- 先輩から「このMOSFET、ゲートドライバで駆動して」と言われたが、データシートを見ると「絶縁型」「非絶縁型」の2種類があって、どっちを選べばいいかわからない
- 「ハイサイドだから絶縁ね」と言われたけど、なぜ絶縁が必要なのか理由を説明できない
- 客先レビューで「なぜブートストラップではなく絶縁型を選んだんですか?」と聞かれて言葉に詰まった
- とりあえず絶縁型を選んでおけば安全?でもコストが3倍違う…
- 絶縁型と非絶縁型ゲートドライバの「本質的な違い」が3分でわかる
- 「うちの回路はどっち?」を判定する3ステップフローチャート
- 代表的な選定パターン(降圧コンバータ・インバータ・絶縁DC-DC)の正解
- 客先や上司に「なぜこれを選んだのか」を1分で説明できる根拠
結論を先に言います。「1次側と2次側で電源やGNDが分かれているか?」これが判断基準のすべてです。分かれていれば絶縁型、同じGNDなら非絶縁型。それだけです。
でもこの「GNDが分かれている/同じ」が初心者には見抜けない。なぜなら回路図上では同じ三角マーク(GND記号)に見えるからです。この記事では、その見抜き方から丁寧に解説します。
目次
そもそもゲートドライバとは?(30秒で復習)
ゲートドライバとは、MOSFETやIGBTのゲートを「素早く・確実に」ON/OFFするための専用ICです。マイコンのGPIOから直接駆動できないのは、駆動電流が足りないから。詳しくは下の関連記事で解説しています。
このゲートドライバには大きく2種類あります。
非絶縁型
入力(マイコン側)と出力(MOSFET側)が同じGNDでつながっている。安い・速い・小さい。
絶縁型
入力と出力の間に「絶縁の壁」がある。GNDも電源も完全に分離。高い・遅い・大きい。でも安全。

違いは「GNDが繋がっているか」だけ
絶縁型と非絶縁型の違いは、たった1つです。入力側と出力側のGNDが、電気的につながっているかどうか。これだけ。
🏠 たとえ話:マンションの「壁」だと思ってください
非絶縁型は「ワンルームのアパート」。マイコン側もMOSFET側も同じ部屋にいるので、誰かが大声を出すと全員に聞こえます。マイコンがノイズを浴びれば、即フリーズします。
絶縁型は「分厚い壁で仕切られた2部屋のマンション」。MOSFET側で何が起きてもマイコンには伝わりません。指示は「光」や「磁気」など壁を貫通する手段で送ります。MOSFET側が爆発してもマイコンは無事です。
「同じGNDなのにわざわざ絶縁する意味あるの?」と思うかもしれません。でも産業機器では「人が触る側のGND」と「高圧側のGND」を分けないと、感電事故や規格不適合(CEマーキング・PSE取得不可)に直結します。趣味の電子工作と業務設計の最大の違いはここです。

回路図でどう見分ける?「GND記号」のワナ
ここが初心者がハマる最大の落とし穴です。回路図上ではGND記号は全部「三角マーク(▽)」で同じに見える。でも実際には記号の形や添字で分かれているのです。
| 記号 | 名前 | 意味 |
|---|---|---|
| GND(無印) | シグナルGND | マイコン・センサ・ロジック側 |
| PGND | パワーGND | 大電流が流れるMOSFET側 |
| GND1 / GND2 | 絶縁GND | 1次側/2次側の別系統GND |
| FG | フレームGND | 筐体接地(人体保護用) |
回路図を読むときは「GND記号の右下や左下に小さな添字がついていないか」を必ず確認してください。GND1とGND2は絶対に直接つないではいけません。つないだ瞬間に絶縁が消滅します。

