- センサ信号をオシロで見たら、波形にノイズが乗りまくって綺麗な信号が見えない
- 「アナログ信号の周りはGNDで囲め」と言われたが、なぜそうするのか、どう囲むのが正解かわからない
- シールド層の「GNDをどこに落とすか」で先輩によって言うことが違う
- クロストーク対策で「信号間隔を空けろ」と言われたが、何mm空ければいいのかピンとこない
- シールド層とガードパターンの「使い分け」が一目でわかる
- シールドGNDの正しい接続方法(片端 vs 両端 vs 多点)
- クロストーク対策の「3W則」と「ガードパターン」の使い方
- アナログ信号を保護するための実務テクニック
これまでの記事で、パターン幅とビア本数の決め方を解説しました。電源系の設計はこれでバッチリです。
しかし、基板設計にはもう一つの大きな敵がいます。それがノイズです。特に、温度センサ・圧力センサ・マイクなどのアナログ信号は、わずかなノイズで波形が崩れます。
この記事を読み終えたとき、あなたは「敏感な信号は両側にガードパターンを置いて、シールドGNDは片端接地」と即答できるようになります。ノイズに泣かされていた基板が、見違えるほど安定する設計テクニックを身につけましょう。
ビアの電流容量と本数の決め方|計算と配置の全手順 →
目次
そもそも「ノイズが乗る」とは?
シールドの話の前に、なぜノイズが乗るのかを理解しておきましょう。これがわかれば「なぜシールドが効くか」も自然に理解できます。
ノイズは「電気的な耳元のささやき」
ノイズの主な原因は、近くを流れる電流が作る電界と磁界が、目的の信号配線に飛び込んでくることです。これを結合(カップリング)と呼びます。
電界結合(容量結合)
- 電圧変化が原因
- パターン同士が「コンデンサ」になる
- 高周波ほど結合しやすい
- シールド層が有効
磁界結合(誘導結合)
- 電流変化が原因
- パターンが「トランス」になる
- 大電流ループほど結合しやすい
- ループ面積を小さくして対策
図書館で隣の人の会話が聞こえてくる感覚
想像してみてください。図書館で本を読んでいるあなたの隣に、大声で会話する人が座っています。集中できないですよね。
この「うるさい人」がノイズ源、「あなた」が守りたい信号配線です。対策として、あなたとうるさい人の間に壁を置くのが、まさにシールド層やガードパターンの役割です。
私が新人の頃、温度センサの信号がフラフラ揺れて読み値が安定しない不具合がありました。原因は、隣に通っていたPWM配線(モーター制御)の電圧変動が、センサ配線に飛び込んでいたから。シールドGNDで囲んだら、嘘のように波形が綺麗になりました。「ノイズは目に見えない隣人」と思って設計してください。

🔰 CADを触る前に知っておくべき「基板作りの基本」を網羅。
初めての基板設計から実装まで、手順に迷子にならないための分かりやすい入門書はこちら👇
シールド層とガードパターンの違い
「シールド」と「ガードパターン」は混同されがちですが、実は役割が違います。最初に違いを整理しておきましょう。
| 項目 | シールド層 | ガードパターン |
|---|---|---|
| 設置場所 | 信号の上下層(垂直方向) | 信号の隣(水平方向) |
| 守る方向 | 縦方向(基板の上下) | 横方向(同じ層) |
| 主な用途 | 外部ノイズの遮断 | クロストーク防止 |
| 必要な層数 | 4層基板以上 | 2層基板でも可 |
建物に例えると
建物の防音対策に例えるとわかりやすいです。
シールド層 = 上下階の床・天井
- マンションの上下階の足音を遮断
- 「天井(GND層)」と「床(GND層)」で挟む
- 外部からの侵入を防ぐ
ガードパターン = 部屋同士の壁
- 隣の部屋の話し声を遮断
- 同じフロアの「壁」
- クロストークを防ぐ
敏感な信号を守りたいなら、シールド層とガードパターンの両方を使うのが理想です。「信号配線が、上下左右をすべてGNDに囲まれている」状態を作ります。これが基板設計でいう「ガードリング」または「同軸構造」です。

シールド層の作り方:信号の上下をGNDで挟む
シールド層は4層基板以上で実現できます。一般的な4層基板での層構成を見てみましょう。
4層基板の典型的な層構成
| 層 | 用途 | 役割 |
|---|---|---|
| L1(表面) | 部品実装・信号 | 主な配線層 |
| L2(内層) | GNDプレーン | L1の信号を下から守る |
| L3(内層) | 電源プレーン | 電源供給 |
| L4(裏面) | 信号 | 補助的な配線 |
この構成だと、L1の信号配線はL2のGNDプレーンに守られている状態になります。下からの外部ノイズはL2が遮断します。
究極のシールド:両面サンドイッチ
特に敏感な信号には、上下両方をGNDで挟む構成が有効です。例えば6層基板で「GND-信号-GND」と並べると、信号は完全に守られます。
L1: 信号
L2: GND ←上のシールド
L3: 敏感な信号
L4: GND ←下のシールド
L5: 電源
L6: 信号
L3の信号は、L2とL4のGNDで完全にサンドイッチされている
シールド層を作るには、最低でも4層基板が必要です。2層基板ではシールド層は作れないので、ガードパターンや配線レイアウトの工夫で対応します。

