💭 「過電流保護を入れたいけど、シャント抵抗? CT? ホール素子? どれを選べばいいの?」
パワエレ設計で必ず必要になる過電流保護(OCP: Over Current Protection)。
でも電流検出の方式がいくつもあって、どれが自分の回路に合うのか悩みますよね。
選び方を間違えると、発熱で効率ダウンしたり、ノイズで誤動作したり、コストが跳ね上がったり…。
この記事では、3つの主要方式を「どんな回路に向いているか」で徹底比較します!
📚 この記事で学べること
① 過電流保護(OCP)がなぜ必要なのか
② シャント抵抗・CT・ホール素子、それぞれの原理
③ 3方式の比較表と「選び方フローチャート」
④ 設計時の具体的な計算例と注意点
目次
🛡️ 過電流保護(OCP)とは? ─ 回路を守る「ブレーカー」
家庭のブレーカーを思い浮かべてください。電気を使いすぎると「バチン!」と落ちて、配線が焼けるのを防ぎますよね。
パワエレ回路の過電流保護(OCP)も同じ役割です。
MOSFETやIGBT、ダイオードに定格を超える電流が流れそうになったら、瞬時に検出して回路を停止させます。
⚠️ 過電流が起きる主な原因
・負荷短絡:モーターの端子がショートした
・負荷過大:想定以上の重いモノを持ち上げようとした
・制御異常:上下アームが同時ONして貫通電流が発生
・部品故障:ダイオードやMOSFETが壊れて短絡モードに
OCPがないと、過電流が流れた瞬間に素子が熱破壊したり、最悪の場合発火につながります。
だからパワエレ設計では「絶対に入れるべき保護機能」なのです。
🔍 OCP の基本構成 ─ 3ステップで保護する
OCPは大きく分けて3つのステップで動作します。
料理で例えると、「味見 → 判断 → 火を止める」の流れですね。
STEP 1
📏 電流検出
電流を電圧信号に変換
STEP 2
⚖️ 比較・判定
閾値と比較して
過電流か判断
STEP 3
🛑 遮断・保護
ゲートOFFで
電流を止める
この記事では特に重要な「STEP 1:電流検出」にフォーカスします。
検出方式の選び方で、コスト・精度・発熱が大きく変わるからです。
⚡ 3つの主要な電流検出方式
電流検出には様々な方式がありますが、パワエレで主に使われるのは以下の3つです。
① シャント抵抗
原理:オームの法則
イメージ:水道の流量計
特徴:安い・高精度・発熱あり
② CT(電流トランス)
原理:電磁誘導
イメージ:クランプメーター
特徴:絶縁あり・AC専用・DCは不可
③ ホール素子
原理:ホール効果
イメージ:磁石を感じるセンサー
特徴:絶縁あり・DC/AC両対応
次のセクションから、それぞれの方式を詳しく解説していきます。
まずは最もシンプルな「シャント抵抗」から見ていきましょう!

① シャント抵抗 ─ オームの法則で電流を測る王道
🔬 原理:V = I × R(中学校で習ったあの式!)
シャント抵抗の原理は超シンプル。
電流の経路に既知の抵抗値Rを挿入して、その両端電圧Vを測定するだけです。
📐 シャント抵抗の基本式
Vsense = I × Rshunt
検出電圧 [V] = 電流 [A] × シャント抵抗値 [Ω]
例えば、R = 10 mΩ のシャント抵抗に I = 10 A が流れると:
Vsense = 10 A × 0.01 Ω = 0.1 V(100 mV)
この100 mVをコンパレータで閾値と比較すれば、過電流を検出できます。
🎯 シャント抵抗値の決め方
シャント抵抗値は「検出したい電流」と「許容できる損失」のバランスで決めます。
| ステップ | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 1 | OCP閾値電流 IOCP を決める | 定格10A → IOCP = 15A(1.5倍) |
| 2 | 検出電圧 Vsense を決める | コンパレータ閾値 = 0.1 V |
| 3 | Rshunt = Vsense / IOCP | 0.1 V / 15 A = 6.67 mΩ |
| 4 | 損失を確認 P = I²R | (10A)² × 6.67mΩ = 0.67 W |
⚠️ 設計の落とし穴:発熱と精度のトレードオフ
・Rを大きく → 検出電圧が大きくなり精度UP → でも発熱が増える
・Rを小さく → 発熱は減る → でも検出電圧が小さくノイズに弱い
一般的にはVsense = 50〜200 mVで設計するのがバランス良いです。
✅ メリット・❌ デメリット
✅ メリット
・超低コスト(数円〜数十円)
・高精度(抵抗の誤差で決まる)
・応答速度が速い(ns オーダー)
・DC/AC 両方測定可能
❌ デメリット
・発熱がある(P = I²R)
・絶縁がない(電位差に注意)
・大電流では損失大
・ハイサイド検出は回路が複雑
💡 向いている用途
・低〜中電流(〜50A程度)
・低コスト重視の民生機器
・GND基準のローサイド検出
・モータードライバ、DC-DCコンバータの電流制限

