- ヒートシンクのカタログを開いたら、グラフが何本も載っていて読み方がわからない
- 「Rth(s-a) = 1.5℃/W」と書いてあるが、本当にこの値で計算していいのか不安
- 横軸が「W」だったり「m/s」だったり、グラフごとに違って混乱する
- 「自然空冷時」と「強制空冷時」のどちらの値を使えばいいのか判断できない
- ヒートシンクのデータシートに載っている2種類のグラフの読み方
- 自然空冷と強制空冷で熱抵抗がどう変わるか
- 風速・発熱量・温度上昇などの軸の意味と使い分け
ヒートシンクのデータシートを開いたとき、最初に目に飛び込んでくるのが「熱抵抗のグラフ」です。曲線が何本も描かれていて、横軸も縦軸も見たことがない単位。「これ、どう読めばいいの?」と固まってしまった経験は誰にでもあるはずです。
結論を先に言います。ヒートシンクのグラフは大きく分けて「温度上昇 vs 発熱量」と「熱抵抗 vs 風速」の2種類です。前者は自然空冷、後者は強制空冷の判定に使います。この2つの読み方さえ覚えれば、どんなメーカーのカタログも読み解けるようになります。
【入門】ヒートシンクとは?|なぜ「フィン」があると冷えるのか →
目次
ヒートシンクのデータシートに載っている「2種類のグラフ」
ヒートシンクのデータシートには、ほぼ必ず2種類のグラフが載っています。それぞれ、想定する冷却方式が違います。
グラフ①
温度上昇 vs 発熱量
縦軸:温度上昇 ΔT [℃]
横軸:発熱量 P [W]
用途:自然空冷の判定
グラフ②
熱抵抗 vs 風速
縦軸:熱抵抗 Rth [℃/W]
横軸:風速 [m/s]
用途:強制空冷の判定
なぜ表記が2種類あるのか
自然空冷と強制空冷では、熱抵抗を決める「主な要因」が違うからです。
- 自然空冷:風の流れが弱いため、ヒートシンク自身の温度が上がるほど対流が促進される。つまり「発熱量」と「温度上昇」がメインパラメータ。
- 強制空冷:ファンの風速で熱抵抗が決まる。風速が上がるほど熱が空気に渡されやすくなる。「風速」がメインパラメータ。
2つのグラフは「使い分け」です。設計する機器が自然空冷か強制空冷かで、見るべきグラフが決まります。両方を比較する場面はあまりありません。

グラフ①|「温度上昇 vs 発熱量」の読み方(自然空冷)
自然空冷ヒートシンクのデータシートで最もよく見る形式が、「縦軸:温度上昇 ΔT、横軸:発熱量 P」のグラフです。発熱量が増えるほど、ヒートシンクの温度が上昇していく様子を表しています。
グラフから熱抵抗を読み取る方法
このグラフは曲線(または直線)で表されますが、その「傾き」がそのまま熱抵抗 Rth(s-a)になります。
Rth(s-a) = ΔT / P
グラフの傾きそのもの
読み取り手順(3ステップ)
横軸で発熱量Pを探す
あなたの設計上の発熱量(例:20W)を横軸で見つける。
縦軸で温度上昇ΔTを読み取る
グラフの曲線と垂直に交わる点で、対応する温度上昇を読み取る(例:30℃)。
Rth(s-a)を計算
Rth(s-a) = ΔT / P = 30 / 20 = 1.5℃/W
なぜ曲線になるのか(直線ではない理由)
注目すべきは、このグラフが完全な直線ではなく、わずかに曲がった形になることです。発熱量が増えるほど傾き(=熱抵抗)が小さくなっていきます。
理由は、ヒートシンク自身の温度が上がると、自然対流と熱放射の両方が強まるから。温度差が大きいほど熱が逃げやすくなり、効率が上がります。つまり、自然空冷の熱抵抗は「一定値」ではなく、使用条件によって変動するのです。
「データシートにRth(s-a) = 1.5℃/Wと書いてあるじゃないか」と思うかもしれません。しかしそれは「特定の発熱量での代表値」であり、実際は発熱量によって変わります。設計時は必ずグラフから自分の使用条件で読み取りましょう。

