- 「ブラシレスDCモータ」という単語は知っているが、「ブラシ付きと何が違うか」を説明できない
- 電験三種の過去問で「ブラシレスDCモータの整流はどのように行うか」と問われて手が止まった
- ホール素子が出てきた瞬間に「また知らない部品が…」と頭が真っ白になる
- 従来の直流電動機(ブラシ付き)との構造の違い
- 「整流子+ブラシ」が「ホール素子+インバータ」に置き換わった理由
- BLDCモータが同期電動機に近い理由
- 試験頻出の「なぜブラシレスが増えているか」の答え
電験三種の令和元年(R01)・令和3年(R03)の機械科目で出題されたブラシレスDCモータ。EV(電気自動車)・ドローン・エアコンのコンプレッサなど、身近な製品に使われているモータです。「直流機のシリーズが終わった」と思ったら出てきたこの問題、整理してしまいましょう。
目次
まず「ブラシ付きDCモータの弱点」から理解する
ブラシレスDCモータが「なぜ生まれたか」を理解するには、従来のブラシ付きDCモータが抱えていた問題点から入るのが最速です。
従来DC電動機の整流子+ブラシの仕組み
従来の直流電動機は、ロータ(回転子)に巻線コイルがあります。回転しながら電流の向きを切り替えるために整流子(コンミュテータ)とブラシが必要です。
ブラシ付きの3つの問題点
ブラシが整流子に接触しながら回転するため、徐々に摩耗する。定期的な交換が必要。
ブラシと整流子の接触部で火花が発生。電磁ノイズの原因になり、精密機器の近くでは使いにくい。
ブラシ接触抵抗による電圧降下・発熱。高速回転域での限界(遠心力でブラシが浮く)。
この3つの問題を「機械的な接触部をなくす」ことで解決しようとしたのがブラシレスDCモータです。整流子とブラシをインバータ(電子的なスイッチング)に置き換えた、いわばDCモータの進化形です。
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ブラシレスDCモータの構造:4つの主要部品
ブラシレスDCモータは、従来DCモータとロータとステータが逆転しています。ロータに永久磁石、ステータに巻線コイルが配置されます。
ネオジム磁石などの高性能な永久磁石を使用。コイルがないためロータが軽く、高速回転が得意。ブラシ付きと異なり、ロータに電流を流す必要がない(スリップリング不要)。
U・V・W相の三相コイルが配置される。インバータからの三相電流によって回転磁界を作り、ロータの永久磁石を引き寄せて回転させる。
ロータの永久磁石のN極・S極の位置を磁気的に検出するセンサ。「今ロータはどの角度にいるか」をリアルタイムでインバータに送信する。整流子の代わりを果たす「目」の役割。
MOSFETやIGBTを使った三相インバータ。ホール素子の信号に基づき、U・V・W各相への電流の切り替えタイミングを制御する。整流子+ブラシを電子的に置き換えた「手」の役割。
「ホール素子の役割は?」→ ロータの磁極位置の検出。「ブラシレスDCモータの電流切り替えは何で行うか?」→ インバータ(電子的整流)。この2問は過去問でそのまま出ています。