ガードパターンの作り方:信号の両側をGNDで囲む
ガードパターンは、同じ層の中で信号の両側にGND配線を平行に走らせるテクニックです。
基本の配置
守りたい信号配線(A)の両側に、平行にGND配線を走らせます。これにより、横方向から飛んでくるノイズをGNDが吸収します。
━━━━━━━━━━━━ ← GND(ガード)
┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄ ← 信号A(守りたい)
━━━━━━━━━━━━ ← GND(ガード)
ガードパターン設計のポイント4つ
信号配線とガードパターンは、終始平行に並走させます。途中で離れたり、片側だけになると効果が激減します。
ガードパターン自体の幅は、信号配線の2〜3倍を目安に。GNDインピーダンスを下げるためです。
ガードパターンには5〜10mm間隔でビアを打ち、内層のGNDプレーンと接続します。これでガードがGNDの基準電位に保たれます。
信号配線とガードパターンの間隔は、信号配線の幅Wに対して3W以上離します。これは「3W則」と呼ばれる業界の定石です。
ガードパターンは「連続したGNDの線」であることが重要です。途中で切れていたり、細かったりすると、そこからノイズが侵入します。設計後に「線が途切れていないか」を必ず目視チェックしてください。

🚀 入門書を読み終え、いざ実務レベルの基板設計へ!
もう一段上の「ノイズに強い・熱がこもらない」プロの設計手法を身につける実践集はこちら👇
3W則:クロストークを防ぐ黄金ルール
基板設計の業界には、「3W則」という有名なルールがあります。これは、隣り合う信号配線の間隔をどれだけ取るべきかを示す指針です。
3W則とは何か?
「配線間隔は、配線幅Wの3倍以上空けろ」というルールです。例えば配線幅0.2mmなら、隣の配線まで0.6mm以上空ける必要があります。
例:W = 0.2mm の場合、配線間隔は 0.6mm 以上
なぜ3W則でクロストークが減るのか?
配線同士は、近すぎると「コンデンサ」になってしまいます。お互いの電圧変化が、目に見えない結合を通じて隣の配線に伝わるのです。
配線間隔を3W以上取ると、この結合(クロストーク)が約70%減少することが実測で知られています。これが3W則の根拠です。
配線幅別の最低間隔早見表
| 配線幅W | 最低間隔(3W) | 用途例 |
|---|---|---|
| 0.1 mm | 0.3 mm | 高密度・信号系 |
| 0.2 mm | 0.6 mm | 標準的な信号 |
| 0.3 mm | 0.9 mm | 小電流の電源・GND |
3W則はあくまで「最低限」の目安です。高速デジタル信号(クロック・USB・LAN)や、特に敏感なアナログ信号(マイク・センサ)では、5W〜10Wの間隔が推奨されます。
私の職場では、設計レビューで「ここの配線、隣との間隔3W取れてる?」が定番の指摘事項です。CADの設計ルールチェック(DRC)に3W則を組み込んでおくと、漏れがなくなります。新人のうちは「迷ったら間隔を広く」が鉄則です。

シールドGNDの接続:片端 vs 両端 vs 多点
シールドやガードパターンを「どこでGNDに落とすか」は、設計者によって意見が分かれる難しい問題です。基本的な3つのパターンを整理しておきましょう。
3つの接続パターン
シールドの片方の端だけをGNDに接続する方法。
向いている:低周波(数kHz以下)のアナログ信号、グラウンドループを避けたい場合
向いていない:高周波信号
シールドの両端をGNDに接続する方法。
向いている:高周波(MHz以上)のデジタル信号
向いていない:基板間のグラウンド電位差が大きいシステム
シールドの複数箇所を等間隔でGNDに接続する方法。
向いている:超高周波(100MHz以上)、長距離の配線
注意:基板内のシールドGND(ガードパターン)では、5〜10mm間隔のビアでこれを実現する
使い分けの目安
| 信号の種類 | 推奨接続 | 理由 |
|---|---|---|
| 温度・圧力センサ(アナログ) | 片端接地 | グラウンドループ防止 |
| デジタル信号(数MHz) | 両端接地 | 高周波ループ短縮 |
| 高速クロック(100MHz以上) | 多点接地 | 分布定数的な対策が必要 |
基板の中のガードパターンでは、迷わず「多点接地(5〜10mm間隔のビア)」でOKです。基板内なら距離が短く、グラウンドループの心配も少ないからです。片端 vs 両端の議論は、主にシールドケーブルの話で出てきます。

