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- TVSダイオードのデータシートの数字が多すぎて、何を見ればいいかわからない
- クランプ電圧とブレークダウン電圧の違いがあいまい
- どれくらいのサージ電流を想定して選べばいいのかわからない
- TVSダイオードがサージを吸収する仕組み
- VRWM・VBR・VC・IPPの意味と大小関係
- 選び方の5ステップと、サージ電流の見積もり方(計算ツールつき)
- ツェナー・バリスタとの違いと、置き方の注意
TVSダイオード(Transient Voltage Suppressor)とは、雷サージや静電気(ESD)のような一瞬の異常電圧から回路を守るためのダイオードです。ふだんは電流をほとんど流さず、電圧がブレークダウン電圧を超えた瞬間に導通して、サージの電流を逃がし、電圧をクランプ電圧に抑えます。選ぶときは「スタンドオフ電圧VRWMが回路の最大電圧以上」「クランプ電圧VCが守りたいICの絶対最大定格未満」「ピーク電流IPPが想定サージ以上」の3つを確かめます。

TVSダイオードとは?回路の「避雷針」
TVSダイオードは、ふだんは何もせず、サージが来た瞬間だけ電流を引き受けて回路を守る「避雷針」のような部品です。
| 状態 | TVSダイオードのようす |
|---|---|
| ① ふだん | 電圧がブレークダウン電圧より低いので、ほとんど電流を流さない(回路に影響しない) |
| ② サージが来た | 電圧がブレークダウン電圧を超えた瞬間に導通する(応答はナノ秒以下) |
| ③ クランプ | 大きな電流をグラウンドへ逃がし、電圧をクランプ電圧までに抑える |
| ④ サージが終わった | 自動で元の状態に戻る。ヒューズとちがい、くり返し働く |
しくみは、ダイオードの逆方向の「降伏(ブレークダウン)」を使ったものです。ツェナーダイオードと同じ原理ですが、TVSダイオードは一瞬の大きな電流に耐えるよう、接合の面積を大きく作ってあります。
| 使う場所 | 守るもの |
|---|---|
| 電源の入力(ACアダプター・電池の端子) | 電源ラインから入るサージ |
| 通信ポート(USB・HDMI・イーサネット・RS-232) | ケーブルから入る静電気やサージ |
| 車載の電子機器 | ロードダンプなどの大きなサージ |
| 産業機器・リレーやソレノイドのまわり | 誘導性の負荷が切れるときのサージ |
そもそもダイオードとは?向きと降伏のしくみ

TVS が受け止めるサージの多くは、スイッチングのときの急な電流の変化から生まれます。
ループ面積と dI/dt の関係をたとえで理解
スナバ回路・ツェナー・バリスタとの違い
スナバ回路は「回路の中で毎回起きるサージ」、TVSダイオードは「外から突然入ってくるサージ」を相手にします。
| 比べる点 | スナバ回路 | TVSダイオード |
|---|---|---|
| 相手 | スイッチングのたびのサージ(内部) | 雷・静電気・電源のサージ(外部) |
| 回数 | 毎回(高い頻度) | ときどき突然 |
| 置く場所 | スイッチング素子の近く | 入力やI/Oの端子の近く |
| 保護素子 | 得意なこと | 弱いところ |
|---|---|---|
| TVSダイオード | 応答が速く、クランプ電圧が低めで正確 | 大きさのわりに吸収できるエネルギーは中くらい |
| ツェナーダイオード | 一定の電圧を作る(定電圧) | 大きなサージ電流には向かない |
| バリスタ(酸化亜鉛) | 安くて大きなエネルギーを吸収できる。AC電源の入り口に多い | クランプ電圧が高めで、くり返すと劣化する |
| ガス放電管(アレスタ) | とても大きな電流を流せる。容量が小さい | 動き出す電圧が高く、応答が遅い |
大きな雷サージが入る場所では、入口にバリスタやガス放電管、その内側にTVSダイオード、と段を分けて組み合わせることもあります。
ツェナーダイオードの使い方と、TVSとの違い
スイッチングのサージを抑えるスナバ回路

データシートで見る6つの値と、電圧の大小関係
いちばん大事なのは、回路の電圧とICの耐圧のあいだに、VRWMとVCがきちんと収まっていることです。
| 記号 | 名前 | 意味と選び方 |
|---|---|---|
| VRWM | スタンドオフ電圧 | ここまでなら導通しない電圧。回路の最大電圧以上にする |
| VBR | ブレークダウン電圧 | 決まった小さな電流(多くは1mA)が流れ始める電圧。VRWMの1.1〜1.2倍ほど |
| VC | クランプ電圧 | IPPを流したときの電圧。サージのとき回路にかかる電圧。ICの絶対最大定格より低くする(最重要) |
| IPP | ピークパルス電流 | 1回のサージで流せる最大の電流。波形(10/1000μsや8/20μs)も見る |
| PPP | ピークパルス電力 | VC×IPP。400W・600W・1500Wなど。パッケージが大きいほど大きい |
| CJ | 静電容量 | 高速の信号線(USB・HDMI)では小さいもの(1pF以下など)を選ぶ |
回路の最大電圧 ≦ VRWM < VBR < VC < ICの絶対最大定格
VRWMが低すぎると、ふだんの電圧で漏れ電流が増えたり導通しかけたりします。VCが高すぎると、TVSが働いてもICが壊れます。この「すきま(窓)」がせまい回路ほど、選ぶのがむずかしくなります。

