- 回路図どおりに作ったのに、なぜかMOSFETだけが熱い・壊れる
- オシロで見ると、立ち上がりの波形がビヨンビヨン震えている
- 「配線を短くしろ」と言われるけど、なぜそうなるのか腹落ちしない
- 寄生インダクタンスの正体を、初心者でもイメージで理解できる
- なぜ配線が長いとリンギングとサージが増えるのかがわかる
- L×di/dt という式が、実際に何を意味しているかがわかる
- 基板でまず何を短く・小さくすべきかが整理できる
「部品は合っているのに、なぜか動かない」「試作機だけ波形が荒れる」──こういうとき、犯人になりやすいのが回路図に描かれていないインダクタンスです。
初心者のうちは、インダクタンスと聞くとコイルを思い浮かべますよね。でも実際は、ただの配線や基板パターンにもインダクタンスがあります。
結論を先に言います。寄生インダクタンスとは、配線や部品の足、電流ループが勝手に持ってしまう「見えないコイル成分」です。これがあるせいで、スイッチング時にリンギングやサージが発生します。
寄生インダクタンスとは何か
回路図に描かれていない「見えないコイル」です
回路図の世界
- 線はただの線
- 抵抗ゼロ・インダクタンスゼロに見える
- 理想化されている
現実の基板
- 線には長さがある
- 電流ループも面積を持つ
- だからLが勝手に生まれる
寄生インダクタンス = 配線・パターン・部品端子・電流ループが持つ、意図していないインダクタンス
たとえば、MOSFETとコンデンサをつなぐ配線、ゲートドライバからゲートまでのパターン、GNDへ戻る経路。これらは全部、見た目はただの線ですが、電流の変化を邪魔する性質を持っています。
つまり、コイルを置いていなくても、基板そのものが小さなコイルの集まりになっているわけです。これがパワエレや高速デジタル回路で厄介になります。

なぜただの配線にインダクタンスが生まれるのか
キーワードは「電流の変化を嫌う性質」です
インダクタンスをひとことで言うと、電流の変化にブレーキをかける性質です。
ホースで水を流しているとき、急に蛇口を閉めると「ドンッ」と圧力が跳ねることがありますよね。電気でも同じで、流れていた電流を急に止めようとすると、配線は「そんな急に変えるな」と反発します。
その反発の強さが、配線やループに潜んでいる寄生インダクタンスです。
初心者が見落としやすいのは、「長い線1本」だけではなく「行きと帰りで作るループ全体」にインダクタンスがあることです。配線長だけでなく、ループ面積も本質です。

なぜ配線が長いとサージが増えるのか
答えは L × di/dt です
V = L × di/dt
この式の意味はシンプルです。Lが大きいほど、そして電流変化 di/dt が急なほど、発生する電圧Vは大きくなります。
つまり、配線が長くて寄生インダクタンスLが増えたところに、MOSFETの高速スイッチングのような急激な電流変化が加わると、サージ電圧が跳ね上がります。
| 条件 | 例 |
|---|---|
| 寄生インダクタンス | 10nH |
| 電流変化 | 1.5A が 5ns で変化 |
| 発生電圧 | 約3V |
たった数nH〜十数nHでも、高速スイッチングでは数Vの余計な電圧が簡単に乗ります。だから「たかが数cmの配線」が無視できないのです。

リンギングとサージはどう違うのか
どちらも原因は寄生成分。でも見え方が違います
サージ
- 電圧が一瞬高く跳ねる
- 素子耐圧を超えると破壊の原因
- L×di/dt の影響が強い
リンギング
- 波形がビヨンビヨン振動する
- 寄生Lと寄生Cの共振で起きやすい
- 誤動作やEMI悪化の原因
サージは「ドンッと跳ねる現象」、リンギングは「ブルブル震える現象」と考えるとわかりやすいです。
ただし、どちらも根っこは同じです。配線や部品配置が生んだ寄生インダクタンスが、急激なスイッチングと組み合わさって問題になります。
だから対策も共通しています。配線を短くする、ループを小さくする、必要なら減衰や吸収の部品を入れる。この順で考えるのが基本です。

寄生インダクタンスはどこで問題になるのか
特に危ないのは「大電流ループ」「ゲートループ」「GND帰路」です
MOSFET・IGBTの主回路配線:大電流が高速でON/OFFするので、サージが出やすい
ゲートドライブ配線:細く長いとリンギングしやすく、誤点弧や損失増加につながる
GNDの戻り経路:寄生LでGND電位が揺れ、制御回路まで巻き込んで誤動作する
初心者がやりがちなのは、「主回路だけ短ければOK」と思うことです。実際にはゲート配線やGND帰路の寄生インダクタンスも同じくらい重要です。

では、基板で何をすればいいのか
答えはシンプルです。「短く・太く・ループを小さく」
| 悪い例 | 良い例 |
|---|---|
| MOSFETとコンデンサが離れている | スイッチング電流ループを最短で閉じる |
| ゲート抵抗がドライバ側にある | ゲート抵抗をMOSFET直近に置く |
| GND帰路が遠回り | 行きと帰りを近づけて面積を減らす |
寄生インダクタンスはゼロにはできません。だからこそ、「どこに大電流が流れるか」「どこで急変するか」を見つけて、そこだけでも徹底的に短くするのが実務です。
最初から完璧なEMC設計を目指すより、まずは危ないループを見つける目を持つことが大切です。

