理論科目の解説

トランジスタ増幅回路の計算|hパラメータ等価回路で電圧増幅度を求める方法を完全図解

😣 こんな経験はありませんか?
  • hパラメータ等価回路の問題が出るたびに「捨て問」にしている
  • hie、hfe、hre、hoe…記号が多すぎて何を意味しているのかわからない
  • 「簡易等価回路」と言われても、元の回路からどう変換するのかイメージできない
  • 電圧増幅度 Av の公式を丸暗記しても、問題の形が少し変わると解けなくなる
✅ この記事でわかること
  • hパラメータ4つの意味を「ブラックボックスの入口と出口」で直感的に理解する
  • 実際の増幅回路から簡易小信号等価回路を作る「変換ルール」
  • 電圧増幅度 Av を求める「3ステップの計算テンプレート」
  • 電験三種の過去問で実際に出題されたパターンを使った計算例

トランジスタ増幅回路の計算問題は、電験三種の理論科目で2年に1回以上のペースで出題されるB問題(配点が大きい問題)の頻出テーマです。平成13年、17年、18年、21年、23年、28年、30年、令和3年と、繰り返し出題されています。

「hパラメータ」と聞くだけで身構えてしまう方が多いですが、やっていることはオームの法則の応用です。計算パターンは毎回ほぼ同じで、一度「型」を覚えてしまえば、5分で確実に得点できるボーナス問題に変わります。

この記事では、hパラメータの意味をゼロから説明し、簡易等価回路への変換手順、そして電圧増幅度の計算を実際の数値を入れながら一つひとつ丁寧に解説していきます。

hパラメータとは?|トランジスタを「ブラックボックス」として扱うための4つの数値

トランジスタは内部でPN接合やキャリアの移動が起きていますが、増幅回路の計算ではその内部構造を気にする必要はありません。代わりに、「入力側と出力側の電圧・電流の関係を4つの数値で表す」のがhパラメータです。

📦 「ブラックボックス」のイメージ

トランジスタを「中身が見えない箱」と考えてください。この箱には入力側(ベース側)出力側(コレクタ側)があり、それぞれに電圧と電流が存在します。

入力電圧
vi
入力電流
ib
📦
(エミッタ接地)
出力電圧
vo
出力電流
ic

入力側の vi, ib と出力側の vo, ic の「関係」を表すのがhパラメータ

📊 hパラメータ4つの一覧(エミッタ接地の場合)

記号 名称 定義式 ひとこと意味 単位 典型値
hie 入力インピーダンス vi / ib 入力側から見た「抵抗」 Ω 数kΩ
hfe 電流増幅率 ic / ib 入力電流を何倍にするか (なし) 100〜200
hre 電圧帰還率 vi / vo 出力→入力への逆流 (なし) ≈ 10-4
hoe 出力アドミタンス ic / vo 出力側の「漏れ」 S ≈ 10-5S
💡 hre と hoe は「ほぼゼロ」で無視してOK
上の表で灰色にした hre(電圧帰還率)と hoe(出力アドミタンス)は、値が非常に小さいため「ゼロとみなせる」のが通常です。これを無視した回路が「簡易小信号等価回路」です。

つまり、覚えるべきhパラメータは実質2つだけ
・hie(入力インピーダンス)= 入力側の「抵抗」
・hfe(電流増幅率)= ベース電流を何倍にするか
🔧 「e」の意味は「エミッタ接地」
hie の「e」は emitter(エミッタ)の頭文字です。エミッタを共通端子(接地)にした回路のパラメータであることを意味しています。ベース接地なら hib、コレクタ接地なら hic になりますが、電験三種ではほぼエミッタ接地しか出ないので「e」のものだけ覚えれば十分です。

簡易小信号等価回路の作り方|3つの変換ルールを覚えるだけ

電験三種では、問題文に「簡易小信号等価回路」が与えられることがほとんどです。しかし、なぜそう変換できるのかを理解しておかないと、問題の形が変わったときに対応できません。ここでは「実際の増幅回路」から「簡易等価回路」への変換ルールを解説します。

🔄 変換の3つのルール

ルール①|コンデンサはショート(短絡)する

結合コンデンサ(C1, C2)やバイパスコンデンサ(CE)は、交流信号に対してインピーダンスが十分小さいので、導線(ショート)として扱います。

なぜ? → コンデンサのインピーダンスは 1/(2πfC) です。増幅回路で扱う交流信号の周波数 f では、十分に大きな容量 C のコンデンサを使うため、インピーダンスが無視できるほど小さくなります。

