- 設計レビューで「Tjの計算は?」と聞かれたが、Tj・Tc・Ts・Taの違いがそもそもわからない
- データシートに「Rth(j-c) = 0.5℃/W」と書いてあるが、この数字をどう使えばいいのか不明
- 熱設計の参考書を開くと、いきなり熱等価回路図が出てきて挫折した
- 先輩に聞きたいけど「4年目でこれは恥ずかしい…」と思って聞けない
- 熱回路モデルが「電気回路と全く同じ考え方」で解ける理由
- Tj→Tc→Ts→Taの4つのノードが「何を表しているか」を直感で理解
- 直列接続された熱抵抗から、ジャンクション温度Tjを5秒で計算する方法
設計部門との合同レビュー会議で、電気設計のエンジニアが「このMOSFETのTjが135℃まで上がるので、ヒートシンクを大きくしたい」と発言する。あなたは品質保証の立場で参加しているが、「Tj」が何の略で、どうやって計算しているのかわからない。質問もできない。黙って議事録を取る——。
この記事を読み終わる頃には、その会議で「Tjは熱回路モデルで計算しますよね。Rth(j-a)はいくつですか?」とこちらから質問できるレベルになります。結論を先に言います。熱の流れは「電気の流れ」と全く同じ式で計算できます。これさえ知っていれば、熱設計の8割は理解できます。
目次
熱回路モデルとは?「熱の流れ」を電気回路で考える魔法
熱回路モデルとは、「熱の流れを電気回路に置き換えて計算する手法」のことです。半導体チップから発生した熱が、ケース→ヒートシンク→空気へと逃げていく過程を、電気回路のオームの法則とそっくりな式で計算できます。
電気回路で「電圧が高いところから低いところへ電流が流れる」のと同じように、熱回路では「温度が高いところから低いところへ熱が流れる」のです。チップの温度(高温)から空気の温度(低温)へ、熱が川のように流れていくイメージです。
「電気設計の人が"熱は電気と同じ"と言っていた意味がやっとわかった」——これは多くの品質保証・生産技術の方が通る道です。アナロジーで考えると、難しい熱設計が一気に身近になります。

熱回路の4つのノード|Tj→Tc→Ts→Taを完全理解
熱回路モデルには、覚えるべき4つの温度ポイント(ノード)があります。これは「熱が旅する4つの駅」だと思ってください。半導体チップという出発点から、空気というゴールまで、熱は4つの駅を経由して旅をします。
| 記号 | 名称 | 場所のイメージ |
|---|---|---|
| Tj | ジャンクション温度 | 半導体チップ内部の温度(最も熱い場所・出発点) |
| Tc | ケース温度 | 部品のパッケージ表面の温度 |
| Ts | ヒートシンク温度 | 放熱フィン(ヒートシンク)の温度 |
| Ta | 周囲温度 | 部品の周りの空気の温度(最も冷たい・ゴール) |
「j」はjunction(接合)、「c」はcase(ケース)、「s」はsink(シンク=ヒートシンク)、「a」はambient(周囲)の頭文字です。覚えてしまえば、もう忘れません。

熱は「直列回路」を流れる|川下りのイメージで理解する
4つのノードの間には、それぞれ「熱抵抗」が存在します。熱抵抗とは、熱の流れにくさを示す数値のこと。電気回路で言う「抵抗R」と全く同じ役割です。
ジャンクション〜ケース間の熱抵抗。チップ内部からパッケージ表面までの熱の流れにくさ。データシートに記載されている。
ケース〜ヒートシンク間の熱抵抗。部品とヒートシンクの「接触面」の熱抵抗。サーマルグリスやサーマルシートで決まる。
ヒートシンク〜周囲空気間の熱抵抗。ヒートシンクから空気へ熱を逃がす能力。フィンの大きさや風量で決まる。
これらの熱抵抗は、「直列に接続されている」と考えます。なぜなら、熱はチップから空気へ「一方通行」で流れるからです。途中で分岐したり、戻ったりしません。川の上流から下流へ水が流れていくのと同じです。
直列回路なので、合計の熱抵抗は単純に足し算できます。Rth(j-a) = Rth(j-c) + Rth(c-s) + Rth(s-a)。これが熱設計で最も重要な式です。

電気回路と熱回路の完全対応表|置き換えるだけで解ける
ここまで来れば、もう熱設計の8割は理解できたも同然です。下の表を見てください。電気回路の言葉を熱回路の言葉に置き換えるだけで、計算式は全く同じです。
| 電気回路 | 熱回路 | 単位 |
|---|---|---|
| 電圧 V(電位差) | 温度差 ΔT | ℃ または K |
| 電流 I | 発熱量 P(損失) | W |
| 抵抗 R | 熱抵抗 Rth | ℃/W |
| V = I × R | ΔT = P × Rth | — |
「電圧」を「温度」に、「電流」を「発熱量」に、「抵抗」を「熱抵抗」に置き換える。たったこれだけで、オームの法則がそのまま使えます。電気回路を学んだ人なら、新しく覚えることはほぼゼロです。

