基板設計

テストポイントの役割|なぜ基板に「使わない丸」を残すのか

テストポイントの役割。なぜ基板に「使わない丸」を残すのか

※本記事にはプロモーション(広告)が含まれています。

こんな経験はありませんか?
  • 基板を見ると「TP1」「TP2」と書かれた使われていない丸い銅パターンがあるが、何のためにあるのかわからない
  • 先輩から「ここにテストポイント追加しておいて」と言われたが、どこに何個置けばいいのか判断できない
  • 製造部門から「テストポイントが足りない」とクレームが来たが、何が問題なのかピンとこない
  • 回路図と基板図にテストポイントを書くべきか、書かないべきか迷っている
○ この記事でわかること
  • テストポイントは「基板の健康診断のための採血ポイント」だというイメージ
  • 量産検査・故障解析・デバッグの3つの場面で果たす役割
  • どこに何個配置すべきかの設計ルール
  • 「使わないなら削れ」と言われたときの正しい反論

基板を眺めていると、配線の途中に「TP1」「TP2」と書かれた使われていない丸い銅パターンがあることに気づきます。部品も載っていない、配線の終端でもない、ただの丸。これがテストポイント(テストパッド)です。

結論を先に言います。テストポイントは「基板の健康診断のための採血ポイント」です。患者から血を採るには採血用の針を刺せる場所が必要なように、基板の電圧や信号を測定するには「測定器のプローブを当てられる専用の場所」が必要なのです。

テストポイントとは?基板上の「測定専用の窓口」

テストポイント(Test Point、略してTP)とは、基板上の特定の信号や電圧を、外部から測定・確認するために設けられた銅箔のパッドのことです。テストパッドとも呼ばれます。

見た目はただの「丸い銅の島」ですが、ここには意図があります。「ここに測定器のプローブを当ててください」という設計者からのメッセージなのです。

ポイント
テストポイントは「動作には不要」です。回路図上、テストポイントを削除しても基板は問題なく動作します。それでも置く理由は、「動作の確認」と「故障時の解析」のためです。健康な人でも健康診断を受けるのと同じ理屈です。

テストポイントの3つの形態

パッド型

基板表面に銅の丸を露出。最も一般的

スルーホール型

穴あきタイプ。ICクリップを挟める

ピン型

専用の測定ピンを実装。確実に接触

テストポイントの3形態の図。基板表面のパッドにプローブを当てるパッド型、スルーホールにICクリップなどを付けるスルーホール型、立ち上がったピンにクリップを差すピン型
テストポイントの3形態:パッド型・スルーホール型・ピン型

CADを触る前に知っておくべき「基板作りの基本」を網羅。
初めての基板設計から実装まで、手順に迷子にならないための分かりやすい入門書はこちら

なぜ必要?「健康診断の採血ポイント」で完全理解

「テストポイントなしでも、配線に直接プローブを当てれば測定できるのでは?」と思った方は鋭いです。実際、開発初期はそうやって測定します。

しかし量産フェーズに入ると、話は別です。健康診断をイメージしてください。採血のとき、お医者さんは「腕の内側の静脈」という決まった場所に針を刺します。なぜでしょうか?

採血ポイントが決まっている理由
  • 太い静脈があるから、確実に血が採れる
  • 神経や動脈が近くにないから、安全
  • 誰でも同じ場所を狙えるから、看護師さんが迷わない
  • 毎回同じ場所だから、検査結果を比較できる

テストポイントも全く同じ思想です。「ここに針を当てれば、確実に・安全に・誰でも・同じ条件で測定できる」場所を、設計者が事前に決めておくのです。

配線に直接プローブを当てるとどうなるか

×

テストポイントなし

  • 細い配線にプローブが当たりにくい
  • 滑って隣の配線とショートさせる事故
  • ソルダーレジストを傷つける
  • 毎回違う場所を測定するのでバラつく
  • 量産の検査機が使えない
○

テストポイントあり

  • 大きな丸なのでプローブが確実に当たる
  • 周囲はGNDで囲まれていてショート防止
  • 銅が露出しているので接触が安定
  • 毎回同じ場所で測定値を比較できる
  • 量産検査機(ICT)で自動測定可能
テストポイントを腕の静脈にたとえた図。採血は決まった場所に針を刺すように、基板のTP1・TP2も決まった場所だから誰でも安全に測れる
テストポイントは決まった場所だから安全に測れる

