回路設計

TVSダイオードとは?仕組みと選び方、クランプ電圧の見方|選定計算ツール付き

TVSダイオードとは何かを表すアイキャッチ。コネクタから入ったサージをTVSダイオードがグラウンドへ逃がし、ICを守る

※本記事にはプロモーション(広告)が含まれています。

お悩み
こんなふうに思っていませんか?
  • TVSダイオードのデータシートの数字が多すぎて、何を見ればいいかわからない
  • クランプ電圧とブレークダウン電圧の違いがあいまい
  • どれくらいのサージ電流を想定して選べばいいのかわからない
この記事でわかること
  • TVSダイオードがサージを吸収する仕組み
  • VRWM・VBR・VC・IPPの意味と大小関係
  • 選び方の5ステップと、サージ電流の見積もり方(計算ツールつき)
  • ツェナー・バリスタとの違いと、置き方の注意
結論|まず30秒でわかる答え

TVSダイオード(Transient Voltage Suppressor)とは、雷サージや静電気(ESD)のような一瞬の異常電圧から回路を守るためのダイオードです。ふだんは電流をほとんど流さず、電圧がブレークダウン電圧を超えた瞬間に導通して、サージの電流を逃がし、電圧をクランプ電圧に抑えます。選ぶときは「スタンドオフ電圧VRWMが回路の最大電圧以上」「クランプ電圧VCが守りたいICの絶対最大定格未満」「ピーク電流IPPが想定サージ以上」の3つを確かめます。

TVSダイオードとは何かを表すアイキャッチ。コネクタから入ったサージをTVSダイオードがグラウンドへ逃がし、ICを守る
TVSダイオードがサージをグラウンドへ逃がしICを守る

TVSダイオードとは?回路の「避雷針」

TVSダイオードは、ふだんは何もせず、サージが来た瞬間だけ電流を引き受けて回路を守る「避雷針」のような部品です。

状態TVSダイオードのようす
① ふだん電圧がブレークダウン電圧より低いので、ほとんど電流を流さない(回路に影響しない)
② サージが来た電圧がブレークダウン電圧を超えた瞬間に導通する(応答はナノ秒以下)
③ クランプ大きな電流をグラウンドへ逃がし、電圧をクランプ電圧までに抑える
④ サージが終わった自動で元の状態に戻る。ヒューズとちがい、くり返し働く

しくみは、ダイオードの逆方向の「降伏(ブレークダウン)」を使ったものです。ツェナーダイオードと同じ原理ですが、TVSダイオードは一瞬の大きな電流に耐えるよう、接合の面積を大きく作ってあります。

使う場所守るもの
電源の入力(ACアダプター・電池の端子)電源ラインから入るサージ
通信ポート(USB・HDMI・イーサネット・RS-232)ケーブルから入る静電気やサージ
車載の電子機器ロードダンプなどの大きなサージ
産業機器・リレーやソレノイドのまわり誘導性の負荷が切れるときのサージ
ダイオードとは?仕組み・種類・使い方を図解|LED抵抗の計算ツール付き
あわせて読みたい
ダイオードとは?仕組み・種類・使い方を図解|LED抵抗の計算ツール付き

そもそもダイオードとは?向きと降伏のしくみ

TVSダイオードの動きの図。TVSがないとサージで電圧が高く跳ね上がるが、TVSがあるとクランプ電圧で抑えられ、終われば元に戻る
TVSダイオードはサージをクランプ電圧で抑える

TVS が受け止めるサージの多くは、スイッチングのときの急な電流の変化から生まれます。

スイッチングノイズはなぜ出る?ループ面積とdI/dtの関係を「ウォーターハンマー」で理解
あわせて読みたい
スイッチングノイズはなぜ出る?ループ面積とdI/dtの関係を「ウォーターハンマー」で理解

ループ面積と dI/dt の関係をたとえで理解

スナバ回路・ツェナー・バリスタとの違い

スナバ回路は「回路の中で毎回起きるサージ」、TVSダイオードは「外から突然入ってくるサージ」を相手にします。

比べる点スナバ回路TVSダイオード
相手スイッチングのたびのサージ(内部)雷・静電気・電源のサージ(外部)
回数毎回(高い頻度)ときどき突然
置く場所スイッチング素子の近く入力やI/Oの端子の近く
保護素子得意なこと弱いところ
TVSダイオード応答が速く、クランプ電圧が低めで正確大きさのわりに吸収できるエネルギーは中くらい
ツェナーダイオード一定の電圧を作る(定電圧)大きなサージ電流には向かない
バリスタ(酸化亜鉛)安くて大きなエネルギーを吸収できる。AC電源の入り口に多いクランプ電圧が高めで、くり返すと劣化する
ガス放電管(アレスタ)とても大きな電流を流せる。容量が小さい動き出す電圧が高く、応答が遅い

