回路設計

【完全図解】電流検出方式の比較|シャント・CT・ホール素子・ロゴスキーコイルの選び方

パワーエレクトロニクスの回路設計で、避けて通れないのが「電流検出」です。

過電流から回路を守る保護機能、電流フィードバックによるモーター制御、電源効率の最適化——これらすべての土台に「いま、どれくらいの電流が流れているか」を正確に測る仕組みがあります。

😣 こんな悩みはありませんか?
  • シャント抵抗とCTとホール素子、どれを使えばいいか分からない
  • ロゴスキーコイルって聞いたことあるけど、何が違うの?
  • 「絶縁が必要」と言われたけど、各方式の絶縁の仕組みが理解できない
  • DC電流を測りたいのに、CTは使えないって本当?
✅ この記事でわかること
  • 4つの電流検出方式(シャント・CT・ホール素子・ロゴスキーコイル)の原理を「たとえ話」で理解
  • DC/AC対応・絶縁・精度・コスト・サイズの5軸で一覧比較
  • 用途別「結局どれを選べばいいの?」の判断フローチャート
🎯 先に結論

電流検出方式は「回路に直接入るか、磁気で間接的に測るか」の2つに大別されます。
直接方式の代表がシャント抵抗(安い・高精度・発熱が課題)。
間接方式にはCT(ACのみ・絶縁あり)、ホール素子(DC/AC両対応・絶縁あり)、ロゴスキーコイル(ACのみ・超広帯域・大電流に強い)があります。
「DC電流を測りたいか?」「絶縁が必要か?」「コストか精度か?」——この3つの質問に答えるだけで、最適な方式が決まります。

電流検出方式は「直接」と「間接」の2つに分かれる

まずは全体像をつかみましょう。電流検出方式は大きく2つのグループに分かれます。

直接方式

電流の経路に部品を「挿入」して測る

💰 シャント抵抗

🧲

間接方式(磁気検出)

電流が作る「磁界」を測る

🧲 CT / 🔍 ホール素子 / 🌀 ロゴスキーコイル

💡 イメージで覚えよう
直接方式は「水道管に流量計を取り付ける」イメージ。管を流れる水を直接測ります。
間接方式は「水道管の振動を外から測る」イメージ。管を切断せずに、外側から流量を推定します。

この「直接 vs 間接」の違いが、絶縁の有無・DC対応・発熱の大小など、あらゆる特性の違いの原因になっています。


① シャント抵抗方式|最もシンプルで安い「電流検出の王道」

原理:オームの法則で「電流 → 電圧」に変換する

シャント抵抗の原理は、中学校で習ったオームの法則(V = I × R)そのものです。

電流の通り道に「値が分かっている小さな抵抗」を直列に入れます。すると、流れた電流に比例した電圧がその抵抗の両端に発生します。この電圧を測れば、逆算で電流が分かるというわけです。

📐 シャント抵抗の基本式
Vshunt = I × Rshunt
例:R = 10mΩ、I = 10A のとき → V = 0.1V(100mV)

たとえるなら、「ホースを少しだけ細くして、水圧計を当てる」ようなものです。細くした部分の前後で生まれる圧力差(=電圧降下)を測ることで、流れている水量(=電流)を知ることができます。

ハイサイド検出とローサイド検出

シャント抵抗を置く場所には2つの選択肢があります。

🔼 ハイサイド検出

電源と負荷の(電源側)にシャント抵抗を置く。GND短絡も検出できるが、コモンモード電圧が高くなるため、専用の電流センスアンプが必要。

🔽 ローサイド検出

負荷とGNDの間にシャント抵抗を置く。コモンモード電圧がほぼ0Vなので、安いオペアンプで検出可能。ただし、負荷のGNDが浮くのがデメリット。

メリット・デメリット

✅ メリット ❌ デメリット
安価(数円〜数十円) 大電流で発熱する(P = I²R)
DC/AC両方測定可能 絶縁なし(絶縁アンプが別途必要)
高精度(温度係数の低い製品あり) 回路に直列挿入するため電圧降下が発生
広い周波数帯域(DC〜高周波) 大電流領域では放熱設計が必要
サイズが小さい(チップ抵抗型あり) 配線インダクタンスがノイズ源になりうる
⚠️ 実務のポイント
シャント抵抗は「10A以下の小電流」を「低コスト・高精度」で測りたい場面では最強の選択肢です。一方、数十A以上の大電流になると、発熱と放熱設計がコスト要因になり、磁気式センサーの方がトータルコストで有利になるケースがあります。

② CT(カレントトランス)方式|「変圧器の原理」で電流を縮小コピーする

原理:電磁誘導で「大電流 → 小電流」に変換する

CTとはCurrent Transformer(カレントトランス=変流器)の略です。「変圧器」の親戚だと思ってください。

ドーナツ型の磁性コアに、測りたい電流が流れる線(一次側)を1回通し、コアの周りにN回巻いた線(二次側)を接続します。すると、電磁誘導の法則により、二次側に「巻数比で縮小された電流」が流れます。

📐 CTの基本関係式
I₁ × N₁ = I₂ × N₂
一次側1回通し(N₁=1)、二次側100巻き(N₂=100)なら → I₂ = I₁ / 100
100Aの電流が1Aになって出てくる!

