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「TO-247パッケージのMOSFETを設計に組み込んだら、先輩から"これ、放熱タブにドレイン電位が出てるよ。絶縁しないとヒートシンクが帯電する"と指摘された。絶縁って、どうやるの?」
こんな経験、ありませんか?
パワー半導体の多くは、放熱タブ(金属面)に高電圧の電位が出ています。例えばTO-247パッケージのMOSFETならドレイン電位、IGBTならコレクタ電位。これをそのままヒートシンクに付けると、ヒートシンク全体が高電圧になって感電・ショートのリスクが発生します。
かといって、間に絶縁物を挟むと熱が伝わりにくくなる——この「熱伝導と絶縁のトレードオフ」こそが、パワエレ熱設計の最大の難題です。
- 「絶縁シート」と「絶縁グリス」の違いがよく分からない
- マイカ・シリコーンゴム・セラミックなど、種類が多すぎて選べない
- 耐電圧の目安が分からず、過剰な絶縁仕様にしてコストが上がった
- 絶縁ワッシャを忘れて、ネジ経由でショートさせてしまった
- 放熱タブに電位が出る部品の見分け方
- 絶縁シート4種類(マイカ・シリコーンゴム・セラミック・PI)の特徴
- 絶縁グリスと絶縁シートの使い分け
- 絶縁ワッシャの選び方と組み立ての注意点
結論を先に言います。絶縁が必要な場合は「耐電圧・熱抵抗・コスト」の3軸でTIMを選び、ネジ部の絶縁も同時に確保するのが鉄則です。この記事では、それぞれの選定基準と組み立ての注意点を実務目線で解説します。
なぜ絶縁が必要なのか|放熱タブに電位が出る部品
パワー半導体の多くは、内部チップの裏面が直接放熱タブ(メタルパッド)に接続されています。このため、チップの電位がそのまま放熱タブに現れます。
代表的なパッケージと放熱タブの電位
| 部品種別 | 放熱タブの電位 | 代表パッケージ |
|---|---|---|
| N-MOSFET | ドレイン | TO-220, TO-247 |
| IGBT | コレクタ | TO-247, TO-264 |
| ダイオード | カソード | TO-220 |
| フルパック品 | 絶縁済み(タブはGND相当) | TO-220F(フルモールド) |
絶縁しないと何が起きるか

絶縁の3つの選択肢|どれを選ぶか
絶縁が必要な場面では、大きく3つの選択肢があります。
それぞれの特徴
| 手段 | 耐電圧 | 熱抵抗 | 取扱い | コスト |
|---|---|---|---|---|
| 絶縁シート | ◎ | △ | ◎ | ◯ |
| 絶縁グリス | △ | ◯ | △ | ◎ |
| フルパック品 | ◎ | △ | ◎ | △ |

絶縁シートの種類|マイカ・シリコーン・セラミック・PI
絶縁シートには様々な材料があり、それぞれ得意分野が異なります。代表的な4種類を紹介します。
①マイカ(雲母)シート
天然の鉱物(雲母)を薄く剥がしたシート。古くから使われる定番です。
- 長所:耐電圧が非常に高い、耐熱性が高い(〜500℃)、安価
- 短所:表面が硬く凹凸を埋めにくい→必ずグリスと併用する必要
- 用途:TO-220など個別パッケージ、汎用
②シリコーンゴムシート(熱伝導シート)
シリコーンゴムに熱伝導フィラーを練り込んだシート。柔らかく、グリス不要で使えるのが大きな特徴です。
- 長所:柔軟で凹凸に追従、グリス不要、量産で扱いやすい、絶縁とTIMが一体
- 短所:耐電圧はマイカより劣る、シリコーン揮発物(LMW)に注意
- 用途:量産品、汎用パワエレ機器
③セラミック(窒化アルミ・窒化ホウ素)シート
窒化アルミ(AlN)や窒化ホウ素(BN)のセラミック製シート。最も熱伝導率が高い絶縁材料です。
- 長所:熱伝導率がずば抜けて高い(170 W/(m·K)以上)、高耐熱
- 短所:硬くて割れやすい、必ずグリスと併用必須、高価
- 用途:大電流パワーモジュール、車載インバータ、高信頼性用途
④ポリイミド(PI)シート
カプトン®などで知られるポリイミド樹脂のフィルム。極薄で耐電圧が高い特徴があります。
- 長所:非常に薄い(25〜100μm)、耐熱性高、耐電圧高
- 短所:熱伝導率は低い(0.3 W/(m·K)程度)、必ずグリス併用
- 用途:低発熱・小型機器、電圧重視の絶縁
比較表
| 種類 | 熱伝導率 [W/(m·K)] |
耐電圧 [kV/mm] |
グリス必要 |
|---|---|---|---|
| マイカ | 0.5〜0.8 | 40〜200 | 必須 |
| シリコーンゴム | 1〜6 | 10〜20 | 不要 |
| セラミック(AlN/BN) | 150〜200 | 15〜30 | 必須 |
| ポリイミド | 0.3 | 200〜300 | 必須 |

