前回の記事で「ダイオードを直列にすれば耐圧が上がる(ただし抵抗が必要)」と学びました。じゃあ次の疑問は当然これですよね。
「並列にすれば、電流容量も2倍になるんじゃないの?」
結論から言うと、答えは「半分Yes、半分No」です。並列接続は確かに有効ですが、何も対策せずにただ並列にすると、片方のダイオードだけが熱で焼けて壊れるという、直列とはまた違うトラブルが待っています。
- ダイオードを並列にすれば電流容量は2倍になる?
- 「電流が片寄る」って具体的にどういうこと?
- なぜ片方だけ熱くなって壊れるのか?
- バランス抵抗の入れ方と値の決め方が知りたい
- 「並列=電流2倍」が成立しない物理的理由
- Vf(順方向電圧)の個体差が引き起こす熱暴走ループ
- 電流バランス抵抗の役割と計算式
- 実回路で使える設計手順とNG例
ダイオードを直列接続して耐圧を上げる方法|電圧バランス抵抗の入れ方 →
目次
- 結論:ダイオード並列=「電流が均等に流れない」のがデフォルト
- そもそも、なぜダイオードを並列にするのか?
- ダイオードをただ並列にしただけだと、なぜ片方が焼けるのか
- 水道管のたとえで完全理解:なぜ片方に水が集中するのか
- 並列接続の最大の敵:「熱暴走ループ」という正のフィードバック
- 対策①:電流バランス抵抗を直列に入れる
- バランス抵抗値の決め方|計算式と数値例
- 対策②:Vf選別と同一ロット品の使用
- 対策③:放熱の共通化(同じヒートシンクに取り付ける)
- 対策④:配線インピーダンスを揃える(配線対称性)
- 完成形:並列ダイオードの正しい設計
- 直列接続 vs 並列接続|対策の違いを総整理
- 現場でよくある失敗パターン3選
- まとめ:ダイオード並列接続の5つの鉄則
結論:ダイオード並列=「電流が均等に流れない」のがデフォルト
先に結論を言います。ダイオードを並列接続すると、何もしなければ電流は均等に分かれません。Vf(順方向電圧)の小さい方に電流が集中します。
・電流の偏りはVfの個体差が原因
・偏りを放置すると熱暴走ループで焼損
・対策は電流バランス抵抗を各ダイオードに直列で入れる
・または同一ロット品を選別して使う
直列接続では「漏れ電流のバラつき」が問題でしたが、並列接続では「Vfのバラつき」が問題になります。同じダイオードの個体差でも、注目すべきパラメータが違うのです。
しかも厄介なことに、並列接続には「熱暴走」という温度に絡んだ正のフィードバックが発生します。これが直列とは比較にならないほど怖い現象です。順に見ていきましょう。

そもそも、なぜダイオードを並列にするのか?
ダイオードには順方向の平均電流(IF(AV))という「これ以上の電流を流したら過熱で壊れる」限界値があります。たとえば一般的な整流ダイオードなら10A、30A、100Aなど。
でも、産業用インバータや大電流の電源装置だと、回路に流れる電流が50A、100A、200A…と平気で出てきます。1個のダイオードでは流しきれない。
解決策は2つ
案A:大電流品を1個使う
- 200A対応のモジュール
- 1個あたり数万円〜
- 大型ヒートシンクが必要
案B:100A品を2個並列
- 標準品の組み合わせ
- 放熱面積を分散できる
- 電流バランス対策が必要
並列接続は「電流容量アップ」だけでなく「放熱の分散」というメリットもあります。1個に200Aを集中させるより、2個に100Aずつ分けた方が、ヒートシンクの設計がラクになる。
ただし「ちゃんと均等に分かれれば」の話。次のブロックで、なぜ均等に分かれないのかを見ていきましょう。

ダイオードをただ並列にしただけだと、なぜ片方が焼けるのか
直感的には「100A品を2個並列にしたら、それぞれに50Aずつ均等に流れる」と思いますよね。でも実際は違います。
100A耐量のダイオードを2個並列接続し、合計150Aを流した。
→Vfの低い方に120A、もう片方に30Aしか流れず、120A側が過熱で焼損。
→片方が壊れた瞬間、残りの1個に150A全部が集中し、連鎖破壊。
原因は「Vf(順方向電圧)の個体差」
ダイオードに順方向の電流を流すと、両端に少しだけ電圧が発生します。これが順方向電圧降下(Vf)です。シリコンダイオードなら約0.7V、ショットキーバリアダイオード(SBD)なら約0.3〜0.5Vが典型値。
問題は、このVfが個体ごとにバラつくこと。同じ型番でも、Vf = 0.68V のダイオードもあれば、Vf = 0.72V のダイオードもある。
並列接続された2個のダイオードには同じ電圧がかかります(並列なので当然)。でも、Vfが違うと「電流が流れ始める電圧」が違う。すると、Vfが小さい(=電流が流れやすい)方のダイオードに、電流が集中するのです。

