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こんな経験はありませんか?
- 抵抗のデータシートを開いたら「TCR」「RCWV」「ディレーティング曲線」など見慣れない項目だらけで閉じたくなった
- 「±1%の抵抗を選べ」と言われたけど、TCRの影響を入れたら実質何%ズレるのか計算できない
- チップサイズ「1608」と「0603」が同じものだと知らなくて、発注ミスをしそうになった
○ この記事でわかること
- データシートで確認すべき5つのパラメータを優先順位付きで完全理解
- TCR(抵抗温度係数)の意味と、温度変化による抵抗値のズレを具体的な数値で計算
- チップサイズ(mm呼称 vs inch呼称)と定格電力の対応表でサイズ選定を即決
前回の記事で、抵抗器の種類(厚膜・薄膜・金属板)の全体像をつかみました。種類が決まったら、次はデータシートから具体的な製品を1つに絞り込む作業です。
コンデンサのパラメータ記事でも解説しましたが、受動部品のデータシートには「読むべき場所」と「読まなくていい場所」があります。この記事では、抵抗器のデータシートで絶対に確認しなければならない5つのパラメータを、設計で確認する順番に沿って解説します。
データシートで確認する「5つのパラメータ」── 全体像
抵抗器のデータシートには膨大な項目がありますが、設計で最初に確認するのは以下の5つだけです。この順番で確認すれば、迷わず製品を選定できます。
ポイント
この5つの中で、初心者が最も見落としやすく、しかも実務で最も厄介なのが TCR(抵抗温度係数)です。「±1%の抵抗を選んだから大丈夫」と思っていても、TCRの影響で実質±2%以上ズレることがあります。この記事で最も力を入れて解説するパラメータです。
抵抗器の5つのパラメータ:抵抗値・許容差・定格電力・TCR・サイズ
抵抗値 ── 「何Ω」を選ぶか
抵抗値はE系列から選ぶ
抵抗値は「好きな値を自由に選べる」わけではありません。E系列と呼ばれる標準数列の中から選びます。DigiKeyやMouserで検索しても、E系列に存在する値しかヒットしません。
E系列には複数の種類があり、数字が大きいほど選べる値が細かくなります。
| E系列 |
1〜10の間の値の数 |
対応する許容差 |
実務での位置づけ |
| E12 |
12個 |
±10%、±5% |
ざっくり選ぶとき。LED電流制限やプルアップ向き |
| E24 |
24個 |
±5%、±1% |
最も多く使われる。まずはここから選ぶのが基本 |
| E96 |
96個 |
±1% |
E24で理想比に近い値がないとき。帰還抵抗の分圧比の微調整 |
| E192 |
192個 |
±0.5%以下 |
超精密用途。薄膜チップ抵抗のみ。一般設計では使わない |
チップ抵抗の表面に印字された「数字」の読み方
チップ抵抗の表面には3桁または4桁の数字が印字されています。読み方はシンプルです。
472
3桁表示(E24 / ±5%品)
先頭2桁が有効数字(47)
末尾1桁が10の乗数(10² = 100)
→ 47 × 100 = 4,700Ω = 4.7kΩ
4702
4桁表示(E96 / ±1%品)
先頭3桁が有効数字(470)
末尾1桁が10の乗数(10² = 100)
→ 470 × 100 = 47,000Ω = 47kΩ
特殊表記に注意
「R」は小数点の位置を示します。例えば「4R7」は4.7Ω、「R47」は0.47Ωです。また低抵抗品では「L」がmΩの位置を示し、「1L0」は1.0mΩを意味します。シャント抵抗を扱うパワエレ設計者は必ず覚えましょう。
チップ抵抗の表示:472は4.7kΩ、4702は47kΩ、R47は0.47Ω
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許容差(精度)── 「10kΩ ±1%」の意味