動作原理:「ホール素子→インバータ→回転」のサイクル
BLDCモータが回転する仕組みを、順番に追ってみます。
ステータに埋め込まれたホール素子(3個)が、ロータ永久磁石のN・S極の位置を磁気センシング。「今ロータのN極は何時の方向にある」という信号をデジタルで出力(0/1の組み合わせ)。
ホール素子の信号を受けたマイコンが、インバータのMOSFET/IGBTを適切にON/OFF。U・V・W相のうち、ロータを引き寄せる方向に電流が流れる相を選択して通電する(6通りの通電パターンを切り替え)。
通電された相のコイルが磁界を作り、ロータの永久磁石を「引き寄せる」方向に力が働く。ロータが少し回転する。
ロータが回転すると、ホール素子が新しい位置を検出→インバータが次の通電パターンに切り替え→さらに回転。このサイクルが毎秒何百〜何千回と繰り返されることで連続回転する。
BLDCモータの制御は、工場の自動搬送ラインに似ています。ラインセンサ(ホール素子)がワークの位置を検出 → PLCが次の工程に信号を送る(マイコン+インバータ)→ アクチュエータが動く(コイルに電流が流れロータが回転)。この「センシング→判断→駆動」のサイクルが連続して動いているわけです。
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BLDCモータは「直流機」ではなく「同期電動機」に近い
名前に「DC」が入っているため直流機と思いがちですが、BLDCモータは動作原理上は永久磁石同期電動機(PMSM)と同じです。この区別は試験でもよく問われます。
従来の直流電動機(ブラシ付き)
- ロータ:巻線コイル(電流が流れる)
- ステータ:永久磁石または界磁コイル
- 整流:整流子+ブラシ(機械的)
- 電源:直流(そのまま供給)
BLDCモータ
- ロータ:永久磁石(電流なし)
- ステータ:三相巻線コイル
- 整流:インバータ+ホール素子(電子的)
- 電源:直流→インバータで疑似交流に変換
永久磁石同期電動機(PMSM)
- ロータ:永久磁石(電流なし)
- ステータ:三相巻線コイル
- 整流:なし(交流電源から直接)
- 電源:三相交流(またはインバータ制御)
BLDCとPMSMは構造上ほぼ同じです。違いは制御方式にあります。BLDCはホール素子による矩形波(方形波)制御、PMSMはベクトル制御(正弦波)が一般的です。試験では「BLDCモータは永久磁石同期電動機の一種」と押さえておけば対応できます。
「Direct Current(直流)」とついていますが、モータ自体は直流で動いているわけではありません。直流電源をインバータが疑似的な交流(矩形波)に変換してステータコイルに供給しています。「電源が直流」なのでBLDC(Brushless DC)と呼ぶのです。

ブラシ付き vs ブラシレス:完全比較表
試験では「どちらが優れているか」ではなく「どちらがどの特性か」を問う問題が出ます。この表を頭に入れておきましょう。
| 比較項目 | ブラシ付きDCモータ | ブラシレスDCモータ |
|---|---|---|
| 整流方法 | 機械的(整流子+ブラシ) | 電子的(インバータ+ホール素子) |
| ロータの構造 | 巻線コイル(重い) | 永久磁石(軽い) |
| メンテナンス | ❌ ブラシ定期交換が必要 | ✅ メンテナンスフリー |
| 効率 | ❌ ブラシ損失あり・やや低い | ✅ 高効率 |
| 電磁ノイズ | ❌ 火花による高ノイズ | ✅ 低ノイズ |
| 高速回転 | ❌ ブラシが追従できず限界あり | ✅ 高速回転に強い |
| 速度制御の複雑さ | ✅ 比較的シンプル(V制御) | ❌ インバータ制御が必要(複雑) |
| コスト | ✅ 安価 | ❌ インバータ分コスト高(ただし低下中) |
| 主な用途 | 玩具・小型電動工具・旧来の工場設備 | EV・エアコン・ドローン・HDD・電動アシスト自転車 |

