- データシートに「CTE」って書いてあるけど、何の数字かわからない
- 温度が変わると、なぜ基板が壊れるの?
- 「反り」や「はんだクラック」って、何が原因で起きるの?
- CTE(熱膨張係数)が何を表す数字なのか
- 温度変化で基板が反ったり壊れたりする仕組み
- 厚み方向(Z軸)のふくらみがとくに危険な理由
基板の資料を見ていると「CTE」という数字が出てきます。Tg(ガラス転移温度)とならんでよく登場するのに、意味がわかりにくい代表格です。はじめは戸惑って当然です。この記事では、身近なたとえを使って、温度変化で基板が壊れる仕組みをやさしく解説します。
CTE(熱膨張係数)とは、温度が上がったときに材料がどれくらいふくらむかを表す数字です。基板は、銅とガラスエポキシ(樹脂)という、ふくらみ方の違う材料が組み合わさってできています。温度が変わると、ふくらむ量に差が出て、その「引っぱり合い」が反りやスルーホール破断、はんだクラックといった故障の原因になります。
目次
そもそもCTE(熱膨張係数)とは?
まず、CTEが何の数字なのかをはっきりさせましょう。CTEとは、温度が上がったときに、その材料がどれくらいふくらむか(膨張するか)を表す数字です。
モノは温めると、ほんの少しだけ大きくなります。これは身の回りでも起きていることです。たとえば、夏の暑い日にレールがふくらんで電車の線路がわずかに伸びる、というのは有名な話ですよね。
夏に金属のレールが伸びるように、どんな材料も温まると少しふくらみます。そのふくらみやすさを数字にしたのがCTEです。CTEが大きい材料ほど、同じ温度上昇でもよくふくらむ、ということです。
CTEの単位は「ppm/℃(ピーピーエム・パー・ど)」と書きます。難しそうですが、要は「1℃温度が上がるごとに、どれくらいふくらむか」を表しているだけです。数字が大きいほどよくふくらむ、とだけ覚えておけば大丈夫です。
CTE=温めたときの「ふくらみやすさ」を表す数字。数字が大きいほどよくふくらむ。これだけ押さえれば、この先がスッと理解できます。

基板は「ふくらみ方の違う材料」の組み合わせ
ここが、この記事の一番大事なポイントです。基板は1種類の材料でできているわけではありません。主に「銅」と「ガラスエポキシ(樹脂)」という、性質の違う材料が組み合わさってできています。
銅は、電気を通す配線(パターン)に使われる金属です。ガラスエポキシは、その配線をのせる土台になる板で、ガラスの布に樹脂をしみこませて固めたものです。基板はこの2つが貼り合わさってできています。
この2つは、温めたときのふくらみ方(CTE)が違います。違う材料がくっついているのに、片方はよくふくらみ、もう片方はあまりふくらまない。すると、お互いを引っぱり合うことになります。
数字でくらべてみる
| 材料・方向 | CTEの目安 | ふくらみやすさ |
|---|---|---|
| 銅(配線) | 約17 ppm/℃ | 基準 |
| FR-4 面方向(タテ・ヨコ) | 約14〜17 ppm/℃ | 銅とほぼ同じ |
| FR-4 厚み方向(Z軸) | 数十 ppm/℃と大きい | よくふくらむ |
表を見ると、面方向(板を上から見たときのタテ・ヨコ)では、FR-4のふくらみ方は銅とほぼ同じです。これはガラスの布がしっかり押さえているからです。ところが、厚み方向(Z軸=板の厚みの向き)だけは、ガラスの布が通っていないので樹脂が自由にふくらみ、CTEがずっと大きくなります。
基板は「ふくらみ方の違う材料の寄せ集め」です。とくに厚み方向はよくふくらむので、ここがトラブルの主役になります。数字はメーカーやグレードで違うので、正確な値はデータシートで確認してください。

CTEの差で基板はどう壊れる?3つの故障
ふくらみ方が違う材料がくっついていると、温度が変わるたびに引っぱり合いが起きます。この引っぱり合い(応力=おうりょく)が、時間とともにいろいろな故障を引き起こします。代表的な3つを見てみましょう。
① 反り(そり)
基板の表と裏で、銅の量やふくらみ方のバランスが崩れていると、温まったときに片側だけ大きくふくらみます。すると、せんべいが焼けて反るように、基板全体がぐにゃっと曲がってしまいます。
② スルーホール破断(厚み方向のCTEが犯人)
基板の表と裏をつなぐために、細い穴の内側に銅のめっき(スルーホール)が通っています。先ほど見たように、厚み方向はよくふくらみます。温度が上がるたびに基板が厚み方向にグッとふくらむと、その中を通る銅のめっきが上下に引っぱられます。
ゴムひもを何度も引っぱったり戻したりすると、いつか切れますよね。スルーホールの銅も同じです。温度の上げ下げを何度もくり返すうちに、引っぱられ続けた銅がちぎれてしまいます。こうなると表と裏の電気がつながらなくなり、故障します。
③ はんだクラック
部品と基板も、ふくらみ方が違います。たとえばセラミックの部品と基板では、温度が変わるたびに伸び縮みの量に差が出ます。その差を、部品と基板をつないでいる「はんだ」が吸収しようとします。
でも、温度の上げ下げが何度もくり返されると、はんだが疲れてきて、やがてひび(クラック)が入ります。これがはんだクラックです。電気の通り道が切れて、接触不良の原因になります。
どの故障も、原因は「ふくらみ方の違い(CTEの差)」と「温度のくり返し」です。材料どうしのふくらむ量がそろっていれば、引っぱり合いが減って、これらの故障は起きにくくなります。

