熱設計

損失=発熱|パワー半導体の発熱量を見積もる完全ガイド

😣 こんな経験はありませんか?
  • 「このMOSFETの発熱、何Wになる?」と聞かれて答えに詰まった
  • データシートの「Power Dissipation」の意味がよくわからない
  • 導通損失とスイッチング損失、どっちが支配的なのか判断できない
  • 「損失を減らせば発熱が減る」のは知っているが、計算方法が曖昧
✅ この記事でわかること
  • 「損失=発熱」が成り立つ物理的な理由
  • パワー半導体の発熱量をざっくり見積もる計算手順
  • 「損失を減らす」と「熱を逃がす」のどちらを選ぶべきか

前回の記事で、熱設計は「発熱→伝熱→放熱」の3ステップで考えるとお話ししました。今回はその最初のステップ、「発熱」を深掘りします。

結論を先に言います。パワー半導体の発熱量は、ほぼ100%「損失」と同じです。つまり「何Wの損失が出ているか」を計算できれば、「何Wの熱が出ているか」がそのままわかるのです。

なぜ「損失=発熱」なのか?|エネルギー保存の法則

「損失」と「発熱」が同じものだと聞くと、最初は違和感があるかもしれません。でも、これはエネルギー保存の法則そのものなのです。

入ったエネルギーは、必ずどこかへ出ていく

電源からパワー半導体に100Wの電気エネルギーを入れたとします。このうち95Wが負荷(モーター・LED・電池など)に届いたとすると、残りの5Wはどこへ行ったのでしょうか?

入力
100W
🔌
負荷へ
95W
+
🔥
熱に変わる
5W

答えは「すべて熱になった」です。エネルギーは消えません。電気エネルギーが負荷で使われずに残った分は、100%熱エネルギーに変換されるのです。

📐 重要な等式
損失[W] = 発熱量[W]
パワー半導体で発生する損失は、すべて熱に変わる
🔧 現場の声
効率95%の電源は「優秀」に聞こえますが、出力1kW(1000W)の電源なら50Wが熱になる計算です。50Wというのは、白熱電球1個分。これを冷やせる設計になっているか?が熱設計の出発点です。

パワー半導体の損失は「2種類」しかない

MOSFETやIGBTなどのパワー半導体で発生する損失は、大きく分けてたった2種類です。

🟢

① 導通損失

ON状態で流れる電流による損失

  • 電流が大きいほど増える
  • P = I² × RDS(on)(MOSFET)
  • P = VCE(sat) × I(IGBT)

② スイッチング損失

ON/OFFの切替時に発生する損失

  • 周波数が高いほど増える
  • ターンオン損失 + ターンオフ損失
  • P = (Eon + Eoff) × fsw

どちらが支配的かで設計戦略が変わる

条件 支配的な損失 対策
低周波・大電流
(〜数kHz)
導通損失 RDS(on)の小さい素子を選ぶ
高周波・小電流
(数十kHz〜)
スイッチング損失 スイッチング速度の速い素子を選ぶ
💡 ポイント
「とりあえず低オン抵抗の素子を選ぶ」は危険です。スイッチング周波数が高いと、低オン抵抗でも結局スイッチング損失で熱くなることがあります。動作条件で支配項を見極めるのが第一歩です。

導通損失の計算|「I²R」だけ覚えればOK

導通損失は、ON状態のパワー半導体に電流が流れるときに発生する損失です。MOSFETの場合、計算式は中学レベルの掛け算です。

📐 MOSFETの導通損失
Pcond = ID² × RDS(on) × D
・ID:ドレイン電流[A]
・RDS(on):オン抵抗[Ω](データシートから取得)
・D:デューティ比(ON時間の割合、0〜1)

計算例:DC-DCコンバータのMOSFET

こんな条件で計算してみます。

ドレイン電流 ID 10A
オン抵抗 RDS(on) 20mΩ(= 0.02Ω)
デューティ比 D 0.5(50%)
📝 計算過程

Pcond = 10² × 0.02 × 0.5
   = 100 × 0.02 × 0.5
   = 1.0 W

⚠️ RDS(on)は温度で変わる
データシートの「25℃」値をそのまま使うのは危険です。RDS(on)はジャンクション温度125℃では1.5〜2倍になります。実使用温度での値で計算してください。
🔧 現場の声
電流が2倍になると、導通損失は4倍(電流の2乗)に跳ね上がります。だから「電流定格を半分に抑える設計」は熱設計上きわめて効果的です。これがディレーティングの根拠の一つでもあります。

スイッチング損失の計算|「ON/OFFの瞬間」に注目

スイッチング損失は、MOSFETがON/OFFする切替の瞬間に発生する損失です。なぜ瞬間的に損失が出るのか?図で見てみましょう。

スイッチング波形のイメージ

ターンオンの瞬間:電圧Vがまだ高いうちに電流Iが流れ始める → V × I が大きくなる時間がある

OFF
V=高
I=0
損失=0
切替中
V=中
I=中
損失=最大
ON
V=低
I=高
損失=小

この「切替中」が一瞬で終わればいいのですが、実際は数十〜数百ナノ秒かかります。これを1秒間に何万回繰り返すと、無視できない発熱になるのです。

📐 スイッチング損失の式
Psw = (Eon + Eoff) × fsw
・Eon:ターンオン1回のエネルギー損失[J]
・Eoff:ターンオフ1回のエネルギー損失[J]
・fsw:スイッチング周波数[Hz]

