- RCDスナバでも損失が気になる…もっと効率を上げたい
- 「アクティブクランプ」って聞いたことあるけど、どんな仕組み?
- パッシブスナバとアクティブスナバの違いがわからない
- アクティブクランプ回路が「ほぼ損失ゼロ」で動作する仕組み
- RCスナバ・RCDスナバとの決定的な違い
- アクティブクランプの設計ポイントと注意点
前回の記事で、RCDスナバ回路がエネルギーを電源に回生することで損失を大幅に削減できることを解説しました。しかし、RCDスナバにも「ダイオードの順方向電圧分の損失」や「抵抗での損失」が残ります。
「もっと損失を減らしたい」「究極の高効率を目指したい」——そんな要求に応えるのが、今回紹介する「アクティブクランプ回路」です。
アクティブクランプは、ダイオードの代わりにMOSFETを使うことで、エネルギー回生の効率をさらに高めます。近年の高効率電源やGaN/SiCデバイスを使った設計では、標準的な手法になりつつあります。
目次
スナバ回路の進化の歴史
まず、スナバ回路がどのように進化してきたかを整理しましょう。アクティブクランプの価値がよくわかります。
スナバ回路の3世代
サージエネルギーを100%熱に変換。シンプルだが損失大。
エネルギー効率:★☆☆☆☆
ダイオードで大部分を電源に回生。損失を大幅削減。
エネルギー効率:★★★☆☆
MOSFETでほぼ100%を電源に回生。究極の高効率。
エネルギー効率:★★★★★
「パッシブ」と「アクティブ」の違い
スナバ回路は大きく「パッシブ」と「アクティブ」に分類されます。
アクティブスナバ
- 能動部品(スイッチ)を使用
- MOSFETやIGBTなど
- 制御回路が必要
- 例:アクティブクランプ
「アクティブ」とは、「能動的に制御する」という意味です。パッシブスナバは部品を置くだけで自動的に動作しますが、アクティブスナバはタイミングを見計らってスイッチをON/OFFします。この「賢い制御」が高効率の秘密です。

アクティブクランプ回路の動作原理
アクティブクランプ回路の核心は、「ダイオードの代わりにMOSFETを使う」ことです。なぜこれで効率が上がるのか、仕組みを見ていきましょう。
RCDスナバの「残された損失」
RCDスナバでは、ダイオードを使ってエネルギーを回生していました。しかし、ダイオードには以下の損失が存在します。
❌ 順方向電圧降下 VF
シリコンダイオードで約0.7V、ショットキーでも0.3〜0.5Vの電圧降下が発生
❌ スイッチング損失
逆回復時間(trr)による損失が高周波で増大
❌ 抵抗での損失
リンギング抑制用の抵抗Rでの熱損失
特に問題なのが順方向電圧降下VFです。たとえ0.5Vでも、大電流が流れると損失は無視できなくなります。
MOSFETなら「ほぼゼロ」にできる理由
ダイオードの代わりにMOSFETを使うと、状況が劇的に変わります。
ダイオード:VF = 0.3〜0.7V(固定)
MOSFET:VDS = I × RDS(on)(可変・極小)
例:RDS(on) = 10mΩ のMOSFETに10A流れても、VDS = 0.1V
MOSFETがONのとき、ドレイン-ソース間は「ただの抵抗」として振る舞います。最新の低オン抵抗MOSFETなら、数mΩ〜数十mΩしかありません。
アクティブクランプの動作シーケンス
アクティブクランプ回路の動作を、フライバックコンバータを例に解説します。
メインMOSFETがON。トランスにエネルギーが蓄積される。クランプMOSFETはOFF。
メインMOSFETがOFF。漏れインダクタンスによるサージ電圧が発生し始める。
サージ電圧がクランプコンデンサ電圧を超えると、まずボディダイオードが導通。その後クランプMOSFETをONにして低損失で電流を流す。
サージエネルギーがクランプコンデンサに吸収される。MOSFETのオン抵抗が低いため、損失はほぼゼロ。
適切なタイミングでクランプMOSFETをOFF。コンデンサに蓄えたエネルギーは次のサイクルで利用される。
アクティブクランプの肝は「いつクランプMOSFETをON/OFFするか」です。メインスイッチと相補的(逆位相)に動作させ、同時ONによるショートを防ぐ必要があります。この制御が「アクティブ」と呼ばれる所以です。

3つのスナバ方式を徹底比較
RCスナバ、RCDスナバ、アクティブクランプの3つを比較して、それぞれの特徴を整理しましょう。
比較表:3つのスナバ方式
| 比較項目 | RCスナバ | RCDスナバ | アクティブクランプ |
|---|---|---|---|
| 分類 | パッシブ・非回生 | パッシブ・回生 | アクティブ・回生 |
| 主要部品 | R + C | R + C + D | C + MOSFET + 制御IC |
| エネルギー効率 | 低い(0%回生) | 中程度(50〜90%回生) | 高い(95%以上回生) |
| 発熱 | 大きい | 中程度 | 小さい |
| コスト | 安い | 中程度 | 高い |
| 設計難易度 | 低い | 中程度 | 高い |
| 制御回路 | 不要 | 不要 | 必要 |
| 主な用途 | 低周波・小電力 | 中〜高周波・中電力 | 高周波・高電力・高効率 |
損失のイメージ比較
RCスナバ
RCDスナバ
アクティブクランプ