波形がビヨンビヨン震えるなら、次に見るべき記事
寄生インダクタンスの次は「リンギング対策」の実務です
寄生インダクタンスの存在がわかったら、次は「じゃあどう抑えるのか」に進みます。
特にゲート配線は、寄生Lと容量が組み合わさってLC共振を起こしやすく、リンギングの温床になります。

素子が壊れそうなら、次はサージ対策です
寄生インダクタンスは「保護回路が必要になる理由」そのものです
主回路配線の寄生インダクタンスは、スイッチOFF時のサージ電圧を生みます。ここで必要になるのが、スナバ回路やTVSなどの保護手段です。

まとめ|寄生インダクタンスは「配線の長さ」と「ループ面積」で育ちます
今日の結論を3行で整理します
寄生インダクタンスとは、配線やパターンやループが勝手に持つ見えないコイル成分です。配線が長いほど、ループ面積が大きいほどLは増え、スイッチング時のL×di/dtによってサージやリンギングが悪化します。対策の基本は、短く・太く・ループを小さく、です。
回路図だけ見ていると、寄生インダクタンスは存在しないように見えます。でも現実の基板では、むしろこちらのほうが支配的になる場面が少なくありません。
だからこそ、壊れた後にスナバを足す前に、まず「どのループが長いのか」を見る癖をつけると設計が一段伸びます。
次は、GND・ゲート配線・スナバのどれか一つを深掘りすると、寄生インダクタンスの理解が実務に直結します。
NEXT STEP
次に読むべき記事|「配線1cm=10nH」を知った人が、次にやるべきこと
寄生インダクタンスの正体は、これでつかめたはずです。
ここまで来ると、多くの人がこの壁にぶつかります。
「じゃあ、このリンギングは本物?それとも測り方のせい?」
実はここが最大の落とし穴です。プローブのGNDリードにも寄生インダクタンスがあるため、基板は正常なのに波形だけが暴れていることが本当によくあります。以下では「対策する記事」と「正しく測る記事」を分けて並べました。順番としては、測り方の確認が先です。
寄生インダクタンスを制する4ステップ(全体像)
なぜ電圧が跳ねるのかを理解する
V = L × di/dt。この一本の式が、サージもリンギングも説明します。
▼
本物の波形かどうかを見極める
測り方が悪いだけの偽リンギングを、まず除外します。ここが最短ルート。
▼
レイアウトでLを減らす(本命)
部品を足す前に、ループ面積を削る。これが一番効いてタダです。
▼
残った分を回路で抑える
スナバ・ダンピング抵抗・ゲート抵抗。ここは最後の仕上げです。
迷ったらこの3本を上から順に
STEP 1 / 測定編
波形にリンギングが出る原因|配線とプローブGNDの共振
対策を始める前に、まずここです。プローブのワニ口クリップは、それ自体が数十nHのコイル。基板は健全なのに、測定系だけが共振して波形が暴れているケースが本当に多いんです。部品を足す前に読んでください。数日ムダにせずに済みます。
STEP 2 / 対策編
ノイズを減らすパターン設計|電流ループ面積を最小化する全手順
寄生インダクタンスを減らす方法は、実質「ループを小さくする」の一点です。しかもコストはゼロ。スナバを追加するより先に、配線を数mm詰めるほうがはるかに効きます。その具体的な手順をまとめました。
STEP 3 / 仕上げ編
ダンピング抵抗・フェライトビーズはなぜ入れるのか?|リンギングを止める「減衰器」の正体
レイアウトを詰めても残ってしまう振動を、わざと損失を作って止めるのがこの手法です。「なぜ抵抗を直列に入れるだけで波形が落ち着くのか」——LC共振にブレーキをかける仕組みを図解しました。
A原理編|「なぜ電圧が跳ねるのか」を根っこから
寄生インダクタンスの怖さは、すべて「コイルは電流を止められると怒る」という性質から来ています。
● コイルのエネルギーW=½LI²と逆起電力|「リレーで火花が散る理由」を完全図解
サージの正体がここに全部あります。理屈で納得したい人はまずこれ。
● RL回路とRC回路の違いを完全比較|「コイルは電流維持、コンデンサは電圧維持」
なぜLとCが組むと振動するのか。リンギングの土台になる知識です。
● 抵抗・コンデンサ・コイルの違い|受動部品3兄弟を図解
「配線がコイルになる」という感覚をつかむための基礎編です。
● なぜスイッチング電源はノイズの塊なのか?|dI/dtとdV/dtが生む電磁波公害の正体
di/dtが大きい回路ほど寄生Lが凶暴になる。その全体像です。
● ターンオン・ターンオフとは?|MOSFETがON/OFFする瞬間に何が起きているか
サージが出るのは「切った瞬間」。その一瞬をスローで見る記事です。
● スイッチング速度を決める3つの要素|速ければ良いが正解じゃない理由