計算例:100kHzで動かすMOSFET

Eon(データシートより) 30 µJ
Eoff(データシートより) 20 µJ
スイッチング周波数 fsw 100kHz(= 100,000Hz)
📝 計算過程

Psw = (30 + 20) × 10⁻⁶ × 100,000
   = 50 × 10⁻⁶ × 100,000
   = 5.0 W

⚠️ 周波数を上げると損失も比例して増える
100kHz → 200kHzにすると、スイッチング損失はそのまま2倍になります。「高周波化で部品を小さくしたい」気持ちと「発熱を抑えたい」気持ちは、いつも綱引きの関係なのです。

合計発熱量を見積もる|実例で全体像をつかむ

導通損失とスイッチング損失を足し合わせると、そのMOSFETの合計発熱量が出ます。先ほどの2つの計算例を合算してみましょう。

導通損失
1.0 W
+
スイッチング損失
5.0 W
=
合計発熱量
6.0 W

このMOSFET 1個から6Wの熱が出る、ということがわかりました。これがそのまま「STEP1:発熱」の答えです。あとはこの熱を、許容温度に収まるように逃がす設計(STEP2・3)を考えればいいのです。

この例から学べること

💡 気づき
この例では、スイッチング損失が導通損失の5倍もあります。つまりこのMOSFETの発熱は、ほぼスイッチング損失で決まっているのです。
もし周波数を50kHzに下げれば、スイッチング損失は2.5Wに半減し、合計発熱は3.5Wになります。「周波数を下げる」だけで発熱が4割減る──これが損失計算の威力です。
🔧 現場の声
私が現場で見てきた中で、新人がやりがちな失敗は「データシートのRDS(on)だけ見て素子を選ぶ」こと。スイッチング損失を計算しないので、いざ動かすと「想定の3倍熱い」となり、ヒートシンクが間に合わない。必ず両方計算する、これが鉄則です。

「損失を減らす」vs「熱を逃がす」|どちらを選ぶ?

発熱量がわかったら、次は対策です。でも対策には2つの方向性があります。

📉

A. 損失を減らす

「そもそも熱を出さない」アプローチ

  • 低オン抵抗の素子を選ぶ
  • スイッチング周波数を下げる
  • SiC・GaNなど高効率素子を採用
  • ソフトスイッチング技術を導入
💨

B. 熱を逃がす

「出た熱を素早く外へ」アプローチ

  • 大きなヒートシンクを付ける
  • ファンで強制空冷する
  • サーマルビアで基板から放熱
  • 水冷・液冷システムを採用

どちらを優先すべきか?判断基準

状況 推奨アプローチ 理由
小型化が最優先
(モバイル機器)
A. 損失を減らす 大型ヒートシンクが入らない
コスト最優先
(民生品・大量生産)
B. 熱を逃がす 高効率素子は高価
高効率が最優先
(EV・産業用電源)
A. 損失を減らす エネルギーロス自体が問題
高温環境
(車載エンジンルーム)
A + B 両方 放熱だけでは足りない
💡 設計の鉄則
どちらが正解、ではありません。「制約条件(サイズ・コスト・効率・環境温度)の中で、両方をバランスさせる」のが熱設計の腕の見せどころです。
ただし、原則として「まず損失を減らす努力をしてから、放熱で残りを処理する」のが王道です。冷やす設計は最終手段と心得てください。

損失計算でやりがちな3つのミス

ミス①:常温の値で計算する

データシートの「Typical」値は通常25℃の値です。実際のジャンクション温度は100〜150℃で動くため、RDS(on)は1.5〜2倍になります。常温値で計算すると、発熱量を大きく見積もり違えます。

ミス②:スイッチング損失を無視する

「導通損失だけで計算した」というケースは新人エンジニアに多い失敗です。先ほどの例のように、スイッチング損失が支配的になることは珍しくありません。必ず両方計算する習慣をつけましょう。

ミス③:実効値ではなくピーク値を使う

PWM制御などでは電流が時間的に変動します。導通損失の計算ではRMS(実効値)を使うのが正しく、ピーク値を使うと損失を過大評価します。波形に応じた実効値の計算が必要です。

🔧 現場の声
私自身、新人時代に①と②をやらかしました。「計算では3Wなのに、実機が80℃を超える…」と先輩に泣きついたら「データシートの125℃の値で計算し直してみろ」と言われ、計算してみたら8Wだった、という苦い経験があります。データシートの温度依存グラフを必ず見てください。

まとめ|損失を制する者が熱設計を制す

📌 この記事の要点
  • 損失=発熱 エネルギー保存の法則により、損失は100%熱になる
  • パワー半導体の損失は2種類 導通損失とスイッチング損失
  • 導通損失 P = I² × RDS(on) × D(電流の2乗に比例)
  • スイッチング損失 P = (Eon + Eoff) × fsw(周波数に比例)
  • 対策の方向性は2つ 「損失を減らす」と「熱を逃がす」をバランスさせる
  • 原則は「まず損失を減らす」 冷やす設計は最終手段

損失計算は熱設計の出発点です。ここで見積もりを誤ると、その後のヒートシンク選定もシミュレーションも全て崩れます。逆に言えば、損失を正しく計算できれば熱設計の半分は終わったようなものです。

次のステップでは、この発熱量を「どう外へ逃がすか」(熱抵抗の世界)に進みます。

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