グラフ②|「熱抵抗 vs 風速」の読み方(強制空冷)
強制空冷を想定するヒートシンクでは、「縦軸:熱抵抗 Rth(s-a)、横軸:風速 V」のグラフが用意されています。ファンによる風速が変わると熱抵抗がどう変化するかを示しています。
風速が上がると熱抵抗が下がる
このグラフは右肩下がりの曲線になります。風速が上がるほど熱抵抗が下がるのがひと目でわかります。風速0(自然空冷)では熱抵抗が最大、風速が上がると急激に下がり、ある程度の風速以上では効果が頭打ちになります。
(自然空冷)
※ 一般的なヒートシンクの熱抵抗が風速で変化する傾向(イメージ図)
読み取り手順(3ステップ)
使用するファンの風速を確認
使用予定のファンが、ヒートシンク表面でどれくらいの風速を出すかを確認する(例:2 m/s)。
横軸で風速の位置を見つける
グラフの横軸(風速)で2 m/sの位置を特定する。
縦軸で熱抵抗を読み取る
曲線と交わる点の縦軸の値が、その風速での熱抵抗(例:0.8℃/W)。
風速が上がっても効果は頭打ちになる
グラフの形を見ると、風速0〜2 m/sでは熱抵抗が急激に下がるのに対し、3 m/s以上ではほぼ横ばいになることがわかります。これは「風を強くしすぎても効率が頭打ち」になる現象です。
「もっと冷やしたいから、より強力なファンを」と考えがちですが、3 m/sを超えると性能向上は限定的です。それ以上の冷却が必要なら、ヒートシンクの大型化や水冷への変更を検討すべきサインです。

風速の単位「m/s」って何?|ファンとの関係
グラフの横軸でよく出てくる「m/s(メートル毎秒)」は、空気が1秒間に何メートル進むかを示す単位です。日常生活で言えば、扇風機の「弱」が約1 m/s、「強」が約3〜4 m/s程度のイメージ。
| 風速 [m/s] | 体感のイメージ | 想定される機器 |
|---|---|---|
| 0 | 無風 | 自然空冷 |
| 1 | そよ風 | 小型ファン(PCケース内など) |
| 2〜3 | 扇風機の中 | 標準的な強制空冷 |
| 5 | 扇風機の強 | 高性能サーバ・産業機器 |
| 10 | かなり強い風 | 特殊用途のみ |
ファンのスペック「CFM」と風速の違い
ファンのカタログには「風速」ではなく「風量(CFMやm³/min)」で書かれていることが多いです。両者は別の指標ですが、ヒートシンクのフィン断面積で割れば、おおよその風速を推定できます。
風速 [m/s] = 風量 [m³/s] ÷ 通過断面積 [m²]
ファンのスペック「最大風量」は「無負荷状態」での値です。実際にはヒートシンクのフィンによって抵抗が発生し、風速はカタログ値の50〜70%程度になります。実機での測定が不可欠です。

グラフを使ってTjを計算してみよう
データシートのグラフを実際に使ってジャンクション温度Tjを計算してみましょう。具体例で手を動かすと、グラフの読み方が一気に身につきます。
- 使用部品:MOSFET(最大Tj = 150℃)
- 発熱量 P = 30 W
- 周囲温度 Ta = 40℃
- Rth(j-c) = 0.5 ℃/W、Rth(c-s) = 0.2 ℃/W
- 使用ファンによるヒートシンク表面の風速:2 m/s
グラフから Rth(s-a) を読み取る
ヒートシンクの「熱抵抗 vs 風速」グラフで、風速2 m/sに対応する熱抵抗を読み取る。
例:Rth(s-a) = 0.8 ℃/W
合計の熱抵抗 Rth(j-a) を計算
Rth(j-a) = Rth(j-c) + Rth(c-s) + Rth(s-a)
= 0.5 + 0.2 + 0.8 = 1.5 ℃/W
ジャンクション温度 Tj を計算
Tj = Ta + P × Rth(j-a) = 40 + 30 × 1.5 = 85℃
Tj = 85℃ < 最大定格 150℃ → OK!熱設計は問題ない。ディレーティングを考慮しても120℃以下に収まっており、十分なマージンがあります。
風速を変えるとどう変わる?
仮に同じ条件で自然空冷(風速0 m/s)になった場合、グラフからRth(s-a) = 2.5 ℃/W程度になり、Tjは次のように変化します。
| 条件 | Rth(s-a) | Tj | 判定 |
|---|---|---|---|
| 自然空冷(0 m/s) | 2.5 ℃/W | 136℃ | ⚠ 厳しい |
| 弱い風(1 m/s) | 1.2 ℃/W | 97℃ | ○ OK |
| 中風速(2 m/s) | 0.8 ℃/W | 85℃ | ○ OK |
このように、風速の違いだけでTjが50℃以上も変わるのがわかります。グラフから正しく読み取れるかどうかが、熱設計の成否を分けるのです。

