- 「Rth = 5 ℃/W」と書かれていても、それが熱いのか冷たいのかピンとこない
- ヒートシンクのカタログに「熱抵抗1.5 ℃/W」と書かれていても良し悪しがわからない
- 単位の「℃/W」の意味を聞かれて、答えに詰まったことがある
- そもそも「割り算の単位」が直感で理解できない
- 「℃/W」という単位の正しい読み方と意味
- 具体的な数値で「熱い熱抵抗」と「冷たい熱抵抗」の感覚をつかむ
- ヒートシンクのカタログを見て「これは冷えそうか」を判断できるようになる
前回の記事で、熱抵抗が「電気のオームの法則とまったく同じ」だと解説しました。式は理解できても、実際に「Rth = 5 ℃/W」と書かれた数値を見て「で、それって熱いの?冷たいの?」と感覚がつかめない方は多いはずです。
この記事では、熱抵抗の単位「℃/W」を具体的な数値と日常的な感覚に結びつけて解説します。読み終わる頃には、データシートやカタログの熱抵抗を見ただけで「これは冷えそう」「これは厳しいな」と即判断できるようになります。
熱設計の全体像|「発熱→伝熱→放熱」の3ステップで考える完全マップ → 損失=発熱|パワー半導体の発熱量を見積もる完全ガイド → 自然空冷・強制空冷・水冷の違い|冷却方式の選び方完全ガイド → 熱抵抗とは?|「熱のオームの法則」で完全理解する熱設計の核心 →
目次
「℃/W」の正しい読み方|単位を分解して理解する
「℃/W」という単位は、声に出して読むと「ど、わっと」または「セルシウス度パーワット」です。でも読み方を覚えるより大事なのは、意味の理解です。
単位の意味を一行で言うと
「1W流すと、何℃の温度差が生まれるか」
つまり「℃/W」は、1Wあたりの温度上昇を表しているのです。
「割り算の単位」が直感で理解できない人へ
「割り算の単位」を直感で理解するには、身近な単位を思い出すのがおすすめです。
| 単位 | 読み方 | 意味 |
|---|---|---|
| km/h | 時速 | 1時間あたり何km進むか |
| 円/個 | 単価 | 1個あたり何円か |
| L/100km | 燃費 | 100kmあたり何リットル消費するか |
| ℃/W | 熱抵抗 | 1Wあたり何℃温度が上がるか |
「km/h」が車の速さを表すように、「℃/W」は熱の流れにくさを表しています。数字が大きいほど熱が流れにくい=1W流しただけでドカンと温度が上がる、という意味です。

具体例で感覚をつかむ|「Rth = 5 ℃/W」とはどういう状態か
ここからは具体的な数値で感覚をつかんでいきましょう。熱抵抗の数値ごとに、どれくらい温度が上がるかを見ていきます。
発熱量1Wでの温度上昇
Rth = 1 ℃/W
1W流して1℃上昇
非常に良い
大型ヒートシンクや銅板の塊レベル
Rth = 5 ℃/W
1W流して5℃上昇
普通レベル
中型ヒートシンク(強制空冷)の代表値
Rth = 20 ℃/W
1W流して20℃上昇
厳しい
小型ヒートシンク(自然対流)の代表値
Rth = 60 ℃/W
1W流して60℃上昇
危険水準
ヒートシンクなしのMOSFET単体
発熱量を変えるとどうなる?
熱抵抗が同じでも、発熱量が増えれば温度上昇は比例して増えます。「Rth = 5 ℃/W」のヒートシンクで、発熱量を変えてみましょう。
| 発熱量 P | 温度上昇 ΔT | 外気40℃のとき |
|---|---|---|
| 1 W | 5 ℃ | 45℃ ✅余裕 |
| 5 W | 25 ℃ | 65℃ ✅余裕 |
| 10 W | 50 ℃ | 90℃ ⚠️注意 |
| 20 W | 100 ℃ | 140℃ ❌危険 |
「同じヒートシンクで発熱量だけ2倍になったら、温度上昇も2倍」──これは熱設計の鉄則です。回路設計者から「この素子に変更したい、発熱が1.5倍になるけど」と言われたら、即座に温度上昇も1.5倍になると判断できる感覚を持ってください。

身近な物の「℃/W」を比較してみる
熱抵抗の数値感覚をさらに固めるため、身近な部品やシステムの熱抵抗を一覧にしました。
| 対象物 | 熱抵抗の目安 | 特徴 |
|---|---|---|
| 大型液冷ジャケット | 0.05〜0.2 ℃/W | EV・新幹線・大電力産業機器 |
| 大型強制空冷ヒートシンク | 0.5〜2 ℃/W | サーバー・産業電源 |
| 中型ヒートシンク(強制空冷) | 2〜10 ℃/W | PC・家電のパワー部 |
| 小型ヒートシンク(自然対流) | 15〜30 ℃/W | 小型電源・LED電球 |
| MOSFET(TO-220、ヒートシンクなし) | 62 ℃/W | 基板実装のみ、放熱頼みなし |
| 表面実装MOSFET(SO-8) | 50〜100 ℃/W | 放熱は基板の銅箔頼み |
| パワーモジュール(Rth(j-c)) | 0.1〜0.5 ℃/W | 大電力IGBT・SiCモジュール |
「Rth(j-a)」と「Rth(j-c)」のスケール感
データシートでよく見る2種類の熱抵抗。桁違いの差があるので注意してください。
Rth(j-a):ジャンクション〜外気
代表値:50〜100 ℃/W
- ヒートシンクなしの状態
- 1W流すだけで50℃以上上昇
- そのまま使うと即座に温度オーバー
Rth(j-c):ジャンクション〜ケース
代表値:0.5〜3 ℃/W
- 素子内部の固定値
- ヒートシンクで残りを補う前提
- 実務ではこちらを起点に設計
「Rth(j-a) = 62 ℃/W」のMOSFETを1W使うだけで、ジャンクションは外気+62℃。外気40℃なら、それだけで102℃です。ヒートシンクをつけることが熱設計の前提と理解してください。