ルール②|直流電源はショート(短絡)する

直流電源 VCC は、交流信号にとっては内部インピーダンスがゼロなので、ショートとして扱います。

なぜ? → 理想的な直流電源の交流インピーダンスはゼロです。電源の+端子と−端子は、交流的には同じ電位(=つながっている)とみなせます。

ルール③|トランジスタを hie と hfeib の電流源に置き換える

トランジスタ本体を以下の2つの部品に置き換えます:
入力側:hie(抵抗)= ベース−エミッタ間の抵抗
出力側:hfe・ib(電流源)= ベース電流の hfe 倍の電流を流す電流源

これが「簡易」の核心です。hre と hoe を無視することで、トランジスタが「入力側の抵抗」と「出力側の電流源」だけのシンプルな部品になります。

📐 簡易小信号等価回路の完成形

エミッタ接地 簡易小信号等価回路

【入力側】
vi = hie × ib
hie (抵抗)
【トランジスタの役割】
ベース電流 ib
hfe
に増幅して出力
【出力側】
ic = hfe × ib
RL' (負荷の合成抵抗)
vo = ic × RL'
⚠️ 出力側の合成抵抗 RL' に注意
出力側にコレクタ抵抗 RC と負荷抵抗 RL の両方がある場合、ルール②で VCC をショートすると RC と RL並列接続になります。このときの合成抵抗が RL' です。

RL' = RC × RL / (RC + RL)

RL が存在しない(コレクタ抵抗のみの)場合は RL' = RC です。問題文をよく読んで、どの抵抗が出力側にあるかを確認しましょう。
📘 関連記事
トランジスタの動作原理│hFE(電流増幅率)と接地方式 →

トランジスタの基本動作やエミッタ接地の意味を復習したい方はこちら。

電圧増幅度 Av の公式を「導出」する|丸暗記不要の3ステップ

ここからが本題です。簡易小信号等価回路を使って、電圧増幅度 Av(=入力電圧に対して出力電圧が何倍になるか)を求めます。暗記ではなく、オームの法則を3回使うだけで公式が導けます。

🧮 3ステップで電圧増幅度を求める

STEP 1|入力側にオームの法則を適用

入力電圧 vi は、ベース電流 ib が入力インピーダンス hie を流れることで生じる電圧降下です。

vi = hie × ib (入力電圧 = 入力インピーダンス × ベース電流)

この式を変形すると:ib = vi / hie

STEP 2|電流増幅率で出力電流を求める

トランジスタは、ベース電流 ib を hfe 倍に増幅してコレクタ電流 ic として出力します。

ic = hfe × ib (出力電流 = 電流増幅率 × ベース電流)
STEP 3|出力側にオームの法則を適用

出力電圧 vo は、コレクタ電流 ic が負荷の合成抵抗 RL' を流れることで生じる電圧降下です。

vo = ic × RL' (出力電圧 = コレクタ電流 × 負荷の合成抵抗)

📐 3ステップを組み合わせて公式を導出

電圧増幅度 Av の定義は「出力電圧 ÷ 入力電圧」です。上の3ステップの式を代入していきます。

Av = |vo / vi|

  = |ic × RL' / vi|   ←STEP 3 を代入

  = |hfe × ib × RL' / vi|  ←STEP 2 を代入

  = |hfe × (vi/hie) × RL' / vi| ←STEP 1 を代入

  = |hfe × RL' / hie|  ← vi が約分で消える!

📐 電圧増幅度の公式(これが最終形)

Av = hfe × RL' / hie

電圧増幅度 = 電流増幅率 × 出力側の合成抵抗 ÷ 入力インピーダンス

💡 この公式の本質
分子の hfe × RL' は「出力電圧を大きくする要素」(電流を増幅して大きな抵抗に流す)。
分母の hie は「入力電圧を大きくする要素」(入力インピーダンスが大きいほど、少ない電流で大きな入力電圧になる)。

つまり、hfe が大きいほど、RL' が大きいほど、hie が小さいほど、増幅度は上がる――直感的にも理にかなっていますよね。

計算例①|基本パターン(平成17年 問12ベース)

実際に数値を入れて計算してみましょう。電験三種で最もオーソドックスな出題パターンです。

例題:電圧増幅度を求めよ

エミッタ接地の簡易小信号等価回路で、以下の値が与えられている。電圧増幅度 Av を求めよ。

電流増幅率 hfe 140
入力インピーダンス hie 2.30 kΩ(= 2300 Ω)
負荷抵抗 RL 1.97 kΩ(= 1970 Ω)