たとえるなら、「大きな歯車が小さな歯車を回す」ようなものです。大きな力(=大電流)が、歯車比(=巻数比)によって小さくなって伝わります。この「縮小コピー」された小さな電流を、負担抵抗(バーデン抵抗)で電圧に変換して測定するのです。

なぜCTは「AC専用」なのか?

ここが最大の注意点です。CTは「磁束の変化」を利用しています。交流(AC)は常に電流が増減するので磁束が変化し続けますが、直流(DC)は一定なので磁束が変化しません。

磁束が変化しない=電磁誘導が起きない=二次側に電流が流れない——だからCTはDC電流を測定できないのです。

💡 イメージで覚えよう
CTは「風車」のようなものです。風(=交流の変化)が吹いているときだけ回って発電します。風がない(=直流で変化なし)と、止まったまま何も検出できません。

メリット・デメリット

✅ メリット ❌ デメリット
電気的に絶縁されている(一次と二次が分離) DC電流は測定不可(AC専用)
電源不要(パッシブ素子) 磁性コアがあるためサイズが大きい
大電流でも発熱が小さい 大電流で磁気飽和する可能性がある
精度が高い(巻数比で決まる) 低周波(50/60Hz付近)にチューニングされた製品が多い
コスト面で中程度 ヒステリシスにより零点がずれることがある
⚠️ 磁気飽和に注意
CTの磁性コアには「磁束密度の上限」(飽和磁束密度)があります。測定電流がこの上限を超えると、出力が正しく比例しなくなります。これが「磁気飽和」です。定格を超える突入電流や過渡電流が流れる可能性がある回路では、飽和しにくいコア材の選定や、余裕を持ったCT設計が必要です。
📘 関連記事
【図解でわかる】変圧器の基本原理|電磁誘導から巻数比まで完全マスター →

CTは変圧器と同じ電磁誘導の原理で動いています。変圧器の基本を理解すればCTの動作もスッキリ分かります。

📘 参考書籍のご紹介

「カラー徹底図解 パワーエレクトロニクス」は、この記事の内容を実際の回路設計に活かしたい方に最適な一冊です。オールカラーで図解が豊富なので、初心者でもスムーズに理解できます。

③ ホール素子方式|DC/AC両対応の「万能選手」

原理:電流が作る「磁界」を半導体で検出する

電流が流れると、その導体の周りに磁界が発生します(アンペールの法則)。この磁界の強さは電流に比例するので、磁界を測れば電流の大きさが分かります。

ここで登場するのが「ホール効果」です。

ホール素子とは、磁界の中に置くと電流の流れと垂直方向に電圧が発生する半導体のことです。この電圧(ホール電圧)は磁界の強さに比例し、磁界の強さは電流に比例するので、結果的にホール電圧 ∝ 測定電流という関係が成り立ちます。

📐 ホール効果の基本式
VH = KH × Ic × B
VH:ホール電圧、KH:ホール係数、Ic:制御電流、B:磁束密度
磁束密度Bが測定電流に比例するため、VHから電流を逆算できる

たとえるなら、「風見鶏」です。風(=磁界)が吹くと風見鶏が傾きます。その傾き具合を見れば、風の強さ(=電流の大きさ)が分かる。しかもDC(一定の風)でもAC(変化する風)でも、風さえ吹いていれば検出できます。

コア付き vs コアレス

ホール素子方式には、磁気コアあり(コア付き)磁気コアなし(コアレス)の2タイプがあります。

🧲 コア付き 🔍 コアレス
構造 磁性コアのギャップにホール素子を配置 導体の近くにホール素子ICを直接配置
感度 高い(コアが磁束を集中) 低い(補正ICで増幅が必要)
サイズ 大きい(コアが場所をとる) 小さい(ICチップサイズ)
磁気飽和 あり(コア材に依存) なし
代表製品 LEM社 LAシリーズ等 AKM CZシリーズ、Allegro ACS712等

