- 「有効電力・無効電力・皮相電力、3つもあって違いがわからない…」
- 「W・var・VAの単位がごちゃごちゃになる」
- 「電気代に関係するのはどれ?」と聞かれて答えられない
- 「電力三角形が出てくると頭が真っ白になる」
- 「力率cosθの記事を読んだけど、P・Q・S単体の理解が浅い気がする」
- 3つの電力の役割の違いを「居酒屋の注文」で完全にイメージできる
- W・var・VAの単位を二度と間違えなくなる
- 電気代に関係するのは有効電力Pだと自信を持って言える
- 電力三角形の公式を使った計算問題が解けるようになる
- 三相交流での電力計算への橋渡しもできる
あなたの家の電気メーターを見てみてください。くるくる回って「◯◯kWh」と表示されていますよね。
あの数字は有効電力の積算量です。でも、電力会社は実際にはもっと大きな電力をあなたの家に送っています。差分はどこへ消えたのでしょう?
実は、消えたのではなく「行ったり来たりしている」のです。それが無効電力の正体です。
この記事では、「電気代に関係するのはどの電力?」という身近な疑問から出発して、有効電力P・無効電力Q・皮相電力Sの3つの違いを中学生でもスッキリわかるように完全図解していきます。
【電験三種・理論】電力と電力量の違い|P=VIとW=Ptを完全マスター →
「電力」と「電力量」の基本がまだ曖昧な方は、先にこちらを読んでおくと理解がグッと深まります。
【電験三種・理論】交流とは何か?|正弦波・周波数・周期を完全理解 →
「なぜ交流には3種類の電力が必要なのか」を根本から理解するために、交流の基礎を押さえておきましょう。
目次
🍺 まずは全体像|3つの電力を「居酒屋の注文」で理解する
あなたが注文したのは「生ビール」。でも届いたのは「泡入りビール」
交流の3つの電力を理解するために、居酒屋のビールを想像してください。
あなたが「生ビール1杯!」と注文しました。ジョッキが届きましたが、中身はこうなっています。
有効電力 P
実際に仕事をする電力
単位:W(ワット)
無効電力 Q
仕事をしないが必要な電力
単位:var(バール)
皮相電力 S
電力会社が送る電力の総量
単位:VA(ボルトアンペア)
電気メーターが計測しているのは有効電力Pの積算量(kWh)です。無効電力Qは行ったり来たりするだけで消費されないため、家庭の電気代には直接影響しません。ただし、工場など高圧契約では力率(P/Sの比率)で電気代が変わるため、皮相電力Sも重要になります。
なぜ直流には「3種類の電力」がないのか?
ここで素朴な疑問が生まれるはずです。「なぜ交流だけ3種類もあるの?直流は P=VI だけで良かったのに…」
それは、直流では電圧と電流にズレ(位相差)が生じないからです。直流回路では電圧と電流が常に同じ向きに流れるため、送った電力が全部仕事になります。つまり「泡」が存在しないのです。
一方、交流回路にはコイルやコンデンサが含まれます。これらの素子は電圧と電流の波にズレ(位相差θ)を生じさせるため、「仕事をする電力」と「仕事をしない電力」が混在するのです。この混在を整理するために、P・Q・Sの3つに分けて考える必要が出てきました。

⚡ 3つの電力を1つずつ深掘りする
① 有効電力 P [W]|実際に「仕事」をする電力
有効電力Pは、モーターを回す、ヒーターを温める、電球を光らせるなど、実際に「仕事」に変換される電力です。英語ではActive Power(アクティブパワー)やReal Power(リアルパワー)と呼ばれます。
P = V I cosθ [W]
V:電圧の実効値 [V]、I:電流の実効値 [A]、θ:電圧と電流の位相差
