基板設計

サーマルリリーフとベタ接続の使い分け|はんだ付け性と放熱のトレードオフ

😣 こんな経験はありませんか?
  • 「サーマルリリーフをOFFにしろ」と言われたが、何のことかピンとこない
  • 大電流のパッドを十字接続にしていたら、レビューで指摘された
  • 逆にベタ接続にしたら、製造から「はんだ不良が出る」とクレームが来た
  • 結局どっちが正解なのか、判断基準がわからない
✅ この記事でわかること
  • サーマルリリーフとベタ接続の本当の意味
  • 「放熱性」と「はんだ付け性」のトレードオフの正体
  • パワー部品・信号部品ごとの使い分け基準
  • 製造部門と揉めないための合意の取り方

前回までの記事で サーマルビアの設計 を扱いました。「サーマルリリーフはOFFにしろ」というアドバイスが何度も出てきましたが、そもそも サーマルリリーフって何? なぜ存在するの? という疑問を持った方も多いはずです。

結論を先に言います。
サーマルリリーフは 「はんだ付けしやすくするための仕組み」 です。でも、その代償として 「放熱性が悪化する」。だから大電流のパッドではOFFにすべきだし、信号系の小さなパッドではONのままがいい。使い分けが命なのです。

この記事では、そのトレードオフを「家のドア」のたとえで完全図解していきます。

サーマルリリーフって何?=「狭いドア」の正体

サーマルリリーフ(Thermal Relief)とは、パッドをベタGNDに接続するときに、「十字(または斜め4本)の細いリブだけで繋ぐ」パターンのことです。

サーマルリリーフ

形状:十字の細いリブで接続

例えると:狭いドア

特徴:熱が逃げにくい

ベタ接続

形状:パッドの全周がベタと直結

例えると:全開のガレージ扉

特徴:熱がスムーズに逃げる

なぜ「狭いドア」をわざわざ作るのか?

「ベタ接続の方が熱が逃げて良いなら、全部ベタでいいのでは?」と思いますよね。でも、それでは はんだ付けの工程 で問題が起きます。

パッドをベタGNDに直結すると、はんだ付け時に 熱がベタGND全体に逃げてしまい、肝心のパッドの温度が上がりません。結果、はんだが溶けきらず 「いもはんだ」「未接合(オープン)」「片浮き」 といった不良が発生する。

そこで考案されたのが 「あえて熱の通り道を狭くする」=サーマルリリーフ。十字のリブだけで接続することで、はんだ付け時の熱がパッドに留まり、確実にはんだが溶けて良好な接合ができるわけです。

💡 ポイント
サーマルリリーフは 「製造(はんだ付け)の都合」 で生まれた仕組み。設計者の都合ではありません。だから設計者は「使いどころ」を判断する責任があります。

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トレードオフ=「放熱」と「はんだ付け性」のシーソー

サーマルリリーフとベタ接続の関係は、シーソーで考えるとわかりやすいです。

項目 サーマルリリーフ ベタ接続
放熱性能 ❌ 悪い ✅ 良い
通電(電流容量) ❌ ボトルネック ✅ 大電流OK
はんだ付け性 ✅ 良好 ❌ 不良リスク
手はんだ(リペア) ✅ 簡単 ❌ コテが負ける

見ての通り、放熱・通電を取れば製造性が下がり、製造性を取れば放熱・通電が下がる。完全な二律背反です。

⚠️ 注意
この事実を知らずに設計すると、「設計部門は放熱を最優先したいが、製造部門ははんだ不良を懸念して反対する」という対立が起きます。トレードオフの存在を最初に共有しておくことが大切です。

使い分けの判断基準=「電流」と「発熱」で決める

では実際にどう使い分けるか。基準はシンプルで 「そのパッドに大電流が流れるか/発熱するか」 です。

基準1

大電流が流れるパッド → ベタ接続
パワーコネクタ、ヒューズ、シャント抵抗、パワー素子のソース/ドレイン端子など。電流のボトルネックを作ってはいけない。

基準2

放熱が必要なパッド → ベタ接続
パワーICの放熱パッド、レギュレータのGNDタブ、LEDの放熱パッドなど。熱の逃げ道を確保する。

基準3

小信号・低電流のパッド → サーマルリリーフ
マイコン、抵抗、コンデンサ、コネクタの信号ピン、LEDのアノードなど。製造性を優先。

具体例で見る使い分け

部品例 推奨 理由
電源コネクタ(10A以上) ベタ接続 電流ボトルネック回避
パワーIC放熱パッド ベタ接続 放熱経路の確保
パワーMOSFETのソース ベタ接続 電流+放熱の両方
マイコンのGND サーマルリリーフ 小信号・はんだ性優先
パスコン(0603・0805) サーマルリリーフ 片浮き防止
スルーホールのGND端子 サーマルリリーフ 手はんだ性確保
🔧 現場の声
「迷ったら、その部品が 1A以上流れるか で判断しなさい」とよく言われます。1A以上ならベタ接続を検討、未満ならサーマルリリーフでOK、というざっくりした目安です。

ベタ接続にしたときのはんだ不良対策

「大電流だからベタ接続したい。でも、はんだ不良のリスクが心配…」というケースが必ず出てきます。安心してください、対策はあります。

対策1

リフロープロファイルを最適化する
大きなベタ接続のパッドは「予熱時間を長めに」「ピーク温度を少し高めに」して、パッド全体を確実に温める。

対策2

パッド形状を非対称にする
チップ部品(0603など)の片側だけベタ直結、もう片側はサーマルリリーフにすると 「片浮き(ツームストーン現象)」 を防げる。…と思いきや、これは逆効果。実は 両端の熱バランスを揃える 方がツームストーン対策に有効。