水道管のたとえで完全理解:なぜ片方に水が集中するのか
「Vfの個体差で電流が偏る」と言われてもピンと来ないと思います。水道管に置き換えてみましょう。
順方向のダイオードは、「ある一定の水圧を超えると水が流れ始める逆止弁」です。
Vfが0.68Vのダイオード=「0.68Vの水圧で開く弁」
Vfが0.72Vのダイオード=「0.72Vの水圧で開く弁」
この2つの弁を並列に並べて、両方の入口に同じ水圧をかけるとどうなるでしょう?
「開きやすい弁」に水が集中する
答えはシンプル。0.68Vの弁の方が先に大きく開き、そこに水(電流)が集中して流れるのです。0.72Vの弁は、ようやく開き始めたばかりでチョロチョロしか流れない。
電気的に言うと、両端電圧が約0.7Vのとき、Vfが小さい方は「ガッツリ流す」モード、Vfが大きい方は「ようやく流れ始める」モード。電流比が10倍くらいに開くのは普通にあります。
100A品のダイオードを2個並列、合計150A流す回路:
・ダイオードA(Vf=0.68V @50A)→ 実際に流れる電流:120A(定格オーバー!)
・ダイオードB(Vf=0.72V @50A)→ 実際に流れる電流:30A(余裕)
「2個並列だから単純に半分ずつ流れる」というのは、直列接続の電圧と同じく大きな勘違いなのです。

並列接続の最大の敵:「熱暴走ループ」という正のフィードバック
ここからが並列接続の本当に怖い話です。Vfが小さい方に電流が偏る—これだけでも問題ですが、それで終わりません。
シリコンダイオードには「温度が上がるとVfが下がる」という性質があります。温度係数は約 −2mV/℃。つまり、温度が10℃上がると、Vfが20mV下がる。
これが「正のフィードバック」を生む
- Vfが小さい方に電流が偏る
- 電流が多いから、その方が発熱する
- 温度が上がるとVfがさらに下がる
- Vfが下がるから、さらに電流が集中する
- 1〜4が無限ループ → 過熱破壊
これを「熱暴走(thermal runaway)」と呼びます。正のフィードバックなので、いったん始まると止まりません。ミリ秒〜秒オーダーで一気に焼損します。
直列接続の電圧バラつきは「静的」な問題で、漏れ電流の差で電圧が偏るだけ。一方、並列接続の電流バラつきは「動的」な問題で、時間とともに悪化していきます。
だから並列接続は、直列以上に慎重な対策が必要なのです。

対策①:電流バランス抵抗を直列に入れる
熱暴走ループを止める最もシンプルな方法が電流バランス抵抗(エミッタ抵抗、エミッタとは言いませんが概念は同じ)です。各ダイオードに直列で、同じ値の抵抗を1個ずつ入れます。
直列接続のバランス抵抗は「並列」に入れました(電圧を均等にするため)。
並列接続のバランス抵抗は「直列」に入れます(電流を均等にするため)。
入れる場所が真逆なので混同注意!
なぜ直列抵抗で電流が均等になるのか
たとえば各ダイオードに直列で10mΩの抵抗を入れたとします。電流が多く流れる側ほど、その抵抗での電圧降下が大きくなる。
遊園地の入り口で、人気の入口Aに行列ができている状態。バランス抵抗は、「混んでる入口の入場料を上げる」仕組みです。
すると「Aは入場料が高くなった→じゃあBに回ろう」と人が流れて、結果的にAとBの行列が均等になる。
電気的に言えば、「電流が偏る→偏った側の抵抗での電圧降下が増える→ダイオード本体にかかる電圧が下がる→電流が減る」という負のフィードバックが働き、自動的にバランスが取れるのです。
熱暴走の正のフィードバックを、バランス抵抗の負のフィードバックで打ち消す—これが基本原理です。

