基板設計

 内層パターンの落とし穴|外層と内層で許容電流が違う理由

😣 こんな経験はありませんか?
  • 「外層で10A流せる幅だから、内層も同じでいいよね?」と考えて基板を発注した
  • 試作品を動かしたら、特定の場所だけ異常に熱い…触ると火傷しそう
  • 先輩から「それ、内層だから許容電流半分だよ」と言われて頭が真っ白になった
  • IPC-2221やIPC-2152を読もうとしたら、英語と数式の壁で挫折した
✅ この記事でわかること
  • 外層と内層で許容電流が違う「物理的な理由」
  • 内層は外層の約50〜60%しか流せないという事実
  • IPC-2152の温度上昇係数(補正係数)の使い方
  • 内層を使うときに必ず守るべき3つの注意点

基板設計を始めたばかりの頃、誰もが一度はハマる落とし穴があります。それが 「内層パターンの許容電流」 です。

「外層で大丈夫だったから内層も同じでいいだろう」――この思い込みが、試作品の発熱トラブルや、最悪の場合は基板の焼損事故に繋がります。
結論を先に言います。同じ銅箔厚・同じパターン幅でも、内層は外層の半分くらいしか電流を流せません

なぜそんなことが起きるのか?答えは「熱の逃げ道があるかないか」です。この記事では、その仕組みを「魔法瓶」のたとえで完全図解していきます。

そもそも「外層」と「内層」って何が違うの?

まずは前提知識から整理しましょう。基板の「層」とは、銅箔(パターン)が配置されている平面のことです。4層基板を例にすると、こんな構造になっています。

L1:外層(表面)← 空気に触れている
絶縁層(FR-4)
L2:内層 ← 樹脂に挟まれている
絶縁層(FR-4)
L3:内層 ← 樹脂に挟まれている
絶縁層(FR-4)
L4:外層(裏面)← 空気に触れている

ポイントは1つだけ。
外層(L1・L4)は空気に直接触れていて、内層(L2・L3)は樹脂(FR-4)にサンドイッチされているということです。

💡 ポイント
この「空気に触れているかどうか」の違いが、許容電流を半分にしてしまう犯人です。

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許容電流が違う「たった1つの理由」=放熱できるかどうか

許容電流を決めるルールはシンプルです。

📐 許容電流の基本ルール
「銅箔の温度上昇が、決められた値(例:10℃ や 20℃)を超えない範囲で流せる電流」

電流を流すと、銅箔は I²R の損失で必ず発熱します。この熱が逃げないと、銅箔の温度はどんどん上がっていく。だから「温度上昇 ≦ 許容値」となる電流の上限を決めているのです。ここで重要なのが、「熱がどれだけ逃げられるか」=放熱経路です。

外層は「窓を開けた部屋」、内層は「魔法瓶の中」

イメージしてみてください。同じ熱源(銅箔の発熱)が2つあるとします。

🪟

外層パターン

状態:窓を開けた部屋

放熱:空気に直接逃がせる(対流+放射)

結果:温度が上がりにくい

🍵

内層パターン

状態:魔法瓶の中

放熱:樹脂(FR-4)伝いにしか逃げられない

結果:温度がこもる

FR-4(基板材料)の熱伝導率は 約0.3 W/(m·K)。これは 空気の約12倍ありますが、銅(約400 W/(m·K))と比べると 1300分の1 しかありません。つまり樹脂は、銅から見ればほとんど「断熱材」です。だから内層の熱は、なかなか外に逃げてくれない。

⚠️ 注意
「内層は囲まれてるから、むしろ熱に強そう」と思いがちですが、実際は逆です。囲まれている=熱が逃げないということ。これは魔法瓶やステンレス水筒と同じ原理です。

実際どれくらい違うの?=IPC-2152の補正係数

ここまでの話を数値で押さえておきましょう。基板の許容電流の業界標準ルールである IPC-2221 および IPC-2152 では、外層と内層で異なる扱いをしています。ざっくりした目安は以下の通りです。

層の種類 許容電流の目安 外層比
外層(L1・L4) 基準値(100%) 1.0倍
内層(L2・L3) 外層の50〜60%程度 約0.5〜0.6倍

具体例で考えてみましょう。銅箔厚 35μm、パターン幅 2mm、温度上昇 10℃ という条件で:

🟧 外層:許容電流 約 4A

🟦 内層:許容電流 約 2.5A(外層の約60%)

