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お悩み
こんなふうに思っていませんか?
- 沿面距離とは何か、空間距離との違いが何度読んでもあいまい
- 基板レビューで「沿面距離が足りない」と言われたが、どう直すかわからない
- スリットを入れると距離が稼げる理由を知りたい
この記事でわかること
- 沿面距離と空間距離の違いを「アリの道」と「鳥の道」で
- 汚損度・CTI・標高が距離をどう変えるか
- スリットの正しい効果と、距離を決める流れ
- 規格の値と実測をくらべる判定ツール
結論|まず30秒でわかる答え
沿面距離とは(Creepage distance)、2つの導体のあいだを、基板などの絶縁物の表面に沿って測った最短距離です。ほこりや湿気で表面に電気の通り道ができる「トラッキング」を防ぐためのきょりで、電圧に加えて、汚れやすさ(汚損度)と絶縁物の材質(CTI)で必要な値が決まります。一方、空間距離(Clearance)は空気中を通る最短の直線距離で、空気の放電(スパーク)を防ぎ、電圧と標高で決まります。
読み方と、近い言葉
| 言葉 | 読み | 意味 |
| 沿面距離 | えんめんきょり | 絶縁物の表面に沿って測った、導体どうしの最短距離 |
| 空間距離 | くうかんきょり | 空気中を通る、導体どうしの最短の直線距離 |
| 絶縁距離 | ぜつえんきょり | 空間距離と沿面距離をまとめた呼び方 |
| 沿面放電 | えんめんほうでん | 絶縁物の表面に沿って起きる放電。表面の汚れや湿気、沿面距離の不足で起きやすい |
| 汚損度 | おそんど | ほこりや湿気で表面が汚れやすい度合い。1〜4の4段階 |
沿面距離と空間距離の違い|アリの道と鳥の道
電気が「すき間」を越える道は2つあります。空気中を飛ぶ道(スパーク)と、表面を這う道(トラッキング)です。それぞれを防ぐのが空間距離と沿面距離です。
| 比べる点 | 空間距離(Clearance) | 沿面距離(Creepage) |
| たとえ | 鳥の道(空中をまっすぐ) | アリの道(表面を歩く) |
| 測り方 | 空気中の最短の直線 | 絶縁物の表面に沿った最短の道 |
| 防ぐもの | スパーク(空気の絶縁破壊) | トラッキング(表面の炭化による通り道) |
| 決める条件 | 電圧(とくにサージを含む最大電圧)、標高 | 電圧(ふだんの電圧の実効値)、汚損度、CTI |
| 汚れ・湿気の影響 | ほぼ受けない | 大きく受ける |
POINT|沿面距離は空間距離より短くならない
表面に沿った道は、空気中の直線より長いか同じです。そのため、規格の表で沿面距離が空間距離より小さく出ても、沿面距離は少なくとも空間距離の値にします。
トラッキングは、表面のほこりが湿気を吸って小さな電流が流れ続け、表面が炭になって道ができる現象です。じわじわ進み、最後は発火にいたります。空間距離をいくら広げても、表面の問題なので防げません。
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汚損度(沿面距離に効く)
| 汚損度 | 環境 | 例 |
| 1 | 汚れなし、または乾いた電気を通さない汚れだけ | 密閉した部分、コーティングした部分 |
| 2 | 電気を通さない汚れ。ときどき結露で一時的に電気を通す | オフィスや家庭で使う電子機器(いちばん多い) |
| 3 | 電気を通す汚れ、または結露で電気を通すようになる乾いた汚れ | 工場の機器、屋外の盤の中 |
| 4 | 雨や雪、電気を通すちりでずっと電気を通す | 屋外にむき出しの部分 |
CTI(比較トラッキング指数)と材料グループ(沿面距離に効く)
| 材料グループ | CTI | 必要な沿面距離 |
| Ⅰ | 600以上 | いちばん短くてよい |
| Ⅱ | 400以上600未満 | やや短い |
| Ⅲa | 175以上400未満 | 標準(一般的なFR-4の多くはここ) |
| Ⅲb | 100以上175未満 | いちばん長くいる |
CTIは、表面に電解液をたらしながら電圧をかけ、トラッキングが起きない最大の電圧で表します。FR-4でもCTIの高い品種(600以上など)があり、選ぶだけで沿面距離を短くできることがあります。基板メーカーのデータシートで確かめます。
標高(空間距離に効く)
高い場所では空気がうすく、空気が電気に耐える力が下がります。規格の空間距離は標高2,000mまでを前提にしているので、それより高い所で使うなら補正係数をかけて大きくします(3,000mで1.14倍、4,000mで1.29倍、5,000mで1.48倍)。
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スリット(溝)で沿面距離を稼ぐ|正しい考え方
基板を貫通するスリットを1次側と2次側のあいだに入れると、表面を這う道がそこで切れます。アリは溝を飛び越えられないので、スリットの端を回りこむしかなくなります。
| 形 | 沿面距離の数え方(IEC 60664-1の考え方) |
| 幅がX未満の溝 | ないものとして、溝の上をまっすぐ測る(ほこりで埋まると考える)。Xは汚損度2で1.0mm(1で0.25mm、3で1.5mm) |
| 幅がX以上の、底のある溝 | 溝の形に沿って(下って、底を通って、上って)測る |
