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こんな経験はありませんか?
- 回路図どおりに作ったのに、なぜかMOSFETだけが熱い・壊れる
- オシロで見ると、立ち上がりの波形がビヨンビヨン震えている
- 「配線を短くしろ」と言われるけど、なぜそうなるのか腹落ちしない
○ この記事でわかること
- 寄生インダクタンスの正体を、初心者でもイメージで理解できる
- なぜ配線が長いとリンギングとサージが増えるのかがわかる
- L×di/dt という式が、実際に何を意味しているかがわかる
- 基板でまず何を短く・小さくすべきかが整理できる
「部品は合っているのに、なぜか動かない」「試作機だけ波形が荒れる」──こういうとき、犯人になりやすいのが回路図に描かれていないインダクタンスです。
初心者のうちは、インダクタンスと聞くとコイルを思い浮かべますよね。でも実際は、ただの配線や基板パターンにもインダクタンスがあります。
結論を先に言います。寄生インダクタンスとは、配線や部品の足、電流ループが勝手に持ってしまう「見えないコイル成分」です。これがあるせいで、スイッチング時にリンギングやサージが発生します。
結論|まず30秒でわかる答え
寄生インダクタンスとは、配線・基板のパターン・部品の足・電流が回るループが持ってしまう、回路図に描かれないインダクタンスです。大きさは数nH〜数十nH と小さくても、スイッチングで電流が急に変わると V=L×di/dt の電圧(サージ)やリンギングを生みます。減らすには、配線を短く・太くし、電流の行きと帰りのループを小さくします。
寄生インダクタンスとは何か
回路図に描かれていない「見えないコイル」です
回路図の世界
- 線はただの線
- 抵抗ゼロ・インダクタンスゼロに見える
- 理想化されている
現実の基板
- 線には長さがある
- 電流ループも面積を持つ
- だからLが勝手に生まれる
ひとことで定義
寄生インダクタンス = 配線・パターン・部品端子・電流ループが持つ、意図していないインダクタンス
たとえば、MOSFETとコンデンサをつなぐ配線、ゲートドライバからゲートまでのパターン、GNDへ戻る経路。これらは全部、見た目はただの線ですが、電流の変化を邪魔する性質を持っています。
つまり、コイルを置いていなくても、基板そのものが小さなコイルの集まりになっているわけです。これがパワエレや高速デジタル回路で厄介になります。
なぜただの配線にインダクタンスが生まれるのか
キーワードは「電流の変化を嫌う性質」です
インダクタンスをひとことで言うと、電流の変化にブレーキをかける性質です。
ホースで水を流しているとき、急に蛇口を閉めると「ドンッ」と圧力が跳ねることがありますよね。電気でも同じで、流れていた電流を急に止めようとすると、配線は「そんな急に変えるな」と反発します。
その反発の強さが、配線やループに潜んでいる寄生インダクタンスです。
現場の声
初心者が見落としやすいのは、「長い線1本」だけではなく「行きと帰りで作るループ全体」にインダクタンスがあることです。配線長だけでなく、ループ面積も本質です。
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寄生インダクタンスはどのくらい?配線の長さから見積もる
「配線にもインダクタンスがある」と言われても、どのくらいの大きさかがわからないと設計に使えません。まっすぐな丸い導線のインダクタンスは、次の近似式で見積もれます(長さ l が太さよりずっと長いときの式)。
L ≒ 0.2 × l ×{ln(2l/r)−0.75}[μH](l:長さ[m]、r:導線の半径[m]、ln は自然対数)
| 導線(直径0.5mm)の長さ | 計算 | インダクタンスの目安 |
| 1cm | 0.2×0.01×{ln(80)−0.75}=0.2×0.01×3.63 | 約7nH |
| 5cm | 0.2×0.05×{ln(400)−0.75}=0.2×0.05×5.24 | 約52nH |
1mm あたりにするとおよそ0.7〜1nH です。「配線1mm で約1nH」という目安がよく使われるのは、このくらいの値になるからです(実際は太さ・形・帰り道との距離で変わります)。
見積もった L からサージを計算する
5cm の導線(約52nH)に流れる10A の電流を、50ns で切ったとします。
手順1 di/dt=10÷(50×10⁻⁹)=2×10⁸A/s
手順2 V=L×di/dt=52×10⁻⁹×2×10⁸≒10V
たった5cm の線で、約10V の余分な電圧が素子にかかる計算です。配線を1cm にできれば約7nH で約1.5V。長さを縮めることの効き目がよくわかります。行きと帰りの線を近づけてループを小さくすると、互いの磁束が打ち消し合って、単独の線より実効的なインダクタンスを小さくできます。