テストポイントが活躍する3つの場面

テストポイントは、製品のライフサイクル全体で使われます。具体的にどんな場面で使われるのか、3つに分けて見ていきましょう。

場面①:開発時のデバッグ(試作段階)

試作基板が出来上がった直後、「設計通りに動くか?」を確認する段階です。オシロスコープやテスターで電源電圧、信号波形、クロック周波数などを測定します。

この段階では「動かない原因はどこだ?」と探偵のように基板を調べることになります。テストポイントが整備されていれば、各ブロックの動作を順番に確認していけます。

場面②:量産検査(ICT・FCT)

量産工場では、出荷前のすべての基板に対して「インサーキットテスタ(ICT)」や「ファンクションテスタ(FCT)」と呼ばれる検査機で動作確認を行います。

これらの検査機は、「フィクスチャ」と呼ばれる剣山のような専用治具を使います。何百本ものスプリング付きの針が一斉に基板の下から突き上がり、すべてのテストポイントに同時に接触して測定するのです。

注意
「ベッドオブネイル(針の床)」とも呼ばれるこの治具は、テストポイントの位置と数を基準に専用設計されます。後からテストポイントを追加・削除すると、治具を作り直すことになり、数百万円のコストが発生することもあります。設計段階での配置検討が極めて重要です。

場面③:市場故障解析(フィールドリターン品)

お客様のところで故障した製品が戻ってきたとき、「なぜ壊れたのか」を解析するのもテストポイントの仕事です。

動かない基板を前にして、「どのブロックまでは生きているのか」を順番に追跡していきます。電源系のテストポイントがOK→次に信号系のテストポイントを確認→ここでNGなら、その手前のICが壊れている、という具合に絞り込んでいくのです。

現場の声
客先から「不具合品です」と返却された基板の解析は、品質保証部門の重要業務です。「テストポイントがなくて、どこから測定すればいいかわからない」となると、解析が長引き、客先への原因報告が遅れます。テストポイントは、未来の自分を救う「保険」なのです。
プリント基板の製造工程|銅張積層板から完成までの流れを図解
あわせて読みたい
プリント基板の製造工程|銅張積層板から完成までの流れを図解

プリント基板が手元に届くまでの全工程

テストポイントの有無の比較図。TPがないとプローブが滑って基板を傷つけショート事故や測定のばらつきが起き、TPがあると確実に接触して安全・再現性が高く自動検査もできる
テストポイントがあると安全に再現よく測れる

どこに置く?テストポイント配置の鉄則

「テストポイントを置こう」と思っても、すべての配線に置くわけにはいきません。基板スペースには限りがあるからです。「優先度の高い場所から置く」のが鉄則です。

配置すべき優先度ランキング

優先度 対象 理由
電源ライン
(VCC、3.3V、5V等)
電源が来てなければ何も動かない。最初に確認する
GND すべての測定の基準。複数箇所に必須
クロック信号 マイコンが動いているかの確認
リセット信号 起動シーケンスの確認
通信信号
(UART、I2C、SPI)
通信不良の切り分け
スイッチング波形 パワエレでは特に重要
アナログセンサ出力 A/D変換前の生データ確認

配置の物理的なルール

RULE 1

同一面に集約する|表面と裏面に散らばっていると、検査機のフィクスチャが両面分必要になりコスト2倍

RULE 2

パッドサイズは1mm以上|小さすぎるとプローブが当たらない。一般的に直径1.0〜1.5mmが標準

RULE 3

隣接ピッチは2.54mm以上|近すぎるとプローブ同士が干渉する

RULE 4

基板端から3mm以上離す|端に近いと治具で固定できない

RULE 5

シルクで「TP1」「TP2」と番号を印字|何の信号か一目でわかるようにする

ICT検査機の図。ベッドオブネイルの多数のプローブピンが基板のテストパッドに同時に接触し、各ポイントを一斉に測定する
ICT検査機は剣山のような治具で一斉に測る

入門書を読み終え、いざ実務レベルの基板設計へ!
もう一段上の「ノイズに強い・熱がこもらない」プロの設計手法を身につける実践集はこちら

おすすめの本

「テストポイントの役割」を、実際の基板設計のテクニックとあわせて身につけたい人に向いています。CQ出版『トランジスタ技術SPECIAL』の、プリント基板設計の実用的なテクニックを集めた号です。

