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ダイオードのリーク電流(IR)とは?|温度上昇で増える「逃げ道」の正体を完全図解

ダイオードのデータシートを開いて「Reverse Current(IR)= 5μA @ VR=1000V, Tj=25℃」という記載を見たことがありませんか?

「ダイオードは逆方向には電流を流さない」と習ったのに、なぜμAレベルの電流が流れる前提で書かれているのか。しかも温度条件が併記されているのはなぜか…

前回の直列接続の記事で「漏れ電流のバラつきで電圧が偏る」と説明しました。今回はその「漏れ電流(リーク電流、IR)」そのものの正体を、半導体の中で何が起きているかから解き明かしていきます。

😣 こんな疑問はありませんか?
  • そもそもリーク電流って何?なぜゼロじゃないの?
  • データシートの「IR = 5μA」はどう読めばいい?
  • なぜ温度が上がるとリーク電流が増えるのか?
  • 実際の設計でどう扱えばいい?
✅ この記事でわかること
  • リーク電流の物理的な正体(半導体の中で何が起きているか)
  • 温度でIRが「2倍ずつ増える」法則とその理由
  • ダイオード種類別のIRの違い(Si、SBD、SiC)
  • 設計で「IRを無視できる場合」と「無視できない場合」

結論:リーク電流とは「逆電圧でも、わずかに漏れる電流」のこと

先に結論を言います。リーク電流(IR:Reverse Current)とは、ダイオードに逆方向の電圧をかけたときに、本来ゼロのはずなのに、ごくわずかに流れてしまう電流のことです。

📐 リーク電流の3つの真実
① ダイオードは「完全な絶縁体ではない」。逆方向でも必ず微小電流が流れる
② リーク電流は温度に強く依存する(10℃で約2倍、目安)
③ 通常のシリコン整流ダイオードならμA〜数十μAレベル

リーク電流の典型値は数μA程度なので、大電流回路では完全に無視できます。でも、高電圧の直列接続、高温環境、長時間の充電保持回路など、特定の場面では設計を狂わせる原因になる。

なぜリーク電流が発生するのか、なぜ温度で増えるのか、半導体の中身を覗いていきましょう。

まずはダイオードの中身を復習しよう

リーク電流の正体を理解するには、ダイオードの中で何が起きているかを少しだけ知る必要があります。怖がらずについてきてください。

ダイオード=「P型」と「N型」のサンドイッチ

ダイオードは、P型半導体N型半導体を貼り合わせた構造です。

P型半導体

  • 正孔(ホール)が多数キャリア
  • 電子が足りない状態
  • 「+」を運ぶ側

N型半導体

  • 電子が多数キャリア
  • 電子が余っている状態
  • 「−」を運ぶ側

境目には「空乏層」という壁ができる

PとNを貼り合わせると、境目で電子と正孔が再結合して消滅し、「空乏層(くうぼうそう)」と呼ばれる中性のエリアができます。ここはキャリアがほとんどいない、つまり電気をほぼ通さない壁です。

💡 ポイント
順方向電圧をかける → 空乏層が薄くなって、電流が流れる
逆方向電圧をかける → 空乏層が厚くなって、壁が高くなる

でも、その「壁」も完璧ではない。これがリーク電流の出発点です。

水道管のたとえで完全理解:「閉じてるけど漏れる」蛇口

半導体の話はここまで。あとは田中さんが知っている世界に置き換えましょう。

🚰 たとえ話
逆電圧をかけられたダイオードは、「閉めたつもりだけど、わずかに漏れる蛇口」と全く同じです。

新品の蛇口でも、完全にゼロにはできない。パッキンの隙間や、内部のわずかな歪みから、ポタッ…ポタッ…と水が漏れる。これがリーク電流の正体です。

なぜ完全に閉まらないのか

ダイオードの空乏層は確かに「壁」ですが、いくつかの理由で完全な絶縁にはなりません。

原因 何が起きているか
熱励起によるキャリア生成 温度のせいで、空乏層の中でも電子と正孔のペアが自然発生し、それが電流になる
少数キャリアの拡散 P型にもごく少数の電子が、N型にもごく少数の正孔が存在し、それが空乏層を抜けてしまう
表面リーク 半導体表面の不純物や酸化膜の界面を電流が流れる

