- 「ノイズ対策」とよく聞くけど、そもそもノイズって何なのかモヤモヤしている
- 先輩に「その配線、ノイズ拾うよ」と言われたが、何を拾うのかイメージが湧かない
- EMI・EMS・EMCという用語が出てきたが、どれがどれだか混同してしまう
- ノイズ=「欲しくない電圧/電流の変動」であるというシンプルな定義
- ノイズが生まれる3つのメカニズム(スイッチング、インダクタンス、容量結合)
- ノイズが伝わる2つの経路(伝導ノイズ・放射ノイズ)
- EMI(加害者)とEMS(被害者)の関係、そしてEMC(共存)の概念
パワエレ設計や基板設計を学び始めると、必ず「ノイズ」という壁にぶつかります。
「GNDパターンを太くしろ」「ループ面積を小さくしろ」「デカップリングコンデンサを入れろ」——対策のHOWは山ほど見つかります。でも、そもそもノイズとは何か? なぜ発生するのか?を正面から説明してくれる記事は意外と少ないのです。
「なぜ」がわからないまま対策のレシピだけ覚えても、新しい回路で応用が利きません。この記事では、ノイズ対策に入る「前の前」、つまり「敵の正体」を知ることに集中します。正体がわかれば、対策の方針が自然と見えてきます。
目次
ノイズとは何か?|「欲しくない電気信号」のすべて
📖 ノイズの定義:「あなたが意図しなかった電圧・電流の変動」
ノイズの定義は、実はとてもシンプルです。
ノイズ = 目的の信号以外の、不要な電圧や電流の変動
たとえば、あなたが5VのDC電源を作ったとします。本来なら波形はまっすぐな直線のはずです。しかし、実際にはオシロスコープで見ると、その直線の上にギザギザ(リップル)や、ピクッとした鋭いトゲ(スパイク)が乗っています。
この「ギザギザ」や「トゲ」が、すべてノイズです。あなたが意図して作ったものではない。でも、確かにそこに存在している。これが「欲しくない電気信号」の正体です。
☕ たとえ話:静かなカフェで聞こえてくる「他人の会話」
想像してみてください。あなたは静かなカフェで本を読んでいます。聞きたいのは自分の頭の中の声(=信号)だけ。しかし、隣のテーブルから大声の電話(=スイッチングノイズ)が聞こえてきます。窓の外からは工事のドリル音(=外来ノイズ)が侵入してきます。隣の部屋のBGM(=誘導ノイズ)も壁越しに漏れ聞こえてきます。
あなたにとって、これらは全て「ノイズ」です。しかし、電話をかけている人や工事現場にとっては、それは「自分の仕事(=信号)」です。つまり、ノイズとは「相対的な」概念であり、ある回路にとっての信号が、別の回路にとってはノイズになりうるのです。
「ノイズ」は特定の物質や粒子ではありません。それは「あなたの回路にとって不要な電圧・電流の変動」という関係性の名前です。だから、同じ電磁波でも、送信側にとっては「信号」、受信側にとっては「ノイズ」になりうるのです。

ノイズが「生まれる」3つのメカニズム
ノイズはどこから来るのでしょうか? 電子回路で発生するノイズには、大きく分けて3つの発生メカニズムがあります。物理法則に基づいた「原因」を知っておくと、対策の方向性が自然と見えてきます。
⚡ メカニズム①:スイッチング(電流の急激なON/OFF)
パワエレ回路でノイズの最大の発生源となるのが、MOSFETやIGBTなどのスイッチング動作です。
スイッチが「パチッ」と切り替わる瞬間、電流は0Aから数十Aに、あるいは数十Aから0Aに、ナノ秒単位で急激に変化します。この「急激な変化」こそが、ノイズの根源です。
なぜ急激な変化がノイズになるのか? それは、配線に必ず存在する「寄生インダクタンス(配線が持つ微小なコイル成分)」が関係しています。電流が急変すると、インダクタンスの両端に次の式で表される電圧が発生します。
L=配線のインダクタンス、dI/dt=電流の変化速度。電流が速く変化するほど、大きなノイズ電圧が発生する。
たとえば、たった10nH(ナノヘンリー)の配線インダクタンスでも、10A/10ns(= 1GA/s)のスイッチングが起きると、V = 10nH × 1GA/s = 10V ものノイズ電圧が発生します。マイコンの信号レベルが3.3Vだとすれば、これは壊滅的な妨害です。
🧲 メカニズム②:電磁誘導(磁界による巻き込み)
電流が流れる配線の周囲には、必ず磁界が発生します。その磁界が変化すると、近くにある別の配線に「意図しない電圧」が誘導されます。これが電磁誘導によるノイズです。
原理は変圧器と同じです。電力を送るつもりがないのに、隣の配線がミニ変圧器の2次巻線のように振る舞ってしまう。これが「誘導ノイズ」です。
対策の方向性は明確で、「ノイズ源の配線と被害者の配線を物理的に離す」「ループ面積を小さくする」ことです。磁束を「拾う面積」が小さければ、誘導されるノイズも小さくなります。
🔌 メカニズム③:容量結合(電界によるすり抜け)
2本の配線が近くに並んでいると、その間に微小なコンデンサ(浮遊容量)が形成されます。一方の配線の電圧が急変(dV/dt)すると、この浮遊容量を通じて隣の配線にノイズ電流が流れ込みます。
C=配線間の浮遊容量、dV/dt=電圧の変化速度。電圧が速く変化するほど、大きなノイズ電流が隣の配線に流れ込む。
パワエレ回路では、MOSFETのドレイン電圧が数百Vから0Vへナノ秒で切り替わるため、dV/dtが極めて大きくなります。このとき、隣の信号配線に浮遊容量を介してノイズが侵入するのです。スイッチノードの配線をアナログ信号やゲート駆動信号の配線から離す必要があるのは、まさにこの容量結合を防ぐためです。