つまり寄生インダクタンスの目安は配線1mm あたりおよそ1nH。L がわかれば V=L×di/dt でサージを見積もれる。短く・太く・ループを小さく。
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よくある質問
Q. 寄生インダクタンスとは?
A. 配線やパターン、部品の足、電流ループが持つ、回路図に描かれないインダクタンスです。スイッチングでサージやリンギングを生みます。
Q. 配線の寄生インダクタンスはどのくらい?
A. 直径0.5mmの導線なら1cmで約7nH、5cmで約52nHです。目安として配線1mmあたり約1nHと覚えておくと見積もれます。
Q. 寄生インダクタンスを減らすには?
A. 配線を短く太くし、電流の行きと帰りの経路を近づけてループ面積を小さくします。コンデンサは素子の近くに置きます。
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なぜ配線が長いとサージが増えるのか
答えは L × di/dt です
基本式
V = L × di/dt
この式の意味はシンプルです。Lが大きいほど、そして電流変化 di/dt が急なほど、発生する電圧Vは大きくなります。
つまり、配線が長くて寄生インダクタンスLが増えたところに、MOSFETの高速スイッチングのような急激な電流変化が加わると、サージ電圧が跳ね上がります。
| 条件 |
例 |
| 寄生インダクタンス |
10nH |
| 電流変化 |
1.5A が 5ns で変化 |
| 発生電圧 |
約3V |
たった数nH〜十数nHでも、高速スイッチングでは数Vの余計な電圧が簡単に乗ります。だから「たかが数cmの配線」が無視できないのです。
リンギングとサージはどう違うのか
どちらも原因は寄生成分。でも見え方が違います
サージ
- 電圧が一瞬高く跳ねる
- 素子耐圧を超えると破壊の原因
- L×di/dt の影響が強い
リンギング
- 波形がビヨンビヨン振動する
- 寄生Lと寄生Cの共振で起きやすい
- 誤動作やEMI悪化の原因
サージは「ドンッと跳ねる現象」、リンギングは「ブルブル震える現象」と考えるとわかりやすいです。
ただし、どちらも根っこは同じです。配線や部品配置が生んだ寄生インダクタンスが、急激なスイッチングと組み合わさって問題になります。
だから対策も共通しています。配線を短くする、ループを小さくする、必要なら減衰や吸収の部品を入れる。この順で考えるのが基本です。
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寄生インダクタンスはどこで問題になるのか
特に危ないのは「大電流ループ」「ゲートループ」「GND帰路」です
1
MOSFET・IGBTの主回路配線:大電流が高速でON/OFFするので、サージが出やすい
2
ゲートドライブ配線:細く長いとリンギングしやすく、誤点弧や損失増加につながる
3
GNDの戻り経路:寄生LでGND電位が揺れ、制御回路まで巻き込んで誤動作する
注意
初心者がやりがちなのは、「主回路だけ短ければOK」と思うことです。実際にはゲート配線やGND帰路の寄生インダクタンスも同じくらい重要です。
では、基板で何をすればいいのか
答えはシンプルです。「短く・太く・ループを小さく」
| 悪い例 |
良い例 |
| MOSFETとコンデンサが離れている |
スイッチング電流ループを最短で閉じる |
| ゲート抵抗がドライバ側にある |
ゲート抵抗をMOSFET直近に置く |
| GND帰路が遠回り |
行きと帰りを近づけて面積を減らす |
寄生インダクタンスはゼロにはできません。だからこそ、「どこに大電流が流れるか」「どこで急変するか」を見つけて、そこだけでも徹底的に短くするのが実務です。
最初から完璧なEMC設計を目指すより、まずは危ないループを見つける目を持つことが大切です。
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【完全図解】デカップリングコンデンサとは?|パスコン・バイパスとの違いと「ICの近くに置く理由」
パスコンをICの近くに置く理由
波形がビヨンビヨン震えるなら、次に見るべき記事
寄生インダクタンスの次は「リンギング対策」の実務です
寄生インダクタンスの存在がわかったら、次は「じゃあどう抑えるのか」に進みます。
特にゲート配線は、寄生Lと容量が組み合わさってLC共振を起こしやすく、リンギングの温床になります。
リンギング対策の本命
ゲートドライブ配線の引き方|リンギングを抑えるパターン設計 →
ゲート・ソース間ループ、ゲート抵抗、ケルビン接続まで、具体的な打ち手に進めます。
素子が壊れそうなら、次はサージ対策です