ポイントはcosθが掛かっていること。cosθが1.0(電圧と電流のズレがゼロ)なら、P = VI となり、直流のときと同じ計算になります。ズレがあればあるほど、cosθが小さくなり、有効に使える電力が減ります。
身近な例で言えば、あなたの家の電気メーターが計測しているのがこの有効電力Pです。毎月の電気料金は、このPの積算値(kWh)に単価を掛けて計算されます。
② 無効電力 Q [var]|「仕事をしない」のに必要な電力
無効電力Qは、名前の通り「仕事をしない電力」です。英語ではReactive Power(リアクティブパワー)と呼ばれます。
「仕事をしないなら、なぜ必要なの?」と思いますよね。実は、モーターが回転するためには磁界(磁場)を作り続ける必要があります。コイルはこの磁界を作るためにエネルギーを溜め込み、次の瞬間に放出する…ということを繰り返しています。
つまり、無効電力は「電源とコイルの間をエネルギーが行ったり来たりしている」だけ。消費はされていませんが、モーターが回転するには絶対に必要な電力なのです。
Q = V I sinθ [var]
sinθが掛かっているのがポイント。θ=0°ならQ=0(無効電力ゼロ)
sinθが掛かっているので、電圧と電流のズレθが大きいほど無効電力Qが大きくなります。純粋な抵抗だけの回路(θ=0°)では sin0°=0 なので、無効電力はゼロです。
🔄 無効電力のイメージ
エネルギーが電源↔コイル間をキャッチボールのように往復している
無効電力の単位はvar(バール)です。volt-ampere reactive の略です。有効電力のW(ワット)や皮相電力のVA(ボルトアンペア)とは意図的に異なる単位を使い、「仕事をする電力とは別物ですよ」と区別しています。
③ 皮相電力 S [VA]|電力会社が「送り出す」電力の総量
皮相電力Sは、電力会社が実際に送り出す電力の「見た目の大きさ」です。英語ではApparent Power(アパレントパワー)と呼ばれます。"Apparent"は「見かけ上の」という意味です。
S = V I [VA]
cosもsinも付かない!電圧×電流のシンプルな掛け算
皮相電力は、cosθもsinθも付かない最もシンプルな計算です。「電圧×電流」をそのまま掛けただけ。これが電力会社が送り出す「パイプの太さ(容量)」に相当します。
変圧器(トランス)の容量が「◯◯kVA」と表記されるのも、この皮相電力を基準にしているからです。変圧器は「中身が有効電力か無効電力か」に関係なく、通過する電流の総量で決まるためです。

📊 3つの電力の違いを完全整理|一覧表とチェックポイント
一目でわかる比較表
| 項目 | 有効電力 P | 無効電力 Q | 皮相電力 S |
|---|---|---|---|
| ビールで言うと | 🍻 液体(飲める) | ☁️ 泡(飲めない) | 🍺 ジョッキ全体 |
| 英語名 | Active Power | Reactive Power | Apparent Power |
| 単位 | W(ワット) | var(バール) | VA(ボルトアンペア) |
| 公式(単相) | P = VIcosθ | Q = VIsinθ | S = VI |
| 仕事をするか? | ✅ する | ❌ しない | (PとQの合成) |
| 電気代に関係? | 💰 直接関係する | 間接的に関係 (力率割引で) |
設備容量に関係 (変圧器など) |
| エネルギーの行方 | 熱・光・動力に変換 | 電源↔負荷を往復 | (P+Qの全体量) |
| 主な発生源 | 抵抗R | コイルL・コンデンサC | 回路全体 |
単位の覚え方|なぜ3種類の単位が必要なのか?
