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ラインフィルタとは?電源の「玄関」でノイズを止める
家に入るとき、玄関で靴を脱いで泥を持ちこまないようにします。ラインフィルタは、電源の玄関にあたる回路です。コンセントから来るACラインの直後に置き、50/60Hzの電力はそのまま通し、それより高い周波数のノイズだけを止めます。
大事なのは、止めるノイズが2つの向きにあることです。1つは、ほかの機器から電源線を伝わって入ってくるノイズ。もう1つは、自分の中のスイッチング電源が出したノイズが、電源線を伝わって外に出ていくノイズです。スイッチング電源の中ではMOSFETが高速でON・OFFしていて、このときの急な電流・電圧の変化がノイズになります。
| 置く場所 | 理由 |
|---|---|
| ACラインの直後(整流回路より前) | 規格で測るのは、電源線に出ていく伝導ノイズ。線の出口で止めないと意味がない |
| 機器の中に入る前 | 外から来るノイズが整流回路や制御回路に入る前に止められる |
電源線に出るノイズ(伝導ノイズ)は、150kHz〜30MHzの範囲で測られ、上限が決まっています。EUのCEマーキングや米国のFCCのように法律で求める地域があり、日本ではVCCI(業界の自主規制)への適合を取引先から求められることが多く、ラインフィルタはそのための基本の部品です。
EMCの規格の基本

止めるノイズは2種類|ノーマルモードとコモンモード
| 項目 | ノーマルモード(ディファレンシャルモード) | コモンモード |
|---|---|---|
| 流れ方 | LからNへ、ふつうの電流と同じ道を行き来する | LとNの両方を同じ向きに流れ、大地(アース)を通って戻る |
| 主な原因 | スイッチングのときの急な電流の変化(dI/dt) | 急な電圧の変化(dV/dt)が、浮遊容量を通って大地へもれる |
| 効く部品 | Xコンデンサ(+コモンモードチョークの漏れインダクタンス) | Yコンデンサ+コモンモードチョーク |
| たとえ | 行きと帰りの水道管の中で、水圧があばれる | 行きと帰りの両方の管から、地面へ水がもれる |
コモンモードノイズがやっかいなのは、回路図に描かれていない浮遊容量(部品と筐体や大地の間にできる、見えないコンデンサ)を通って流れることです。どこを通っているのかが見えにくく、ケーブルがアンテナになって放射ノイズの原因にもなります。
行きと帰りが同じ向きのノイズ

ラインフィルタの中身|3つの部品の役割
| 部品 | つなぐ場所 | 効くノイズ | 容量・値の目安 | しくみ |
|---|---|---|---|---|
| Xコンデンサ | L−N間 | ノーマルモード | 0.1〜1μF程度 | 高い周波数だけをL−N間で短絡し、負荷側へ行かせない |
| Yコンデンサ | L−大地、N−大地(2個) | コモンモード | 1〜4.7nF程度 | コモンモードノイズを大地へ逃がす |
| コモンモードチョーク | LとNに直列(1つのコアに2巻線) | コモンモード(ノーマルにも少し) | 数mH〜数十mH程度 | 同じ向きの電流にだけ大きなインダクタンスになる |
コモンモードチョークのしくみ
1つのリング状のコアに、LとNの線を、ふつうの電流が流れたときに磁束が打ち消し合う向きで巻いてあります。
| 流れる電流 | コアの中の磁束 | 結果 |
|---|---|---|
| ふつうの電流(LとNで逆向き) | 打ち消し合う | インダクタンスがほぼなく、電力はそのまま通る |
| コモンモードノイズ(LとNで同じ向き) | 強め合う | 大きなインダクタンスになり、ノイズを止める |
2つの巻線は完全には結合しないので、少しだけ打ち消し切れない分(漏れインダクタンス)が残ります。この漏れインダクタンスとXコンデンサの組み合わせが、ノーマルモードノイズにも効きます。ふつうの電流で磁束が打ち消し合うので、大きな電流を流してもコアが飽和しにくいのも、この部品のよいところです。
典型的な並び
ACライン → Xコンデンサ → コモンモードチョーク → Yコンデンサ(2個)・Xコンデンサ → 整流回路、という並びがよく使われます。チョークの前後にコンデンサを置くことで、LとCを何段か重ねたフィルタになり、減衰を大きくできます。
チョークコイルとフェライトビーズの違い