なぜ今、BLDCモータが急増しているか
「ブラシレスの方が優れているなら、なぜ昔から使われていなかったのか」という疑問が生まれます。答えは「技術的には可能だったが、コストが高すぎた」からです。
インバータを構成するMOSFETやIGBTは、1990年代まで非常に高価でした。現在は大量生産・製造技術の進歩により劇的に低価格化。小型家電にも搭載できるコストになりました。
1980年代に発明されたネオジム磁石(Nd-Fe-B)の量産化により、小型で強力なロータが作れるようになりました。モータの小型化・高出力化が一気に進んだ主因の一つです。
ホール素子の信号処理・インバータのスイッチング制御には高速な演算が必要です。現代の安価なマイコン(MCU)はこれを容易に実現できます。品質保証部のPLCやシーケンサが進化したのと同じ流れです。
EVのトラクションモータには高効率・高出力密度・メンテナンスフリーが必須。省エネ規制(インバータエアコン義務化など)もBLDCの普及を後押しし、製造ラインでの採用も急増しています。
愛知県の自動車部品メーカーで働いているなら、EVシフトの影響は身近なはずです。EV向け部品の品質基準が変わってきているとすれば、そのモータはほぼ確実にBLDC(またはPMSM)。試験の知識が現場の「なぜ」につながる瞬間です。

試験頻出の問われ方パターン(R01・R03出題ベース)
「ブラシレスDCモータでは、( )の信号をもとに( )が電流の切り替えを行う」
→ ホール素子(位置センサ) / インバータ
「ブラシレスDCモータのロータには( )が使われ、ステータには( )が配置される」
→ 永久磁石 / 三相巻線コイル
| 「ブラシレスDCモータは整流子を持たないため、メンテナンスが不要である」 | ✅ 正 | ブラシ摩耗がなく原則メンテフリー |
| 「ブラシレスDCモータは直流をそのままコイルに供給する」 | ❌ 誤 | インバータで疑似交流(矩形波)に変換してから供給 |
| 「BLDCモータは構造的に永久磁石同期電動機(PMSM)に近い」 | ✅ 正 | ロータ永久磁石+ステータ三相コイルの構造が同じ |
| 「ブラシレスDCモータはブラシ付きより速度制御が簡単」 | ❌ 誤 | インバータ+位置センサ制御が必要で複雑。ブラシ付きの方がシンプル |
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BLDCを理解するために知っておくべきパワエレの知識
BLDCモータの「心臓部」はインバータです。インバータを構成するパワー半導体素子の知識があると、試験の選択肢で迷わなくなります。
BLDCモータの三相インバータに使われる高速スイッチング素子。低電圧・小型モータに多い。ゲート電圧でON/OFFを制御。
EVや産業用の大型BLDCインバータに使われる大電力スイッチング素子。MOSFETよりも高電圧・大電流に対応。
インバータはパワーエレクトロニクスの応用分野のひとつ。直流→交流変換(逆変換)の仕組みを体系的に理解できる。
三相インバータは6個のスイッチング素子(上下各3個)で構成されます。U・V・W各相の上側と下側のスイッチを交互にON/OFFすることで、直流電圧から三相の疑似交流を生成。BLDCモータでは、ホール素子の信号に応じてこの6個のスイッチの組み合わせを変えることで「電子的な整流」を実現します。

まとめ:「整流子をなくす」ためにホール素子とインバータが生まれた
| BLDCとは | 整流子+ブラシを廃止し、インバータ+ホール素子で電子的に整流するDCモータ |
| ロータ | 永久磁石(ネオジム磁石等)。コイルなし・軽量・高速回転に強い |
| ステータ | 三相巻線コイル。インバータからの電流で回転磁界を作る |
| ホール素子 | ロータの磁極位置を検出。整流子の代わりとなる「目」 |
| インバータ | ホール素子信号に基づきMOSFET/IGBTをON/OFF。ブラシの代わりとなる「手」 |
| 同期機との関係 | 構造は永久磁石同期電動機(PMSM)に近い。「DC」の名は電源が直流だから |
| 普及した理由 | パワー半導体の低価格化・ネオジム磁石の普及・マイコン制御の容易化・EV/省エネ需要 |
直流機シリーズの締めくくりとして、BLDCモータを整理しました。試験では「ホール素子の役割」「インバータによる電子整流」「ブラシ付きとの比較」の3点を押さえておけば対応できます。次はパワエレ(インバータ・チョッパ)の記事で、BLDCを動かす電力変換の仕組みを深掘りしてみましょう。
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