「W・var・VA、全部 電圧×電流 なのになぜ別の単位なの?」と疑問に思うかもしれません。
その理由は、3つの電力の「性質」が全く違うからです。混同を防ぐために、あえて別の単位を使っています。お金に例えると分かりやすいです。
W(ワット)
使える現金
実際に買い物できるお金
var(バール)
デポジット(保証金)
一時的に預けるが後で返ってくる
VA(ボルトアンペア)
財布の中身の総額
現金+デポジットの合計
【完全図解】力率(cosθ)とは?|「電気を無駄遣いしている度合い」を中学生でもわかるように解説 →
P/S の比率が力率cosθです。力率そのものについて詳しく知りたい方はこちらの記事で完全に理解できます。
【電験三種・理論】リアクタンス(XL・XC)とは?|周波数で変わる交流抵抗 →
無効電力はリアクタンス成分(XL, XC)から生まれます。リアクタンスの理解は無効電力の理解に直結します。

📐 電力三角形|P・Q・Sは直角三角形の関係
3つの電力は「足し算」ではなく「ベクトル合成」
ここで注意が必要です。P・Q・Sの関係は単純な足し算(P + Q = S)ではありません。
有効電力Pと無効電力Qは90°ずれた方向を向いているため、ベクトル的に合成する必要があります。結果として、3つの電力は直角三角形(電力三角形)を作るのです。
S² = P² + Q²
これを変形すると…
S = √(P² + Q²) | P = √(S² − Q²) | Q = √(S² − P²)
📐 電力三角形のイメージ
| 底辺 → 有効電力 P [W] | 実際に仕事をする分 |
| 高さ → 無効電力 Q [var] | 行ったり来たりする分 |
| 斜辺 → 皮相電力 S [VA] | 電力会社が送る総量 |
| 角度 → θ(位相角) | 電圧と電流のズレの大きさ |
cosθ = P/S(力率)、sinθ = Q/S、tanθ = Q/P
インピーダンス三角形との対応関係
実は、電力三角形はインピーダンス三角形と同じ構造をしています。電力三角形の各辺をI²で割ると、インピーダンス三角形が出てきます。
| 三角形の辺 | 電力三角形 | インピーダンス三角形 | 関係 |
|---|---|---|---|
| 底辺 | P [W] | R [Ω] | P = I²R |
| 高さ | Q [var] | X [Ω] | Q = I²X |
| 斜辺 | S [VA] | Z [Ω] | S = I²Z |
この対応を覚えておくと、cosθ = P/S = R/Z という「もう1つの力率の求め方」がすぐに理解できます。電験三種では、回路のR・X・Zから力率を求める問題が頻出するので、この対応は必ず押さえてください。

🔢 計算例で完全理解|手を動かして身につけよう
【例題1】電圧・電流・力率から3つの電力を求める
電圧 V = 200V、電流 I = 10A、力率 cosθ = 0.8(遅れ)の単相負荷があります。有効電力P、無効電力Q、皮相電力Sをそれぞれ求めなさい。
皮相電力Sを求める(最もシンプル)
S = VI = 200 × 10 = 2000 VA = 2 kVA
有効電力Pを求める(cosθを掛ける)
P = VIcosθ = 200 × 10 × 0.8 = 1600 W = 1.6 kW
無効電力Qを求める(sinθを掛ける)
cosθ = 0.8 → sinθ = 0.6(sin²θ + cos²θ = 1 より)
Q = VIsinθ = 200 × 10 × 0.6 = 1200 var = 1.2 kvar
S² = P² + Q² → 2000² = 1600² + 1200² → 4,000,000 = 2,560,000 + 1,440,000 ✅
cosθ = 0.8(力率80%)の場合、sinθ = 0.6 です。これは 3:4:5 の直角三角形に対応しており、電験三種で最も頻出する数値パターンです。cosθ = 0.8 → sinθ = 0.6 は丸暗記してしまいましょう。
【例題2】有効電力と力率から皮相電力・無効電力を求める
ある工場の負荷は有効電力 P = 600 kW、力率 cosθ = 0.6(遅れ)です。皮相電力Sと無効電力Qを求めなさい。
皮相電力Sを求める
S = P / cosθ = 600 / 0.6 = 1000 kVA
無効電力Qを求める(三平方の定理)
Q = √(S² − P²) = √(1000² − 600²) = √(640000) = 800 kvar
S = 1000 kVA、Q = 800 kvar
→ 600:800:1000 = 3:4:5 のピタゴラス数パターン!