XコンデンサとYコンデンサは「こわれ方」の決まりがちがう
同じコンデンサでも、つなぐ場所がちがうので、こわれたときに起きることがちがいます。そのため、どちらも安全規格(IEC 60384-14)で認定されたクラスの部品を使います。ふつうのコンデンサで代用してはいけません。
| 部品 | もし短絡したら | 設計の考え方 |
|---|---|---|
| Xコンデンサ(X1・X2クラス) | L−N間がショートし、大電流が流れる | 前のヒューズで切る。雷などのサージにも耐えるクラスを選ぶ |
| Yコンデンサ(Y1・Y2クラス) | 電源の電圧が筐体に出て、感電する | 短絡しない(こわれても開放になる)ように作られた部品を使う |
Yコンデンサは容量を大きくできない
Yコンデンサには、ふだんから50/60Hzの小さな電流が大地へ流れます。これが漏れ電流(接触電流)で、I=2πfCVで計算できます。4.7nFに100V・50Hzなら約0.15mAです。アースのない機器でこの電流が大きいと、筐体にさわったときにピリッと感じるので、安全規格で上限が決まっています。だからYコンデンサは数nFにおさえられ、コモンモードの対策はコモンモードチョークが主役になります。
Xコンデンサには放電抵抗を入れる
プラグを抜いたあとも、Xコンデンサには電気が残ります。容量が大きいと、プラグの刃にさわってしびれることがあります。そこでXコンデンサに並列に放電抵抗を入れ、決まった時間内に電圧が下がるようにします。放電の時間は安全規格で決まっています。
漏れ電流の正体

ラインフィルタの計算ツール|カットオフ周波数と漏れ電流
部品の値を入れてください。コモンモードとノーマルモードのカットオフ周波数、伝導ノイズの測定帯の下限(150kHz)での減衰の目安、Yコンデンサの漏れ電流を出します。
入力すると、その場で計算し直します。入力した数字は画面の中で計算するだけで、どこにも送信されません。
市販のラインフィルタの選び方
| 見るところ | 確かめること |
|---|---|
| 定格電流 | 機器の最大の入力電流(突入電流ではなく実効値)より大きいか。周囲温度で下がる品もある |
| 定格電圧 | AC100V・200Vの両方で使うなら、250Vなど高いほうに合うか |
| 減衰特性 | カタログのグラフで、困っている周波数(例:150kHz〜数MHz)でコモン・ノーマルとも何dB効くか |
| 漏れ電流 | Yコンデンサの分の漏れ電流が、製品の安全規格の上限に収まるか。医療機器などは特に小さい |
| 取り付け | 金属の筐体に面でアースし、入力側と出力側の線を離す。線が近いとノイズが飛び移る |
ラインフィルタでよくある間違い
| よくある間違い | 正しい考え方 |
|---|---|
| フィルタは整流のあとでもよい | 電源線に出るノイズを止めるので、ACラインの直後に置く |
| Yコンデンサは大きいほどよく効く | 漏れ電流の上限があるので数nFまで。コモンはチョークが主役 |
| Yコンデンサをふつうのコンデンサで代用 | 短絡しないY1・Y2クラスの認定品を使う |
| フィルタの入力と出力の線をいっしょに束ねる | 線どうしでノイズが飛び移る。入出力は離す |
| アースをつながなくてもYコンデンサは効く | Yコンデンサはアース(筐体)につないで初めてノイズを逃がせる |
入力フィルタの配置とパターン

よくある質問