💡 目に見えないスイッチングや波形の動きを、フルカラーで完全可視化。
数式だらけの専門書で挫折する前に読みたい、パワエレを「直感的に」理解できる決定版はこちら👇
アナログ信号を守る実務テクニック
温度センサ・圧力センサ・マイクなど、アナログ信号を扱う回路で実際に使えるテクニックをまとめました。
テクニック1:アナログGNDとデジタルGNDを分ける
同じ基板でも、アナログ回路とデジタル回路のGNDを物理的に分離します。両者はADコンバータの直下など、1点だけでつなぎます。
これにより、デジタル回路のスイッチングノイズがアナログ回路のGNDに流れ込むのを防ぎます。
テクニック2:センサ配線は最短ルートで
アナログ信号の配線は、できる限り短くします。長くなるほど、ノイズを拾うアンテナとしての性能が上がってしまうからです。
基板レイアウトの順序として、「センサICはADコンバータの近くに配置する」を最優先にしてください。
テクニック3:差動配線でノイズを打ち消す
特に敏感な信号は、差動配線(プラスとマイナスの2本ペアで送る方式)にします。両方の配線に同じノイズが乗っても、最終段で引き算するとノイズが消えます。
代表例はLAN(Ethernet)のツイストペアケーブル、USBの差動配線です。基板内でも同じ考え方で2本平行に配線します。
テクニック4:高ノイズ源から物理的に離す
レイアウトの段階で、スイッチング電源・モーター制御・PWM配線などのノイズ源は、アナログ回路から物理的に遠ざけます。
基板の片端にデジタル系、反対側にアナログ系を配置する「エリア分け」が定石です。
私が経験した中で最も効果が大きかったのは「レイアウトでアナログ系を端に追いやる」でした。シールドやガードでも改善しなかった不具合が、レイアウト変更だけで解決したことが何度もあります。回路設計より配置設計が9割と言ってもいいくらいです。
コモンモードノイズとノーマルモードノイズの違い →

よくある失敗パターン4選
シールド・ガード設計で新人がやりがちな失敗を4つ紹介します。これを知っておけば、同じ穴に落ちません。
失敗①:ガードパターンが途切れている
部品の足を避けようとして、ガードパターンが途中で切れていることがあります。切れた瞬間にシールド効果はゼロになります。回り込ませてでも、ガードは連続させてください。
失敗②:ガードパターンをGNDに繋ぎ忘れる
ガードパターンを引いただけで、GNDに繋いでいないケースがあります。これは「ただの銅の浮島」状態で、シールド効果がないどころか、逆にアンテナ化してノイズを拾います。必ずビアでGND層と接続してください。
失敗③:シールド層に配線を通してしまう
「内層が空いてるから、ここに信号を通そう」とGNDプレーンに信号を通すと、シールド層に穴が開いてしまいます。シールド層は連続したGNDで埋めるのが原則です。配線を通すなら、別の層を使ってください。
失敗④:3W則を信号系全部に適用する
3W則は重要ですが、すべての配線に適用しようとすると基板が大きくなりすぎます。3W則を厳格に守るのは、クロック・高速デジタル・敏感なアナログだけにして、それ以外は普通の最小間隔でOKです。
「全部の信号を完璧に守る」のは現実的に不可能です。「守るべき信号」と「多少ノイズが乗っても問題ない信号」を最初に区別する設計判断が、ベテラン基板設計者の腕の見せ所です。

設計レビュー前のチェックリスト
シールド・ガード設計のチェックポイントをまとめました。レビュー前に必ず確認してください。
- 守るべき信号を区別したか?(敏感なアナログ・高速デジタルだけに集中)
- ガードパターンは信号の両側を連続して走っているか?(途切れていないか目視確認)
- ガードパターンは5〜10mm間隔でGNDビア接続されているか?(多点接地)
- 3W則を守れているか?(敏感な信号は5W以上推奨)
- アナログGNDとデジタルGNDを分離したか?(1点接続のみ)
- ノイズ源(電源・PWM)から物理的に離れているか?(基板上のエリア分け)
これらをすべてクリアできれば、客先レビューで「ノイズ対策は?」と聞かれても自信を持って答えられます。「シールド層+ガードパターン+3W則+エリア分けで対策しています」と一言で説明できる状態が理想です。

まとめ:守るべき信号を見極めて、適切に囲む
この記事では、シールド層とガードパターンを使った信号保護のテクニックを解説しました。
重要な原則は3つ。「守るべき信号を区別すること」「シールドはGNDで囲うこと」「3W則を守ること」です。これさえ押さえていれば、ノイズで悩まされる基板の8割は解決します。
ノイズ対策は「予防」が9割です。一度作ってからノイズに苦しむより、設計段階で適切に囲んでおく方が圧倒的に楽です。最初は「過剰かな?」と思うくらいシールドする方が、長期的に見て得をします。
基板設計の電流容量・ノイズ対策の基礎を一通り押さえたら、次はGND設計の本格的な話やEMC対策に進んでいきましょう。

📚 次に読むべき記事
基板設計の全体像を体系的に整理。シールド・ガードの次に学ぶべき内容が明確になるロードマップ記事。
アナログ・デジタルGNDの分離の話を、より詳細に解説。シールド設計の前提となるGND設計の基本。
ノイズ対策を本格的に学ぶ第一歩。シールドの背景にある「ノイズの正体」を深く理解できます。
差動配線の理解に必須。ノイズの種類別に対策が変わる理由がわかります。
シールド層の効果を本質的に理解するための必読記事。GNDプレーンの重要性が腹落ちします。