📋 3つのメカニズムを1枚で整理
| メカニズム | 物理現象 | 公式 | 対策の方向性 |
|---|---|---|---|
| ⚡ スイッチング | 電流の急激なON/OFFが配線のインダクタンスに電圧を発生させる | V = L × dI/dt | 配線を短くする(Lを減らす)、スイッチング速度を落とす(dI/dtを減らす) |
| 🧲 電磁誘導 | 変化する磁界が近くの配線に電圧を誘導する | V = -N × dΦ/dt | 配線を離す、ループ面積を小さくする |
| 🔌 容量結合 | 電圧の急変が浮遊容量を通じてノイズ電流を流し込む | I = C × dV/dt | 配線を離す(Cを減らす)、GNDシールドを入れる |
dI/dt(電流の変化速度)とdV/dt(電圧の変化速度)。この2つの「変化の速さ」が、ノイズのすべてを支配しています。ゆっくり変化するならノイズにならない。急激に変化するからノイズになる。これがノイズの物理的本質です。
ノイズが「伝わる」2つの経路|伝導ノイズと放射ノイズ
ノイズは「発生した場所」から「被害を受ける場所」まで、どうやって移動するのでしょうか。伝わり方は大きく2つに分類されます。
伝導ノイズ(Conducted Noise)
電源ケーブルや信号線などの「電線」を通って伝わるノイズ。周波数帯は主に150kHz〜30MHz。
たとえ話:排水管を通って隣の部屋に汚水が流れ込むイメージ。物理的な「管」を伝って移動する。
放射ノイズ(Radiated Noise)
「空間」を電磁波として飛んで伝わるノイズ。周波数帯は主に30MHz〜数GHz。
たとえ話:隣の部屋の大声が壁越しに聞こえてくるイメージ。物理的なつながりがなくても伝わる。
さらに、伝導ノイズにはディファレンシャルモード(ノーマルモード)とコモンモードの2種類があります。ディファレンシャルモードはVCC-GND間の「行きと帰りが逆向き」のノイズ。コモンモードはVCCもGNDも「同じ向き」に流れるノイズで、対策がより困難です。

「加害者」と「被害者」の関係|EMI・EMS・EMCとは
ここまでの話を整理すると、ノイズの問題には必ず「加害者(ノイズを出す側)」と「被害者(ノイズを受ける側)」が存在します。電磁ノイズの世界では、この関係に専門用語が付いています。
🔴 EMI(加害者側)=ノイズを出す
EMI(Electromagnetic Interference:電磁妨害)とは、電子機器が動作することで発生・放出する電磁ノイズのことです。「エミッション(Emission=放出)」とも呼ばれます。
パワエレ回路でいえば、MOSFETのスイッチングが生み出すノイズ電圧や、電源ケーブルを伝って外部に漏れ出るノイズ電流が、すべてEMIに該当します。
🔵 EMS(被害者側)=ノイズに耐える
EMS(Electromagnetic Susceptibility:電磁感受性)とは、外部からのノイズに対してどれだけ耐えられるか(=免疫力)を表す指標です。「イミュニティ(Immunity=免疫)」とも呼ばれます。
たとえば、マイコンのADCが隣のインバータのスイッチングノイズに影響されず正確な値を読めるなら、そのADCのEMS(イミュニティ)は高いといえます。
🟢 EMC(共存)= 加害も被害もしない状態
EMC(Electromagnetic Compatibility:電磁両立性)とは、EMIとEMSの両方を満足した状態です。つまり、「自分はノイズを出さない(EMI対策)」かつ「他からのノイズにも耐えられる(EMS対策)」という両立ができている状態です。
EMC規格(CEマーキングのEMC指令やFCC規格など)に適合するには、エミッション試験(ノイズを出さないことを確認)とイミュニティ試験(ノイズに耐えることを確認)の両方に合格する必要があります。「対策」と言ったとき、EMI対策とEMS対策は目的が違うことを理解しておきましょう。