非絶縁型ゲートドライバの中身と特徴
非絶縁型は「シンプルなバッファアンプ」だと思ってください。マイコンの3.3V信号を受け取り、それを12V〜15Vに増幅してMOSFETのゲートに流し込むだけ。間に「壁」はありません。
💡 非絶縁型のメリット
- 安い:1個30円〜200円程度
- 速い:伝搬遅延が10〜30ns。スイッチング周波数を上げられる
- 小さい:SOT-23やSOIC-8の小型パッケージで済む
- 外付け部品が少ない:基本的にパスコン1個でOK
⚠️ 非絶縁型のデメリット
- ハイサイド駆動には別途ブートストラップ回路が必要
- 1次側(人が触れる側)と2次側(高電圧側)を分けられない
- MOSFETがショート故障するとマイコンも巻き添えで死ぬ
- 安全規格(IEC 62368-1など)の絶縁要件を満たせない
ハイサイド駆動についてはブートストラップ回路で解決できます。詳しくは関連記事で。
代表的なIC:UCC27511(TI)、TC4427(Microchip)、IR2104/IRS2003(Infineon)など。

絶縁型ゲートドライバの中身と特徴
絶縁型はICの中に「壁」が組み込まれています。この壁を超える方法は3種類あります。
| 絶縁方式 | 伝達手段 | 代表IC | 特徴 |
|---|---|---|---|
| フォトカプラ型 | 光 | TLP250H | 古典的・安価・遅い |
| 磁気結合型 | 磁気 | ADuM4135 | 高速・寿命長い |
| 容量結合型 | 電界 | UCC21520 | 最高速・小型 |
💡 絶縁型のメリット
- 1次側と2次側を完全に分けられる(感電・故障波及を防止)
- 安全規格に対応できる(強化絶縁・基礎絶縁の選択肢あり)
- ハイサイド/ローサイド両方に同じICを使える(ブートストラップ不要)
- ノイズ耐性が高い(CMTI 100kV/μs以上の製品もある)
⚠️ 絶縁型のデメリット
- 高い:1個300円〜1500円(非絶縁型の3〜10倍)
- 2次側に独立した電源が必要(絶縁DC-DCコンバータが必須)
- 遅い:伝搬遅延が30〜100ns(フォトカプラ型は特に遅い)
- パッケージが大きい:ワイドSOIC-16が一般的

絶縁型 vs 非絶縁型|一覧で比較
| 比較項目 | 非絶縁型 | 絶縁型 |
|---|---|---|
| 価格 | ◎ 30〜200円 | △ 300〜1500円 |
| 伝搬遅延 | ◎ 10〜30ns | △ 30〜100ns |
| サイズ | ◎ 小 | △ 大 |
| 外付け部品 | ◎ 少 | △ 多(絶縁電源が別途必要) |
| ハイサイド駆動 | △ ブートストラップ要 | ◎ そのまま可能 |
| 耐圧(絶縁) | ✕ なし | ◎ 2.5〜10kVrms |
| ノイズ耐性(CMTI) | △ 通常 | ◎ 100kV/μs級 |
| 安全規格対応 | ✕ 不可 | ◎ 強化絶縁取得品あり |
| 主な用途 | DC-DC・LED駆動・小型機器 | 産業インバータ・EV・サーバ電源 |

【保存版】どっちを選ぶ?3ステップ判定フロー
迷ったらこのフローを上から順に確認してください。1つでも「YES」があれば絶縁型を選ぶのが基本です。
主回路電圧は60V以上ですか?
(バッテリ駆動でも、スイッチングサージで瞬間的に60Vを超えるなら該当)
→ YES なら絶縁型
理由:60V以上は安全特別低電圧(SELV)を超え、感電リスクが発生する。IEC 62368-1で絶縁が要求される。
3相インバータ/Hブリッジ/ハーフブリッジで「ハイサイド」を駆動しますか?
→ 高電圧(200V以上)なら絶縁型を強く推奨
理由:低電圧(<60V)ならブートストラップで十分。高電圧ではブートストラップの寿命・ノイズ耐性で絶縁型が有利。
製品はCEマーキング・PSE・UL認証を取得しますか?
→ YES なら絶縁型(強化絶縁品)
理由:1次側(AC100V系)と2次側(人が触れる側)の絶縁要件を満たすには、絶縁型ゲートドライバが必須。
Q1〜Q3すべてNOなら、非絶縁型でOK
(例:12V/24V系のDC-DCコンバータ、LED調光、小型ロボットのモータドライバなど)
「迷ったら絶縁型」は半分正解で半分不正解です。過剰スペックはコスト増・基板面積増・電源回路の複雑化を招きます。判定フローで「本当に必要か」を毎回確認する習慣をつけましょう。

