検定・推定

対応のあるt検定のやり方|改善前後の差を例題と計算ツールで

対応のあるt検定の記事のアイキャッチ。作業台の古い治具と新しい治具、ストップウォッチの写真に「対応のあるt検定 5.46」の文字

作業者8人に新しい治具を使ってもらい、改善の前と後で作業時間を測った。平均は 50.6秒 から 48.4秒 へ、2.25秒 短くなった。この差は本物か。

答え

対応のあるt検定とは、同じ人・同じ部品を2回測ったデータ(改善の前と後など)で、平均に差があるかを判定する検定です。ペアごとの差 d を1つのデータとみなし、t=差の平均÷(差の標準偏差÷√n) を自由度 n−1 の t分布と比べます。人ごとの違いが打ち消されるので、対応のない2標本の t検定より小さな差を見つけられます。

この記事は、統計の記事を作り直す中で、改善の効果を確かめたいという場面にいちばん近い検定なのに、専用の解説が無かったために書きました。上の8人の例では、対応のある t検定なら差は明らか、対応のない検定にすると「差があるとはいえない」と、結論が逆になります。

対応のあるデータとは?対応のないデータとの違い

対応のあるデータとは、2つの測定値が1組ずつ同じ対象から取られているデータです。組の相手を入れ替えると意味がなくなるのが目印です。

対応あり対応なし
例同じ作業者の前と後、同じ部品を2つの測定器でA ラインの10個と B ラインの10個
データ数前と後で同じ(ペアの数)違ってよい
使う検定対応のある t検定(差の1標本 t検定)2標本の t検定・ウェルチの t検定

2つのラインのように別々の物を比べるときは2標本の t検定、ばらつきが違うならウェルチの t検定です。

対応のある t検定の公式|差の平均を1標本で検定する

対応のある t検定
t = d の平均 ÷ ( s_d ÷ √n ) 自由度 n − 1

d:ペアごとの差(前−後)、s_d:差の標準偏差(n−1 で割る)、n:ペアの数

差 d を1つのデータとみなすと、「差の平均が0と違うか」という1標本の t検定そのものです。基準値を0にした1標本の t検定と同じ計算になります。

対応のある t検定のやり方5ステップ|作業時間の改善の例題

作業者12345678
前(秒)5248555047535149
後(秒)4947514846505046
差 d(前−後)31421313

説明のために作った数字

STEP 1 仮説
H0:差の平均=0、H1:差の平均≠0(両側・有意水準5%)
STEP 2 差の平均
(3+1+4+2+1+3+1+3)÷8=18÷8=2.25秒
STEP 3 差の標準偏差
偏差平方和 9.5、s_d=√(9.5÷7)=1.165秒
STEP 4 t
2.25÷(1.165÷√8)=2.25÷0.412=5.46(自由度7)
STEP 5 判定
両側5%の境界 t(7, 0.025)=2.365。5.46 > 2.365 で棄却(p値 約0.09%)。新しい治具で作業時間は短くなった

差の平均の95%信頼区間は 2.25±2.365×0.412=1.28〜3.22秒。0を含まないことも、上の判定と合います(信頼区間)。

この例題の t・p値・区間は、手計算とは別に統計ソフトの対応のある t検定の関数でも出し、小数第2位まで一致を確かめました。

同じ8人の改善前と後の作業時間を線で結んだ図。人ごとの違いは47〜55秒と大きいが、ほぼすべて右下がりで差の平均は2.25秒

対応なしで計算すると結論が逆になる

同じ数字を、前の8個と後の8個という別々のグループとして2標本の t検定にかけると、t=1.93、p値 約7.4% で、5%では「差があるとはいえない」になります。

計算のしかたtp値判定(5%)
対応のある t検定(差で計算)5.46約0.09%差がある
対応のない2標本の t検定1.93約7.4%差があるとはいえない

理由は人ごとの違いです。前の時間は 47〜55秒 と人によって8秒も違い(標準偏差 約2.67秒)、この違いが対応なしの計算ではばらつきに入ってしまいます。差をとると、人ごとの違いは打ち消され、残るのは治具の効果のばらつき(1.165秒)だけになります。

対応のある t検定の計算ツール

前と後のデータを同じ順番で入れると、差の平均・t・p値・判定と、差の95%信頼区間を出します。初めは例題の8人の数字で、t=5.46 になります。

入力すると、その場で計算し直します。入力した数字は画面の中で計算するだけで、どこにも送信されません。

対応のある t検定を現場で使うときの判断とExcel

改善の効果を確かめるなら、データを取る前に「同じ対象の前と後」を測る計画にします。対応のあるデータは、少ない数で差を見つけられるからです。

筆者なら、改善の効果を確かめる計画を立てるときは、まず同じ作業者・同じ部品で前後を測れるかを考えます。理由は、人や部品ごとの違いが大きい現場ほど、対応のない比較ではその違いに効果が埋もれ、上の例のように「差があるとはいえない」で終わってしまうからです。

品質保証の現場でよく起きるのは、改善前は先月の部品、改善後は今月の部品というように、別々の物を測って比べる型です。これは対応のない比較になり、部品の違いと改善の効果が混ざります。

Excel でやりたいこと関数
対応のある t検定の p値(両側)=T.TEST(前の範囲, 後の範囲, 2, 1)
差の列を作って平均と s=AVERAGE(差の範囲)、=STDEV.S(差の範囲)
境界値=T.INV.2T(0.05, ペアの数−1)

検定全体の考え方は仮説検定の記事で確かめられます。

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t の境界値を自由度から引く t分布表

QC検定での対応のある t検定の出方

QC検定の手法の問題では、「同じ試料を2つの方法で測った」「同じ作業者の訓練前後」といった文から、対応のあるデータだと見抜いて、差の平均と差の標準偏差で t を計算させる形が見られます。

  • 同じ対象を2回測った → 対応あり
  • 差をとってから、1標本の t検定(基準値0)
  • 自由度は ペアの数−1

級ごとの出題範囲は、日本規格協会の「品質管理検定レベル表」で確かめてください。確認しようとした時点では公式のページが保守中で開けなかったため、この記事では級を断定していません。

対応のある t検定のよくある質問

Q. 対応のあるt検定とは?

A. 同じ人や部品を2回測ったデータで、前後の差の平均が0と違うかを1標本のt検定で判定する方法です。

Q. 対応ありと対応なしの見分け方は?

A. 2つの値が同じ対象から1組ずつ取られていれば対応ありです。組の相手を入れ替えると意味がなくなります。

Q. 対応のあるt検定の自由度は?

A. ペアの数から1を引いたn−1です。8組なら自由度7で、両側5%の境界は2.365です。

まとめ|前後の比較は差をとって1標本で

  • 対応のある t検定=ペアごとの差 d の1標本 t検定(基準値0、自由度 ペア数−1)
  • 例題:差の平均 2.25秒、s_d 1.165秒、t=5.46 > 2.365 → 短くなった(p 約0.09%)
  • 同じ数字を対応なしで計算すると t=1.93、p 約7.4% で差があるとはいえない
  • 改善の効果は、同じ対象の前後を測る計画にする
参考にした資料

(2026年10月に確認)

法令・規格・資料は改訂されることがあります。実務で使うときは、発行元の最新版で確かめてください。

S
シラス
電験三種・QC検定1級 / メーカーでパワエレ設計・品質保証 実務10年

メーカーで電気設計と品質保証に携わってきた経験をもとに執筆しています。むずかしい専門用語をできるだけ使わず、はじめて学ぶ人がつまずかないように、図とたとえで説明することを大切にしています。

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