同じパターンを描いても、内層に置いた瞬間に「流せる電流が4Aから2.5Aに減る」ということです。これを知らずに設計すると、内層パターンが規格上限を超えて発熱します。

💡 ポイント
IPC-2221のグラフは「外層用」と「内層用」で別々のカーブが用意されています。設計時は必ず層に合った方を見ること。混同すると倍近い設計ミスになります。

温度上昇係数の使い方=実務での計算ステップ

では、実際にどう計算するか。手順を3ステップで整理します。

STEP 1

許容温度上昇を決める
一般的には10℃や20℃。発熱が許されない精密回路の近くなら10℃以下、電源ラインなど発熱前提なら20〜30℃。

STEP 2

外層の許容電流を求める
IPC-2221のグラフ、または計算ツール(Saturn PCB Toolkit など)で外層基準の値を出す。

STEP 3

内層なら係数 0.5〜0.6 を掛ける
安全側で見るなら 0.5、IPC-2152準拠で詳細評価するなら 0.6 程度。これが内層の実力値。

🔧 現場の声
実務では「外層の半分しか流せない」と覚えておけば9割OKです。厳密な値が必要な場合(量産設計・客先審査用)だけ、IPC-2152の詳細グラフやシミュレーションで詰めます。

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内層を使うときの落とし穴3選

「内層は許容電流が小さい」を頭に入れたうえで、さらに気をつけるべき3つの落とし穴があります。

落とし穴①:外層と内層で同じパターン幅をコピペする

CADで「同じネット名だから」と外層パターンをそのまま内層にコピーする。これが一番多いミスです。同じネットでも、層が変われば必要な幅が変わります。内層に降ろすときは、幅を1.5〜2倍に広げるのが基本です。

落とし穴②:ビアでの層変更を軽く見る

電流の通り道で「外層→ビア→内層→ビア→外層」という経路にしたとき、内層区間で発熱がボトルネックになります。さらに、ビア自体も電流容量がそれほど大きくない(1本あたり数百mA〜1A程度)ため、複数本並列にしないと許容電流を超えます。

落とし穴③:周囲の層に「熱を逃がしてくれるGND面」がない

内層パターンの熱は、隣の層(GND面など)に銅伝いで逃げると少しマシになります。逆に言えば、周囲がスカスカの内層は、放熱がさらに悪化します。高電流ラインを内層に配置するときは、隣接層に広いGNDプレーンがあるかを必ず確認しましょう。

⚠️ 注意
特にパワエレ基板では、内層に大電流ラインを通すと「熱集中→FR-4の劣化(Tg超え)→絶縁破壊」という最悪のシナリオがあります。原則として、大電流は外層を優先してください。

内層を「あえて使う」べきケースもある

ここまで「内層は不利」という話をしてきましたが、内層が悪者というわけではありません。むしろ 内層を使うべき場面 もあります。

用途 理由
GNDプレーン 広い面でリターン電流を流す。ノイズ対策の要
電源プレーン 面で配るので電流密度が低くなり、許容電流の心配が減る
高速信号配線 外層のノイズから守れる(シールド効果)
小信号ライン そもそも電流が少ないので発熱が問題にならない

ポイントは、「電流密度が低い用途」または「面で広く使う用途」なら内層が活きるということ。逆に「細い線で大電流を通したい」なら、内層は最悪の選択になります。

💡 ポイント
基板設計の鉄則:「大電流は外層、ベタは内層」。これだけ覚えておけば、放熱トラブルの9割は防げます。

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まとめ=内層を使うときの最終チェックリスト

今日の話を一言でまとめると:

内層は「魔法瓶の中」。
外層の半分(50〜60%)しか電流を流せない。

内層に大電流ラインを置くときは、以下のチェックリストを必ず通してください。

☑ 許容電流を 外層の0.5〜0.6倍 で再計算したか?

☑ パターン幅を外層より 1.5〜2倍 広げたか?

☑ ビアの本数は十分か?(1本=1A目安で複数並列)

☑ 隣接層に GNDプレーン があり、熱が逃げる経路は確保できているか?

☑ そもそも その電流ライン、外層に置けないか? を再検討したか?

基板の発熱トラブルの多くは「内層の許容電流を外層と同じだと思い込んでいた」ことが原因です。今日の知識があれば、その地雷を踏むことはもうありません。安心して内層を使いこなしていきましょう。

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