② CT(電流トランス) ─ 絶縁しながら電流を測る
🔬 原理:電磁誘導で電流を「縮小コピー」
CTの原理はトランスと同じ「電磁誘導」です。
電流が作る磁界を利用して、一次側の大電流を二次側の小電流に変換します。
🎯 イメージ:クランプメーターと同じ仕組み
電線をパチンと挟むだけで電流が測れるクランプメーター。
あれは電線を「一次巻線」、内蔵コイルを「二次巻線」としたCTです。
📐 CTの基本式
I2 = I1 × (N1 / N2)
二次電流 = 一次電流 × (一次巻数 / 二次巻数)
例:一次1回巻き、二次100回巻き → 電流は1/100に縮小
一次側に100 Aが流れても、巻数比1:100のCTなら二次側は1 A。
この1 Aを小さなシャント抵抗で電圧変換すれば、安全に大電流を測定できます。
🎯 CT設計のポイント
| パラメータ | 説明 | 目安 |
|---|---|---|
| 巻数比 N1:N2 | 電流の縮小率を決定 | 1:50 〜 1:1000 |
| 負担抵抗 Rburden | 二次電流を電圧に変換 | 1〜100 Ω |
| コア材質 | 周波数特性・飽和電流に影響 | フェライト、アモルファス等 |
| 飽和電流 | これを超えると出力が頭打ち | 最大電流の1.5倍以上 |
🚨 重要:CTは「AC専用」です!
CTは電磁誘導を使うため、電流が変化しないと出力がゼロになります。
つまりDC(直流)は測定不可です。
DCを測りたい場合は、次に紹介するホール素子を使いましょう。
✅ メリット・❌ デメリット
✅ メリット
・絶縁あり(安全性が高い)
・損失がほぼゼロ
・大電流対応(数百A〜)
・コスト比較的安価
❌ デメリット
・DCは測定不可
・低周波で誤差増大
・コア飽和に注意
・サイズがやや大きい
💡 向いている用途
・AC電源ラインの電流検出
・インバータ・コンバータの過電流保護
・高電圧系統での絶縁計測
・分電盤・スマートメーター

③ ホール素子 ─ 磁界を感じて DC も AC も測れる
🔬 原理:電流が作る磁界を「ホール効果」で検出
電流が流れると、その周りに磁界が発生します(右ねじの法則)。
ホール素子はこの磁界を検出して電圧に変換するセンサーです。
🧲 イメージ:方位磁針のハイテク版
方位磁針は地球の磁界で針が動きますよね。
ホール素子は電流が作る磁界を感じて「電圧」で教えてくれる電子版です。
📐 ホール効果の基本式
VH = KH × I × B
ホール電圧 = ホール係数 × 制御電流 × 磁束密度
電流が作る磁界 B が大きいほど、出力電圧も大きくなる
🎯 ホール素子電流センサーの2タイプ
市販のホール素子電流センサーは、大きく分けて2つのタイプがあります。
| 項目 | オープンループ型 | クローズドループ型 |
|---|---|---|
| 動作原理 | 磁界を直接検出 | 帰還コイルで磁界をキャンセル |
| 精度 | ±1〜3% | ±0.1〜0.5% |
| 応答速度 | 〜100 kHz | 〜数 MHz |
| 消費電力 | 小さい | やや大きい |
| コスト | 安価(数百円〜) | 高価(数千円〜) |
| 主な用途 | 一般的なOCP、モニタ | 高精度計測、サーボ制御 |
🏭 主要メーカーと代表品番
・LEM:LA / LTS シリーズ(産業用の定番)
・Allegro:ACS712 / ACS758(低コスト、1チップ)
・Melexis:MLX91208(車載向け高精度)
・TDK(旧 Micronas):HAL / CUR シリーズ
✅ メリット・❌ デメリット
✅ メリット
・DC/AC両方測定可能
・絶縁あり(安全)
・非接触で損失ゼロ
・広い電流レンジ対応
❌ デメリット
・コストが高め
・温度ドリフトに注意
・外部磁界の影響を受ける
・電源が必要
💡 向いている用途
・EV/HEVのバッテリー電流監視
・インバータのDCリンク電流検出
・太陽光パワコンの出力監視
・絶縁が必要な高電圧DC系