テストポイントの「困りごと」とトレードオフ

テストポイントは便利ですが、無条件に増やせばいいわけではありません。4つのデメリットがあるので、バランスを考える必要があります。

デメリット①:基板スペースを消費する

1個のテストポイントで直径1mm以上のスペースが必要です。小型基板では、これが致命的になることがあります。「優先度の低い信号は諦める」決断も必要です。

デメリット②:寄生容量・寄生インダクタンスの追加

高速信号やRF回路では、テストポイントの銅パッドが「アンテナ」のように働いてノイズの原因になることがあります。GHz帯の信号には基本的にテストポイントを設けません。

デメリット③:EMI(不要輻射)の悪化

高周波の信号ラインに大きなテストパッドを置くと、そこからノイズが空中に放射されてEMI試験で不合格になることがあります。スイッチング電源の高速変化点には要注意です。

デメリット④:セキュリティリスク

製品によっては、テストポイントが「リバースエンジニアリングの入り口」になることがあります。ファームウェア書き込み用のJTAG信号などをテストポイントに出していると、悪意ある第三者にプログラムを抜き取られるリスクがあります。量産品では、量産後にテストポイントを溶断する対策もあります。

「使わないなら削れ」と言われたときの正しい反論

「動作に使ってない丸を削ってスペース空けろ」と言われたら、こう答えましょう:

「これは量産時のICT検査と、市場故障解析の両方で使用します。削除すると検査治具の作り直しで数百万円、故障解析の長期化で客先信頼の低下リスクがあります」

テストポイント配置の物理ルールの図。テストパッドの直径は1.0mm以上、パッドの中心間距離は2.54mm以上、基板のエッジから3mm以上離し、エッジに近すぎる配置はNG
テストポイントは径1.0mm・間隔2.54mm・端から3mm以上
この記事の理解を深める本と道具
おすすめの道具

回路の電圧や導通を自分の手で確かめるなら、手元にテスターが1台あると便利です。三和電気計器のデジタルマルチメータ(テスター)CD772です。電圧や抵抗などを測れます。

おすすめの道具

基板のはんだ付けを自分でやってみるなら、温度を調整できるはんだこてが扱いやすいです。白光(HAKKO)のダイヤル式温度制御はんだこてです。温度を200〜500℃で設定でき、プリント基板やICのはんだ付けに使えます。

まとめ|テストポイントは「未来の自分への投資」

最後に、この記事の要点をおさらいしましょう。

結論
テストポイント=基板の「採血ポイント」
動作には不要だが、検査・解析・デバッグの命綱

基板を設計するとき、つい「動くように作る」ことばかり考えがちです。しかし量産製品では、「動くだけ」では不十分です。「正しく動いていることを毎回確認できる」「壊れたときに原因を特定できる」基板でなければ、製造現場にも市場にも出せません。

テストポイントは、設計者が将来の製造担当者・サービス担当者・そして未来の自分のために残すメッセージです。「ここを測れば原因がわかるよ」というメッセージを、銅の丸として基板に刻んでおく。これが、本当に頼られる設計者の仕事です。

テーマ別に、もっと深く学ぶ

気になるところから読んでも大丈夫です。どの記事も、はじめて学ぶ人向けにやさしく書いています。

つまずきやすい「違い」を一気に解決
計算力アップ・資格対策
S
シラス
電験三種・QC検定1級 / メーカーでパワエレ設計・品質保証 実務10年

メーカーで電気設計と品質保証に携わってきた経験をもとに執筆しています。むずかしい専門用語をできるだけ使わず、はじめて学ぶ人がつまずかないように、図とたとえで説明することを大切にしています。

テストポイントを未来の健康診断にたとえた図。動作には不要だが検査・解析・デバッグの命綱で、設計時の小さな配慮が量産と保守を救う
テストポイントは未来の自分への投資

目に見えないスイッチングや波形の動きを、フルカラーで完全可視化。
数式だらけの専門書で挫折する前に読みたい、パワエレを「直感的に」理解できる決定版はこちら

-基板設計
-