大きな雷サージが入る場所では、入口にバリスタやガス放電管、その内側にTVSダイオード、と段を分けて組み合わせることもあります。

ツェナーダイオードの使い方|定電圧・サージ吸収の回路と抵抗値の計算例
あわせて読みたい
ツェナーダイオードの使い方|定電圧・サージ吸収の回路と抵抗値の計算例

ツェナーダイオードの使い方と、TVSとの違い

【完全図解】スナバ回路とは?|サージ電圧を吸収する仕組みを理解する
あわせて読みたい
【完全図解】スナバ回路とは?|サージ電圧を吸収する仕組みを理解する

スイッチングのサージを抑えるスナバ回路

サージ保護素子の違いの図。TVSダイオードは速く電圧が正確、ツェナーは定電圧用、バリスタは大きなエネルギー、ガス放電管はとても大きな電流に強い
TVS・ツェナー・バリスタ・ガス放電管の違い

データシートで見る6つの値と、電圧の大小関係

いちばん大事なのは、回路の電圧とICの耐圧のあいだに、VRWMとVCがきちんと収まっていることです。

記号名前意味と選び方
VRWMスタンドオフ電圧ここまでなら導通しない電圧。回路の最大電圧以上にする
VBRブレークダウン電圧決まった小さな電流(多くは1mA)が流れ始める電圧。VRWMの1.1〜1.2倍ほど
VCクランプ電圧IPPを流したときの電圧。サージのとき回路にかかる電圧。ICの絶対最大定格より低くする(最重要)
IPPピークパルス電流1回のサージで流せる最大の電流。波形(10/1000μsや8/20μs)も見る
PPPピークパルス電力VC×IPP。400W・600W・1500Wなど。パッケージが大きいほど大きい
CJ静電容量高速の信号線(USB・HDMI)では小さいもの(1pF以下など)を選ぶ
大小関係

回路の最大電圧 ≦ VRWM < VBR < VC < ICの絶対最大定格

VRWMが低すぎると、ふだんの電圧で漏れ電流が増えたり導通しかけたりします。VCが高すぎると、TVSが働いてもICが壊れます。この「すきま(窓)」がせまい回路ほど、選ぶのがむずかしくなります。

TVSダイオードの電圧の大小関係の図。下から回路の最大電圧、VRWM、VBR、VC、ICの絶対最大定格の順に並び、この窓に収める
TVSの電圧は回路の最大電圧からICの定格までの窓に収める

TVSダイオードの選び方|5ステップと計算ツール

STEP 1

守りたい線のふだんの最大電圧を確かめる(電源の変動やリプルも入れる)。

STEP 2

VRWMがその電圧以上の品種を選ぶ。

STEP 3

想定するサージの電流を見積もる。IEC 61000-4-5の試験なら、(サージ電圧−VC)÷発生器のインピーダンス(線と線のあいだ2Ω、線と大地のあいだ12Ω)が目安。

STEP 4

その電流がIPP以下で、そのときのクランプ電圧がICの絶対最大定格より低いか確かめる。

STEP 5

信号線なら静電容量、DCかACかで単方向・双方向、置く場所の広さでパッケージを決める。

TVSダイオードの選定の計算ツール

データシートのVBR(最大)・VC・IPPと、回路の条件を入れてください。はじめはSMBJ15A(12V系に使う想定)の値が入っています。

回路とサージ
TVSダイオード(データシートの値)

入力すると、その場で計算し直します。入力した数字は画面の中で計算するだけで、どこにも送信されません。

はじめの例では、約40Aのサージ電流がSMBJ15AのIPP(約24.6A)を超えるので「NG」になります。IPPを61.5にすると(SMCJ15A、1500W品)、電流もクランプ電圧(約22V)もOKになります。なお、SMBJ・SMCJのIPPは10/1000μsの波形での値で、IEC 61000-4-5の8/20μsの電流にはもっと耐えられます。くらべるときは、データシートのグラフで波形をそろえてください。