速くするほどサージは増える。効率とのトレードオフの話です。
B最優先|その波形、本物ですか?(測定の落とし穴)
対策の前に、まずここ。測定系の寄生インダクタンスが作る「嘘の波形」に振り回される人が本当に多いんです。
● 波形にリンギングが出る原因|配線とプローブGNDの共振
まずこれ。基板を疑う前に、測り方を疑うのが正しい順番です。
● プローブのグランドリードは短く|ワニ口クリップが嘘の波形を作る理由
GNDリードを短くするだけで波形が激変します。今日から使えます。
● 受動プローブの構造|10:1減衰の仕組みと補償調整で波形が変わる理由
補償がズレたプローブは、立ち上がりを勝手に歪ませます。
● 差動プローブとは?GND共通のしがらみから解放される仕組み
ハイサイドのゲート波形を見るなら、これが唯一の正解です。
● コモンモードノイズが波形に乗る原因|アースの取り方で全てが変わる
「触るたびに波形が変わる」現象の答えがここにあります。
● 測定器の全体像マップ|オシロ・テスタ・電力計・LCR・ネットアナの使い分け早見表
何で測るのが正解か迷ったら。測定シリーズの入口です。
C本命|レイアウトで寄生Lを削る
寄生Lを減らす最強かつ無料の手段が、レイアウトです。部品を足すのは、その後。
● ノイズを減らすパターン設計|電流ループ面積を最小化する全手順
寄生L対策の実践編。まずここに戻ってきてください。
● 部品配置の鉄則|パワエレ基板で最初に決めるべき3つのこと
配線を短くできるかは、配置の瞬間にほぼ決まっています。
● 「電流は最短経路を通る」は嘘?|高周波電流の帰路とループ面積の真実
帰り道が遠いと、行きを短くしてもLは減りません。
● 基板の層構成の決め方|2層・4層・6層をどう使い分けるか
GNDプレーンを真下に置くのが、最も効くL低減策です。
● デカップリングコンデンサとは?|「ICの近くに置く理由」
1mm離すごとにLが増える。ここが配置で最も厳しい部品です。
● 電源プレーンの分割とリターンパス|スリットが危険な理由
切れ目が1本あるだけで、帰り道が大回りしてLが跳ね上がります。
D回路で抑える|スナバ・ダンピング・保護素子
レイアウトを詰めたうえで残る分を、部品で押さえ込みます。順番を守るのが大事です。
● ダンピング抵抗・フェライトビーズはなぜ入れるのか?|リンギングを止める「減衰器」の正体
数十円の抵抗1本で波形が落ち着く。その理屈がわかります。
● フリーホイールダイオードとは?|モータ・リレー駆動で逆起電力を逃がす仕組み
誘導性負荷のサージ対策の定番。「逃げ道を作る」思想です。
● ツェナーダイオードの使い方|定電圧・サージ吸収の全て
跳ねた電圧を「ここで止める」クランプの考え方です。
● TVSダイオードでESD保護|回路への入れ方
外来サージ対策。配線が長いほど必要になります。
● コンデンサの基本パラメータ|静電容量・耐圧・ESR・ESL・tanδ・リプル電流をデータシートで読み解く
コンデンサにも寄生L(ESL)があります。ここは盲点になりがち。
● フィルムコンデンサの種類と選び方|スナバ・DCリンクでの使い分け
スナバに何を使うか。低ESLの部品選定が効いてきます。
Eその先へ|ノイズ・EMC規格につながる話
寄生インダクタンスの放置は、最終的にEMC試験の不合格という形で返ってきます。
● そもそもノイズとは何か?|EMI/EMSの加害者・被害者の関係
ノイズ対策の全体地図。用語が整理されて視界が開けます。
● 伝導ノイズと放射ノイズの違い|「線を伝わる」と「空を飛ぶ」を見分けて対策する
寄生Lが作ったサージは、両方の経路でばら撒かれます。
● ラインフィルタ(EMIフィルタ)はなぜ電源入口に入れるのか?
外に出さないための最終防衛ライン。中身の部品も解説します。
● なぜEMC対策をしないと製品が売れないのか?|VCCI・CEマーキング・FCC規格の超入門
「なぜここまでやるのか」の答え。ビジネス側の理由です。
● FG・SG・LG・PGNDの違い|なぜグランドを分けないと機器が壊れるのか
GNDの電位が跳ねる原因も、実は寄生インダクタンスです。
● パワエレ基板設計チェックリスト|レビュー前の20項目
寄生L関連の見落としも、ここで一気に総点検できます。
どれから読むか迷ったら|あなたの状況で選ぶ
最後に、寄生インダクタンスと向き合うコツ
寄生インダクタンスは、消すことはできません。できるのは「小さくすること」と「暴れさせないこと」だけです。
そして対策の順番は、いつも同じです。まず測り方を疑う。次にループを詰める。最後に部品で抑える。
この順番を守れば、闇雲にスナバを付け替えて何日も溶かすことはなくなります。急がば回れ、が一番速い分野です。