許容差とは「初期のバラつきの幅」
許容差(Tolerance)とは、工場から出荷されたときの抵抗値が、公称値(たとえば10kΩ)からどれだけズレているかの保証範囲です。温度変化や経年劣化の影響は含みません。あくまで「25℃の初期値」でのバラつきです。
たとえば「10kΩ ±1%」の抵抗を買うと、実際の値は9,900Ω〜10,100Ωの間のどこかになります。
許容差のランクと使い分け
| 許容差 |
記号 |
対応する抵抗の種類 |
どんな場面で使う? |
| ±5% |
J |
厚膜、カーボン |
プルアップ、LED電流制限。値が多少ズレても問題ない用途 |
| ±1% |
F |
厚膜、薄膜 |
実務のデフォルト。分圧回路、ゲイン設定、帰還抵抗はすべて±1%以上で |
| ±0.5% |
D |
薄膜 |
電流検出、精密ADC入力。コスト増だが精度が必要な場面 |
| ±0.1% |
B |
薄膜(精密級) |
計測機器、医療機器。コストは±1%品の5〜10倍 |
現場の声
「±5%品と±1%品の価格差はほぼゼロ」です。2026年現在、1608サイズの厚膜チップ抵抗は±5%でも±1%でも0.1〜0.3円程度。BOMを管理する観点でも、全抵抗を±1%で統一してしまうのが実務では最も効率的です。±5%品を混在させるメリットはほぼありません。
許容差は公称値からの出荷時のばらつきの幅
定格電力と定格電圧 ── 「どれだけ電力を食えるか」
定格電力とは「この温度以下ならこれだけの電力を消費してOK」という上限
定格電力(Rated Power)とは、「規定の周囲温度(通常70℃)以下で、連続的に印加できる電力の最大値」です。チップ抵抗の場合、定格電力はチップサイズでほぼ決まります。
抵抗が消費する電力は以下の式で計算します。
抵抗の消費電力の公式
P = I² × R = V² / R
P:消費電力 [W]、I:電流 [A]、R:抵抗値 [Ω]、V:抵抗にかかる電圧 [V]
定格電圧 ── 「電力OK」でも「電圧NG」のケースがある
抵抗器には消費電力の上限だけでなく、印加できる電圧の上限も存在します。定格電圧は以下の式で計算されます。
定格電圧の公式
Vrated = √(Prated × R)
ただし、最高使用電圧(RCWV)を超えてはいけない。2つの値のうち小さい方が実際の定格電圧になる。
具体例で確認しましょう。1608サイズ(定格0.1W)・100kΩの厚膜チップ抵抗の場合:
定格電力から計算:V = √(0.1W × 100,000Ω) = √10,000 = 100V
最高使用電圧(データシート記載):50V
→ 2つのうち小さい方 = 50Vが実際の上限。
→ 電力的には0.1Wの余裕があるのに、電圧が50Vで頭打ちになるケースです。
高抵抗値(数十kΩ以上)の抵抗で特に注意! 電力OKでも電圧NGになることがあります。
高抵抗では定格電力より最大使用電圧が先に効く
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TCR(抵抗温度係数)── 最も見落とされる重要パラメータ
TCRとは「温度が1℃変わると、抵抗値が何百万分の1変化するか」
TCR(Temperature Coefficient of Resistance:抵抗温度係数)は、温度が1℃変化したときに、抵抗値が何ppm(百万分の1)変化するかを表す数値です。単位はppm/℃です。
たとえば「TCR = ±100ppm/℃」の抵抗器は、温度が1℃上がるごとに抵抗値が最大で100/1,000,000 = 0.01%変化します。「たった0.01%か」と思うかもしれませんが、温度変化が大きくなると無視できない差になります。
【計算例】TCRが違うと、実際にどれだけ抵抗値がズレるか?
