熱設計

熱設計の全体像|「発熱→伝熱→放熱」の3ステップで考える完全マップ

😣 こんな経験はありませんか?
  • 設計レビューで「この基板、熱大丈夫?」と聞かれて固まった
  • ヒートシンクの選定を任されたが、何から手をつければいいかわからない
  • 「熱抵抗」「熱伝導率」「自然対流」…用語がバラバラで頭に入ってこない
  • 先輩に「熱設計の基本くらい知っておいて」と言われたが、教科書は分厚すぎて挫折した
✅ この記事でわかること
  • 熱設計の全体像が「発熱→伝熱→放熱」の3ステップで一目でわかる
  • 各ステップで「何を決めるか」「何を計算するか」が明確になる
  • 次に何を勉強すればいいか、学習ロードマップが手に入る

「熱設計」と聞くと、複雑な数式と専門用語の山に思えて、最初の一歩が踏み出せない方は多いのではないでしょうか。

でも、実は熱設計の本質はとてもシンプルです。「熱がどこで生まれて、どう伝わって、どこへ逃げるか」──この3ステップを順番に追いかけるだけ。

この記事では、熱設計の全体マップを「発熱→伝熱→放熱」という3ステップで整理し、それぞれのステップで「何を決めるか」を初心者向けに図解します。読み終わる頃には、設計レビューで「熱大丈夫?」と聞かれても、慌てずに答えられる土台が手に入ります。

そもそも、なぜ熱設計が必要なのか?

結論から言います。電子部品は「熱」で壊れるからです。

パワーMOSFETもIGBTも電解コンデンサも、すべての電子部品には「使える温度の上限」があります。これを超えた瞬間、部品は壊れるか、寿命が一気に縮まります。

⚠️ 10℃2倍則
電解コンデンサの寿命は、使用温度が10℃上がるごとに約半分になります。つまり「ちょっと熱いだけ」が、製品寿命を10分の1にすることもあるのです。
🔧 現場の声
自動車部品メーカーで「市場クレームの3割は熱起因」というデータもあります。エンジンルーム内の機器は周囲温度が85℃を超える環境で動くため、熱設計の精度が製品の信頼性を直接左右します。

熱設計の目的はただ一つ。「すべての部品を、許容温度以下に保つこと」です。そのために、熱の流れを設計段階でコントロールする必要があります。

熱設計の全体像|「発熱→伝熱→放熱」の3ステップ

熱設計は、次の3つのステップに分解できます。この順番でしか考えられません。逆順では成立しないのです。

🔥
STEP 1
発熱
どこで何W熱が出るか
🌡️
STEP 2
伝熱
熱がどう伝わるか
💨
STEP 3
放熱
外気へどう逃がすか

たとえるなら、家のお風呂です。

熱設計 お風呂のたとえ 考えること
① 発熱 蛇口からお湯が出る どれだけお湯(熱)が出るか
② 伝熱 お湯が浴槽に流れていく 途中の配管はどれくらい太いか
③ 放熱 浴槽から排水される 排水口の大きさは十分か
💡 ポイント
蛇口を全開にしても、排水口が詰まっていれば浴槽はあふれます。熱設計も同じで、「どこか1箇所がボトルネックになると、全体が破綻する」のです。

STEP1:発熱|「どこで何W熱が出るか」を把握する

熱設計の最初のステップは、「どの部品が、何W発熱するか」を見積もることです。これが間違っていると、その先の計算がすべて崩れます。

発熱量はどう計算する?

電子回路の発熱は、ほぼすべて「損失(ロス)」から生まれます。電気エネルギーが熱エネルギーに変わるのです。

📐 主な損失の種類
導通損失:部品がONのときに流れる電流による発熱(P = I²R)
スイッチング損失:MOSFETやIGBTがON/OFFする瞬間の発熱
鉄損・銅損:トランス・インダクタの磁気的な損失
誘電損失:コンデンサ内部の損失
手順1

発熱する部品をリストアップする(MOSFET・ダイオード・抵抗・トランス・電解コンなど)

手順2

各部品ごとに損失を計算する(データシートの式に従う)

手順3

合計発熱量を出す(基板全体で何W熱が出るか)

🔧 現場の声
「発熱量を見積もる」と言うと難しく聞こえますが、要はP = I²RP = V × Iの組み合わせです。電験三種で習うオームの法則がそのまま使えます。