グラフ読み取りでよくある4つのミス
ミス① 軸の単位を見落とす
グラフの横軸が「W」なのか「m/s」なのか、縦軸が「℃」なのか「℃/W」なのかを見間違えると、計算が一気に狂います。軸の単位は必ず最初に確認しましょう。
ミス② フィン縦置きの条件を見逃す
データシートのグラフは「フィンが縦置き(最適配置)」での値です。横置きにすると性能は30〜50%劣化することもあります。実機での取付方向を確認しましょう。
ミス③ 周囲温度の前提が違う
データシートの値は通常「周囲温度Ta = 25℃前後」での測定です。盤内温度が60℃の環境で使う場合、空気の物性が変化するため、性能が若干劣化します。注釈をよく読みましょう。
ミス④ ファンの実効風速を高く見積もる
ファンのカタログ値(最大風量)から計算した風速をそのままグラフに当てはめるのは危険。実機ではフィンや周囲部品の抵抗で風速が落ちるため、カタログ値の70%程度で見積もるのが安全です。
設計レビューで「データシート通りに計算しました」と説明したら、上司に「で、その前提条件は?」と聞かれて答えられない——これは新人エンジニアの典型的な失敗パターンです。データシートの注釈は必ず読む。これが基本中の基本です。

自然空冷と強制空冷|熱抵抗はどれくらい違うのか
自然空冷と強制空冷で、ヒートシンクの熱抵抗はどれくらい違うのでしょうか。同じヒートシンクで条件だけ変えた場合の傾向を見てみましょう。
| 冷却方式 | 風速 [m/s] | Rth(s-a)(傾向) | 改善率 |
|---|---|---|---|
| 自然空冷 | 0 | 2.5 ℃/W | 基準 |
| 弱い強制空冷 | 1 | 1.2 ℃/W | 52%減 |
| 標準的な強制空冷 | 2〜3 | 0.7 ℃/W | 72%減 |
| 強い強制空冷 | 5 | 0.5 ℃/W | 80%減 |
ファンを付けるだけで熱抵抗が半分以下になるのがわかります。同じヒートシンクで2倍以上の発熱を捌けるようになるため、強制空冷の効果は絶大です。
どちらを選ぶべきか
自然空冷を選ぶ場面
- 静音性が重要(オーディオ・医療機器)
- 故障要因を減らしたい(屋外設置)
- 低コストにしたい
- 発熱量が小さい
強制空冷を選ぶ場面
- 大電力を扱う(インバータ・電源)
- 小型化したい
- ヒートシンクのスペースが限られる
- 発熱量が大きい

グラフがない時はどうする?|代表値の使い方
小型のヒートシンクや汎用品では、グラフではなく「代表値」のみ記載されていることがあります。例えば「Rth(s-a) = 5℃/W(自然空冷)」のような単一値だけ。
代表値が記載されている条件を確認する
代表値には必ず測定条件の注釈が付いています。「自然空冷時、ΔT=50℃で測定」のように。あなたの使用条件と一致しているか確認することが必須です。
メーカーに問い合わせる
重要な設計案件では、データシートに記載のない条件(例:特定の風速、特定の取付方向)の熱抵抗を、メーカーに直接問い合わせることもあります。営業窓口経由で技術部門に質問してもらうのが一般的です。
熱流体シミュレーション
高度な開発現場では、CFDと呼ばれる熱流体シミュレーションソフトを使って、実機の配置・風量・温度分布を計算で予測します。代表的なソフトには「Ansys Icepak」「FloTHERM」などがあります。
どんな精緻な計算をしても、実機で温度測定するまでは「予測」にすぎません。試作機で熱電対を使って実測し、計算値と一致することを確認するのが、熱設計の最終ステップです。

まとめ|グラフを正しく読めば熱設計が見えてくる
- ヒートシンクのデータシートには2種類のグラフがある
- 「温度上昇 vs 発熱量」グラフ:自然空冷の判定に使う。傾きが熱抵抗
- 「熱抵抗 vs 風速」グラフ:強制空冷の判定に使う。風速が上がるほど熱抵抗が下がる
- 強制空冷で熱抵抗は自然空冷比で50〜80%低減できる
- 軸の単位、注釈の前提条件、ファンの実効風速を必ず確認する
- 最終的には実機での温度測定で検証することが必須
ヒートシンクのデータシートのグラフは、最初は難解に見えますが、「軸の意味」と「使う条件」さえ押さえれば、誰でも読めるようになります。グラフから正しい熱抵抗を読み取れるかどうかが、熱設計の精度を決めます。
次にメーカーのカタログを開いたとき、グラフの曲線を眺めるだけでなく、「自分の設計条件ではどの値を使えばいいか」が判断できるはずです。
📚 次に読むべき記事
ヒートシンクの基礎知識。本記事と合わせて読むと、ヒートシンク選定の全体像が見えます。
グラフを使い分けるための前提となる「冷却方式の選定」を完全解説。
グラフから読み取ったRth(s-a)を、他の熱抵抗とどう組み合わせるかを解説。
読み取ったRth(s-a)を熱回路に組み込んでTjを計算する全体像。
熱抵抗の基礎概念を電気回路のアナロジーで完全理解。
グラフから熱抵抗を読み取る前に必要な「発熱量P」の計算方法。