条件:公称値10kΩの抵抗を、基準温度25℃から85℃の環境(温度差60℃)で使用した場合。
TCRによる抵抗値変化の計算式
ΔR = R × TCR × 10-6 × ΔT
ΔR:抵抗値の変化量 [Ω]、R:公称抵抗値 [Ω]、TCR [ppm/℃]、ΔT:温度変化 [℃]
| 抵抗の種類 |
TCR |
計算(ΔT = 60℃) |
ズレ量 |
変化率 |
| 厚膜 |
±100 ppm/℃ |
10,000 × 100 × 10-6 × 60 |
±60Ω |
±0.6% |
| 薄膜 |
±25 ppm/℃ |
10,000 × 25 × 10-6 × 60 |
±15Ω |
±0.15% |
| 薄膜(精密級) |
±5 ppm/℃ |
10,000 × 5 × 10-6 × 60 |
±3Ω |
±0.03% |
これが初心者の落とし穴です
「±1%の厚膜抵抗」を選んだつもりでも、TCRの影響を入れると85℃環境で合計 ±1.6%(初期±1% + TCR±0.6%)のズレが発生します。
分圧回路やオペアンプのゲイン設定で「±1%以内」の精度が必要な場合、許容差だけでは足りず、TCRも含めた「トータル精度」で判断する必要があります。これが「厚膜では精度が出ない」と言われる本当の理由です。
「トータル精度」の求め方
トータル精度の計算式
トータル精度 [%] = 許容差 [%] + TCR [ppm/℃] × ΔT × 10-4
例1)厚膜 ±1%、TCR 100ppm/℃、ΔT = 60℃ の場合:
→ 1% + 100 × 60 × 10-4 = 1% + 0.6% = ±1.6%
例2)薄膜 ±0.1%、TCR 10ppm/℃、ΔT = 60℃ の場合:
→ 0.1% + 10 × 60 × 10-4 = 0.1% + 0.06% = ±0.16%
設計のコツ
精度が必要な分圧回路では、2つの抵抗に同じ種類・同じメーカーの製品を使うことで、TCRの影響をキャンセルできます。分圧比は2つの抵抗の「比」で決まるため、温度で両方が同じ方向に同じ割合ズレれば、比は変わりません。これを「TCRトラッキング」と呼びます。
TCR100ppmなら60℃で0.6%:許容差に上乗せされる
チップサイズ ── mm呼称とinch呼称の完全変換表
「1608」と「0603」は同じサイズです
チップ抵抗のサイズ表記には、日本で主流のmm呼称(JIS)と、海外で主流のinch呼称(EIA)の2種類が混在しています。同じ部品なのに呼び名が違うため、発注ミスの温床になります。
以下の表を保存して、いつでも参照できるようにしてください。
実寸法 (L × W mm) |
mm呼称 (JIS) |
inch呼称 (EIA) |
汎用厚膜 定格電力 |
最高使用 電圧 |
実務での位置づけ |
| 0.4 × 0.2 |
0402 |
01005 |
0.031W |
25V |
超小型。スマホ・ウェアラブル向け |
| 0.6 × 0.3 |
0603 |
0201 |
0.05W |
25V |
小型民生。手はんだは困難 |
| 1.0 × 0.5 |
1005 |
0402 |
0.063W |
50V |
小型量産品の主力サイズ |
| 1.6 × 0.8 |
1608 |
0603 |
0.1W |
50V |
産業機器・車載の標準。迷ったらコレ |
| 2.0 × 1.25 |
2012 |
0805 |
0.125W |
150V |
手はんだOK。試作・パワエレ基板の主力 |
| 3.2 × 1.6 |
3216 |
1206 |
0.25W |
200V |
中電力向け。シャント抵抗にも |
| 5.0 × 2.5 |
5025 |
2010 |
0.5W |
200V |
大電力チップ。電流制限・放電用 |
| 6.3 × 3.1 |
6332 |
2512 |
1W |
200V |
チップ型で最大級。リード型の代替 |
最大の落とし穴:「0603」はどっちのサイズ?