寄生インダクタンスは「保護回路が必要になる理由」そのものです
主回路配線の寄生インダクタンスは、スイッチOFF時のサージ電圧を生みます。ここで必要になるのが、スナバ回路やTVSなどの保護手段です。
まとめ|寄生インダクタンスは「配線の長さ」と「ループ面積」で育ちます
今日の結論を3行で整理します
この記事の結論
寄生インダクタンスとは、配線やパターンやループが勝手に持つ見えないコイル成分です。配線が長いほど、ループ面積が大きいほどLは増え、スイッチング時のL×di/dtによってサージやリンギングが悪化します。対策の基本は、短く・太く・ループを小さく、です。
回路図だけ見ていると、寄生インダクタンスは存在しないように見えます。でも現実の基板では、むしろこちらのほうが支配的になる場面が少なくありません。
だからこそ、壊れた後にスナバを足す前に、まず「どのループが長いのか」を見る癖をつけると設計が一段伸びます。
次は、GND・ゲート配線・スナバのどれか一つを深掘りすると、寄生インダクタンスの理解が実務に直結します。
NEXT STEP
次に読むべき記事|「配線1cm=10nH」を知った人が、次にやるべきこと
寄生インダクタンスの正体は、これでつかめたはずです。
ここまで来ると、多くの人がこの壁にぶつかります。
「じゃあ、このリンギングは本物?それとも測り方のせい?」
実はここが最大の落とし穴です。プローブのGNDリードにも寄生インダクタンスがあるため、基板は正常なのに波形だけが暴れていることが本当によくあります。以下では「対策する記事」と「正しく測る記事」を分けて並べました。順番としては、測り方の確認が先です。
寄生インダクタンスを制する4ステップ(全体像)
A
なぜ電圧が跳ねるのかを理解する
V = L × di/dt。この一本の式が、サージもリンギングも説明します。
▼
B
本物の波形かどうかを見極める
測り方が悪いだけの偽リンギングを、まず除外します。ここが最短ルート。
▼
C
レイアウトでLを減らす(本命)
部品を足す前に、ループ面積を削る。これが一番効いてタダです。
▼
D
残った分を回路で抑える
スナバ・ダンピング抵抗・ゲート抵抗。ここは最後の仕上げです。
BEST 3
迷ったらこの3本を上から順に
STEP 1 / 測定編
波形にリンギングが出る原因|配線とプローブGNDの共振
対策を始める前に、まずここです。プローブのワニ口クリップは、それ自体が数十nHのコイル。基板は健全なのに、測定系だけが共振して波形が暴れているケースが本当に多いんです。部品を足す前に読んでください。数日ムダにせずに済みます。
偽リンギングを除外する ▶
STEP 2 / 対策編
ノイズを減らすパターン設計|電流ループ面積を最小化する全手順
寄生インダクタンスを減らす方法は、実質「ループを小さくする」の一点です。しかもコストはゼロ。スナバを追加するより先に、配線を数mm詰めるほうがはるかに効きます。その具体的な手順をまとめました。
レイアウトで減らす ▶
STEP 3 / 仕上げ編
ダンピング抵抗・フェライトビーズはなぜ入れるのか?|リンギングを止める「減衰器」の正体
レイアウトを詰めても残ってしまう振動を、わざと損失を作って止めるのがこの手法です。「なぜ抵抗を直列に入れるだけで波形が落ち着くのか」——LC共振にブレーキをかける仕組みを図解しました。
回路で抑える ▶
A原理編|「なぜ電圧が跳ねるのか」を根っこから
B最優先|その波形、本物ですか?(測定の落とし穴)
C本命|レイアウトで寄生Lを削る
D回路で抑える|スナバ・ダンピング・保護素子
Eその先へ|ノイズ・EMC規格につながる話
どれから読むか迷ったら|あなたの状況で選ぶ
CASE 2|これから基板を設計する(予防したい)
CASE 3|そもそも「コイルの性質」から理解したい
最後に、寄生インダクタンスと向き合うコツ
寄生インダクタンスは、消すことはできません。できるのは「小さくすること」と「暴れさせないこと」だけです。
そして対策の順番は、いつも同じです。まず測り方を疑う。次にループを詰める。最後に部品で抑える。
この順番を守れば、闇雲にスナバを付け替えて何日も溶かすことはなくなります。急がば回れ、が一番速い分野です。
S
シラス
電験三種・QC検定1級 / メーカーでパワエレ設計・品質保証 実務10年
メーカーで電気設計と品質保証に携わってきた経験をもとに執筆しています。むずかしい専門用語をできるだけ使わず、はじめて学ぶ人がつまずかないように、図とたとえで説明することを大切にしています。
テーマ別に、もっと深く学ぶ
気になるところから読んでも大丈夫です。どの記事も、はじめて学ぶ人向けにやさしく書いています。
つまずきやすい「違い」を一気に解決
計算力アップ・資格対策