ノイズ対策の全体マップ|「発生源」「伝搬経路」「被害者」の3箇所で止める
ノイズ問題を解決するには、以下の3つのポイントのどこかで対策を講じます。これを「ノイズ対策の3段階」と呼びます。
最も効果的なのはSTEP 1の「発生源で抑える」です。ノイズを生み出してから消すのは難しい。そもそも「生まない」のが最善策です。パワエレ設計では、スナバ回路やゲート抵抗によるスイッチング速度の調整がこれに該当します。
STEP 2の「経路で遮断」は、基板設計者の腕の見せどころです。ループ面積の最小化、GNDの分離、パターン間隔の確保など、物理的なレイアウトでノイズの伝搬を断つ設計技術です。
STEP 3は最後の砦。ノイズが侵入してきても、被害者側の回路が壊れない・誤動作しないように守る対策です。
📚 対策の詳細は、以下の記事群で深掘りしています
【完全図解】スナバ回路とは?|サージ電圧を吸収する仕組みを理解する →
【完全図解】TVSダイオードの選び方|クランプ電圧・ピーク電流の設計指針 →
【完全図解】配線インダクタンスとサージの関係|L×dI/dtがすべてを決める →

なぜパワエレ設計者は「ノイズ」と戦うことになるのか
ここまで読んで「ノイズの正体はわかったけど、そんなに大変なの?」と思った方もいるかもしれません。最後に、パワエレ設計者にとってノイズがなぜ「宿命の敵」なのかを説明します。
💀 パワエレはノイズの「製造工場」
パワエレ回路の本質は「高電圧・大電流を、高速にスイッチングする」ことです。これは、ノイズ発生の3つのメカニズムの全てを最大化することを意味します。
⚡ 大電流のスイッチング → dI/dtが巨大 → L × dI/dt で大きなノイズ電圧が発生
⚡ 高電圧のスイッチング → dV/dtが巨大 → C × dV/dt で大きなノイズ電流が容量結合
⚡ 高周波のスイッチング → 繰り返し頻度が高い → ノイズのエネルギーが特定周波数に集中
つまり、パワエレ回路は「高効率」を追求するほど、スイッチング周波数を上げ、スイッチング速度を速くし、結果としてノイズが増えるという本質的なトレードオフを抱えているのです。
だからこそ、パワエレ設計者はノイズの「発生」「伝搬」「影響」の全てを理解し、設計の初期段階から対策を組み込む必要があります。完成してからノイズ対策を後付けするのは、家を建ててから地盤改良をするようなもの。非常にコストがかかります。

まとめ|ノイズの正体を知れば、対策の方針が見える
- ノイズの定義 → 目的の信号以外の、不要な電圧・電流の変動
- 発生メカニズムは3つ → ①スイッチング(L×dI/dt)②電磁誘導(dΦ/dt)③容量結合(C×dV/dt)
- 伝わり方は2つ → 伝導ノイズ(電線を通る)と放射ノイズ(空間を飛ぶ)
- EMI=加害者(ノイズを出す側)、EMS=被害者(ノイズに耐える側)、EMC=両立(出さない+耐える)
- 対策は3段階 → 発生源で抑える → 経路で遮断 → 被害者側で守る。最も効果的なのは「発生源で抑える」こと
「ノイズ」は目に見えず、触れることもできない厄介な存在です。しかし、その正体は物理法則(V = L × dI/dt、I = C × dV/dt)に従った、ごく当たり前の電気現象にすぎません。
この記事で「敵の正体」を理解できたら、次はいよいよ具体的な対策です。下の関連記事から、パワエレ基板設計のノイズ対策を順番に学んでいきましょう。
📚 次に読むべき記事
この記事の「メカニズム①スイッチング」をさらに深掘り。具体的な基板レイアウトとの関係を図解で学べます。
「経路で遮断する」対策の実践編。ハイサイド・ローサイド・入力コンデンサの配置を具体的に解説します。
ノイズ対策で最も重要な「GND」の設計思想。コモンモードノイズを防ぐ配線テクニックを解説します。