全部覚える必要はありません。「半導体は熱や不純物の影響で、完全には電流を止められない」と理解できればOKです。

リーク電流の最重要ポイント:温度で爆発的に増える

ここがリーク電流の一番大事な性質です。データシートに「Tj=25℃」と温度条件が必ず書かれているのには理由があります。

🌡️ 温度2倍則(経験則)
シリコンダイオードのリーク電流は、温度が10℃上がるごとに約2倍になります。
つまり:
・25℃で 5μA → 35℃で 10μA → 45℃で 20μA → 55℃で 40μA …

どれくらい増えるか実感してみよう

温度 25℃時に5μAの場合のIR 25℃の何倍?
25℃ 5 μA 1倍
45℃ 20 μA 4倍
65℃ 80 μA 16倍
85℃ 320 μA 64倍
125℃ 5120 μA (≒5mA) 1024倍

25℃でわずか5μAだったリーク電流が、125℃の高温環境では1024倍の5mAにまで増える。これがリーク電流の本当の怖さです。

⚠️ なぜ温度で増えるのか
温度が上がると、半導体内部の原子が激しく振動します。その熱エネルギーで、電子が「縛られていた場所」から飛び出し、自由に動けるようになる。つまり「熱で電子が活発になる→電流が増える」という単純な仕組みです。

これは半導体全般に共通する性質で、トランジスタもFETも同じ。

データシートの「IR」表記を読み解く

実際のダイオードのデータシートには、リーク電流がどう書かれているか見てみましょう。

📋 典型的なデータシートの記載例

Reverse Current (IR)
 VR = 1000V, Tj = 25℃ ……… 5 μA (Typ.) / 10 μA (Max.)
 VR = 1000V, Tj = 100℃ ……… 500 μA (Typ.) / 1 mA (Max.)

読み取るべき4つの情報

① 測定電圧 VR

「逆耐圧の最大値で測ったとき」のIR。実際の使用電圧が小さければ、IRももう少し小さくなる。

② 接合部温度 Tj

「ダイオード内部の温度」のこと。周囲温度(Ta)ではない点に注意。Tjは内部発熱で必ずTaより高い。

③ Typ.(標準値)

「平均的な個体のIR」。設計の参考にはなるが、最悪値ではない。

④ Max.(最大値)

設計はこちらを基準に!「どの個体でも、これ以下に収まる」という保証値。安全マージンを取りたいなら必ずMaxを使う。

💡 設計のコツ
「使用温度のMax値」で計算するのが鉄則。たとえば動作温度が100℃まで上がる回路なら、25℃のTyp.値ではなく、100℃のMax.値を使う。
データシートに100℃時のIRが書かれていない場合は、「10℃で2倍」の経験則で推定する。

ダイオード種類別|リーク電流の傾向

リーク電流はダイオードの種類によって大きく違います。代表的な3種類を比較してみましょう。

種類 IR(典型値) 特徴
シリコン整流ダイオード 数μA〜数十μA 標準的。整流用途で最もよく使われる
ショットキー(SBD) 数十μA〜数mA Vfが低い代わりにIRがかなり大きい。高速・低損失だが温度に弱い
SiCショットキー 数十nA〜数μA 次世代の高耐圧・低リーク。価格が高い
FRD(ファストリカバリ) 数μA〜数十μA シリコンと同等。スイッチング速度を上げた製品

特に注意:ショットキーバリアダイオード(SBD)

SBDは「Vfが低くて高効率」というメリットの裏で、リーク電流が普通のシリコン品の10倍〜100倍あります。これは構造上の宿命です。

⚠️ SBDの落とし穴
SBDは高温でリーク電流が爆発的に増えるため、「リーク電流による発熱→さらに温度上昇→リークさらに増加」という熱暴走を起こすことがあります。