STEP2:伝熱|熱が伝わる「3つの方法」を理解する

発熱量がわかったら、次は「その熱がどう伝わるか」を考えます。熱の伝わり方は、世界に3種類しかありません。

🔥

① 伝導

固体の中を伝わる熱

  • 例:フライパンの取っ手が熱くなる
  • 基板→ヒートシンクへの熱移動
💨

② 対流

空気・液体の流れで運ばれる熱

☀️

③ 放射

電磁波(赤外線)として飛ぶ熱

  • 例:太陽の光で温まる
  • 高温部品から周囲への熱移動

電子機器の熱はどう動く?

伝導

MOSFETのジャンクション(中身) → パッケージ表面 → 基板 → ヒートシンク

対流

ヒートシンクの表面 → 周囲の空気(自然対流 or ファンによる強制対流)

放射

高温の部品 → 赤外線として周囲へ放出(黒く塗装すると効率UP)

💡 ポイント
電子機器の熱は、まず伝導で部品から外へ出て、最後に対流で空気に逃げます。放射は補助的な役割です。
つまり「伝導でいかに熱を引き出し、対流でいかに捨てるか」が熱設計の本質です。

熱抵抗|熱の世界の「オームの法則」

伝熱の計算で必ず出てくるのが「熱抵抗」という概念です。これがわかれば、熱設計の8割は終わったようなものです。

熱抵抗は、電気のオームの法則とまったく同じ形をしています。

電気の世界 熱の世界
電圧 V [V] 温度差 ΔT [℃]
電流 I [A] 熱流 P [W]
電気抵抗 R [Ω] 熱抵抗 Rth [℃/W]
V = I × R ΔT = P × Rth
📐 熱抵抗の基本式
ΔT = P × Rth
温度差[℃] = 発熱量[W] × 熱抵抗[℃/W]

たとえば、発熱10Wの部品が熱抵抗5℃/Wの経路でつながっていれば、温度差は10W × 5℃/W = 50℃になります。周囲温度が25℃なら、部品の温度は75℃です。

⚠️ 熱抵抗は「直列」「並列」もある
電気抵抗と同じく、熱抵抗も直列なら足し算、並列なら逆数の和になります。MOSFET → 基板 → ヒートシンク → 空気、と熱が伝わる経路は「熱抵抗の直列回路」です。

STEP3:放熱|熱を「外気へ捨てる」最終工程

最後のステップは「熱を外気へ逃がす」こと。ここで詰まれば、いくら発熱を減らしても部品は熱くなります。

放熱の主役は「ヒートシンク」と「空気の流れ」

🌬️

自然対流

  • ファンなし。空気の温度差で勝手に流れる
  • 静音・故障少ない
  • 放熱能力は弱い
  • ヒートシンクは「縦置き」が基本
💨

強制対流

  • ファン・ブロワで風を当てる
  • 放熱能力が一気に上がる
  • ファン故障 = 放熱破綻のリスク
  • 騒音・寿命の問題あり

放熱性能を決める3つの要素

① 表面積

大きいほど熱が逃げやすい。だからヒートシンクは「フィン(ひれ)」だらけの形をしている。

② 風量

風が速いほど、熱を奪う力が強い。強制対流は自然対流の3〜10倍の放熱能力がある。

③ 温度差

部品温度と外気温の差が大きいほど熱は逃げる。逆に言えば、外気温が高い環境(車載・産業機器)では放熱が難しい。

🔧 現場の声
エンジンルーム内の機器は周囲温度が85℃〜105℃にもなります。家庭用エアコンの室外機(25℃環境)と比べて、放熱条件は段違いに厳しい。だから車載用パワエレは、放熱設計が製品の命運を分けます。

