抗はほぼその抵抗値(1MΩ)で決まります。
つまり、ダイオードの「気まぐれな漏れ電流」を、精度の高い抵抗の電流が押し流して、電圧を均等にしてくれるのです。
バランス抵抗の電流が、ダイオードの漏れ電流より十分大きいことが設計の鍵。
一般的には「漏れ電流の3〜10倍」を目安に抵抗値を決めます。

バランス抵抗値の決め方|計算式と数値例
実際の設計でよく使われる計算式を紹介します。これさえ覚えれば、現場で使えます。
VRRM:1個あたりの逆耐圧
Vtotal:回路にかかる総逆電圧
ΔIR:漏れ電流のバラつき(最大値 − 最小値)
数値例:1800V回路に1000V品を2個直列
実際に手を動かしてみましょう。以下の条件で計算します。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 直列個数 n | 2 個 |
| 1個あたり逆耐圧 VRRM | 1000 V |
| 総逆電圧 Vtotal | 1800 V |
| 漏れ電流バラつき ΔIR | 10 μA |
分子:n × VRRM − Vtotal = 2 × 1000 − 1800 = 200 V
分母:(n − 1) × ΔIR = 1 × 10μA = 10 μA
R ≤ 200V ÷ 10μA = 20 MΩ
ただし、計算上の最大値ギリギリで設計するのは危険です。実務では余裕を見て、計算値の1/10〜1/20を選ぶのが一般的。この場合なら、1MΩ〜2MΩあたりを選びます。

忘れがちな落とし穴:抵抗の消費電力を計算しないと焼ける
抵抗値が決まったら、もう1つ確認すべきことがあります。それは抵抗の定格電力です。
バランス抵抗は常に高電圧がかかり続ける場所に入ります。1個あたり900V(1800Vを2個で分けるので)がかかると考えると、流れる電流と発熱量がどれくらいか、計算しないと焼損します。
流れる電流 I = V / R = 900V ÷ 1MΩ = 0.9 mA
消費電力 P = V × I = 900V × 0.9mA = 0.81 W
→1W定格の抵抗だとギリギリ。2W定格を選んで余裕を持たせるのが安全。
耐電圧にも要注意
抵抗には「最大動作電圧」というスペックがあります。一般的なチップ抵抗(1206サイズ)だと200V程度。900Vもかかるとアーク放電で破壊されます。
高電圧対応の高耐圧抵抗(パワー抵抗、メタルクラッド抵抗など)を選ぶか、抵抗自体を直列にして電圧を分散させる工夫が必要です。

高速スイッチング時はもう1つ必要:動的バランス用のコンデンサ
ここまでで「静的バランス(直流の電圧バラつき)」は解決しました。でも、もう1つ問題があります。それはスイッチング時の電圧バラつきです。
ダイオードがONからOFFに切り替わる瞬間(逆回復時)、各ダイオードの蓄積電荷(Qrr)や逆回復時間(trr)にバラつきがあると、回復が遅い方に電圧が集中します。
マイクロ秒オーダーの一瞬の出来事ですが、その瞬間に耐圧を超えると一発で壊れます。
対策:RCスナバを並列に追加
動的バランスを取るには、各ダイオードに「コンデンサと抵抗を直列にしたもの」を並列で追加します。これをRCスナバと呼びます。
静的バランス(R)
- 直流の漏れ電流対応
- 常時動作
- 抵抗1本だけ
動的バランス(RC)
- スイッチング瞬間対応
- 立ち上がり/立ち下がりだけ
- 抵抗とコンデンサの直列
コンデンサ容量の目安は、各ダイオードの蓄積電荷Qrrの最大値 × 数倍。一般的には数nF〜数十nF程度。抵抗は数Ω〜数十Ωで、過渡電流を制限する役割です。
・商用周波数(50/60Hz)の整流:静的バランス(R)だけでOK
・高周波スイッチング(数kHz以上):静的バランス(R)+ 動的バランス(RC)の両方が必須

完成形:直列ダイオードの正しい回路構成
ここまでの内容をまとめると、直列ダイオードの完成形は以下のようになります。
📋 ダイオード1個あたりに付ける部品
| ① 静的バランス抵抗 R | 数百kΩ〜数MΩ、定格2W以上、高耐圧品 |
| ② 動的バランス コンデンサ C | 数nF〜数十nF、フィルムコンデンサ推奨 |
| ③ 動的バランス 抵抗 Rs | 数Ω〜数十Ω、過渡電流に耐えるもの |
※ ①はダイオードに直接並列、②③はCとRsを直列にしてダイオードに並列接続
実務での設計手順(5ステップ)
総逆電圧と必要な余裕を決める
回路にかかる最大電圧の1.5〜2倍を目安に。サージも考慮。
ダイオードの個数と型番を選定
n × VRRM ≥ 1.5〜2 × Vtotal となる組み合わせを選ぶ。
静的バランス抵抗Rを計算
公式で求めた最大値の1/10〜1/20を選ぶ。消費電力も確認。
動的バランス(RC)の要否を判断
スイッチング周波数が高ければ追加。商用周波数なら不要。
実機で電圧波形を確認
オシロで各ダイオードの両端電圧を測定。バランスしているかチェック。


現場でよくある失敗パターン3選
「抵抗を大きくすれば損失が減る」と考えて100MΩなどを選ぶと、ダイオードの漏れ電流バラつきを吸収しきれず、電圧が偏ります。
→漏れ電流の3〜10倍の電流を流せる値にすること。
1MΩの標準チップ抵抗(最大動作電圧200V程度)を900Vの場所に置いて、アーク放電で破壊。
→高耐圧抵抗を使うか、抵抗を直列にして1個あたりの電圧を下げる。
インバータの整流部に普通の整流ダイオードを直列で使い、逆回復時のサージで破壊。
→高速スイッチング用途では必ずRCスナバを追加。または、ファストリカバリダイオード(FRD)を使う。

まとめ:ダイオード直列接続の3つの鉄則
- 「2個直列=2倍の耐圧」は嘘。漏れ電流のバラつきで電圧が偏り、片方が壊れる
- 静的バランス抵抗を入れて、直流の電圧バラつきを吸収する(公式:R ≤ (nVRRM−Vtotal) ÷ (n−1)ΔIR)
- 高速スイッチング回路ではRCスナバも追加して、動的バランスも確保する
ダイオードの直列接続は、見た目はシンプルですが「個体差を抵抗で吸収する」という思想が根っこにあります。これはダイオードに限らず、IGBTやMOSFETの直列接続でも同じ考え方が使われます。
次に客先や上司から「これ、なんで抵抗が並列に付いてるの?」と聞かれたら、自信を持って「漏れ電流のバラつきを吸収するための静的バランス抵抗です」と答えられますね。
📚 次に読むべき記事
バランス抵抗の計算には漏れ電流IRの値が必須。データシートのどこを見ればいいかわかります。
動的バランス用RCスナバの定数設計は、スナバ回路の設計手順がそのまま使えます。
高速スイッチング用途では、そもそも一般整流ダイオードではなくFRDを選ぶのが正解です。