高温環境で使うときは、必ず最大温度時のIR値で発熱量を試算してください。

リーク電流が実設計で問題になる4つの場面

「数μA程度ならどうでもいいんじゃ?」と思いきや、特定の場面では大問題になります。

① 高電圧の直列接続

前回の直列接続の記事で解説した通り、各ダイオードのIRがバラつくと、電圧が偏って片方が破壊されます。μAレベルのバラつきが、kVレベルの電圧差を生むのがリーク電流の怖さ。

② 電荷保持回路(サンプルホールド・ピーク検出など)

コンデンサに電荷を貯めて、それを長時間保持するような回路。ダイオードのリーク電流があると、その電荷が少しずつ抜けてしまいます。

📐 計算例
1μFのコンデンサに10Vを保持。ダイオードのIR=1μAだとすると:
1秒間に放電される電圧:ΔV = I × t / C = 1μA × 1秒 ÷ 1μF = 1V

→たった1秒で10%も電圧が落ちる。長時間保持は不可能。

③ 高温環境(自動車、産業機器など)

田中さんが担当する自動車部品のようなエンジンルーム周辺(最大125℃〜150℃)では、25℃時の1000倍以上のIRが流れます。常温で問題なくても、実車で発火事故になるケースも。

④ 待機電力が厳しい製品(電池駆動・IoT機器)

ボタン電池で何年も動かすようなIoTセンサーでは、μAオーダーのリーク電流が寿命を決めます。小さな電池容量に対して、リーク電流の影響が無視できません。

💡 逆に、無視してOKな場面
・大電流回路(数A以上)→ μAは誤差
・常温環境で使う家電 → 想定温度が低い
・短時間動作の電源(PCのACアダプタなど)→ 影響が積算しない

リーク電流が問題になる時の対策

対策①

低リーク品を選ぶ
SiCショットキーや、選別された低IR品を使う。コストとのトレードオフ。

対策②

放熱を強化して接合温度を下げる
大きなヒートシンク、強制空冷、サーマルビアの増設など。Tjが下がればIRも下がる。

対策③

並列に他の経路を用意する
電荷保持回路なら、リーク電流より大きな電流を別経路から供給して相殺する。

対策④

使用温度を制限する
そもそも高温環境で使わない。製品仕様で動作温度範囲を狭める判断も時には必要。

まとめ:リーク電流の5つの要点

✅ この記事の要点
  1. リーク電流(IR)とは、ダイオードに逆電圧をかけても流れてしまう微小電流
  2. 原因は、空乏層を通り抜けてしまう熱励起キャリアや少数キャリア
  3. 温度10℃上昇でIRは約2倍。125℃なら25℃の1000倍超
  4. SBDは特にIRが大きい。SiCショットキーは逆にとても小さい
  5. 大電流回路では無視OK。高電圧直列・電荷保持・高温環境では必ず考慮

「ダイオードは逆方向には流れない」という基本ルールは、あくまで「ほぼ」の話。実際には微小なリーク電流が必ず流れていて、特に高温では無視できないレベルまで増えます。

田中さんが次にデータシートを開いたとき、「IR = 5μA @ Tj=25℃」の数字を見て、「100℃ならこの1000倍か」と瞬時に頭で計算できれば、もう一人前です。客先監査で「このIR値は何度時の保証ですか?」と聞かれても、自信を持って答えられますね。

📚 次に読むべき記事

📘 ダイオードのデータシートの読み方|5大パラメータを徹底解説 →

IR以外の重要パラメータ(Vf、VRRM、IF、trr、Tj)の読み方を体系的に学べます。

📘 ショットキーバリアダイオード(SBD)とは?低Vf高速の物理 →

SBDが「低Vfだけどリーク電流が大きい」のはなぜか。半導体構造から完全理解できます。

📘 ダイオードを直列接続して耐圧を上げる方法|電圧バランス抵抗の入れ方 →

IRのバラつきが直列接続でどう影響するか。バランス抵抗の設計手順を実例で学べます。

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