バランス抵抗値の決め方|計算式と数値例
並列接続のバランス抵抗値は、以下の考え方で決めます。
バランス抵抗での電圧降下が、Vfのバラつき(ΔVf)よりも十分大きいこと。
一般的にはΔVfの3〜10倍を目安にします。
数値例:100A品を2個並列、合計150A
実際に手を動かしてみましょう。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 並列個数 | 2 個 |
| 合計電流 | 150 A |
| 1個あたり想定電流 | 75 A |
| Vfバラつき ΔVf | 40 mV |
バランス抵抗の電圧降下を、ΔVfの5倍に設定したいとします。
目標電圧降下:40mV × 5 = 200mV
R = 目標電圧降下 ÷ 想定電流 = 200mV ÷ 75A = 約 2.7 mΩ
実際は、入手しやすい3mΩ、5mΩあたりを選ぶことになります。
抵抗 3mΩ × 電流 75A の場合:
電圧降下:3mΩ × 75A = 225mV
消費電力:225mV × 75A = 16.9 W (!)
→大電流回路では、バランス抵抗自体が大発熱体になる。専用の大電力抵抗(メタルクラッド、シャント抵抗など)が必要。

対策②:Vf選別と同一ロット品の使用
バランス抵抗を入れる以外にも、そもそもVfが揃ったダイオードを使うというアプローチがあります。
方法1:同一ロット品を使う
ダイオードは同じウェハ(半導体の元になる板)から作られたものほど、特性が揃います。同一ロットで購入し、隣接する個体を組み合わせると、Vfのバラつきが小さくなる。
実際、大電流モジュール(数百A〜数kA級)では、メーカー側で同一ロット品を選別してパッケージング済みのものが販売されています。
方法2:マッチングペアを自前で選別
量産前の試作レベルなら、Vfをカーブトレーサや簡易測定器で測って、近い値の個体をペアにする方法もあります。ただし量産では現実的ではない。
方法3:ディレーティング(電流余裕)を大きく取る
バランス対策が不十分でも、個々のダイオードの定格に対して余裕を持たせれば、偏っても破壊には至りません。たとえば100A品を「最大40Aまで」のディレーティングで使えば、80A偏っても許容範囲内。
現場では、これらの対策を組み合わせて使います:
・小〜中電流(〜数十A):バランス抵抗のみ
・大電流(数百A〜):バランス抵抗 + 同一ロット選別 + ディレーティング

対策③:放熱の共通化(同じヒートシンクに取り付ける)
熱暴走を抑える上で意外と効果が大きいのが「放熱の共通化」です。並列接続するダイオードは、必ず同じヒートシンクに取り付けてください。
なぜ共通ヒートシンクが効くのか
Vfが小さい側のダイオードに電流が集中すると、そこが発熱します。共通のヒートシンクに付けていれば、熱がヒートシンク経由でもう片方のダイオードにも伝わる。
Vfが小さい側が発熱→ヒートシンク経由でもう片方も温まる→Vfが大きかった方のVfも下がる→電流が均等化される方向に働く。
つまり「熱結合」を強くすることで、Vfの個体差を温度の方で相殺できるのです。
並列接続したダイオードを別々のヒートシンクに取り付ける、あるいは片方だけ風が当たる位置に置く—これは絶対にダメ。
熱結合がない状態だと、熱暴走を止める手段がなくなります。

対策④:配線インピーダンスを揃える(配線対称性)
もう1つ見落とされがちなのが配線の対称性です。並列にした2つのダイオードへの配線長が違うと、それだけで電流が偏ります。
数mΩ単位の話なので、回路図上では無視されがちですが、大電流回路では配線抵抗が事実上のバランス抵抗として働いてしまうのです。
・並列ダイオードを縦に並べて、上のダイオードへの配線が短く、下が長い
→上のダイオードに電流が集中
・ヒートシンクの取り付けネジが共通電極を兼ねていて、ネジの締め具合で抵抗が変わる
→工場でのバラつきが大きい
対策のポイント
並列ダイオードの配線は、左右対称(または上下対称)に配置します。電流が流れ込む点から、各ダイオードまでの距離が同じになるように。
さらに、高周波スイッチング回路では配線のインダクタンスも対称にする必要があります。リード長が違うと、スイッチング時の電流分担にも偏りが出ます。