実例で覚える|よくある回路の正解
実際の設計現場でよく出てくるパターンと、その正解を一覧にしました。
| 回路の種類 | 電圧 | 推奨 | 理由 |
|---|---|---|---|
| 12V車載DC-DC | 12V | 非絶縁型 | SELV内・コスト優先 |
| 48Vサーバ電源 | 48V | 非絶縁型 | SELV内・速度優先 |
| 100Vモータドライバ | 100V | 絶縁型 | SELV超・ノイズ大 |
| 産業用400Vインバータ | 400V | 絶縁型(強化絶縁) | 安全規格・CMTI重要 |
| EV用インバータ | 400V〜800V | 絶縁型(強化絶縁) | 高電圧・人体保護 |
| AC100V入力スイッチング電源 | AC100V | 絶縁型 | PSE取得必須 |
| LED調光(24V) | 24V | 非絶縁型 | 小型・低コスト最優先 |
客先レビューで「なぜこれを選んだ?」と聞かれたら、この表のような「電圧 → SELV判定 → 絶縁要否 → 部品選定」のロジックで答えれば一発で納得してもらえます。逆に「先輩がこれを使っていたから」では即NGです。

初心者がハマる3つの落とし穴
① 「絶縁型を選んだのにGNDを繋いでしまう」
パターン設計時、ベタGNDを引いていたら絶縁型ICの1次側GND(GND1)と2次側GND(GND2)が無意識につながってしまった。これは絶縁が完全に消滅する致命的なミスです。
ICの絶縁ライン(パッケージの真下)には銅箔を一切引かない。沿面距離・空間距離も忘れず確保すること。
② 「2次側電源を用意し忘れる」
絶縁型を選んだのに、2次側の電源(VCC2、GVDDなど)を用意していない。「絶縁型なら自動で動く」と勘違いするケース。実際は、2次側に独立した絶縁DC-DCコンバータ(例:MGJ2、R12P21503D)が必須です。
③ 「CMTIを見落とす」
CMTI(Common Mode Transient Immunity)は、絶縁型ゲートドライバ選定で最も見落とされる項目です。SiC/GaNなど高速スイッチング素子を駆動する場合、CMTI 100kV/μs以上のICを選ばないと、誤動作で基板が燃えます。データシートの「dV/dt」欄を必ずチェック。

まとめ|「GNDが分かれているか」が判断基準のすべて
- 絶縁型と非絶縁型の本質的な違いは「GNDが繋がっているかどうか」
- 非絶縁型は安い・速い・小さい。SELV内(<60V)の小型機器なら第一選択
- 絶縁型は高い・遅い・大きい。でも安全規格対応・高電圧で必須
- 判定フローは「Q1:60V以上? Q2:ハイサイド? Q3:認証取得?」の3問
- 1つでもYESなら絶縁型、すべてNOなら非絶縁型
ゲートドライバ選定は、最初にこの「絶縁/非絶縁」を決めれば、あとはCMTI・伝搬遅延・ピーク電流などの定量スペックの絞り込みに進めます。逆にここを曖昧にしたまま設計を始めると、後工程ですべてやり直しになります。
次の客先レビューで「なぜこれを選んだ?」と聞かれたら、今日の判定フローを思い出してください。3秒で答えられるはずです。
📚 次に読むべき記事
ゲート駆動回路の全体像を俯瞰したい方はこちら。絶縁の位置づけがわかります。
絶縁/非絶縁が決まったら、次は具体的なIC選定。5ステップで実務レベルまで落とし込めます。
非絶縁型でハイサイド駆動するときに必須となる、ブートストラップ回路の動作原理を解説。