熱設計の実務フロー|実際にどう進めるか

ここまでの3ステップを、実務の流れに落とし込むとこうなります。

手順1

仕様の確認:周囲温度(最大何℃の環境で使うか)、許容温度(部品が壊れない上限)を決める

手順2

発熱量の算出:各部品の損失を計算し、合計発熱量を出す

手順3

許容熱抵抗の計算:「どれだけ熱抵抗を下げれば許容温度に収まるか」の目標値を決める

手順4

放熱手段の選定:ヒートシンク・ファン・銅箔パターン・サーマルビアなどを組み合わせる

手順5

熱シミュレーション:CADソフト(ANSYS Icepak、Flotherm等)で温度分布を確認

手順6

実機検証:熱電対やサーモグラフィで実測し、計算値とのズレを確認

⚠️ 設計の鉄則:マージンを取る
許容温度ギリギリの設計は禁物です。部品ばらつき・経年劣化・環境変動を考慮し、許容温度の70〜80%を目標値にするのが実務の常識(ディレーティング)です。

熱設計でやりがちな失敗パターン3選

失敗①:周囲温度を「室温25℃」で計算してしまう

試験室は25℃でも、製品が使われる現場は違います。エンジンルームは85℃以上、屋外設置の制御盤は60℃を超えることもザラ。「最悪条件」で計算しないと、夏場に大量クレームになります。

失敗②:基板の放熱を過大評価する

「FR-4基板でも銅箔があれば放熱できる」と思いがちですが、FR-4の熱伝導率は約0.3 W/m·K。アルミ(約230 W/m·K)の1000分の1以下です。基板だけで放熱しようとすると、ほぼ確実に温度が上がりすぎます。

失敗③:シミュレーションだけを信じる

熱シミュレーションは強力ですが、入力する材料物性値や境界条件で結果が大きく変わります。必ず実機で熱電対やサーモグラフィで実測し、シミュレーションとの差を検証するのが鉄則です。

🔧 現場の声
「設計時は問題なかったのに、量産後に市場クレームが…」というのは、ほぼ100%この3つのどれか。特に①は新人がやりがちな致命傷です。

熱設計を学ぶための学習ロードマップ

熱設計を体系的に学びたい方は、次の順番で進めるのがおすすめです。

STEP A

電気の基礎を固める:オームの法則・電力・損失計算ができるようになる

STEP B

損失の種類を理解する:導通損失・スイッチング損失・鉄損・銅損の違いを把握する

STEP C

熱抵抗の計算に慣れる:ジャンクション温度を逆算できるようにする

STEP D

放熱手段を学ぶ:ヒートシンク・サーマルビア・TIM(熱伝導グリス)の使い方

STEP E

シミュレーションと実測:CAEツール・サーモグラフィでの検証スキルを習得する

💡 ポイント
熱設計は「電気」と「物理(熱力学)」の両方を使います。電験三種で電気の基礎を固めれば、熱設計の理解スピードが一気に上がります。

まとめ|熱設計は「3ステップ」で考える

📌 この記事の要点
  • STEP1:発熱 どこで何W熱が出るか、損失計算で見積もる
  • STEP2:伝熱 熱は「伝導・対流・放射」の3形態で伝わる。熱抵抗で計算する
  • STEP3:放熱 最終的にヒートシンクと空気で外気へ捨てる
  • 熱抵抗は電気のオームの法則と同じ形:ΔT = P × Rth
  • 許容温度の70〜80%を目標にしてマージンを取るのが実務の鉄則

熱設計は一見難しそうに見えますが、「発熱→伝熱→放熱」の3ステップで整理すれば、誰でも全体像をつかめます。あとは各ステップを掘り下げていくだけ。次回の設計レビューで「熱大丈夫?」と聞かれたら、自信を持って答えられるはずです。

📚 次に読むべき記事

📘 なぜ熱設計が必要なのか?|パワー半導体が壊れるメカニズム →

熱設計を「やる理由」から深く理解したい方へ。部品が壊れる物理現象を解説します。

📘 スイッチング損失とは?|導通損失との違いとMOSFETでのざっくり計算 →

STEP1「発熱」で必須の損失計算を、MOSFETを例に具体的に解説します。

📘 ディレーティングとは?|部品を定格ギリギリで使ってはいけない理由 →

熱設計のマージン設計に欠かせない「ディレーティング」の考え方を学びます。

📘 アレニウスモデル|10℃2倍則と加速試験で寿命を見積もる →

「なぜ温度が上がると寿命が縮むのか」を物理法則で理解します。

📘 電気とは何か?|電圧・電流・抵抗を「水の流れ」で完全理解 →

熱抵抗の理解には電気抵抗の理解が前提。電気の基礎をやり直すならこちらから。

タグ

-熱設計