完成形:並列ダイオードの正しい設計
ここまでの内容をまとめると、並列ダイオードの完成形は以下のようになります。
📋 並列接続の必須対策
| ① 電流バランス抵抗 | 各ダイオードに直列、数mΩ〜数十mΩ、大電力対応 |
| ② 同一ロット品の選定 | Vfのバラつきを最小化 |
| ③ 共通ヒートシンク | 熱結合で温度を均一化 |
| ④ 配線対称性 | 配線抵抗・インダクタンスを揃える |
| ⑤ ディレーティング | 定格に対して30〜50%の余裕 |
実務での設計手順(5ステップ)
必要電流と余裕を決める
サージや突入電流を考慮し、定常電流の1.5〜2倍を目安に。
ダイオードの個数と型番を選定
偏りを見込んで、1個あたり定格の60〜70%で使えるように選ぶ。
バランス抵抗値を計算
ΔVfの3〜10倍の電圧降下を目安に。発熱量を計算して定格電力を決定。
共通ヒートシンクと対称配線を設計
レイアウト段階で「電流が左右対称に分かれるか」を必ず確認。
実機で電流バランスを測定
クランプメーターやシャントで各ダイオード電流を測り、偏りが許容内かチェック。

直列接続 vs 並列接続|対策の違いを総整理
前回の直列接続と今回の並列接続、それぞれの対策のポイントを並べてみましょう。
| 項目 | 直列接続 | 並列接続 |
|---|---|---|
| 目的 | 耐圧アップ | 電流容量アップ |
| 偏る原因 | 漏れ電流IR | 順方向電圧Vf |
| 偏る方向 | IRが小さい方に電圧集中 | Vfが小さい方に電流集中 |
| 抵抗の入れ方 | 各ダイオードに並列 | 各ダイオードに直列 |
| 抵抗値 | 大きい(数百kΩ〜MΩ) | 小さい(数mΩ〜数十mΩ) |
| 動的問題 | スイッチング時のVバラつき(RCスナバ追加) | 熱暴走ループ(共通ヒートシンクが必須) |
| 怖さ | サージで一発破壊 | 徐々に過熱して焼損 |
「直列は電圧を分けたい→抵抗を並列で」
「並列は電流を分けたい→抵抗を直列で」
抵抗の入れ方が逆になります。

現場でよくある失敗パターン3選
レイアウトの都合で並列ダイオードを別々の放熱器に分けて配置。片方のヒートシンクだけ風通しが悪く、Vfが下がって電流集中→熱暴走で焼損。
→並列接続のダイオードは絶対に同じヒートシンクに取り付けること。
100Aを流すために5mΩのバランス抵抗を選んだら、その抵抗が25Wも発熱して基板が焦げた。
→バランス抵抗の消費電力 P = I²R を必ず計算。大電力対応の専用部品を選ぶ。
回路図上は完璧でも、基板パターン設計で配線長が違うと、配線抵抗だけで電流が偏る。
→レイアウト段階で「電流が左右対称に流れるか」を必ず確認。バスバーの設計も重要。

まとめ:ダイオード並列接続の5つの鉄則
- 「2個並列=2倍の電流」は嘘。Vfの個体差で電流が偏り、片方が焼ける
- シリコンダイオードには「温度↑→Vf↓」の性質があり、熱暴走ループを起こす
- 対策は電流バランス抵抗(直列)。ΔVfの3〜10倍の電圧降下を目安に
- 共通ヒートシンクに取り付けて熱結合を強くする(必須)
- 配線の対称性を保ち、配線抵抗・インダクタンスを揃える
ダイオードの並列接続は、直列接続とは違って「熱」が絡むからこそ危険です。一度熱暴走が始まると正のフィードバックで止まらない。だから、電気的な対策(バランス抵抗)と熱的な対策(共通ヒートシンク)の両方が必要なのです。
これでダイオードの直列・並列接続の両方を理解できました。次に客先や上司から「これ、なんで抵抗が直列に付いてるの?」と聞かれたら、自信を持って「Vfの個体差で熱暴走しないようにする電流バランス抵抗です」と答えられますね。

📚 次に読むべき記事
並列接続の対となる、直列接続の解説記事。両方理解すれば「ダイオードの組み合わせ設計」が完成します。
並列接続の電流偏りはVfの差が原因。Vfそのものへの理解を深めると設計判断が一段上がります。
並列接続の最大の敵は熱暴走。熱設計の基礎を体系的に学んで、根本から不良を防ぐ設計力を身につけましょう。