📊 3方式 完全比較表 ─ 一目で違いが分かる!
| 比較項目 | シャント抵抗 | CT | ホール素子 |
|---|---|---|---|
| DC測定 | ◎ 可能 | ✕ 不可 | ◎ 可能 |
| AC測定 | ◎ 可能 | ◎ 可能 | ◎ 可能 |
| 絶縁 | なし | あり | あり |
| コスト | ◎ 最安(数円〜) | ○ 中程度 | △ 高め(数百円〜) |
| 精度 | ◎ 高(抵抗次第) | ○ 中程度 | ○ 中〜高 |
| 発熱(損失) | あり(I²R) | ほぼなし | なし |
| 応答速度 | ◎ 最速(ns級) | ○ 中程度 | ○ 中程度 |
| 大電流対応 | △ 発熱が課題 | ◎ 得意 | ◎ 得意 |
| サイズ | ◎ 小型 | △ やや大きい | ○ 中程度 |
🗺️ 選定フローチャート ─ 5つの質問で最適解が分かる
「結局どれを選べばいいの?」という方のために、5つの質問で最適な方式が分かるフローチャートを用意しました。
Q1: DC(直流)を測定しますか?
いいえ(ACのみ)
↓
CT が候補に入る
はい
↓
CT は使えない → Q2へ
Q2: 絶縁は必要ですか?
いいえ
↓
シャント抵抗 が有力
はい
↓
ホール素子 が有力
Q3: 電流は何A程度?
〜50A
↓
シャント抵抗 OK
50A〜数百A
↓
ホール素子 or CT
🎯 選定の結論
■ シャント抵抗:低コスト重視、〜50A、絶縁不要
■ CT:AC専用、大電流、絶縁必要
■ ホール素子:DC/AC、大電流、絶縁必要

✅ 設計チェックリスト ─ これだけは確認しよう
| ✓ | チェック項目 | 確認ポイント |
|---|---|---|
| □ | OCP閾値の設定 | 定格電流の1.2〜1.5倍が目安 |
| □ | 応答時間 | 素子の短絡耐量時間(数μs〜10μs)以内に遮断 |
| □ | ノイズ耐性 | スイッチングノイズで誤検出しないか |
| □ | 温度特性 | シャント抵抗・ホール素子の温度係数を確認 |
| □ | 配線インダクタンス | 検出点とセンサーの距離を最短に |
| □ | フィルタ回路 | 必要に応じてRCフィルタでノイズ除去 |
❓ よくある質問(FAQ)
Q1: シャント抵抗の「ハイサイド検出」と「ローサイド検出」の違いは?
ローサイド検出はGND側にシャント抵抗を入れる方式で、検出回路がGND基準になるので設計が簡単です。ハイサイド検出は電源側に入れる方式で、負荷短絡時でも検出できますが、差動アンプが必要になり回路が複雑になります。OCP用途ならハイサイド検出の方が確実に短絡を検出できます。
Q2: CTで低周波が苦手なのはなぜ?
CTは電磁誘導で動作するため、電流の変化率(dI/dt)が出力に影響します。低周波では電流変化がゆっくりなので出力電圧が小さくなり、精度が落ちます。商用50/60Hz程度なら問題ありませんが、それ以下の超低周波やDCは測定できません。
Q3: ホール素子の温度ドリフト対策は?
ホール素子は温度によって出力が変動します(温度係数:数百ppm/℃)。対策としては、(1) 温度補償回路内蔵品を選ぶ、(2) クローズドループ型を使う、(3) マイコンで温度補正をかける、などがあります。高精度が必要な用途では定期的なキャリブレーションも検討しましょう。
Q4: OCPの応答時間はどのくらい必要?
MOSFETやIGBTの短絡耐量時間が目安です。一般的なパワーMOSFETは5〜10μs程度なので、それより速く遮断する必要があります。シャント抵抗+コンパレータなら1μs以下の高速応答が可能です。ただし速すぎると突入電流で誤動作するので、ブランキング時間(1〜5μs)を入れることも多いです。

📝 まとめ ─ 3方式の使い分けをマスターしよう
🎯 この記事のポイント
① 過電流保護(OCP)は必須
→ 過電流から素子を守り、発火や故障を防ぐ「安全装置」
② 3つの検出方式を理解しよう
→ シャント抵抗(安い・高精度・発熱あり)
→ CT(絶縁あり・AC専用・損失ゼロ)
→ ホール素子(絶縁あり・DC/AC両対応・やや高価)
③ 選定のカギは「DC/AC」「絶縁」「電流値」
→ DC測定ならCTは不可 → シャント or ホール
→ 絶縁必要なら → CT or ホール
→ 大電流なら → CT or ホール
💡 設計者へのワンポイントアドバイス
迷ったら「シャント抵抗」から検討するのがおすすめです。
最もシンプルで低コスト、動作原理も分かりやすいからです。
シャント抵抗で「発熱が問題」「絶縁が必要」「DCも測りたい」という壁にぶつかったら、
CT やホール素子にステップアップしていきましょう!
📚 次に読むべき記事
OCPの設計を理解したら、次は他の保護回路や周辺回路も押さえておきましょう。
パワエレ設計の全体像が見えてきますよ!
STEP 1:保護回路の全体像を知る
【完全図解】パワエレに必要な周辺回路まとめ|スナバ回路・ゲート駆動・保護回路
OCP・OVP・UVP・OTPなど、パワエレに必要な保護回路を網羅的に解説しています。
STEP 3:ノイズの根本原因を知る
【完全図解】スイッチングノイズはなぜ発生する?|dV/dtとdI/dtを理解しよう
OCP誤動作の原因になるスイッチングノイズ。発生メカニズムを理解して対策しましょう。
🛡️ 過電流保護は「回路の命綱」
OCPがあるからこそ、安心して大電流を扱えます。
適切な検出方式を選んで、安全で信頼性の高い設計を目指しましょう!