| 幅がX以上の貫通スリット | 表面の道はスリットで切れる。スリットをまたぐ部分は空気の距離になり、表面の道はスリットの端を回りこむ |
そのため、スリットは幅をXより広くし(汚損度2なら1mm以上)、長さは境界をまたぐ部品よりも長くのばして、端を回りこむ道が必要な沿面距離より長くなるようにします。スリットをまたぐ部分は空気の距離になるので、空間距離の値も満たすか確かめます。
注意|スリットの落とし穴
- 空間距離(空気中の直線)は、スリットでは長くならない
- スリットにはんだボールやほこりがたまると効果がなくなる
- 基板が弱くなる。コネクタなど力がかかる所の近くは振動・衝撃に注意
- 数え方の細かいルールは、使う規格の図で確かめる
| スリットがよく効く場所 | 理由 |
| トランスの1次と2次のあいだ | 強化絶縁の長い沿面距離(例:8mm)を、基板を広げずに確保できる |
| フォトカプラの下 | ピンのあいだの表面の道を切れる |
| 絶縁型DC-DCモジュールの下 | 1次と2次の境目を小さい面積で分けられる |
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距離の決め方と判定ツール
STEP 1
製品に使う安全規格を決める(IEC 62368-1、IEC 60664-1など)。
STEP 2
距離を確保する2点と、そのあいだの電圧(ふだんの電圧と、サージを含む最大電圧)を決める。
STEP 3
必要な絶縁の種類(基礎・付加・強化)を決める。
STEP 4
汚損度・材料グループ(CTI)・標高を確かめる。
STEP 5
規格の表から空間距離と沿面距離を読み、余裕をのせて設計値にする。
規格の値と実測をくらべる判定ツール
入力すると、その場で計算し直します。入力した数字は画面の中で計算するだけで、どこにも送信されません。
はじめの例では、空間距離・沿面距離とも規格の値は満たしていますが、沿面距離は10%の余裕(5.5mm)に届いていません。標高を3000にすると、空間距離の必要値が約3.4mmに上がります。
測り方のポイントとよくある間違い
| よくある間違い | 正しい考え方 |
| パッドの端から測る | はんだが広がった端、部品のリードの先など、実際の導体の端から測る |
| ソルダーレジストがあるから大丈夫 | ふつうのレジストは絶縁として数えない。表面の距離として扱う |
| 細い溝でも距離が稼げる | 幅がX(汚損度2で1mm)未満の溝は、ないものとして測る |
| スリットで空間距離も長くなる | 空気中の直線は変わらない。部品を離すか、仕切りを立てる |
| 設計図どおりにできる前提で測る | 部品の実装ずれやはんだの広がりなど、いちばん悪い条件で確かめる |
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沿面距離を含めて、基板のレビュー前に確かめたい項目は次の記事で20項目にまとめています。
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よくある質問
Q. 沿面距離とは簡単にいうと?
A. 2つの導体のあいだを、絶縁物の表面に沿って測った最短距離です。表面を這うトラッキングを防ぎます。
Q. 沿面距離と空間距離の違いは?
A. 沿面距離は表面に沿った道(アリの道)、空間距離は空気中の直線(鳥の道)です。防ぐ放電と効く条件がちがいます。
Q. 沿面距離は何で決まる?
A. 電圧、絶縁の種類、汚損度、絶縁物のCTI(材料グループ)で決まり、規格の表から読みます。
Q. スリットを入れると沿面距離は増える?
A. 幅がX以上の貫通スリットは表面の道を切るので、端を回りこむ分だけ長くなります。空間距離は変わりません。
Q. FR-4の材料グループは?
A. 一般的なFR-4の多くはⅢa(CTI175以上400未満)です。CTIの高い品種もあるので、データシートで確かめます。
Q. 標高で何が変わる?
A. 空気がうすくなり空間距離が足りなくなります。2,000mを超える所では補正係数をかけて大きくします。
Q. 沿面放電とは?
A. 絶縁物の表面に沿って起きる放電です。表面にほこりや水分があると起きやすく、くり返すと表面が炭になってトラッキングにつながります。沿面距離を確保するのは、これを防ぐためです。
Q. 絶縁距離とは?
A. 空間距離と沿面距離をまとめた呼び方です。規格では、2つを別々に決めて、両方を満たすように設計します。
Q. 電圧が何Vなら、沿面距離は何mm?
A. 電圧だけでは決まらず、絶縁の種類・汚損度・材料グループ(CTI)で変わります。規格の表で確かめます。基礎絶縁と強化絶縁の代表的な例は絶縁の種類の表にのせています。
まとめ
- 沿面距離=表面に沿った道(アリの道)。トラッキングを防ぐ
- 空間距離=空気中の直線(鳥の道)。スパークを防ぐ
- 沿面距離は電圧・汚損度・CTI、空間距離は電圧・標高で決まる
- 沿面距離は空間距離より短くしない
- 貫通スリットは表面の道を切る。幅はX以上、空間距離は変わらない
- 実際の導体の端から、いちばん悪い条件で測る
この記事の理解を深める本と道具
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