mm呼称の「0603」= 0.6mm × 0.3mm(極小)
inch呼称の「0603」= 1.6mm × 0.8mm(1608サイズ)
同じ「0603」でも、mm表記かinch表記かで実際のサイズが4倍近く違います。BOM作成やDigiKeyでの検索時は必ず「mm呼称」か「inch呼称」かを確認してください。国内メーカー(KOA・ROHM・パナソニック)のデータシートはmm呼称、海外メーカーはinch呼称が基本です。
チップサイズの選び方 ── 3ステップで即決
STEP 1
消費電力を計算する(P = I²R)
STEP 2
定格電力が消費電力の2倍以上あるサイズを選ぶ(ディレーティング50%が基本)
STEP 3
基板の設計ルール(最小部品サイズ)と実装ライン能力を確認して最終決定
ディレーティングの詳細
ディレーティングとは?抵抗の定格電力の何%で使うべきか|発熱計算と信頼性設計 →
チップ抵抗のサイズ:0402から6332まで
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【保存版】5つのパラメータ × 抵抗の種類 ── 一覧比較表
ここまで解説した5つのパラメータを、抵抗の種類別に一覧にまとめました。部品選定のときにこの表を開けば、一目でどの種類のどのランクを選べばいいか判断できます。
| パラメータ |
厚膜チップ |
薄膜チップ |
金属板 |
| 汎用 |
高精度 |
標準 |
精密級 |
シャント用 |
| 抵抗値範囲 |
1Ω〜10MΩ |
1Ω〜10MΩ |
10Ω〜1MΩ |
10Ω〜300kΩ |
0.5mΩ〜100mΩ |
| 許容差 |
±5%、±1% |
±1%、±0.5% |
±1%、±0.5% |
±0.1%、±0.05% |
±1%、±0.5% |
定格電力 (1608サイズ) |
0.1W |
0.2W |
0.1W |
0.1W |
0.25〜1W |
| TCR |
±100〜200 |
±50〜100 |
±10〜25 |
±2〜5 |
±15〜50 |
| サイズ |
0402〜6332(サイズは種類によらず共通。上の変換表を参照) |
| コスト目安 |
◎ |
○ |
△ |
× |
△ |
※ TCRの単位はppm/℃。定格電力は代表値で、メーカー・シリーズにより異なります。
同じ0603でもmm呼称とinch呼称で大きさが違う
まとめ ── データシートで必ず確認する5つのパラメータ
抵抗値:E24系列から選ぶのが基本。精密な分圧比が必要ならE96へ。
許容差:±1%をデフォルトに。±5%品と価格差はほぼゼロ。
定格電力:消費電力の2倍以上のサイズを選ぶ(ディレーティング50%)。高抵抗値では定格電圧も要チェック。
TCR:最も見落としやすいが最も重要。「トータル精度 = 許容差 + TCR × ΔT」で判断。精密回路では薄膜を選ぶ理由はここにある。
チップサイズ:mm呼称とinch呼称の混同に注意。迷ったら1608(inch: 0603)か2012(inch: 0805)。
現場の声
データシートの全ページを読む必要はありません。まずこの5つのパラメータだけを確認し、「消費電力は定格の50%以内か?」「TCRを含めたトータル精度は要求を満たすか?」の2つの問いに答えられればOK。慣れてくると1分以内で選定が終わります。
テーマ別に、もっと深く学ぶ
気になるところから読んでも大丈夫です。どの記事も、はじめて学ぶ人向けにやさしく書いています。
つまずきやすい「違い」を一気に解決
計算力アップ・資格対策
データシートを読みこなせるようになると、設計の不安が一つ減ります。「自分はこの部品をちゃんと理解して選んでいる」という自信は、日々の仕事のストレスを確実に軽くしてくれます。もし今、「このまま同じ仕事を続けていていいのかな」と感じているなら、こちらも読んでみてください。
30代のキャリア迷子脱出法|もう「このままでいいのかな?」と悩まなくていい →
S
シラス
電験三種・QC検定1級 / メーカーでパワエレ設計・品質保証 実務10年
メーカーで電気設計と品質保証に携わってきた経験をもとに執筆しています。むずかしい専門用語をできるだけ使わず、はじめて学ぶ人がつまずかないように、図とたとえで説明することを大切にしています。