🏭 実務での活用|電気代と設備容量に直結する知識
電気代は「有効電力P」の積算量(kWh)で決まる
家庭の電気代は、有効電力Pを時間で積算した電力量(kWh)で計算されます。無効電力Qが多かろうが少なかろうが、家庭の電気メーターには影響しません。
電気料金 = 有効電力P [kW] × 使用時間 [h] × 単価 [円/kWh]
単価は約27〜30円/kWh(家庭用の目安)
工場の電気代は「力率」で変わる|無効電力Qも間接的に影響
ただし、高圧契約(6600Vで受電する工場など)では話が変わります。電力会社は力率割引・割増制度を設けているため、無効電力Qが多い(=力率が悪い)と基本料金が最大15%割増になります。
💰 力率による電気代の変化(基本料金100万円/月の工場の場合)
| 力率 | 割引/割増 | 実際の基本料金 | 年間差額 |
|---|---|---|---|
| 100% | 15%割引 | 85万円 | −180万円/年 |
| 85%(基準) | ±0 | 100万円 | 基準 |
| 70% | 15%割増 | 115万円 | +180万円/年 |
力率100% vs 70% で年間360万円の差!
設備容量は「皮相電力S」で決まる
変圧器の容量が「◯◯kVA」と表記されるのは、変圧器にとって重要なのは流れる電流の総量だからです。有効電力か無効電力かに関係なく、電流が多ければ巻線が発熱します。
たとえば、有効電力800kWの負荷であっても、力率が0.8なら皮相電力は1000kVA。1000kVAの変圧器が必要です。力率を改善して0.95にすれば、皮相電力は約842kVA。一回り小さい変圧器で済むのです。
三相交流での電力計算(予告)
この記事では単相交流を前提に解説してきましたが、実務で最も多い三相交流では、公式にすべて √3 が付きます。
P = √3 × VL × IL × cosθ [W]
Q = √3 × VL × IL × sinθ [var]
S = √3 × VL × IL [VA]
VL:線間電圧、IL:線電流
√3 が付く理由は三相交流の記事で詳しく解説します。まずはこの記事で単相交流のP・Q・Sを完璧にマスターしてから進みましょう。

📝 まとめ|3つの電力の違いをもう一度整理
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| 有効電力 P [W] | 実際に仕事をする電力。電気代はこれで決まる。P = VIcosθ |
| 無効電力 Q [var] | 仕事をしないが磁界の維持に必要。電源と負荷を往復。Q = VIsinθ |
| 皮相電力 S [VA] | PとQのベクトル合成。変圧器の容量の基準。S = VI |
| 3つの関係 | 直角三角形の関係 → S² = P² + Q²(電力三角形) |
| 力率 cosθ | P/S の比率。1.0に近いほど電気を有効に使えている |
| 直流との違い | 直流は位相差θ=0なのでP=S、Q=0。3種類の区別が不要 |
有効電力・無効電力・皮相電力の3つは、交流回路のすべての土台になる概念です。「ビールの液体・泡・ジョッキ全体」のイメージが頭にあれば、電力三角形も力率もスルスル理解できます。この記事の内容をしっかり固めたうえで、力率改善や三相交流の世界に進んでいきましょう。あなたの電験三種合格を応援しています。
📚 次に読むべき記事
この記事の「対」となる記事です。P/Sの比率である力率cosθを深掘りし、力率改善(進相コンデンサ)の計算まで完全マスターできます。
電力三角形とインピーダンス三角形の対応関係が完全に理解できます。cosθ = R/Z の意味がクリアに。
実務で最も使われる三相交流では、P・Q・Sに√3が付きます。この記事で単相を固めた今、三相に進む準備は完了です。
電験三種の全体像を確認したい方はこちら。理論科目の学習順序がわかります。