✍️ 解答手順

STEP 1|公式を書く
  Av = hfe × RL / hie

STEP 2|数値を代入する
  Av = 140 × 1970 / 2300

STEP 3|計算する
  Av = 275,800 / 2300
  Av120

💡 「逆パターン」にも対応しよう
電験三種では「Av=120 のとき、RL はいくらか?」のように逆算させる問題も出ます。その場合は同じ公式を変形するだけです:

RL = Av × hie / hfe = 120 × 2300 / 140 ≈ 1970 Ω = 1.97 kΩ

公式が「導出」できていれば、どの変数を聞かれても怖くありません。

計算例②|合成抵抗+デシベル(dB)の応用パターン

次に、少し応用的なパターンを見てみましょう。出力側に複数の抵抗がある場合や、電圧利得がdB(デシベル)で与えられるケースです。

例題(平成28年 問13ベース)

エミッタ接地トランジスタ増幅回路の簡易小信号等価回路で、RC と RL の合成抵抗 RL' = 1 kΩ、電圧利得が 40 dB、入力電圧 vi = 10 mV、hfe = 100 のとき、ベース電流 ib [μA] を求めよ。

✍️ 解答手順

STEP 0|dBを倍率に変換する
  電圧利得 Gv = 20 log10 Av = 40 dB
  log10 Av = 40 / 20 = 2
  Av = 102 = 100

STEP 1|出力電圧を求める
  Av = vo / vi より
  vo = Av × vi = 100 × 10 × 10-3 = 1.0 V

STEP 2|コレクタ電流を求める
  vo = ic × RL' より
  ic = vo / RL' = 1.0 / (1 × 103) = 1.0 × 10-3 A = 1.0 mA

STEP 3|ベース電流を求める
  ic = hfe × ib より
  ib = ic / hfe = 1.0 × 10-3 / 100 = 1.0 × 10-5 A = 10 μA

📐 dBの変換公式(電圧の場合)

Gv [dB] = 20 log10 Av
20 dB → Av = 10倍 / 40 dB → Av = 100倍 / 60 dB → Av = 1000倍
⚠️ dBが出たら、まず倍率に変換する
電験三種でdBが出題された場合、最初にAvの実数値に変換してしまうのがコツです。40dBなら100倍、20dBなら10倍。この変換さえできれば、あとはいつもの計算と同じです。

計算例③|電流帰還バイアス回路からの等価回路変換

電験三種のB問題では、「実際の増幅回路」が与えられて、自分で等価回路に変換してから計算するパターンも出題されます(平成18年 問18、平成23年 問18など)。この場合も、変換ルールを適用するだけです。

🔄 電流帰還バイアス回路の変換手順

📋
STEP 1
コンデンサを
全部ショート
STEP 2
VCC
ショート
🔧
STEP 3
合成抵抗を
計算
📐
STEP 4
Av
公式に代入

例題(平成18年 問18ベース)

電流帰還バイアス回路で RA = 100 kΩ, RB = 25 kΩ, RC = 8 kΩ, RL = 15 kΩ, hie = 6 kΩ, hfe = 140 のとき、電圧増幅度を求めよ。

STEP 1〜2|コンデンサとVCCをショートして交流等価回路にする

STEP 3|合成抵抗を計算する
  入力側:RA と RB が並列(VCCショートで上端がつながる)
  R1 = RA × RB / (RA + RB) = 100 × 25 / (100 + 25) = 20 kΩ

  出力側:RC と RL が並列(VCCショートで上端がつながる)
  RL' = RC × RL / (RC + RL) = 8 × 15 / (8 + 15) = 120/23 ≈ 5.22 kΩ

STEP 4|公式に代入
  Av = hfe × RL' / hie
  Av = 140 × 5.22 × 103 / (6 × 103)
  Av122

🔧 現場の感覚:合成抵抗の計算が勝負
このパターンの問題で最も差がつくのは、「どの抵抗が並列になるか」を正確に見抜けるかです。コツは「VCCをショートすると、回路のどこがつながるか」を図に書き込むことです。VCCの+端子とGND(マイナス端子)が導線でつながるので、RCの上端とRLの上端が同じ点になることがわかります。

FET版の増幅回路も同じ考え方で解ける

令和3年 問13では、FET(電界効果トランジスタ)のソース接地増幅回路の電圧増幅度が出題されました。FETの等価回路も、BJTと考え方は全く同じです。変わるのは記号と名前だけです。