絶縁グリスとは|「グリスだけ」で絶縁できるのか
熱伝導グリスにも絶縁性を持つタイプがあります。これは「絶縁シートを省略してグリスだけで絶縁を取りたい」というニーズに応えるものです。
絶縁グリスのフィラー
絶縁グリスは、フィラーに絶縁性のあるセラミック粒子(酸化アルミ、窒化ホウ素など)を使います。銀粒子・銅粒子は導電性なので、絶縁グリスには使えません。
グリスだけで絶縁を取るリスク
正しい使い方:シートとグリスの併用

絶縁ワッシャを忘れるな|ネジ部のショート対策
ここが意外な落とし穴です。部品とヒートシンクの間に絶縁シートを入れても、ネジ穴部分は導通してしまいます。
ネジ経由でショートする経路
絶縁シートを挟んでも、ネジを介して部品タブとヒートシンクが電気的につながるとすべてが台無しです。これを防ぐのが絶縁ワッシャと絶縁ブッシュです。
絶縁ワッシャと絶縁ブッシュの役割
正しいネジ部の組み立て順序

耐電圧の決め方|過剰仕様にしないために
絶縁仕様で過剰スペックになると、コストとサイズが無駄に膨らみます。逆に不足すれば絶縁破壊で発火事故になります。適切な耐電圧の決め方を知りましょう。
動作電圧 vs 耐電圧
例えば動作電圧が400Vなら、必要耐電圧は400×2+1000=1800V以上。これはIEC60950などの安全規格をベースにした目安です。実際は適用規格によって計算式が異なるため、製品が準拠する規格(IEC、UL、JIS)を確認してください。
絶縁の階層(基礎絶縁・付加絶縁・強化絶縁)
| 絶縁レベル | 用途 | 耐電圧の例(400V系) |
|---|---|---|
| 基礎絶縁 | 機器内部の通常絶縁 | 1.8kV以上 |
| 付加絶縁 | 基礎絶縁の補助 | 1.8kV以上 |
| 二重絶縁 | 基礎+付加 | 合計3.6kV以上 |
| 強化絶縁 | 人が触れる部分・1次2次境界 | 3.6kV以上(一体構造) |

絶縁設計でやりがちな失敗3選
失敗①:絶縁シートだけ入れて絶縁ワッシャを忘れる
最も多い失敗です。シートで絶縁したつもりでも、ネジが部品タブとヒートシンクを電気的につないでしまいます。「絶縁シート+絶縁ワッシャ+絶縁ブッシュ」は3点セットで覚えてください。
失敗②:絶縁グリス単独で電位を分離する
「絶縁グリスがあるから絶縁シート不要」と判断してはいけません。グリスは厚みが安定せず、金属同士の接触で絶縁ゼロになる可能性があります。絶縁の責任は固体(シート)に持たせるのが鉄則です。
失敗③:シート単独で薄くしすぎて絶縁破壊
「熱抵抗を下げたい」という理由で、より薄いシートに変更してしまうケース。耐電圧は厚みに比例するため、薄くすると耐電圧が下がります。動作電圧と必要耐電圧を必ず確認してから変更してください。

まとめ|絶縁は「シート+グリス+ワッシャ」の3点セット
熱伝導と絶縁は、トレードオフでありながら両立しなければならない要件です。シート・グリス・ワッシャを正しく組み合わせて、安全かつ冷える設計を実現してください。次回以降の記事では、サーマルパッドや相変化材料(PCM)、より具体的な製品選定について取り上げます。