メリット・デメリット

✅ メリット ❌ デメリット
DC/AC両方測定可能(最大の強み) シャント抵抗ほどの高精度は出にくい
電気的に絶縁されている 外部磁界の影響を受けやすい(ノイズに弱い)
回路を切断せずに測定可能(クランプ型) 電源が必要(アクティブ素子)
広い電流レンジに対応 温度ドリフト(温度変化でオフセットがずれる)
コアレス型は非常にコンパクト 高周波応答はシャント抵抗やロゴスキーに劣る
💡 実務で最もよく使われる理由
ホール素子方式は「DC電流も測れて、絶縁もある」という2つの要求を同時に満たす唯一の磁気式センサーです。インバータのモーター制御、EV/HEVのバッテリー電流監視、太陽光発電のDC電流計測など、幅広い分野で採用されています。
📘 関連記事
【電験三種・理論】磁気とは何か?|磁力線・磁束・磁束密度の基礎 →

ホール素子が「磁束密度B」を検出する仕組みを理解するには、磁気の基礎知識が必要です。

④ ロゴスキーコイル方式|磁気飽和しない「大電流の切り札」

原理:空芯コイルで電流の「変化速度」を捉え、積分で元に戻す

ロゴスキーコイルは、一見するとCTに似ていますが、決定的な違いがあります。それは「磁性コアがない(空芯)」ということです。

導体の周りにぐるりと空芯コイルを巻き付けると、電流が変化したとき、電磁誘導によりコイルに電圧が発生します。ただし、この電圧は電流そのものではなく、電流の時間変化率(di/dt)に比例します。

そこで、この出力を積分回路に通して、元の電流波形に復元します。

🌀
STEP 1
空芯コイルが
di/dtを検出
STEP 2
積分回路で
電流に変換
📊
STEP 3
電流波形を
出力

たとえるなら、「マイク」です。マイクは音(空気の振動の変化速度)を拾って電気信号に変えます。ロゴスキーコイルも電流の「変化速度」を拾って電圧にします。どちらも「変化」がないと何も検出できない——だからロゴスキーコイルもAC専用です。

CTとの最大の違い:「磁気飽和しない」

CTには磁性コアがあるため、大電流が流れるとコアの磁束密度が飽和して、正しく測定できなくなります。

ロゴスキーコイルにはコアがないため、原理的に磁気飽和が起きません。つまり、数千A〜数十万Aの超大電流でも、リニアリティ(直線性)が保たれます。これがパワエレ分野で注目される最大の理由です。

メリット・デメリット

✅ メリット ❌ デメリット
磁気飽和しない(超大電流でもOK) DC電流は測定不可(AC専用)
広帯域(数Hz〜数十MHz) 積分回路が必要(後段回路のコスト・誤差)
コアがないため軽量・柔軟 微小電流の検出感度が低い
電気的に絶縁されている 外部磁界の影響を受けやすい
回路の切断不要(クランプ式) 精度はCTやシャント抵抗よりやや劣る(誤差約2%)
💡 どんな場面で使われる?
SiC/GaN半導体のスイッチング評価(数十MHz帯域が必要)、大電力インバータの電流計測、スマートメーターのAC電流検出など、「高周波」「大電流」「非接触」の3つが求められる場面で真価を発揮します。
📘 関連記事
【電験三種・理論】電磁誘導とファラデーの法則|e=-N(dΦ/dt)を完全理解 →

ロゴスキーコイルの原理は「ファラデーの電磁誘導の法則」そのものです。

4方式の一覧比較表

ここまで解説した4つの方式を、5つの軸で一覧比較します。

比較項目 💰 シャント抵抗 🧲 CT 🔍 ホール素子 🌀 ロゴスキー
原理 V = IR(オームの法則) 電磁誘導(巻数比) ホール効果(磁界検出) 電磁誘導(di/dt+積分)
DC対応 ⭕ 対応 ❌ 不可 ⭕ 対応 ❌ 不可
AC対応 ⭕ 対応 ⭕ 対応 ⭕ 対応 ⭕ 対応
絶縁 ❌ なし ⭕ あり ⭕ あり ⭕ あり
精度 ◎(最高) ○(高い) △〜○ △(約2%誤差)
コスト ◎(最安) △〜○ △(積分回路込み)
大電流対応 △(発熱問題) ○(飽和注意) ◎(飽和なし)
帯域幅 ◎(DC〜高周波) △(50/60Hz中心) ○(DC〜数百kHz) ◎(数Hz〜数十MHz)
サイズ ◎(チップ型あり) △(コアが大きい) ○〜◎(コアレス型) ○(柔軟構造)
電源 不要(受動素子) 不要(受動素子) 必要 必要(積分回路用)
主な用途 電源回路の電流監視、OCP 商用電源の計測、スマートメーター モーター制御、EV、太陽光 SiC/GaN評価、大電力インバータ

用途別:「結局どれを選べばいいの?」判断フローチャート

迷ったら、以下の3つの質問に順番に答えてください。

Q1. DC電流を測る必要がある?