ヒートシンクのカタログを「℃/W」で読み解く
ヒートシンクのカタログには、必ず「熱抵抗」が書かれています。これを読めるようになると、選定が一気に楽になります。
カタログによくある表記の例
例:ヒートシンク型番 ABC-123
| サイズ | 100 × 80 × 30 mm |
| 熱抵抗(自然対流) | 3.5 ℃/W |
| 熱抵抗(風速2m/s) | 1.2 ℃/W |
| 材質 | アルミ A6063 |
これを見てわかること
自然対流で1W流すと3.5℃上昇。10W流したら35℃上昇する
ファンで風速2m/sを当てると1.2℃/Wに激減。同じヒートシンクでも能力が約3倍に
10Wの素子なら、自然対流で35℃上昇、強制空冷で12℃上昇──選定の目安が立つ
ヒートシンク選定の早見表
発熱量と許容温度上昇から、必要な熱抵抗を逆算するのが選定の基本です。
Rth(必要) = 許容ΔT / P
たとえば「外気40℃で、ジャンクション温度100℃に抑えたい、発熱は10W」なら、
許容ΔT = 100 - 40 = 60℃
Rth(必要) = 60 / 10 = 6 ℃/W以下のヒートシンクが必要

クイズで腹落ちさせる|「℃/W」感覚チェック
ここまでの内容を、クイズ形式で確認してみましょう。電卓なしで「だいたい何℃?」と即答できれば合格です。
Q1:5Wの発熱、Rth = 4 ℃/W、外気30℃
この条件で、ジャンクション温度は何℃?
▼ 答えを見る
ΔT = 5 × 4 = 20℃
Tj = 30 + 20 = 50℃
許容温度125℃に対して大幅な余裕。OK判定。
Q2:20Wの発熱、Rth = 5 ℃/W、外気40℃
この条件で、ジャンクション温度は何℃?許容125℃を超える?
▼ 答えを見る
ΔT = 20 × 5 = 100℃
Tj = 40 + 100 = 140℃
許容オーバー。ヒートシンクをより低熱抵抗のものに変更するか、強制空冷化が必要。
Q3:許容温度上昇60℃、発熱量15W
必要な熱抵抗は何℃/W以下?
▼ 答えを見る
Rth(必要) = 60 / 15 = 4 ℃/W以下
中型〜大型のヒートシンク(強制空冷推奨)が必要レベル。
この3問が即答できれば、設計レビューで困りません。「温度上昇 = 発熱 × 熱抵抗」──この一行を頭に焼き付けてください。電卓1つあれば全ての熱設計の判断ができるようになります。

「℃/W」と「K/W」は同じもの|単位の落とし穴
海外メーカーのデータシートでは、熱抵抗の単位が「K/W」(ケルビン毎ワット)と書かれていることがあります。「℃/W」と違うものに見えますが、実は完全に同じ値です。
なぜ同じなのか?
℃(セルシウス度)とK(ケルビン)は、絶対値の起点が違うだけで、目盛りの間隔は同じです。
| 温度 | ℃表記 | K表記 |
|---|---|---|
| 水の凍る温度 | 0℃ | 273.15 K |
| 水の沸騰温度 | 100℃ | 373.15 K |
| 差(温度差) | 100℃ | 100 K |
熱抵抗は「温度差」を扱うので、絶対値は関係ありません。「3 ℃/W」も「3 K/W」も同じ意味・同じ値です。海外のデータシートで「K/W」を見ても、そのまま「℃/W」として読めばOKです。
注意:「mΩ」と「mΩ・cm²」のように、単位が違うものもある
熱関連には他にも単位があり、混同するとアウトです。代表例を整理しておきます。
| 単位 | 名前 | 意味 |
|---|---|---|
| ℃/W (K/W) | 熱抵抗 | 部品全体の熱の流れにくさ |
| W/m·K | 熱伝導率 | 材料そのものの熱の伝わりやすさ |
| W/m²·K | 熱伝達率 | 表面から流体へ熱が逃げやすさ |
| ℃·cm²/W | 熱抵抗(面積依存) | TIM・放熱シートの単位 |
放熱シートの熱抵抗は「℃·cm²/W」で書かれていることが多いです。これは面積1cm²あたりの値なので、実際の接触面積で割る必要があります。例:「1 ℃·cm²/W」のシートを5cm²で使うなら、実際の熱抵抗は0.2 ℃/Wです。

まとめ|「℃/W」を制する者が熱設計を制す
- 「℃/W」の意味 1Wの発熱で何℃の温度差が生まれるかを表す
- 数値が小さいほど良い 熱が流れやすく、温度上昇が小さい
- 感覚値の目安 1℃/W=優秀、5℃/W=普通、20℃/W=厳しい、60℃/W=危険
- 計算は3つの式だけ ΔT = P × Rth、Tj = Ta + ΔT、Rth(必要) = 許容ΔT / P
- K/Wは℃/Wと同じ値 海外データシートでも安心して読める
- TIMは面積依存単位に注意 ℃·cm²/Wは実面積で割って使う
熱抵抗の単位「℃/W」が「1Wあたりの温度上昇」だと腹落ちすれば、熱設計のカタログやデータシートを見るのが楽しくなります。「これは冷えそう」「これは厳しい」という直感が育つと、設計レビューで即座に判断できるようになります。
次のステップでは、この熱抵抗の概念を使って「ジャンクション温度」を計算する実務的な手順を深掘りしていきます。
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