TVSダイオードの選び方の5ステップ。回路の電圧を確かめ、VRWMを選び、サージ電流を見積もり、VCとIPPを確かめ、容量・向き・パッケージを決める
TVSダイオードを選ぶ5ステップ

選定例|5V系がむずかしく、12V系がやさしい理由

項目5V系(ICの定格7V)12V系(ICの定格25V)
候補SMBJ5.0A(VRWM 5.0V)SMBJ15A(VRWM 15V)
クランプ電圧VC9.2V24.4V
判定7Vを超える→NG25V未満→OK(ぎりぎり)

5V系は、ふだんの電圧とICの耐圧のすきまがせまく、ふつうのTVSではクランプ電圧がはみ出しがちです。クランプ電圧の低い品種(低クランプ品)を選ぶ、TVSの手前に小さな抵抗やフェライトビーズを入れて電流を減らす、などで対策します。なお、VCはIPPを流したときの値なので、実際のサージ電流が小さければ、クランプ電圧はもっと低くなります(上のツールで確かめられます)。

種類特徴型番の例
単方向片方の向きだけを守る。DCの電源ラインに。逆向きのサージはふつうのダイオードとして逃がす末尾がA(SMBJ5.0A)
双方向正負どちらの向きも守る。ACや、正負に振れる信号線に末尾がCA(SMBJ5.0CA)
パッケージPPPの目安(10/1000μs)よく使う場所
小型(SOD-323など)数十〜数百W静電気(ESD)対策、信号線
SMA400W一般的なサージ対策
SMB600W電源ライン
SMC1500W大きなサージがかかる電源ライン

型番の読み方の例:SMBJ5.0A は、SMB(パッケージ)+J(シリーズ)+5.0(VRWM)+A(単方向)。詳しい定格は品種ごとのデータシートで確かめてください。

5V系と12V系のちがいの図。5V系はICの定格7Vまでの窓がせまく、VC9.2Vがはみ出す。12V系は25Vまでの窓が広く、VC24.4Vが収まる
5V系は窓がせまく、12V系は窓が広い

置き方の注意と、よくある間違い

TVSダイオードは、コネクタの入口のすぐ近くに置き、グラウンドまでの配線をできるだけ短く太くします。サージの電流は立ち上がりが速いので、配線のインダクタンスLに L×di/dt の電圧が上乗せされ、TVSのクランプ電圧より高い電圧がICにかかってしまうからです。

よくある間違い正しい考え方
VBRで耐圧をくらべるICにかかるのはVC。VCとICの絶対最大定格をくらべる
IPPを波形を見ずにくらべる10/1000μsと8/20μsでは値が大きくちがう。条件をそろえる
ICのすぐそばに置くサージの入口(コネクタ)の近くに置き、ICより先で止める
グラウンドへの配線が長いL×di/dtが上乗せされる。短く太く、ビアを複数打つ
高速の信号線にふつうのTVS静電容量で波形がくずれる。低容量品を選ぶ

選定のチェックリスト

  • VRWM ≧ 回路の最大電圧(変動を含む)
  • 想定のサージ電流でのクランプ電圧 < ICの絶対最大定格
  • 想定のサージ電流 ≦ IPP(波形の条件をそろえて)
  • 高速の信号線なら低容量品
  • DCなら単方向、ACや正負に振れる線なら双方向
  • 入口の近くに置き、グラウンドまで短く
TVSダイオードでESD保護|回路への入れ方
あわせて読みたい
TVSダイオードでESD保護|回路への入れ方

ESD保護でのTVSの回路への入れ方

雷サージとは?パソコンが雷で壊れる仕組みと雷ガードの選び方
あわせて読みたい
雷サージとは?パソコンが雷で壊れる仕組みと雷ガードの選び方

雷サージがパソコンを壊すしくみ

TVSダイオードの置き方の図。ICのそばに置き配線が長いと電圧が上乗せされる。入口のコネクタのそばに置き、グラウンドまで短く太くする
TVSは入口のコネクタのそばに、グラウンドまで短く置く