TVSダイオードの選び方|5ステップと計算ツール
守りたい線のふだんの最大電圧を確かめる(電源の変動やリプルも入れる)。
VRWMがその電圧以上の品種を選ぶ。
想定するサージの電流を見積もる。IEC 61000-4-5の試験なら、(サージ電圧−VC)÷発生器のインピーダンス(線と線のあいだ2Ω、線と大地のあいだ12Ω)が目安。
その電流がIPP以下で、そのときのクランプ電圧がICの絶対最大定格より低いか確かめる。
信号線なら静電容量、DCかACかで単方向・双方向、置く場所の広さでパッケージを決める。
TVSダイオードの選定の計算ツール
データシートのVBR(最大)・VC・IPPと、回路の条件を入れてください。はじめはSMBJ15A(12V系に使う想定)の値が入っています。
入力すると、その場で計算し直します。入力した数字は画面の中で計算するだけで、どこにも送信されません。
はじめの例では、約40Aのサージ電流がSMBJ15AのIPP(約24.6A)を超えるので「NG」になります。IPPを61.5にすると(SMCJ15A、1500W品)、電流もクランプ電圧(約22V)もOKになります。なお、SMBJ・SMCJのIPPは10/1000μsの波形での値で、IEC 61000-4-5の8/20μsの電流にはもっと耐えられます。くらべるときは、データシートのグラフで波形をそろえてください。

選定例|5V系がむずかしく、12V系がやさしい理由
| 項目 | 5V系(ICの定格7V) | 12V系(ICの定格25V) |
|---|---|---|
| 候補 | SMBJ5.0A(VRWM 5.0V) | SMBJ15A(VRWM 15V) |
| クランプ電圧VC | 9.2V | 24.4V |
| 判定 | 7Vを超える→NG | 25V未満→OK(ぎりぎり) |
5V系は、ふだんの電圧とICの耐圧のすきまがせまく、ふつうのTVSではクランプ電圧がはみ出しがちです。クランプ電圧の低い品種(低クランプ品)を選ぶ、TVSの手前に小さな抵抗やフェライトビーズを入れて電流を減らす、などで対策します。なお、VCはIPPを流したときの値なので、実際のサージ電流が小さければ、クランプ電圧はもっと低くなります(上のツールで確かめられます)。
| 種類 | 特徴 | 型番の例 |
|---|---|---|
| 単方向 | 片方の向きだけを守る。DCの電源ラインに。逆向きのサージはふつうのダイオードとして逃がす | 末尾がA(SMBJ5.0A) |
| 双方向 | 正負どちらの向きも守る。ACや、正負に振れる信号線に | 末尾がCA(SMBJ5.0CA) |
| パッケージ | PPPの目安(10/1000μs) | よく使う場所 |
|---|---|---|
| 小型(SOD-323など) | 数十〜数百W | 静電気(ESD)対策、信号線 |
| SMA | 400W | 一般的なサージ対策 |
| SMB | 600W | 電源ライン |
| SMC | 1500W | 大きなサージがかかる電源ライン |
型番の読み方の例:SMBJ5.0A は、SMB(パッケージ)+J(シリーズ)+5.0(VRWM)+A(単方向)。詳しい定格は品種ごとのデータシートで確かめてください。

置き方の注意と、よくある間違い
TVSダイオードは、コネクタの入口のすぐ近くに置き、グラウンドまでの配線をできるだけ短く太くします。サージの電流は立ち上がりが速いので、配線のインダクタンスLに L×di/dt の電圧が上乗せされ、TVSのクランプ電圧より高い電圧がICにかかってしまうからです。
| よくある間違い | 正しい考え方 |
|---|---|
| VBRで耐圧をくらべる | ICにかかるのはVC。VCとICの絶対最大定格をくらべる |
| IPPを波形を見ずにくらべる | 10/1000μsと8/20μsでは値が大きくちがう。条件をそろえる |
| ICのすぐそばに置く | サージの入口(コネクタ)の近くに置き、ICより先で止める |
| グラウンドへの配線が長い | L×di/dtが上乗せされる。短く太く、ビアを複数打つ |
| 高速の信号線にふつうのTVS | 静電容量で波形がくずれる。低容量品を選ぶ |
選定のチェックリスト
- VRWM ≧ 回路の最大電圧(変動を含む)
- 想定のサージ電流でのクランプ電圧 < ICの絶対最大定格
- 想定のサージ電流 ≦ IPP(波形の条件をそろえて)
- 高速の信号線なら低容量品
- DCなら単方向、ACや正負に振れる線なら双方向
- 入口の近くに置き、グラウンドまで短く
ESD保護でのTVSの回路への入れ方
雷サージがパソコンを壊すしくみ

よくある質問
- TVSダイオードは、外から来るサージを一瞬で逃がす「避雷針」
- 回路の電圧 ≦ VRWM < VBR < VC < ICの定格
- 最重要は、実際のサージ電流でのクランプ電圧
- サージ電流は(サージ電圧−VC)÷インピーダンスで見積もる
- 5V系はすきまがせまい。低クランプ品や抵抗で対策
- 入口の近くに置き、グラウンドまで短く

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メーカーで回路設計と生産技術(品質改善)に携わってきた経験をもとに執筆しています。むずかしい専門用語をできるだけ使わず、はじめて学ぶ人がつまずかないように、図とたとえで説明することを大切にしています。
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