アクティブクランプのメリット・デメリット
メリット
✅ 超高効率
サージエネルギーの95%以上を回生。大電力・高周波で威力を発揮
✅ 発熱が極小
熱設計が楽になり、放熱部品を小型化できる
✅ クランプ電圧を精密制御
サージのピーク電圧を正確に制限できる
✅ ZVS動作が可能
ゼロ電圧スイッチング(ZVS)を実現し、スイッチング損失も低減
✅ EMIノイズ低減
サージが抑制され、電磁ノイズが減少
✅ 耐圧の低い素子が使える
サージが抑制されるため、低耐圧・低オン抵抗の素子を選べる
デメリット
❌ コストが高い
MOSFET、ゲートドライバIC、制御回路が追加で必要
❌ 設計が複雑
タイミング制御、デッドタイム設定など専門知識が必要
❌ 部品点数が増える
実装面積が増え、基板設計の難易度が上がる
❌ 同時ON(アームショート)のリスク
タイミングを間違えると素子が破壊される危険
❌ 専用ICが必要なことも
自作は難しく、アクティブクランプ対応コントローラICを使うことが多い
以下の条件に当てはまるなら、アクティブクランプを検討する価値があります:
・高周波スイッチング(100kHz〜数MHz)
・高効率が求められる(90%以上)
・発熱を最小限に抑えたい
・GaN/SiCなど次世代デバイスを使う
・コストより性能を優先できる

アクティブクランプの設計ポイント
アクティブクランプの設計で押さえるべきポイントを解説します。
クランプコンデンサの設計
クランプコンデンサは、サージエネルギーを一時的に蓄える役割を持ちます。
クランプコンデンサの容量は、以下の条件を満たすように選定します:
- サージエネルギーを吸収できる容量
- 電圧リップルが許容範囲内(通常5〜10%以下)
- 共振周波数がスイッチング周波数より十分高い
実際の設計では、数nF〜数百nFの範囲で、シミュレーションや実測を通じて最適値を決定します。
クランプMOSFETの選定
| チェック項目 | 確認内容 | 推奨 |
|---|---|---|
| 耐圧 VDSS | クランプ電圧以上 | Vclamp × 1.5倍以上 |
| オン抵抗 RDS(on) | 損失に直結 | できるだけ低い値 |
| ボディダイオード特性 | 逆回復特性 | 高速リカバリ品 |
| ゲート電荷 Qg | 駆動損失に影響 | 小さいほど良い |
タイミング制御(デッドタイム)
アクティブクランプで最も重要なのがタイミング制御です。メインスイッチとクランプMOSFETが同時にONになると、電源がショートして素子が破壊されます。
メインMOSFETとクランプMOSFETが同時ONになると、電源→メインMOSFET→クランプMOSFET→GNDの経路で短絡電流が流れます。これを「アームショート」や「シュートスルー」と呼び、瞬時に素子が破壊されます。
これを防ぐために、両方のMOSFETがOFFになる期間「デッドタイム」を設けます。
デッドタイムは、MOSFETのターンオン/ターンオフ時間を考慮して設定します。
一般的には 50ns〜200ns 程度。短すぎるとショートのリスク、長すぎるとボディダイオードでの損失が増加。

アクティブクランプ対応のコントローラIC
アクティブクランプの制御を自作するのは大変です。実務では、アクティブクランプ対応のコントローラICを使うのが一般的です。
主要メーカーのアクティブクランプ対応IC
| メーカー | 代表的なIC | 特徴 |
|---|---|---|
| Texas Instruments | UCC28780, UCC24624 | ACF対応、高効率フライバック用 |
| ON Semiconductor | NCP1568 | USB PD対応、高密度電源向け |
| Infineon | XDPS21071 | デジタル制御、GaN対応 |
| Power Integrations | InnoSwitch4-CZシリーズ | 統合型、高効率アダプター向け |
・タイミング制御が自動化されている
・デッドタイムが最適化されている
・ZVS検出などの高度な機能が内蔵
・設計の工数を大幅に削減できる
アクティブクランプの応用例
よく使われる用途
USB PD充電器
小型・高効率が求められるため、GaN + アクティブクランプが主流に
ノートPCアダプター
65W〜100Wクラスで小型化・軽量化を実現
TV・ディスプレイ電源
待機電力削減、高効率規制対応
EV車載充電器
高効率・高電力密度が必須
サーバー電源
80 PLUS Titanium認証取得に必須
太陽光パワコン
変換効率向上で発電量UP

まとめ
アクティブクランプ回路について、動作原理から設計ポイントまで解説しました。
📌 この記事のポイント
- アクティブクランプ:MOSFETでサージエネルギーを回生する高効率方式
- RCDスナバとの違い:ダイオード→MOSFETで電圧降下を激減
- 効率:95%以上のエネルギー回生が可能
- 注意点:タイミング制御(デッドタイム)が必須、アームショートに注意
- 実務:アクティブクランプ対応コントローラICを使うのが一般的
🗺️ スナバ方式の選択ガイド
| RCスナバ | 低周波・小電力・コスト重視 |
| RCDスナバ | 中〜高周波・中電力・バランス重視 |
| アクティブクランプ | 高周波・高電力・効率最優先 |
アクティブクランプは設計の難易度が高いものの、GaN/SiCデバイスの普及や高効率規制の強化により、今後ますます重要な技術になっていきます。専用ICを活用しながら、ぜひチャレンジしてみてください。
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パワエレ回路の全体像を把握したい方に
スナバ回路を基礎から学びたい方は、以下の順番で読むのがおすすめです:
- スナバ回路とは?(基礎)
- RCスナバ回路の設計計算
- RCDスナバ回路の設計
- アクティブクランプ回路(この記事)