YES → シャント抵抗 or ホール素子に絞られます。
NO → CT or ロゴスキーコイルも選択肢に入ります。

Q2. 電気的な絶縁が必要?

YES → ホール素子・CT・ロゴスキーコイルのいずれか。
NO → シャント抵抗が最もシンプルで安価です。

Q3. 測定電流のレンジと周波数は?

小電流(〜10A)+低コスト重視 → シャント抵抗
中電流(〜数百A)+DC/AC両対応 → ホール素子
商用周波数のAC+高精度 → CT
大電流(数千A〜)or 高周波(MHz帯)→ ロゴスキーコイル

🗺️ まとめ:用途別おすすめ
用途 おすすめ方式
DC-DCコンバータの過電流保護 💰 シャント抵抗
インバータのモーター電流制御 🔍 ホール素子(コアレス型)
スマートメーター(商用電源計測) 🧲 CT or 🌀 ロゴスキーコイル
SiC/GaN半導体のスイッチング評価 🌀 ロゴスキーコイル
EV/HEVのバッテリー電流監視 🔍 ホール素子(高精度クローズドループ型)

❓ よくある質問(FAQ)

Q. シャント抵抗は何Aまで使えますか?
A. 原理的には上限はありませんが、実用上は10A程度が目安です。それ以上になると発熱(P = I²R)が大きくなり、放熱設計・基板の銅箔面積確保が必要になるため、コスト的に磁気式センサーの方が有利になるケースが増えます。ただし、近年は極低抵抗(0.5mΩ以下)のシャント抵抗も登場しており、数十A領域でも使われることがあります。
Q. ホール素子とCT、どちらが精度が高いですか?
A. 一般的にはCTの方が高精度です。CTは巻数比という物理的な構造で変換比が決まるため、温度変化に強く安定しています。ホール素子は温度ドリフト(温度によるオフセットのずれ)の影響を受けやすい傾向があります。ただし、フラックスゲート方式のホール素子はCTに匹敵する精度を実現しています。
Q. ロゴスキーコイルは「積分回路」が必要と聞きました。追加コストはどのくらいですか?
A. 積分回路自体はオペアンプ+RC回路で構成でき、部品コストは数十円〜数百円程度です。ただし、市販のロゴスキーコイルプローブには積分回路が内蔵された製品も多く、その場合は追加設計不要です。回路設計のコストよりも、プローブ本体の価格(数千円〜数万円)の方が支配的です。

まとめ

最後に、この記事のポイントを振り返ります。

📝 この記事のまとめ
  • シャント抵抗:最安・高精度・DC/AC両対応だが、大電流で発熱&絶縁なし
  • CT:絶縁あり・電源不要・高精度だが、AC専用&磁気飽和あり
  • ホール素子:唯一の「DC+絶縁」両立方式。万能選手だが精度と温度ドリフトに注意
  • ロゴスキーコイル:磁気飽和しない超広帯域のAC専用。大電流・高周波の切り札
  • 選び方は「DC?」「絶縁?」「電流レンジ&周波数?」の3つの質問で決まる

どの方式にも「万能」はありません。大切なのは、自分のアプリケーションの要件を正確に把握して、最適な方式を選ぶことです。この記事が、あなたの設計判断の助けになれば嬉しいです。

🗺️ このテーマの全体像を知りたい方へ
📖 【完全図解】パワエレに必要な周辺回路まとめ|スナバ回路・ゲート駆動・保護回路 →

電流検出方式はパワエレ周辺回路の一部です。全体像から学びたい方はこちらからどうぞ。

📚 次に読むべき記事

📘 【完全図解】過電流保護(OCP)の設計|シャント抵抗・CT・ホール素子の使い分け →

電流検出の「実際の使いどころ」を具体的に解説。過電流保護回路でどの方式を使うか、設計手順がわかります。

📘 【完全図解】短絡保護(SCP)の設計|デサチュレーション検出とソフトシャットダウン →

電流検出と組み合わせて使う「短絡保護」の仕組みを解説。OCP設計の次に学ぶべきテーマです。

📘 【図解】スイッチングノイズはなぜ出る?|ループ面積とdI/dtの関係 →

シャント抵抗の配線インダクタンスがノイズ源になる理由が分かります。電流検出のパターン設計に必須の知識です。

タグ

-回路設計
-