ジャンクション温度Tjを5秒で計算する公式
熱設計のゴールは、「ジャンクション温度Tjが、半導体の最大定格(通常150℃や175℃)を超えないこと」を確認することです。Tjが定格を超えると、半導体は壊れます。
Tj = Ta + P × Rth(j-a)
Ta:周囲温度 [℃]
P:発熱量(損失) [W]
Rth(j-a) = Rth(j-c) + Rth(c-s) + Rth(s-a)
この式の意味は単純です。「周囲温度に、熱が流れることで発生する温度上昇を足したもの」がジャンクション温度になる、ということ。電気回路で「電源電圧 = 各抵抗の電圧降下の合計」となるのと全く同じ考え方です。
設計レビューで「Tjを計算して」と言われたら、この式に値を入れるだけです。データシートからRth(j-c)を読み、サーマルグリスのRth(c-s)を確認し、ヒートシンクのRth(s-a)を選ぶ。あとは足し算と掛け算だけです。

実際にTjを計算してみよう|MOSFETの熱設計例
具体的な数字で計算してみましょう。あなたの机の上にExcelを開いて、一緒に手を動かしてみてください。
- 使用部品:パワーMOSFET(最大Tj = 150℃)
- 発熱量 P = 20 W
- 周囲温度 Ta = 40℃(夏場の盤内温度を想定)
- Rth(j-c) = 0.5 ℃/W(データシート値)
- Rth(c-s) = 0.2 ℃/W(サーマルグリス使用)
- Rth(s-a) = 1.5 ℃/W(選定したヒートシンク)
合計の熱抵抗 Rth(j-a) を計算
Rth(j-a) = 0.5 + 0.2 + 1.5 = 2.2 ℃/W
温度上昇 ΔT を計算
ΔT = P × Rth(j-a) = 20 × 2.2 = 44℃
ジャンクション温度 Tj を計算
Tj = Ta + ΔT = 40 + 44 = 84℃
Tj = 84℃ < 最大定格 150℃ → OK!この熱設計は問題ない。ただし実務では、ディレーティング(定格の8割で使う)を考慮し、120℃以下に抑えることが推奨されます。

途中のノード(Tc・Ts)の温度も計算できる
熱回路モデルの便利なところは、「途中の温度」も簡単に求められること。例えば「ケース温度Tcは何℃?」と聞かれたら、空気側から積み上げて計算します。
Ts(ヒートシンク)
Ts = Ta + P × Rth(s-a)
= 40 + 20 × 1.5
= 70℃
Tc(ケース)
Tc = Ts + P × Rth(c-s)
= 70 + 20 × 0.2
= 74℃
こうして見ると、熱は「Ta(40℃) → Ts(70℃) → Tc(74℃) → Tj(84℃)」と階段を登るように温度が上がっていくのがわかります。逆に言えば、熱は「Tj(84℃) → Tc(74℃) → Ts(70℃) → Ta(40℃)」と滝のように流れ落ちていくイメージです。
電気回路で「各抵抗の両端の電圧降下」を計算するのと全く同じです。直列回路の各点の電位を求めるのと、熱回路の各ノードの温度を求めるのは、本質的に同じ作業です。

熱回路モデルでよくある3つの勘違い
① Rth(j-c)はパッケージごとに違う
データシートのRth(j-c)はパッケージ形状で大きく変わります。TO-220なら1〜2℃/W、TO-247なら0.5℃/W、表面実装のDPAKなら3〜5℃/W程度。「同じMOSFETだから熱抵抗も同じ」は誤りです。必ず使う部品のデータシートを確認しましょう。
② Rth(c-s)は組み付けで変わる
ケース〜ヒートシンク間の熱抵抗Rth(c-s)は、サーマルグリス・サーマルシート・締結トルクで大きく変動します。「グリスを塗り忘れた」「ネジの締め付けが甘い」だけで、熱抵抗が2倍以上に跳ね上がることもあります。組立工程の管理も熱設計の一部です。
③ 周囲温度Taは「室温」ではない
TaはあくまでMOSFETのすぐ周りの空気の温度であり、「部屋の室温」ではありません。制御盤の中なら盤内温度(夏場で50〜60℃)を、車載なら車内温度(最大105℃)を使います。Taを甘く見積もると、設計が一発で破綻します。
熱設計の失敗の8割は、この3つの勘違いから生まれます。「データシート通りに計算したのに壊れた」という事故の原因は、たいていRth(c-s)の管理不足か、Taの過小評価です。

まとめ|熱回路モデルは「電気回路と同じ」と覚えるだけ
- 熱回路モデルは、熱の流れを電気回路に置き換える手法
- 4つのノード:Tj(チップ)→ Tc(ケース)→ Ts(ヒートシンク)→ Ta(空気)
- 3つの熱抵抗:Rth(j-c)、Rth(c-s)、Rth(s-a) は直列接続なので足し算でOK
- ジャンクション温度の公式:Tj = Ta + P × Rth(j-a)
- Tjが半導体の最大定格を超えないように設計する
熱設計は「難しそう」に見えますが、本質はオームの法則と同じです。電気を扱える人なら、熱も扱えます。次回の設計レビューで「Tjは何℃ですか?」と聞かれたら、堂々と答えられるはずです。
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