📊 BJT(エミッタ接地)とFET(ソース接地)の対応表

要素 BJT(エミッタ接地) FET(ソース接地)
制御端子 ベース (B) ゲート (G)
出力端子 コレクタ (C) ドレーン (D)
接地端子 エミッタ (E) ソース (S)
入力側のパラメータ hie(入力インピーダンス) (入力Z ≈ ∞で無視)
増幅係数 hfe × ib(電流源) gm × vgs(電流源)
電圧増幅度の公式 Av = hfe × RL' / hie Av = gm × RL'
💡 FETの等価回路はむしろ「簡単」
FETは電圧制御素子なので、入力側にほぼ電流が流れません(入力インピーダンス ≈ ∞)。そのため入力側の hie に相当する部分がなくなり、Av = gm × RL'だけで計算できます。gm(相互コンダクタンス)は問題文で与えられるので、そのまま掛け算するだけです。
📘 関連記事
【電験三種・理論】FET(電界効果トランジスタ)の種類と動作原理|接合形・MOS形の違いを完全図解 →

FETの動作原理やBJTとの違いを詳しく知りたい方はこちら。

電験三種の出題パターン4つと「解法テンプレート」

トランジスタ増幅回路の問題は、毎回形は違ってもやることは同じです。過去問を分析すると、出題パターンは以下の4つに集約されます。

📋 4つの出題パターン

パターン①|Av を求める
hfe, hie, RL' が与えられ、電圧増幅度を計算する。
→ 公式に代入するだけ。最も基本のパターン。
パターン②|RL や hie を逆算する
Av が与えられ、抵抗値やインピーダンスを求める。
→ 公式を変形するだけ。RL = Av × hie / hfe
パターン③|実回路からの等価回路変換
電流帰還バイアス回路が与えられ、R1, R2(合成抵抗)を求めた上で Av を計算。
→ 変換ルール3つを適用してから、パターン①と同じ計算。
パターン④|dB(デシベル)が絡む
電圧利得がdBで与えられ、倍率に変換してから各値を求める。
→ まず Gv[dB] = 20 log Av で倍率に変換。あとはパターン①or②。
📐 解法テンプレート(全パターン共通)

❶ dBが出たら → 倍率に変換(20dB=10倍, 40dB=100倍)
❷ 合成抵抗を計算(RCとRLが並列 → RL' = RCRL/(RC+RL))
❸ Av = hfe × RL' / hie に代入
❹ 求められている値について式を変形して答える

この記事のまとめ

💡 覚えるべきポイントの整理

① hパラメータで重要なのは hie(入力インピーダンス)hfe(電流増幅率)の2つだけ
② hre と hoe は「ほぼゼロ」なので無視 → これが「簡易」等価回路
③ 等価回路への変換ルール:コンデンサはショート、VCCはショート、トランジスタは hie + hfeib に置換
④ 電圧増幅度の公式:Av = hfe × RL' / hie
⑤ この公式はオームの法則を3回使うだけで導出できる(丸暗記不要)
⑥ 出力側の合成抵抗 RL' の計算(並列合成)が最も差がつくポイント
⑦ FETの場合は Av = gm × RL' でさらにシンプル

トランジスタ増幅回路の計算問題は、一見すると難しそうに見えますが、やっていることは「オームの法則を3回使って、入力と出力の電圧の比を求める」だけです。この記事の3ステップの計算テンプレートを身につければ、どの出題パターンが来ても対応できます。

B問題は配点が大きいため、この1問を確実に得点できるかどうかが合否を分けます。過去問で3〜5回練習すれば、本番で「見た瞬間に解法がわかる」状態になるはずです。ぜひ手を動かして練習してみてください。

📚 次に読むべき記事

📘 トランジスタの動作原理│hFE(電流増幅率)と接地方式 →

BJTの基本動作や3つの接地方式を復習。増幅回路の前提知識を固めたい方に。

📗 【電験三種・理論】FET(電界効果トランジスタ)の種類と動作原理 →

FETの分類・動作原理・BJTとの違い。ソース接地増幅回路の前提知識に。

📙 【電験三種】オペアンプの基礎を完全攻略│反転・非反転増幅回路の計算 →

トランジスタ増幅回路をさらに発展させた「オペアンプ」の増幅回路。こちらも頻出です。

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等価回路の計算が「難しい」と感じるのは、あなたの能力の問題ではありません。参考書の説明が端折りすぎているだけです。「なぜこの式になるのか」を一度理解すれば、二度と忘れない知識になります。電験三種は、そうやって地道に積み上げた人が合格する試験です。

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