対策3

製造部門と「設計時に」相談する
後出しじゃんけんでは揉める。設計初期に 「このパッドはベタ接続にしたい。リフロー条件で対応可能ですか?」 と確認しておくのが鉄則。

⚠️ ツームストーン現象とは
小型チップ部品(0603・0402など)が、リフロー時に「片側だけ先にはんだが溶けて、部品が立ち上がってしまう」現象。墓石のように立つことから「ツームストーン」と呼ばれる。両端のはんだ溶融タイミングがズレることが原因。
💡 ポイント
小型チップ部品(0603以下)にはベタ接続は 基本NG です。ツームストーン対策のため、サーマルリリーフ+両端の熱対称性を保つのが鉄則。

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CADでの設定方法=「自動」を信じすぎない

多くの基板CADでは、ベタGNDのパッドは デフォルトでサーマルリリーフが自動付与 されます。便利ですが、これが落とし穴。

パワー部品でも自動でサーマルリリーフが付いてしまい、設計者が 気づかずに発注 →試作時に発熱トラブル、というのが典型的な失敗パターンです。

CADで必ず確認すべき項目

  • パワー部品のパッドが 個別にベタ接続設定 になっているか
  • 放熱パッドのサーマルリリーフが OFF になっているか
  • 大電流コネクタの足が 十字接続のまま になっていないか
  • ガーバー出力後に 目視で確認 したか(CAD表示と実際の差を防ぐ)

主要CADの設定箇所(参考)

CAD サーマルリリーフ設定箇所
Altium Designer Polygon設定 → Connect Style
KiCad Zone Properties → Pad connections
CR-5000 / CR-8000 プレーン設定 → 接続方法
EAGLE Polygon設定 → Thermals
🔧 現場の声
CADの自動設定は「全部サーマルリリーフ」になりがち。パワー部品だけ個別にベタ接続を指定するのが現場のスタンダードです。設計レビューでは、必ずガーバーやプレーン表示で目視確認を。

製造部門と揉めないための合意の取り方

設計者は「放熱性能」を、製造部門は「歩留まり」を重視します。利害がぶつかるのは当然。だからこそ、事前のすり合わせ が肝心です。

STEP 1

設計初期に「ベタ接続にしたいパッド」をリストアップ
パワー部品・放熱パッド・大電流コネクタを洗い出す。

STEP 2

製造部門に共有して相談
「このパッドはベタ接続にしたい。リフロー条件で対応可能ですか?」と聞く。

STEP 3

合意をドキュメント化
「このパッドはベタ接続。リフロー予熱時間を◯秒延長で対応する」と図面・指示書に明記。

STEP 4

試作後は実機で熱画像 & はんだ品質を評価
サーモグラフィでパッド温度を確認。X線ではんだボイドもチェック。

💡 ポイント
「設計者の独断でベタ接続にして、量産で大量不良→リコール」というのが最悪のシナリオです。製造部門との合意こそ、ベタ接続を成功させる最大のカギです。

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まとめ=部品ごとに「ドアの広さ」を選ぶ

今日のまとめです。

✅ サーマルリリーフは 「はんだ付け性のための狭いドア」

✅ ベタ接続は 「放熱・通電のための全開ガレージ」

大電流・発熱パッドはベタ接続、小信号・チップ部品はサーマルリリーフ

✅ CADの自動設定を信じすぎず、パワー部品は個別に指定

✅ ベタ接続は 製造部門と事前合意 を必ず取る

設計の都合と製造の都合は、
「設計時に」すり合わせる

サーマルリリーフとベタ接続の使い分けは、設計者が 「放熱・通電・製造性の3つを天秤にかけて決める仕事」 です。CADの自動設定に任せず、自分の頭で「このパッドは何が大事か」を判断できるようになりましょう。

次回は、ベタGND自体の設計(GNDプレーンの引き方)に踏み込んでいきます。お楽しみに。

📚 次に読むべき記事

📘 【ノイズ対策の要】GNDパターンの正しい引き方|パワーGNDと信号GNDの分離・1点アース →

ベタGNDの上位概念であるGNDパターン全体の設計思想。サーマルリリーフ/ベタ接続の判断もこの考え方の延長線上にあります。

📘 サーマルビアの設計|放熱パッドからどう熱を逃がすか →

前回記事。「サーマルリリーフOFF」が何度も登場しますが、その理由を本記事で解説しています。セットで読むと理解が深まります。

📘 大電流基板で避けるべき設計ミス5選|ビア焼損・パターン溶断を防ぐ →

「コネクタの足元の設計ミス」として、サーマルリリーフを残したまま大電流を流して焼損する事例も紹介。本記事の応用例。

📘 【保存版】部品配置の鉄則|パワエレ基板で最初に決めるべき3つのこと →

配置で熱の集中・分散を決め、サーマルリリーフ/ベタで放熱の細部を決める。両方が揃って初めて熱設計が完成します。

📘 【入門】なぜ熱設計が必要なのか?|パワー半導体が壊れるメカニズム →

「ベタ接続による放熱」の重要性をより深く理解したい人向け。半導体が熱で壊れるメカニズムから入門できます。

📘 内層パターンの落とし穴|外層と内層で許容電流が違う理由 →

「広いベタGND」をどの層に置くべきかの判断材料。サーマルリリーフ・ベタ接続を考える上での前提知識。

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