よくある質問

Q. TVSダイオードとは簡単にいうと?

A. 雷サージや静電気のような一瞬の異常電圧が来たときだけ導通し、電圧を抑えて回路を守るダイオードです。

Q. クランプ電圧とブレークダウン電圧の違いは?

A. ブレークダウン電圧は小さな電流が流れ始める電圧、クランプ電圧は大きなサージ電流を流したときの電圧です。

Q. ツェナーダイオードとの違いは?

A. 原理は同じ降伏ですが、ツェナーは定電圧用、TVSは一瞬の大電流に耐えるよう接合を大きく作ったサージ用です。

Q. 単方向と双方向はどう選ぶ?

A. DCの電源ラインなら単方向、ACや正負に振れる信号線なら双方向を選びます。型番の末尾がAかCAで見分けます。

Q. TVSダイオードはどこに置く?

A. サージの入口のコネクタの近くに置き、グラウンドまでの配線を短く太くします。ICの近くでは遅すぎます。

Q. TVSダイオードは壊れる?

A. 定格内ならくり返し働きます。定格を超えるとショートして壊れることが多く、そのときは電源側のヒューズで切ります。

まとめ
  • TVSダイオードは、外から来るサージを一瞬で逃がす「避雷針」
  • 回路の電圧 ≦ VRWM < VBR < VC < ICの定格
  • 最重要は、実際のサージ電流でのクランプ電圧
  • サージ電流は(サージ電圧−VC)÷インピーダンスで見積もる
  • 5V系はすきまがせまい。低クランプ品や抵抗で対策
  • 入口の近くに置き、グラウンドまで短く
TVSダイオードのまとめの図。サージを逃がす避雷針、VCはICの定格より低く、サージ電流を見積もり、入口に短く置く
TVSダイオードの要点:VCはICの定格より低く
キャリア
設計の経験を、次のキャリアに活かすなら

回路や基板の設計経験は、メーカーをはじめ多くの企業で求められています。今の職場で経験を積むのも、より広く経験を活かせる職場を探すのも、ひとつの道です。エンジニア向けの転職支援サービスでは、経験を棚卸ししながら求人を探せます。

自分らしく働けるエンジニア転職を目指すなら【strategy career】

この記事の理解を深める本と道具
おすすめの本

ノイズの問題は、実際のトラブル事例から学ぶと対策の引き出しが増えます。現場でよく起こる67のEMCのトラブル事例を通して、ノイズが出るしくみと対策を解説した本です(森北出版)。

おすすめの本

パワーエレクトロニクスの全体を、図でつかみたいときに向いています。パワーエレクトロニクスを、カラーの図解で解説した本です。

S
シラス
電験三種・QC検定1級 / メーカーで回路設計・生産技術(品質改善)の実務

メーカーで回路設計と生産技術(品質改善)に携わってきた経験をもとに執筆しています。むずかしい専門用語をできるだけ使わず、はじめて学ぶ人がつまずかないように、図とたとえで説明することを大切にしています。

次に読むべき記事

TVSダイオードの選び方がわかったら、パワエレ回路の保護回路の全体像をつかみましょう。過電流・短絡の保護と組み合わせて設計します。

パワエレに必要な周辺回路まとめ|スナバ回路・ゲート駆動・保護回路を「なぜ必要か」から徹底解説
まずはここから
パワエレに必要な周辺回路まとめ|スナバ回路・ゲート駆動・保護回路を「なぜ必要か」から徹底解説

スナバ・ゲート駆動・保護回路、パワエレの周辺回路

全体像を見る →
この記事の続きはこちら

テーマ別に、もっと深く学ぶ

気になるところから読んでも大丈夫です。どの記事も、はじめて学ぶ人向けにやさしく書いています。

つまずきやすい「違い」を一気に解決
伝導ノイズと放射ノイズの違い|「線を伝わるノイズ」と「空を飛ぶノイズ」を見分けて正しく対策する
違いがわかる
伝導ノイズと放射ノイズの違い|「線を伝わるノイズ」と「空を飛ぶノイズ」を見分けて正しく対策する

伝導ノイズと放射ノイズの違い

違いを確かめる →
コモンモードノイズとノーマルモードノイズの違い|「行きと帰りが同じ向き」が厄介な理由
違いがわかる
コモンモードノイズとノーマルモードノイズの違い|「行きと帰りが同じ向き」が厄介な理由

コモンモードとノーマルモードの違い

違いを確かめる →
ショットキーと整流ダイオードの違い|置き換えの判断と使い分けを図解
違いがわかる
ショットキーと整流ダイオードの違い|置き換えの判断と使い分けを図解

ショットキーと整流ダイオード

違いを確かめる →
IGBTとMOSFETの違いと使い分け|損失計算と選定フローチャートで即決する
違いがわかる
IGBTとMOSFETの違いと使い分け|損失計算と選定フローチャートで即決する

IGBTとMOSFETの使い分け

違いを確かめる →
設計の実務

タグ

-回路設計
-,