Tgを超えると厚み方向のふくらみが一気に増える
ここで、CTEと深く関係するもう1つの言葉「Tg(ガラス転移温度)」とのつながりを説明します。じつはCTEは、温度によって大きく変わるのです。
Tgとは、基板の樹脂が「硬いガラス状」から「柔らかいゴム状」に変わる境目の温度のことです。Tgより低ければ硬く、Tgを超えると柔らかくなります。
そして大事なのは、Tgを超えて樹脂が柔らかくなると、厚み方向(Z軸)のふくらみ方が一気に大きくなるということです。硬いうちはちょっとずつしかふくらまないのに、柔らかくなったとたん、グーンと一気にふくらみます。
樹脂は硬い。厚み方向のふくらみはおだやか。
樹脂が柔らかくなり、厚み方向のふくらみが急増。
スルーホールが強く引っぱられ、破断しやすくなる。
だから、はんだ付けのときのような高温(鉛フリーはんだだと約250℃前後)になると、基板は余裕でTgを超え、厚み方向にグッとふくらんでスルーホールに大きな負担がかかります。Tgが高い材料(高Tg材)が選ばれるのは、この「Tgを超えたあとの急なふくらみ」をできるだけ避けたいからです。
TgとCTEはセットで理解すると一気にわかりやすくなります。Tgそのものについては 基板のガラス転移温度(Tg)とは? の記事でくわしく解説しています。
Tgを超えると厚み方向のCTEが急増します。だからCTEとTgはセットで考えるのが正解。熱がきびしい用途ほど、Tgが高くZ軸CTEの小さい材料が求められます。

「材料のCTE起因」と「銅のかたより起因」は別の話
基板が反る原因は、じつは2種類あります。ここを区別できると、ぐっと理解が深まります。混同しやすいので、整理しておきましょう。
材料のCTE起因(この記事)
- 銅と樹脂のふくらみ方の差
- 厚み方向の大きなふくらみ
- 材料そのものの性質が原因
銅のかたより起因
- 表と裏で銅の量がアンバランス
- 片側だけ強く縮もうとする
- 設計(レイアウト)が原因
この記事で扱ったのは左側の「材料のCTE起因」です。一方、表と裏で銅の量がかたよっていることで起きる反りは、設計の工夫で改善できる別の問題です。両方を知っておくと、反りの原因を切り分けられるようになります。
表裏の銅バランスによる反りについては なぜ基板は反るのか?銅箔バランスと熱応力の正体 でくわしく解説しています。あわせて読むと反りの全体像がつかめます。
反りには「材料のふくらみ方の差」と「銅のかたより」の2つの原因があります。この記事は前者。両方を切り分けて考えると、対策が立てやすくなります。

よくある質問(FAQ)
まとめ:CTEは「ふくらみ方の差」が故障を生む
- CTE(熱膨張係数)=温めたときの「ふくらみやすさ」を表す数字。
- 基板は銅と樹脂の組み合わせで、ふくらみ方が違うため引っぱり合いが起きる。
- 面方向は銅とほぼ同じだが、厚み方向(Z軸)は大きくふくらむのでトラブルの主役。
- CTEの差と温度のくり返しが、反り・スルーホール破断・はんだクラックを生む。
- Tgを超えると厚み方向のCTEが急増。だから高Tg材で故障を防ぐ(具体値はデータシート確認)。
これで、データシートの「CTE」の意味と、温度変化で基板が壊れる仕組みがわかりましたね。CTEはTgとセットで理解すると、基板材料の選び方がぐっと見えてきます。次の一歩として、関連する基礎を下の記事で深めてみてください。

自動車部品メーカーで電気設計・品質保証に携わってきた経験をもとに執筆しています。むずかしい専門用語をできるだけ使わず、はじめて電気を学ぶ人がつまずかないように、図とたとえで説明することを大切にしています。
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CTEとセットで理解したい、基板の最重要物性Tgをやさしく解説します。
もう1つの反りの原因「銅のかたより」を図解で解説します。
CTEやTgをふまえた、基板材料そのものの選び方がわかります。